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第9話 バリー男爵主催パーティ
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伯爵様のご子息が呼ばれて出席されたそうで、巷では大評判になっている。従姉妹のリンダは美人だから伯爵のご子息がご執心だったとか。
「ああ、あのアイリーンとかいう派手な女ね」
名前が違う。どっちの話だろう。多分リンダかな。
「なんか俺、ああいう女は好きじゃないな」
「そうですか」
ちょっぴりうれしい。
「顔はかわいいのかもしれないけど、品がないよね。地位目当て、金目当てが露骨でさ」
フンフンとうなずく。
「あともう一人、ツンケンした女がいた。姉妹は仲が悪そうだった。ツンケンした方は教養をひけらかしていた。でも二人とも伯爵家向きじゃないと思ったよ」
「伯爵家の御曹司めあてだったのですか?」
つまらなさそうに騎士様はうなずいた。
「ロアン様、ロアン様と大声で名を呼ぶんだ。伯爵家の御曹司に向かってなんてことを言うんだ。失礼にもほどがある。誰も名前で呼んでいいだなんて言っていないはずだ」
騎士様は不愉快そうだった。
「バリー商会の金があるからと思っているんだろうな。父親の男爵が、私たちには資産の裏付けがありますからと自慢していた」
私は悔しくてちょっと泣きそうになった。
私は逃げ出してよかったのかしら。あの家に残って戦うべきだったのかしら。
でも、ジェロームとの結婚話は本当に嫌だった。それに同じ家の中に住むだなんて危険すぎる気がしたのだ。
「若い男もいたな。バリー商会の会長を名乗っていたが……みんなおかしいと思ったと思う」
私はムカついて椅子から立ち上がりそうになったが、危ういところで思いとどまった。
この店で暴れても仕方ない。
騎士様は、まあまあ抑えて抑えてといったような手つきになった。
「うん。招待客はみんな令嬢のローズ嬢目当てみたいだったよ」
私は騎士様の顔を見た。どんなパーティだったのだろう。騎士様はちょっとしょっぱいような顔になった。
「まあな。そりゃ、いくら男爵家が浮かれて招待状をばらまこうが、本当の屋敷の主が誰なのか全員わかっている。だから皆がローズ嬢がどこにいるのか気にしていた」
「男爵は何と答えていたのですか?」
「ローズ嬢は病気だって」
「私は元気です!」
私は思わず大きな声になってしまったが、騎士様が言った。
「みんな疑惑を持ったと思う。ローズ嬢の病状はどうなのか。でも、男爵は笑ってわがまま病ですと答えていた。こんな華やかな日に病気になるなんて、お集りの皆さんに申し訳ないと謝っていた。代わりに私の二人の娘がおりますと紹介してくれたよ」
私は黙って仔牛のカツレツを賞味し鶏のローストを平らげ、出てきたスープを空にして、パンとバターをガッツリ食べて、りんごパイを二人前注文して店員を震え上がらせた。食べなきゃやってらんない。
「客は誰も何も聞き返さなかった。聞いてもロクな返事がないとわかってるみたいだった」
「港は伯爵家の管理下にある。何か情報があればすぐに知らせてあげるよ。心配だろう。それに、実権を握っているのはバリー商会の副会長のドネルなんだが……」
ドネルは知っている。商会で働いている人なので、私と話す機会はなかった。たまに見かけても、がっちりした体格のひげの濃い中年で、いかにも頑固そうだと言う印象しかなかった。
「ドネルは、娘のローズ嬢に忠誠を誓っているんだ。あの盗人猛々しいバリー男爵なんか知ったことじゃないと怒っている。長男のジェロームが誰の許可もなく、会長を名乗った件についてはカンカンだ」
ありがとう、ドネルさん。
「ドネルは伯爵家に、バリー男爵のやり方がおかしいと訴えてきたんだ」
うれしい。でも、大丈夫かなあ、ドネルさん。
「私にはよくわからないけど、多分親族の中の問題だから関係ないって、バリー男爵が突っぱねそうな気がするわ」
「そうなんだ。弟のバリー商会の会長がいない間、家を守っているのだと言い返されたらしい。でも、肝心の娘のお前が屋敷にいる気配がない。昔からいる使用人たちの目はごまかせない。使用人の方があの屋敷の中のことはよく知っているからね。ドネルはそれも併せて伯爵家に訴えた。きっとバリー家の人々はお前を殺したに違いないって」
いつの間にか殺人事件に……
「俺は困っちゃってさあ」
