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第29話 お祭りからの帰り
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目立たない服を選んで、伯父と一緒に、にぎやかな町を屋台周りした。
楽しい。
「おお! 侯爵がお見えだ」
「これはまた、おきれいな姫君でございますね?」
町の人たちは、伯父を見かけると気安く声をかけてくる。
「姪のシュザンナだ」
そう答える時、伯父はそれはそれは嬉しそうだった。
ただし、伯父の背中では、護衛係のサムとジョンがキリキリしていた。
侯爵の庶民好きにも困ったもんだと思っているに違いない。
その親しみやすさが人気なのだが、警備する側からみたら、万一と言うこともある。
ましてや、今夜は無礼講の収穫祭。
オマケに若い娘連れだ。
「ああ、夏のシーズン開幕のパーティで連れられていた方だ、きっと」
「とてもきれいな令嬢とご一緒だったと評判だった」
彼らは私を見て、正直に言った。
本当にきれいな方だ、と。
ウィリアムに言われても、ケネスに言われても、なかなか信じられない言葉だったけど、幼い子どもから言われた言葉は心に残った。
「おかあさん、あの人が美人なの?」
お姫様とか王子様とか、そんな概念と同じように美人という概念があって、それを初めて見たので、母親に確認したような聞き方だった。
「そうだとも。私の姪だよ!」
伯父は無邪気な女の子の質問に大笑いして、大肯定した。
今までは鏡が嫌いだったけど、ハリソン夫人と出会ってからは、鏡と少しだけ友達になれた。
頑張れば、似合うドレスを見つけられる。
とうとう母を説得して、好きなドレスを発注することが出来るようにもなった。
バイゴッド伯爵の前ではメガネをかけてやった。
出来ることが増えてきた。
にぎやか過ぎるお祭りは、長く居るべき場所ではなかった。特に伯父の侯爵は顔が売れている。伯父もサムとジョンの無言の圧力はわかっていたらしい。
「そろそろ帰ろうか」
町はずれに停めておいた馬車のそばに、人影があった。
「ジェームズ」
クレア伯爵だった。
彼は騎馬で、もう一人誰かがついてきていた。
「ケネスか……」
伯父はすぐに誰なのかわかって、あきらめたように言った。
「ケネスを家に入れるわけにはいかない。モンフォール公爵夫人に厳命されているんだ」
「ケネスを入れちゃいかんと? 立派な家の貴公子だぞ?」
クレア伯爵は気色ばんだが、伯父は首を振った。
「違うよ。ケネスだけじゃない。求婚者全員が出入り禁止になっている。まあ、当然だろう。両親に招かれなければ、近寄ることは許されない」
「君は伯父だろう。それくらいのこと……」
「モンフォール公爵夫人は只者じゃないぞ」
「では、僕は屋敷の外、庭で話します」
ケネスは言いだした。
「そこも敷地内だ」
「固いことを言うな、ジェームズ。元婚約者だ。情報料だと思って、それくらい許してくれ」
「……ローレンスは入っていい。ケネスは、じゃあ、建物の外だ」
ケネスがムッとした顔をしたのが暗闇でもわかった。
「ダメだ。ケネス。我慢しろ。その代わりシュザンナと話をしてもいい。話だけだ。屋敷内に入りたいわけではなくて、シュザンナに会いたいんだろう?」
ケネスが何事か言い、伯父は大声で笑った。
「後で飲み物と食べるものを持たせる。庭で花火を見ていろ」
私たちは馬車に乗り込み、騎馬の二人は後に続いた。
伯父と一緒に馬車に乗っても、後ろの騎馬のふたりが気になって仕方なかった。
「ケネスはあきらめが悪いなあ……」
伯父がため息交じりに言った。
「それにローレンスもケネスのことになると、ちょっと必死になりすぎる。私が言うことじゃないが、シュザンナ」
伯父も思うところはあるらしい。
「家族や身内に祝福された幸せな結婚をして欲しい。エレンが反対し続けている理由がわからないが、エレンはなかなか考えを曲げないからなあ」
とても複雑な気分になった。だって、伯父様は今まで母のことを批判したことなど一度もなかった。もちろん、なにかの拍子に母に反論することは当然あったけれど、こんな風に私に批判的に話しかけてくることはなかった。
「エレンがあの調子では、ケネスがどんなに頑張っても再婚約には持ち込めないかもしれない。私たちは、シュザンナの幸せを心から願っている。だから、シュザンナ、どうにもならなくなったら、必ず相談すると約束して欲しい」
