【完結】町のはずれで小さなお店を。

buchi

文字の大きさ
上 下
13 / 47

第13話 思っていたのより深刻

しおりを挟む
それは……本当らしい。グスマンおじさんが言ってたもの。

「入れ替える気なんだ。そのためにはお前が邪魔だ。殺してやると言うのはそういう意味だ。お前が逃げてしまったから」

「仕方なかったのよ! あの家に居続けるわけにはいかなかった」

「助けたのは俺だしな。あのままだったら、絶対に引っ越し先にたどり着けてなかったはずだ」

「恩を着せる気?」

「そんなつもりじゃない。ただ、責任を感じて。単なる好まない結婚を強いられるだけで済んだはずなのに、命を狙われることになってしまった。命の方が大事だ。それに……」

騎士様は言いにくそうに口ごもった。

「それに、実は、確かな話ではないので、伯爵から絶対に口外するなと言われているんだが……」

「なに?」

私は騎士様に抑え込まれたまま聞いた。

「お前の両親のことだ。船は行方不明になったんじゃない。難破した」

「えっ……」

「だけど、乗客や乗組員の中には助かった者もいるらしい……」

私は大きく目を見張った。

「すまない。このことを話しても、お前の為にはならないだろうと伯爵は言うんだ。さぞ、動揺するだろうから、余計な憶測は伝えるなと言われたんだ」

生きているかもしれない? 勝手に手が小刻みに震えだした。

「いいか、ローズ。わからないんだ。冷静になって」

騎士様は心配そうに私の手を取って言った。

「バリー商会に親戚がやってきて乗っ取りをたくらんでいることは伯爵も知っている。だからここにかくまえと言われたんだ」

「え? 伯爵様が?」

私はパッと顔を上げた。騎士様は唇をかんだ。

「まあ……伯爵はお前の親族や友人ではない。お前はただの領民だ。甘えちゃいけない」

いつのまにか私の目は涙でいっぱいになっていた。うなずくと、床にポタポタ水が落ちた。

「わかっています」

でも、嬉しい。両親が生きている可能性があるなんて。
両親がいなくなってしまってから、いろいろあり過ぎた。私は自分の身を自分で守らなくてはならなかった。世の中に誰も味方はいなかったし、信用できる人もいなかった。

だから伯爵様が気にしてくださったと聞いただけで、ほっとした。

このいささか強引なご招待が、イケメン騎士様の下心ではなくて、伯爵様の手配だったことがわかって本当に安心した。

私は怖かったのだ。

「そりゃそうだろう。だから、俺がいろいろ心配してやったのに」

騎士様はブツブツ言った。

「でも、騎士様は、あの……」

「なんだ」

「割と強引なんで……私、ちょっと勘違いしてしまったかもしれません」

下心を疑っただなんて、失礼だったわ。こんなイケメンの騎士様が、私に関心を持ってると考えるだなんて、申し訳ない。恥ずかしい。

「おお。それはな」

騎士様は何か言い淀んでいるようだったが結局教えてくれた。

「今晩が危なかったんだ」

「今晩が?」

「そう。今晩、襲撃事件があると、警備の者から知らせがあってな。だから今晩、少々強引でもあの家から引き離そうと思ったんだ」

「まあ。申し訳ございません」

そんな配慮を知らず、騎士様の玄関をぶち壊すところだったわ。

「そう言った情報はあまり確かではないんだ。何も起きなかったかもしれない。だから、はっきり説明できなかった。それに、教えると情報源の人が迷惑するからね」

そう言うことだったのね。ますます申し訳ない。口は悪いけど、いい人なんだ、騎士様。

「だから今日はあの部屋で我慢しなさい。市場に働きに行く時はこの格好だから、下女という触れ込みでこの家にいた方が自然だろう。だが、俺はお前の正体を知っている。良家の子女だ。ここはバリー男爵家の目が届かないから、本当のお前らしく暮らしたらいいだろう」




しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

処理中です...