はああ? 騎士様の出番はないでしょうに。
「だって、俺、娘のローズ嬢のお前が、どこで何しているか知ってるもん」
チロリと騎士様は私の顔を見た。
「ああ、あのアイリーンとかいう派手な女ね」
名前が違う。どっちの話だろう。多分リンダかな。
「なんか俺、ああいう女は好きじゃないな」
「そうですか」
ちょっぴりうれしい。
「顔はかわいいのかもしれないけど、品がないよね。地位目当て、金目当てが露骨でさ」
フンフンとうなずく。
「あともう一人、ツンケンした女がいた。姉妹は仲が悪そうだった。ツンケンした方は教養をひけらかしていた。でも二人とも伯爵家向きじゃないと思ったよ」
「伯爵家の御曹司めあてだったのですか?」
つまらなさそうに騎士様はうなずいた。
「ロアン様、ロアン様と大声で名を呼ぶんだ。伯爵家の御曹司に向かってなんてことを言うんだ。失礼にもほどがある。誰も名前で呼んでいいだなんて言っていないはずだ」
騎士様は不愉快そうだった。
「バリー商会の金があるからと思っているんだろうな。父親の男爵が、私たちには資産の裏付けがありますからと自慢していた」
私は悔しくてちょっと泣きそうになった。
私は逃げ出してよかったのかしら。あの家に残って戦うべきだったのかしら。
でも、ジェロームとの結婚話は本当に嫌だった。それに同じ家の中に住むだなんて危険すぎる気がしたのだ。
「若い男もいたな。バリー商会の会長を名乗っていたが……みんなおかしいと思ったと思う」
私はムカついて椅子から立ち上がりそうになったが、危ういところで思いとどまった。
この店で暴れても仕方ない。
騎士様は、まあまあ抑えて抑えてといったような手つきになった。
「うん。招待客はみんな令嬢のローズ嬢目当てみたいだったよ」
私は騎士様の顔を見た。どんなパーティだったのだろう。騎士様はちょっとしょっぱいような顔になった。
「まあな。そりゃ、いくら男爵家が浮かれて招待状をばらまこうが、本当の屋敷の主が誰なのか全員わかっている。だから皆がローズ嬢がどこにいるのか気にしていた」
「男爵は何と答えていたのですか?」
「ローズ嬢は病気だって」
「私は元気です!」
私は思わず大きな声になってしまったが、騎士様が言った。
「みんな疑惑を持ったと思う。ローズ嬢の病状はどうなのか。でも、男爵は笑ってわがまま病ですと答えていた。こんな華やかな日に病気になるなんて、お集りの皆さんに申し訳ないと謝っていた。代わりに私の二人の娘がおりますと紹介してくれたよ」
私は黙って仔牛のカツレツを賞味し鶏のローストを平らげ、出てきたスープを空にして、パンとバターをガッツリ食べて、りんごパイを二人前注文して店員を震え上がらせた。食べなきゃやってらんない。
「客は誰も何も聞き返さなかった。聞いてもロクな返事がないとわかってるみたいだった」
「港は伯爵家の管理下にある。何か情報があればすぐに知らせてあげるよ。心配だろう。それに、実権を握っているのはバリー商会の副会長のドネルなんだが……」
ドネルは知っている。商会で働いている人なので、私と話す機会はなかった。たまに見かけても、がっちりした体格のひげの濃い中年で、いかにも頑固そうだと言う印象しかなかった。
「ドネルは、娘のローズ嬢に忠誠を誓っているんだ。あの盗人猛々しいバリー男爵なんか知ったことじゃないと怒っている。長男のジェロームが誰の許可もなく、会長を名乗った件についてはカンカンだ」
ありがとう、ドネルさん。
「ドネルは伯爵家に、バリー男爵のやり方がおかしいと訴えてきたんだ」
うれしい。でも、大丈夫かなあ、ドネルさん。
「私にはよくわからないけど、多分親族の中の問題だから関係ないって、バリー男爵が突っぱねそうな気がするわ」
「そうなんだ。弟のバリー商会の会長がいない間、家を守っているのだと言い返されたらしい。でも、肝心の娘のお前が屋敷にいる気配がない。昔からいる使用人たちの目はごまかせない。使用人の方があの屋敷の中のことはよく知っているからね。ドネルはそれも併せて伯爵家に訴えた。きっとバリー家の人々はお前を殺したに違いないって」
いつの間にか殺人事件に……
「俺は困っちゃってさあ」
はああ? 騎士様の出番はないでしょうに。
「だって、俺、娘のローズ嬢のお前が、どこで何しているか知ってるもん」
チロリと騎士様は私の顔を見た。
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