【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?

buchi

文字の大きさ
上 下
35 / 58

第35話 バーカムステッド公爵家のオスカー

しおりを挟む
目の前には、知らない生徒が立っていた。身だしなみのいい上品な男性だ。



「オズボーン家の園遊会に一緒に行きませんか?」



一瞬、意味が分からなかった。



私はこの人を知らない。



仕立てのいい服を着て、きちんとした身なりだった。服が上等なほかに、目立つような点はどこにもなかったが、少し緊張しているように見えた。



「私と……ですか?」



「そう。ケネスに頼まれたのでね。一緒に行って欲しいと」



「ああ!」



合点がいった。横でびっくりしたように、その男性を眺めていたルシンダもその言葉を聞いて、意味を理解したようだった。





****************





オズボーン家の園遊会に誘うと、彼女はみるみる頬を染めた。



色白の顔に、かわいらしいピンク色が差してくる。目に潤いが出て、唇には微笑みが浮かんだ。

花が咲く……そんな言葉が思い起こされた。





本当につまらない役だ。オスカーは思った。



「オズボーン家から招待状は出せない。代わりに、僕がエスコートすることになったんです」



「ああ。招待状がなくてもパートナーは入っていいパーティなのですね?」



横にいた黒髪に緑の目の、きれいな娘が言った。



「ええ」



「なるほどね」



黒髪の令嬢ルシンダは、シュザンナの方を向き直った。



「バーカムステッド様まで協力してくださるのよ。シュザンナ、頑張らなくては」



シュザンナは、みずみずしい笑顔をオスカーに向けた。



「バーカムステッド公爵のご子息様ですわね。ケネスのお友達なのですね。ありがとうございます」



可愛い。可愛い娘じゃないか。しかもモンフォール公爵家の令嬢だと?





「オスカーと呼んでください」



オスカーは思っていなかったことを口走った。



「あ、そうですわね。親しくないと中に入れませんわね」



ニコっとシュザンナが嬉しそうに笑った。



「では、どうぞわたくしのこともシュザンナとお呼びください」



どうしよう。こんなに柔らかな微笑みで、シュザンナと呼んで欲しいだなんて言われてしまった。



「で、では、シュザンナ……」



「はい」



優しい声だ。



「当日、お迎えにあがります」



「ありがとうございます」



「とんでもありません」



オスカーはうっかり熱心に答えた。



「お待ちしていますわ。申し訳ありません。お手を煩わせて」



シュザンナは心を込めてそう言った。



「では、当日……」



後ろ髪を引かれる思いでオスカーはその場を離れた。残念だが、用事が済んでしまったのだ。



女の子はかわいい。悪くない。

どうしてだか、心が浮き立つようだ。なぜだ。









オスカーはボーとして、食堂を出た途端に、実に不吉な顔をした男にぶつかった。正確にはぶつかられた。



「誰だ?」



「お前こそ誰だ」



オスカーは前に立ちはだかる男をつくづく眺めた。せっかく人がいい気分なのに。



その男は赤毛で柄は大きかった。そして、ケンカを売っているような顔つきで、いかにも気に入らない様子で、オスカーをにらみつけてきた。



「私はバーカムステッドのオスカーだが」



相手は顔色を変えた。



バーカムステッドは公爵家だ。オスカーと言うならその長男である。



ウィリアムも彼のことは知っていた。



「ウィリアム・マンダヴィル……マンダヴィル辺境伯の次男でございます」



オスカーの方はウィリアムを知らなかった。ウィリアムの方が一つ年下だったのと、オスカーは文官を目指していたので、騎士志望のウィリアムとは取る科目が違ったからだ。



ウィリアムは背が低くて、あまり見栄えのしないオスカーをにらみつけた。



さすが公爵家の子弟らしく、仕立ての良いしゃれた服(すごく高そうな服)を着ていたが、大きめの鼻が目立つくらいで、特徴のない顔立ちだとウィリアムは思った。







シュザンナを園遊会に誘いたかったら、昼休みの食堂へ行くのが最も現実的だった。



オスカーはもっとも簡単な方法を取っただけだが、それはもっとも人目に付く行動だった。

その結果、あの例の告白以来、シュザンナのそばに近寄りにくくて、でも、いつも遠くから彼女を見ていたウィリアムの看視網に引っかかったのだ。



「何の話をしていらっしゃったのですか」



ウィリアムは、この見ず知らずの高位の貴族に話しかけたくなかったが、聞かずにいられなかった。



オスカーの方は、敵意丸出しの人物を警戒した。会話の内容を教える必要はないだろう。



「何でもないよ。かわいらしいお嬢さんだなと思って、声をかけてみただけだ」



「なっ……」



「話しかけて悪いことは何もあるまい。彼女の方も、普通に受け答えしてくれただけだ」



オスカーはウィリアムを観察した。髪の根元まで赤くなって、何か言いたげだが、うまく言葉が出てこないようだ。



「では、失敬」



あまり関わり合いにならない方がいいと思ったオスカーは、さっさと食堂を離れることにした。











ウィリアムは、立ちすくんでいた。



ケネスとうまく行っているのか、いないのか。



アーノルドによると、二人は相思相愛で、なんとかお互いの両親に婚約をもう一度認めてもらおうと努力しているところだと言う。



それなら……仕方がなかった。



シュザンナの気持ちがケネスにあるなら、ウィリアムに出番はない。





ウィリアムにしてみれば、うまくいってくれない方が好ましかった。どこかに自分勝手な未練がある。



だが、もし不仲だったら? あるいは婚約がうまく行かなかったら? チャンスがあるかもしれないと思っていた。





……だが、今、ウィリアムは別の危機に気が付いた。



例えば、バーカムステッド公爵家のオスカーの目に留まったのだとしたら?



最近のシュザンナは、とてもきれいだ。ドレスも派手でなくて感じが良くて、いい意味で目立つ。



まずい。



ウィリアムにチャンスがあると言うことは、別の男にもチャンスがあると言う意味なのだ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」  幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。  ──どころか。 「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」  決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。  この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...