2 / 47
第2話 家出2
しおりを挟む
私の魔力は薬作りに全振りしている。
他のことは実はあんまりできない。しかし、何かできることがあるって言うのは、食いつなぐ上で重要だと思うの。
私はひそかに町はずれの小さな家を借りた。
そこまでたどり着ければ、私は多分安全。暗い町は本当はすごく怖かったけど、泥棒だってこんな時間は寝てると思うの。
「何をしている?」
突然、暗闇で声をかけられた私は、つんざくような悲鳴を上げるところだった。
「わ! バカ。俺だ、俺。ほら、伯爵家からのお使いでよく来ていたイケメンの騎士様だ」
ああ。
その、どこか性格に難がありそうな説明の仕方、間違いなくいつものあの騎士様だわ。
「なぜ、さっさと移動しないのだ。あの家に未練があるのか? さっきから地面に張り付いているようだが?」
荷物が重すぎて動けないだけ!
「え? 荷物? これが重い?」
騎士様は私が動かせなくて、ものすごく困っていた荷物をヒョイと担ぎ上げた。
「ほかは?」
「ほかはございません!」
すごい怪力。私は騎士様を感心してつくづく眺めた。きっと栄養が全部身体能力に回ったのね。
「で、どこに運べばいいのか?」
騎士様はフイと目をそらすと尋ねた。
人に行先を知られたくない。だが、この荷物は運べない。
私は苦渋の選択をした。
「町はずれの小さな家です」
私はしぶしぶ白状した。
結局、荷物を運んでもらって私は騎士様に3フローリン払った。
騎士様はお金をつくづく眺めていた。
「カネの為ではなかったんだが……」
「それは口止め料です。あの男爵家の人たちに私がここにいることをしゃべらないでください」
私は必死に頼み込んだ。
「それは、まあ、そうするよ」
「それから、ここには来ないでください」
騎士様は3フローリンから目を上げると、急にしかめ面になって聞いた。
「なぜ? 恩人に対する感謝の気持ちはないのか。運べない荷物を運んでやったんだぞ?」
私は騎士様を拝んだ。
「お願いです。私が行方不明になったら、形だけでもあの人たちは探すと思うんです。お金が全部なくなっているから尚更です」
「それはどうかな。あなたがいなくなったら、あの家屋敷は自分たちのものになると喜ぶかもしれない」
それは考えたことがなかった。
「まあ、あなたが死んだことを証明しないといけなくなるから相当難しいと思うけどね。死体があるわけじゃないしね」
死体! 嫌だあああ。
「でも、家屋敷にはあいつらが住み着くんじゃないかな。それに荷物が運べないくせに引っ越そうなんて、どうしてこんな計画性のない家出を考えたんだ?」
一言余計だわ。私はちゃんと計画したのよ。意外に荷物が重かっただけで。
「家に居たら、あのいやなジェロームとすぐに結婚させられてしまうんです! だから家を出たんです」
騎士様は目を真ん丸にした。
「それは知らなかった……」
「娘の私を息子のジェロームと結婚させれば、簡単にバリー商会のお金を自分たちのものに出来ます。両親が戻ってきても後の祭りでしょう。私が家出をしたことがわかっても、簡単に見つかると考えるでしょう」
「もっともだ」
騎士様は荷物を見ながらうなずいた。
「こんなに軽い荷物に、てこずるようじゃ……」
「そうはいきません」
私は力を込めて否定した。私には立派な家出計画があるの。あなたに邪魔されたくないのよ。
「あなたは伯爵様の御用でよく私の屋敷に来ていました。両親が行方不明になってからも、伯爵様のお手紙を持ってきてくださいました。そのあなたが、こんな小屋に出入りしていたら、あの人たちは勘繰るかもしれません」
「チッ、あのクソ野郎どもめ……」
騎士様、今、口汚く罵りましたわね? 目を丸くするのは今度は私の方だった。
この騎士様、割と気取った方だった。
使用人達の噂によると、女性には大変人気らしい。
なるほど服にはお金をかけていて、黒髪はいつもきちんと整えられていた。ただ、どうやら癖毛らしく、時々本人の意思に対して反乱を起こしていたが。
口の利き方も上品ぶってて、チッなんか絶対言わなかった。
彼は、私の小さくてつましい家の台所で少々悩んでいたが、何も言わずに出て行ってしまった。
「……あ。お礼言うの忘れた」
他のことは実はあんまりできない。しかし、何かできることがあるって言うのは、食いつなぐ上で重要だと思うの。
私はひそかに町はずれの小さな家を借りた。
そこまでたどり着ければ、私は多分安全。暗い町は本当はすごく怖かったけど、泥棒だってこんな時間は寝てると思うの。
「何をしている?」
突然、暗闇で声をかけられた私は、つんざくような悲鳴を上げるところだった。
「わ! バカ。俺だ、俺。ほら、伯爵家からのお使いでよく来ていたイケメンの騎士様だ」
ああ。
その、どこか性格に難がありそうな説明の仕方、間違いなくいつものあの騎士様だわ。
「なぜ、さっさと移動しないのだ。あの家に未練があるのか? さっきから地面に張り付いているようだが?」
荷物が重すぎて動けないだけ!
