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第2話 家出2

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私の魔力は薬作りに全振りしている。

他のことは実はあんまりできない。しかし、何かできることがあるって言うのは、食いつなぐ上で重要だと思うの。

私はひそかに町はずれの小さな家を借りた。

そこまでたどり着ければ、私は多分安全。暗い町は本当はすごく怖かったけど、泥棒だってこんな時間は寝てると思うの。


「何をしている?」

突然、暗闇で声をかけられた私は、つんざくような悲鳴を上げるところだった。

「わ! バカ。俺だ、俺。ほら、伯爵家からのお使いでよく来ていたイケメンの騎士様だ」

ああ。

その、どこか性格に難がありそうな説明の仕方、間違いなくいつものあの騎士様だわ。

「なぜ、さっさと移動しないのだ。あの家に未練があるのか? さっきから地面に張り付いているようだが?」

荷物が重すぎて動けないだけ!

「え? 荷物? これが重い?」

騎士様は私が動かせなくて、ものすごく困っていた荷物をヒョイと担ぎ上げた。

「ほかは?」

「ほかはございません!」

すごい怪力。私は騎士様を感心してつくづく眺めた。きっと栄養が全部身体能力に回ったのね。

「で、どこに運べばいいのか?」

騎士様はフイと目をそらすと尋ねた。

人に行先を知られたくない。だが、この荷物は運べない。
私は苦渋の選択をした。

「町はずれの小さな家です」

私はしぶしぶ白状した。

結局、荷物を運んでもらって私は騎士様に3フローリン払った。

騎士様はお金をつくづく眺めていた。

「カネの為ではなかったんだが……」

「それは口止め料です。あの男爵家の人たちに私がここにいることをしゃべらないでください」

私は必死に頼み込んだ。

「それは、まあ、そうするよ」

「それから、ここには来ないでください」

騎士様は3フローリンから目を上げると、急にしかめ面になって聞いた。

「なぜ? 恩人に対する感謝の気持ちはないのか。運べない荷物を運んでやったんだぞ?」

私は騎士様を拝んだ。

「お願いです。私が行方不明になったら、形だけでもあの人たちは探すと思うんです。お金が全部なくなっているから尚更です」

「それはどうかな。あなたがいなくなったら、あの家屋敷は自分たちのものになると喜ぶかもしれない」

それは考えたことがなかった。

「まあ、あなたが死んだことを証明しないといけなくなるから相当難しいと思うけどね。死体があるわけじゃないしね」

死体! 嫌だあああ。

「でも、家屋敷にはあいつらが住み着くんじゃないかな。それに荷物が運べないくせに引っ越そうなんて、どうしてこんな計画性のない家出を考えたんだ?」

一言余計だわ。私はちゃんと計画したのよ。意外に荷物が重かっただけで。

「家に居たら、あのいやなジェロームとすぐに結婚させられてしまうんです! だから家を出たんです」

騎士様は目を真ん丸にした。

「それは知らなかった……」

「娘の私を息子のジェロームと結婚させれば、簡単にバリー商会のお金を自分たちのものに出来ます。両親が戻ってきても後の祭りでしょう。私が家出をしたことがわかっても、簡単に見つかると考えるでしょう」

「もっともだ」

騎士様は荷物を見ながらうなずいた。

「こんなに軽い荷物に、てこずるようじゃ……」

「そうはいきません」

私は力を込めて否定した。私には立派な家出計画があるの。あなたに邪魔されたくないのよ。

「あなたは伯爵様の御用でよく私の屋敷に来ていました。両親が行方不明になってからも、伯爵様のお手紙を持ってきてくださいました。そのあなたが、こんな小屋に出入りしていたら、あの人たちは勘繰るかもしれません」

「チッ、あのクソ野郎どもめ……」

騎士様、今、口汚く罵りましたわね? 目を丸くするのは今度は私の方だった。

この騎士様、割と気取った方だった。
使用人達の噂によると、女性には大変人気らしい。
なるほど服にはお金をかけていて、黒髪はいつもきちんと整えられていた。ただ、どうやら癖毛らしく、時々本人の意思に対して反乱を起こしていたが。
口の利き方も上品ぶってて、チッなんか絶対言わなかった。

彼は、私の小さくてつましい家の台所で少々悩んでいたが、何も言わずに出て行ってしまった。

「……あ。お礼言うの忘れた」







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