伯父は真面目に言った。
「お前は賢い子だ。無茶をしてはいけないよ。わかったね?」
楽しい。
「おお! 侯爵がお見えだ」
「これはまた、おきれいな姫君でございますね?」
町の人たちは、伯父を見かけると気安く声をかけてくる。
「姪のシュザンナだ」
そう答える時、伯父はそれはそれは嬉しそうだった。
ただし、伯父の背中では、護衛係のサムとジョンがキリキリしていた。
侯爵の庶民好きにも困ったもんだと思っているに違いない。
その親しみやすさが人気なのだが、警備する側からみたら、万一と言うこともある。
ましてや、今夜は無礼講の収穫祭。
オマケに若い娘連れだ。
「ああ、夏のシーズン開幕のパーティで連れられていた方だ、きっと」
「とてもきれいな令嬢とご一緒だったと評判だった」
彼らは私を見て、正直に言った。
本当にきれいな方だ、と。
ウィリアムに言われても、ケネスに言われても、なかなか信じられない言葉だったけど、幼い子どもから言われた言葉は心に残った。
「おかあさん、あの人が美人なの?」
お姫様とか王子様とか、そんな概念と同じように美人という概念があって、それを初めて見たので、母親に確認したような聞き方だった。
「そうだとも。私の姪だよ!」
伯父は無邪気な女の子の質問に大笑いして、大肯定した。
今までは鏡が嫌いだったけど、ハリソン夫人と出会ってからは、鏡と少しだけ友達になれた。
頑張れば、似合うドレスを見つけられる。
とうとう母を説得して、好きなドレスを発注することが出来るようにもなった。
バイゴッド伯爵の前ではメガネをかけてやった。
出来ることが増えてきた。
にぎやか過ぎるお祭りは、長く居るべき場所ではなかった。特に伯父の侯爵は顔が売れている。伯父もサムとジョンの無言の圧力はわかっていたらしい。
「そろそろ帰ろうか」
町はずれに停めておいた馬車のそばに、人影があった。
「ジェームズ」
クレア伯爵だった。
彼は騎馬で、もう一人誰かがついてきていた。
「ケネスか……」
伯父はすぐに誰なのかわかって、あきらめたように言った。
「ケネスを家に入れるわけにはいかない。モンフォール公爵夫人に厳命されているんだ」
「ケネスを入れちゃいかんと? 立派な家の貴公子だぞ?」
クレア伯爵は気色ばんだが、伯父は首を振った。
「違うよ。ケネスだけじゃない。求婚者全員が出入り禁止になっている。まあ、当然だろう。両親に招かれなければ、近寄ることは許されない」
「君は伯父だろう。それくらいのこと……」
「モンフォール公爵夫人は只者じゃないぞ」
「では、僕は屋敷の外、庭で話します」
ケネスは言いだした。
「そこも敷地内だ」
「固いことを言うな、ジェームズ。元婚約者だ。情報料だと思って、それくらい許してくれ」
「……ローレンスは入っていい。ケネスは、じゃあ、建物の外だ」
ケネスがムッとした顔をしたのが暗闇でもわかった。
「ダメだ。ケネス。我慢しろ。その代わりシュザンナと話をしてもいい。話だけだ。屋敷内に入りたいわけではなくて、シュザンナに会いたいんだろう?」
ケネスが何事か言い、伯父は大声で笑った。
「後で飲み物と食べるものを持たせる。庭で花火を見ていろ」
私たちは馬車に乗り込み、騎馬の二人は後に続いた。
伯父と一緒に馬車に乗っても、後ろの騎馬のふたりが気になって仕方なかった。
「ケネスはあきらめが悪いなあ……」
伯父がため息交じりに言った。
「それにローレンスもケネスのことになると、ちょっと必死になりすぎる。私が言うことじゃないが、シュザンナ」
伯父も思うところはあるらしい。
「家族や身内に祝福された幸せな結婚をして欲しい。エレンが反対し続けている理由がわからないが、エレンはなかなか考えを曲げないからなあ」
とても複雑な気分になった。だって、伯父様は今まで母のことを批判したことなど一度もなかった。もちろん、なにかの拍子に母に反論することは当然あったけれど、こんな風に私に批判的に話しかけてくることはなかった。
「エレンがあの調子では、ケネスがどんなに頑張っても再婚約には持ち込めないかもしれない。私たちは、シュザンナの幸せを心から願っている。だから、シュザンナ、どうにもならなくなったら、必ず相談すると約束して欲しい」
伯父は真面目に言った。
「お前は賢い子だ。無茶をしてはいけないよ。わかったね?」
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