「え? 荷物? これが重い?」
騎士様は私が動かせなくて、ものすごく困っていた荷物をヒョイと担ぎ上げた。
「ほかは?」
「ほかはございません!」
すごい怪力。私は騎士様を感心してつくづく眺めた。きっと栄養が全部身体能力に回ったのね。
「で、どこに運べばいいのか?」
騎士様はフイと目をそらすと尋ねた。
人に行先を知られたくない。だが、この荷物は運べない。
私は苦渋の選択をした。
「町はずれの小さな家です」
私はしぶしぶ白状した。
結局、荷物を運んでもらって私は騎士様に3フローリン払った。
騎士様はお金をつくづく眺めていた。
「カネの為ではなかったんだが……」
「それは口止め料です。あの男爵家の人たちに私がここにいることをしゃべらないでください」
私は必死に頼み込んだ。
「それは、まあ、そうするよ」
「それから、ここには来ないでください」
騎士様は3フローリンから目を上げると、急にしかめ面になって聞いた。
「なぜ? 恩人に対する感謝の気持ちはないのか。運べない荷物を運んでやったんだぞ?」
私は騎士様を拝んだ。
「お願いです。私が行方不明になったら、形だけでもあの人たちは探すと思うんです。お金が全部なくなっているから尚更です」
「それはどうかな。あなたがいなくなったら、あの家屋敷は自分たちのものになると喜ぶかもしれない」
それは考えたことがなかった。
「まあ、あなたが死んだことを証明しないといけなくなるから相当難しいと思うけどね。死体があるわけじゃないしね」
死体! 嫌だあああ。
「でも、家屋敷にはあいつらが住み着くんじゃないかな。それに荷物が運べないくせに引っ越そうなんて、どうしてこんな計画性のない家出を考えたんだ?」
一言余計だわ。私はちゃんと計画したのよ。意外に荷物が重かっただけで。
「家に居たら、あのいやなジェロームとすぐに結婚させられてしまうんです! だから家を出たんです」
騎士様は目を真ん丸にした。
「それは知らなかった……」
「娘の私を息子のジェロームと結婚させれば、簡単にバリー商会のお金を自分たちのものに出来ます。両親が戻ってきても後の祭りでしょう。私が家出をしたことがわかっても、簡単に見つかると考えるでしょう」
「もっともだ」
騎士様は荷物を見ながらうなずいた。
「こんなに軽い荷物に、てこずるようじゃ……」
「そうはいきません」
私は力を込めて否定した。私には立派な家出計画があるの。あなたに邪魔されたくないのよ。
「あなたは伯爵様の御用でよく私の屋敷に来ていました。両親が行方不明になってからも、伯爵様のお手紙を持ってきてくださいました。そのあなたが、こんな小屋に出入りしていたら、あの人たちは勘繰るかもしれません」
「チッ、あのクソ野郎どもめ……」
騎士様、今、口汚く罵りましたわね? 目を丸くするのは今度は私の方だった。
この騎士様、割と気取った方だった。
使用人達の噂によると、女性には大変人気らしい。
なるほど服にはお金をかけていて、黒髪はいつもきちんと整えられていた。ただ、どうやら癖毛らしく、時々本人の意思に対して反乱を起こしていたが。
口の利き方も上品ぶってて、チッなんか絶対言わなかった。
彼は、私の小さくてつましい家の台所で少々悩んでいたが、何も言わずに出て行ってしまった。
「……あ。お礼言うの忘れた」
193
お気に入りに追加
598
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる