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第5話 避暑に行く(逃避)
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毎年、私たちは成人した兄をのぞいて、一家で海辺の領地へ避暑に行っていた。
これは結構苦痛だった。
母はなにしろ隣国の王女だったので、相当に気位が高い。
残念ながら私の祖父に当たる国王はとうの昔に亡くなっていて、母と現国王は折り合いが悪いのでメリットはほとんどないが、父は母に逆らえなかったので、彼女のルールは絶対だった。
しかも、別にわがままでも勝手でもなくて、ひたすらに良かれと信じての行動なのだ。余計、面倒くさくて修正がきかない。
そして、バカンスともなると、母と一緒にパーティなどに行くわけだが、母のルールに従った行動をとらないと叱られ、翌日(私が失礼を働いたと母が信じている)相手にわび状を書かされたり、母のルールによれば私が感謝すべき相手をお礼のお茶会に招待するよう強要されることになってしまう。
母が、私が失礼をしたと信じていても、相手はそう感じていないこともある。こういうのは、その場にいないとわからない。
しかし、母に説明してもわかってもらえないし、逆にさらに叱られるので、仕方なくわび状を書いて怪訝そうにされたり、お茶会の意図がわからない相手と気まずい時間を過ごすことが多かった。相手には迷惑だろうなあと思うといたたまれなかった。
また、出席しなくてはならない会でも、母が絶対に行ってはいけませんと言いだすことがある。
説明しても無駄なので、結局、出席しないことになるのだが、断り状を書くのは私だ。
母の意見で不参加でも、私は出るべき会に不参加の変人扱いになってしまう。
別荘地では学園がないので、母と24時間一緒。常に私は監視され、あれこれ口出されることも増えるので、真剣に苦痛だった。
だが、今年は母が行かないとゴネ出した。何かあったらしく、最近評判の高い人気の避暑地に行くと言い出したのである。
父は、やむなくついて行くことにしたらしい。だが、私はチャンスなので、伯母のグレシャム侯爵夫人の領地の避暑地に行くことにした。
グレシャム侯爵夫人は、かなり年配で、父の伯母だ。私は、伯母と呼んでいるが実は大伯母に当たる。社交界でも評判のいい女性だった。
そして、母とうまくやっていける数少ない親族だった。
だから、グレシャム侯爵夫人のところに行く分には、下手に一人で王都に残られるよりずっといいと、両親から簡単に許可が出た。
太って、顔にシミがたくさんあって、ちっとも美人ではないけれど、よく笑うこの伯母が、私は大好きだった。
彼女の領地は山沿いにあった。湖があり、そのほとりに別荘はあった。
もちろん侯爵家の持ち物であるからして、それなりに立派だったが、夏の別荘だからかわいらしいものだ。
だが、私はこの別荘のことも大好きだった。
かわいらしい造りで、湖を望めるバルコニーが寝室にはついていて、景色がいい。
反対側の客間や食堂の窓からは、広々とした芝生の庭があった。庭は木陰がうまく作られていて、その下の木のベンチやテーブルでお茶を飲めるようになっていた。
それにちっとも暑くない。
「ずいぶん久しぶりですわ、おばさま」
私は、そばかすになるから帽子を取るなと口やかましく言う侍女を無視して、伯母と、それからその陰に隠れてしまうような痩せた伯父に向かって、帽子を脱いであいさつした。
「よく来たわね、シュザンナ」
伯母はニコニコ顔で言った。
「ここへ来れてうれしいわ」
私は率直に言った。
母がいないので、私はメガネを取った。せいせいする。
「母がいないから、メガネはいらないと思うわ、伯母様」
後ろで伯父が息をのむ声が聞こえた。
「おお、なんてかわいいんだ、シュザンナ。メガネなんか、外してしまいなさい。そして、うんと着飾りなさい。婚約者君もきっとその方が喜ぶよ。こんなにかわいらしい娘が婚約者だなんて、果報者だな、オズボーン侯爵家のケネスは」
叔父は陽気で、伯母とは反対にやせていて、日焼けした顔には深い笑いじわが刻まれていた。とても楽しそうに真剣にほめてくれた。
こんなにあけすけにほめてくれる人は王都にはいない。
嬉しかったけれど、ケネスの名前を聞いて私は思わず、しょんぼりした。
「伯母様、聞いてくださる?」
母より伯母の方がずっと物わかりがいい。
伯母は細い目を大きく見はった。
「どうしたと言うの? シュザンナ?」
********
私は、グレシャム侯爵家の居心地のいい客間で、アマンダ王女の話をした。
「母が聞いたら怒ると思うの」
伯母は真面目な顔をして黙っていた。
「どうにか、やめられないものかしら?」
私は言った。多分悲しそうに見えたと思う。
「やめるって、何を? ケネスがアマンダ王女と付き合うのを?」
伯母は真面目に尋ねた。
「いいえ。もう、婚約を」
伯母の反応は、ちょっと眉を上げただけだった。
「私、本当は、もうどうでもいいんだけど、でも、婚約なんて簡単に破棄も解消も出来ないと思うし、それにお母さまが聞いたら……」
「いつも思うんだが、エレンは勝手すぎる。自分の思うとおりに子どもが動くと思ったら間違いだ。それに、オズボーン侯爵家のケネスは何様のつもりだ……」
伯父が憤慨して文句を言いだした。まあ、伯父だって、母が文句を言いだすとヘビに睨まれたカエルになってしまうのだけど。
どうにか対抗できるのは伯母だけだった。もちろん、何でもできるわけじゃない。
母には、なにより隣国の王女だと言う身分がある。
それに爵位だって、父の方がずっと高いのだ。
「まあ、そんな無責任な弁護をするものじゃないわ、ジェームズ」
伯母が穏やかにたしなめると、伯父は黙ってしまった。
「ケネスはね、シュザンナ」
伯母は何か言いかけたが、ふと何事か思いついたようだった。
伯母はにっこり笑った。
「それは簡単な問題じゃないわ。すぐに解決はしないかもしれない。でも、ここに学園の人たちはいないわ。せっかくだから楽しみましょうよ、ね? シュザンナ」
伯父はすぐ乗り気になった。
「そうそう。毎年、この辺の人たちを招いてパーティをすることにしているんだ。楽しむといい」
「でも、私……」
伯母が口をはさんだ。
「出なくても全然かまわないわ。なぜなら、あなたがここへ来ていることを、誰にも言っていないの。パーティも、出たいときもあるし、出たくないこともあるでしょ? だから、何も言わなかったの」
ああ、さすが伯母だ。私になにも強要してこない。
グレシャム伯母のところに避暑に来て正解だった。
「恒例の夏のパーティなのよ。侯爵家が毎夏開催しているの。夏場にこの湖と山へ避暑に来る人達は多いんだけど、当家はこの一帯の領主なので、何と言うかウェルカムパーティね。毎年、開いているの。夏のシーズンの幕開けはグレシャム家のパーティで始まるのよ」
伯母が説明した。
「そうなんだよ。特に決まっているわけではないのだけど、ほぼ義務だね。止める場合は何か月も前から断って歩かないといけないんだ。みんな、楽しみにしているから」
領主の務めみたいなものらしかった。
「そうだ。名前を名乗らずに遠縁の娘として出たらどうかな? 庭いっぱいを提灯で照らすんだ。きれいだよ。メガネがなければ、きっと誰だかわからないだろうし」
「あなた、それはシュザンナの好きにさせてあげて」
提灯パーティか。そう言えば、ずっと子供の頃、そのパーティに出た気がする。
母が一緒だったので、好きにはさせてもらえなかったが、あれはとてもきれいだった。
「見てみたいですわ。きっと、きれいでしょうね」
伯父はとても嬉しそうに、参加するといいよ、でも、ちょっと心配だな、変な男が寄ってきたら困るな、などと言って、伯母ににらまれていた。
「大丈夫よ。使用人頭に言い含めておくから安心よ。でも、あんまり遅くまで参加してはダメよ、シュザンナ」
伯母はいつでも優しい。私はうなずいた。
これは結構苦痛だった。
母はなにしろ隣国の王女だったので、相当に気位が高い。
残念ながら私の祖父に当たる国王はとうの昔に亡くなっていて、母と現国王は折り合いが悪いのでメリットはほとんどないが、父は母に逆らえなかったので、彼女のルールは絶対だった。
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また、出席しなくてはならない会でも、母が絶対に行ってはいけませんと言いだすことがある。
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母の意見で不参加でも、私は出るべき会に不参加の変人扱いになってしまう。
別荘地では学園がないので、母と24時間一緒。常に私は監視され、あれこれ口出されることも増えるので、真剣に苦痛だった。
だが、今年は母が行かないとゴネ出した。何かあったらしく、最近評判の高い人気の避暑地に行くと言い出したのである。
父は、やむなくついて行くことにしたらしい。だが、私はチャンスなので、伯母のグレシャム侯爵夫人の領地の避暑地に行くことにした。
