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第4話 商売繁盛
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塗り薬は売れた。
客が一人増え、二人増え、ひとつ売れ、ふたつ売れ、十個買い、箱買い希望まで出てきた。箱買いだなんて、転売するつもりちゃうか。
しかしながら、私には強力な味方がいた。
つまり、娘の火傷跡に悩む例のグスマンおじさんである。私の店に張り付いて、押し寄せるお客様をさばいてくれた。ありがたい。私には無理だわ。
「ああ、ダメダメ。一人三個まで。でないと不公平だからね」
でも、町の市場の管理人の仕事はどうなってるのかな。ちょっと心配。
しかしおじさんはとてもありがたい存在だった。商売のやり方や客のいなし方を教えてくれた。
おじさんのアドバイスにより、花のマークの薬はデイジーというブランド名がついて、一つ三フローリンに値上げされた。
おじさんの娘の名はデイジー。娘はもう十七になるのに、火傷が気になって外に出たことがないらしい。
「顔にやけどをしちゃったんだよ」
おじさんは悲痛な顔になって言った。
「だけど、あんたのおかげで、今はうっすら赤いだけになった。もうちょっとだ」
なかなか外に出る勇気は出ないかもしれない。
「グスマンさんとこの娘さんの薬は必ず確保しときますよ」
老婆になり切った私は言った。
それを聞いてグスマンおじさんは嬉しそうな顔になって、それから泣きそうな顔になった。
ひとつ売れると、他の薬も効くんじゃないかと思われるらしい。
水虫の薬も高評価だったし、他の薬もそれぞれ売れ始めて、私はとても嬉しかった。
「めっちゃ効くんですよ! 長年困ってた水虫が一発でした。ほら」
あ、ここで靴下脱ぐのは止めてください。わ、クサッ! 足の匂い止めをお勧めしてもいいですか?
「ほら、見て。ここ。生えてきたと思わない?」
薄毛に悩むおじさんが、血相変えて脳天を突き出してきた。前の状態を知らないので、コメントは差し控えさせていただきたく……。
「ほら! 前は光ってたんだよ。今日は違うでしょ?」
うーん。毛生え薬は本人との相性があるので、必ずしもフサフサになるとは限らないんですが。自分の薬をけなすわけにはいかないし。でも、おじさんは目の色が変わっている。
「でね、もう十本欲しい」
グスマンおじさんの出番だ。
「おひとり様三本までです。使用容量はお守りください。なお、説明書きをよく読んでください」
薬が売切れれば店は閉める。
「もっと売って儲けたらどうなんだ?」
グスマンさんはアドバイスしてくれたけど、私には静かに目立たないように暮らさなければならないと言う事情があった。そんな大きな商売を始めたら伯父に見つかってしまう。
「そんなにたくさん作れないんです。私の魔力は貧相なので」
「質は最高じゃないか。本当に効く」
「量が作れないんです。早く帰って新しい薬を作らなきゃ」
「そうか。そうかもしれないな」
市場を出て角を曲がると、物陰を目指す。そこでするりと老婆コートを脱ぐとあら不思議、絶世の美女の爆誕……するわけがなくて、冴えない田舎娘が出てくる。
髪は枯れ草色、目は青。老婆に化けるにはもってこいの色合いだ。
私が生まれた時、両親は絶世の美女が我が家に生まれたと大喜びだったそうだ。
比較の問題かもしれない。両親とも、褒めにくい器量じゃないかと思う。父はものすごく人が良さそうに見えるけど、小太りのハゲだし、母は大きな口でニコニコ笑う愛想の良いよく太ったおばちゃんだ。
家の使用人たちも、かわいいとか、おきれいだと褒めてくれるけど、まあ使用人ですからね。主人の娘を悪くは言わないでしょう。
この通り、私はロマンチックな夢見る乙女じゃないのだ。
乙女は、恋に恋しないといけないらしいので、そのあたりは悩みどころだった。白馬の王子様のどこがいいのかわからないと侍女のケティにうっかり白状したら、珍しいものでも見るように観察されてしまった。
「お嬢様のようにおきれいな方は、きっとどこかで見染められて、ご両親を通じてお申し込みがあると思いますわ」
さすが侍女。当たり障りのない返事をしてくれる。
両親は大きな商会を経営していたが平民なので、政略結婚など考えていないと思う。まあ、十六歳にもなったので、そろそろ結婚話も湧いて出る頃だろう。だが、両親は私の意向をきっと聞いてくれると思う。当分、白馬の王子様の出番はないはずだと、その頃の私はのんきに考えていた。
客が一人増え、二人増え、ひとつ売れ、ふたつ売れ、十個買い、箱買い希望まで出てきた。箱買いだなんて、転売するつもりちゃうか。
しかしながら、私には強力な味方がいた。
つまり、娘の火傷跡に悩む例のグスマンおじさんである。私の店に張り付いて、押し寄せるお客様をさばいてくれた。ありがたい。私には無理だわ。
「ああ、ダメダメ。一人三個まで。でないと不公平だからね」
でも、町の市場の管理人の仕事はどうなってるのかな。ちょっと心配。
しかしおじさんはとてもありがたい存在だった。商売のやり方や客のいなし方を教えてくれた。
おじさんのアドバイスにより、花のマークの薬はデイジーというブランド名がついて、一つ三フローリンに値上げされた。
おじさんの娘の名はデイジー。娘はもう十七になるのに、火傷が気になって外に出たことがないらしい。
「顔にやけどをしちゃったんだよ」
おじさんは悲痛な顔になって言った。
「だけど、あんたのおかげで、今はうっすら赤いだけになった。もうちょっとだ」
なかなか外に出る勇気は出ないかもしれない。
「グスマンさんとこの娘さんの薬は必ず確保しときますよ」
老婆になり切った私は言った。
それを聞いてグスマンおじさんは嬉しそうな顔になって、それから泣きそうな顔になった。
ひとつ売れると、他の薬も効くんじゃないかと思われるらしい。
水虫の薬も高評価だったし、他の薬もそれぞれ売れ始めて、私はとても嬉しかった。
「めっちゃ効くんですよ! 長年困ってた水虫が一発でした。ほら」
あ、ここで靴下脱ぐのは止めてください。わ、クサッ! 足の匂い止めをお勧めしてもいいですか?
「ほら、見て。ここ。生えてきたと思わない?」
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「ほら! 前は光ってたんだよ。今日は違うでしょ?」
うーん。毛生え薬は本人との相性があるので、必ずしもフサフサになるとは限らないんですが。自分の薬をけなすわけにはいかないし。でも、おじさんは目の色が変わっている。
「でね、もう十本欲しい」
グスマンおじさんの出番だ。
「おひとり様三本までです。使用容量はお守りください。なお、説明書きをよく読んでください」
薬が売切れれば店は閉める。
「もっと売って儲けたらどうなんだ?」
グスマンさんはアドバイスしてくれたけど、私には静かに目立たないように暮らさなければならないと言う事情があった。そんな大きな商売を始めたら伯父に見つかってしまう。
「そんなにたくさん作れないんです。私の魔力は貧相なので」
「質は最高じゃないか。本当に効く」
「量が作れないんです。早く帰って新しい薬を作らなきゃ」
「そうか。そうかもしれないな」
市場を出て角を曲がると、物陰を目指す。そこでするりと老婆コートを脱ぐとあら不思議、絶世の美女の爆誕……するわけがなくて、冴えない田舎娘が出てくる。
髪は枯れ草色、目は青。老婆に化けるにはもってこいの色合いだ。
私が生まれた時、両親は絶世の美女が我が家に生まれたと大喜びだったそうだ。
比較の問題かもしれない。両親とも、褒めにくい器量じゃないかと思う。父はものすごく人が良さそうに見えるけど、小太りのハゲだし、母は大きな口でニコニコ笑う愛想の良いよく太ったおばちゃんだ。
家の使用人たちも、かわいいとか、おきれいだと褒めてくれるけど、まあ使用人ですからね。主人の娘を悪くは言わないでしょう。
この通り、私はロマンチックな夢見る乙女じゃないのだ。
乙女は、恋に恋しないといけないらしいので、そのあたりは悩みどころだった。白馬の王子様のどこがいいのかわからないと侍女のケティにうっかり白状したら、珍しいものでも見るように観察されてしまった。
「お嬢様のようにおきれいな方は、きっとどこかで見染められて、ご両親を通じてお申し込みがあると思いますわ」
さすが侍女。当たり障りのない返事をしてくれる。
両親は大きな商会を経営していたが平民なので、政略結婚など考えていないと思う。まあ、十六歳にもなったので、そろそろ結婚話も湧いて出る頃だろう。だが、両親は私の意向をきっと聞いてくれると思う。当分、白馬の王子様の出番はないはずだと、その頃の私はのんきに考えていた。
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