【完結】町のはずれで小さなお店を。

buchi

文字の大きさ
上 下
4 / 47

第4話 商売繁盛

しおりを挟む
塗り薬は売れた。

客が一人増え、二人増え、ひとつ売れ、ふたつ売れ、十個買い、箱買い希望まで出てきた。箱買いだなんて、転売するつもりちゃうか。

しかしながら、私には強力な味方がいた。

つまり、娘の火傷跡に悩む例のグスマンおじさんである。私の店に張り付いて、押し寄せるお客様をさばいてくれた。ありがたい。私には無理だわ。

「ああ、ダメダメ。一人三個まで。でないと不公平だからね」

でも、町の市場の管理人の仕事はどうなってるのかな。ちょっと心配。

しかしおじさんはとてもありがたい存在だった。商売のやり方や客のいなし方を教えてくれた。
おじさんのアドバイスにより、花のマークの薬はデイジーというブランド名がついて、一つ三フローリンに値上げされた。

おじさんの娘の名はデイジー。娘はもう十七になるのに、火傷が気になって外に出たことがないらしい。

「顔にやけどをしちゃったんだよ」

おじさんは悲痛な顔になって言った。

「だけど、あんたのおかげで、今はうっすら赤いだけになった。もうちょっとだ」

なかなか外に出る勇気は出ないかもしれない。

「グスマンさんとこの娘さんの薬は必ず確保しときますよ」

老婆になり切った私は言った。

それを聞いてグスマンおじさんは嬉しそうな顔になって、それから泣きそうな顔になった。


ひとつ売れると、他の薬も効くんじゃないかと思われるらしい。

水虫の薬も高評価だったし、他の薬もそれぞれ売れ始めて、私はとても嬉しかった。

「めっちゃ効くんですよ! 長年困ってた水虫が一発でした。ほら」

あ、ここで靴下脱ぐのは止めてください。わ、クサッ! 足の匂い止めをお勧めしてもいいですか?

「ほら、見て。ここ。生えてきたと思わない?」

薄毛に悩むおじさんが、血相変えて脳天を突き出してきた。前の状態を知らないので、コメントは差し控えさせていただきたく……。

「ほら! 前は光ってたんだよ。今日は違うでしょ?」

うーん。毛生え薬は本人との相性があるので、必ずしもフサフサになるとは限らないんですが。自分の薬をけなすわけにはいかないし。でも、おじさんは目の色が変わっている。

「でね、もう十本欲しい」

グスマンおじさんの出番だ。

「おひとり様三本までです。使用容量はお守りください。なお、説明書きをよく読んでください」



薬が売切れれば店は閉める。

「もっと売って儲けたらどうなんだ?」

グスマンさんはアドバイスしてくれたけど、私には静かに目立たないように暮らさなければならないと言う事情があった。そんな大きな商売を始めたら伯父に見つかってしまう。

「そんなにたくさん作れないんです。私の魔力は貧相なので」

「質は最高じゃないか。本当に効く」

「量が作れないんです。早く帰って新しい薬を作らなきゃ」

「そうか。そうかもしれないな」

市場を出て角を曲がると、物陰を目指す。そこでするりと老婆コートを脱ぐとあら不思議、絶世の美女の爆誕……するわけがなくて、冴えない田舎娘が出てくる。

髪は枯れ草色、目は青。老婆に化けるにはもってこいの色合いだ。


私が生まれた時、両親は絶世の美女が我が家に生まれたと大喜びだったそうだ。
比較の問題かもしれない。両親とも、褒めにくい器量じゃないかと思う。父はものすごく人が良さそうに見えるけど、小太りのハゲだし、母は大きな口でニコニコ笑う愛想の良いよく太ったおばちゃんだ。

家の使用人たちも、かわいいとか、おきれいだと褒めてくれるけど、まあ使用人ですからね。主人の娘を悪くは言わないでしょう。

この通り、私はロマンチックな夢見る乙女じゃないのだ。

乙女は、恋に恋しないといけないらしいので、そのあたりは悩みどころだった。白馬の王子様のどこがいいのかわからないと侍女のケティにうっかり白状したら、珍しいものでも見るように観察されてしまった。

「お嬢様のようにおきれいな方は、きっとどこかで見染められて、ご両親を通じてお申し込みがあると思いますわ」

さすが侍女。当たり障りのない返事をしてくれる。

両親は大きな商会を経営していたが平民なので、政略結婚など考えていないと思う。まあ、十六歳にもなったので、そろそろ結婚話も湧いて出る頃だろう。だが、両親は私の意向をきっと聞いてくれると思う。当分、白馬の王子様の出番はないはずだと、その頃の私はのんきに考えていた。






しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

処理中です...