グレシャム侯爵夫人は、かなり年配で、父の伯母だ。私は、伯母と呼んでいるが実は大伯母に当たる。社交界でも評判のいい女性だった。
そして、母とうまくやっていける数少ない親族だった。
だから、グレシャム侯爵夫人のところに行く分には、下手に一人で王都に残られるよりずっといいと、両親から簡単に許可が出た。
太って、顔にシミがたくさんあって、ちっとも美人ではないけれど、よく笑うこの伯母が、私は大好きだった。
彼女の領地は山沿いにあった。湖があり、そのほとりに別荘はあった。
もちろん侯爵家の持ち物であるからして、それなりに立派だったが、夏の別荘だからかわいらしいものだ。
だが、私はこの別荘のことも大好きだった。
かわいらしい造りで、湖を望めるバルコニーが寝室にはついていて、景色がいい。
反対側の客間や食堂の窓からは、広々とした芝生の庭があった。庭は木陰がうまく作られていて、その下の木のベンチやテーブルでお茶を飲めるようになっていた。
それにちっとも暑くない。
「ずいぶん久しぶりですわ、おばさま」
私は、そばかすになるから帽子を取るなと口やかましく言う侍女を無視して、伯母と、それからその陰に隠れてしまうような痩せた伯父に向かって、帽子を脱いであいさつした。
「よく来たわね、シュザンナ」
伯母はニコニコ顔で言った。
「ここへ来れてうれしいわ」
私は率直に言った。
母がいないので、私はメガネを取った。せいせいする。
「母がいないから、メガネはいらないと思うわ、伯母様」
後ろで伯父が息をのむ声が聞こえた。
「おお、なんてかわいいんだ、シュザンナ。メガネなんか、外してしまいなさい。そして、うんと着飾りなさい。婚約者君もきっとその方が喜ぶよ。こんなにかわいらしい娘が婚約者だなんて、果報者だな、オズボーン侯爵家のケネスは」
叔父は陽気で、伯母とは反対にやせていて、日焼けした顔には深い笑いじわが刻まれていた。とても楽しそうに真剣にほめてくれた。
こんなにあけすけにほめてくれる人は王都にはいない。
嬉しかったけれど、ケネスの名前を聞いて私は思わず、しょんぼりした。
「伯母様、聞いてくださる?」
母より伯母の方がずっと物わかりがいい。
伯母は細い目を大きく見はった。
「どうしたと言うの? シュザンナ?」
********
私は、グレシャム侯爵家の居心地のいい客間で、アマンダ王女の話をした。
「母が聞いたら怒ると思うの」
伯母は真面目な顔をして黙っていた。
「どうにか、やめられないものかしら?」
私は言った。多分悲しそうに見えたと思う。
「やめるって、何を? ケネスがアマンダ王女と付き合うのを?」
伯母は真面目に尋ねた。
「いいえ。もう、婚約を」
伯母の反応は、ちょっと眉を上げただけだった。
「私、本当は、もうどうでもいいんだけど、でも、婚約なんて簡単に破棄も解消も出来ないと思うし、それにお母さまが聞いたら……」
「いつも思うんだが、エレンは勝手すぎる。自分の思うとおりに子どもが動くと思ったら間違いだ。それに、オズボーン侯爵家のケネスは何様のつもりだ……」
伯父が憤慨して文句を言いだした。まあ、伯父だって、母が文句を言いだすとヘビに睨まれたカエルになってしまうのだけど。
どうにか対抗できるのは伯母だけだった。もちろん、何でもできるわけじゃない。
母には、なにより隣国の王女だと言う身分がある。
それに爵位だって、父の方がずっと高いのだ。
「まあ、そんな無責任な弁護をするものじゃないわ、ジェームズ」
伯母が穏やかにたしなめると、伯父は黙ってしまった。
「ケネスはね、シュザンナ」
伯母は何か言いかけたが、ふと何事か思いついたようだった。
伯母はにっこり笑った。
「それは簡単な問題じゃないわ。すぐに解決はしないかもしれない。でも、ここに学園の人たちはいないわ。せっかくだから楽しみましょうよ、ね? シュザンナ」
伯父はすぐ乗り気になった。
「そうそう。毎年、この辺の人たちを招いてパーティをすることにしているんだ。楽しむといい」
「でも、私……」
伯母が口をはさんだ。
「出なくても全然かまわないわ。なぜなら、あなたがここへ来ていることを、誰にも言っていないの。パーティも、出たいときもあるし、出たくないこともあるでしょ? だから、何も言わなかったの」
ああ、さすが伯母だ。私になにも強要してこない。
グレシャム伯母のところに避暑に来て正解だった。
「恒例の夏のパーティなのよ。侯爵家が毎夏開催しているの。夏場にこの湖と山へ避暑に来る人達は多いんだけど、当家はこの一帯の領主なので、何と言うかウェルカムパーティね。毎年、開いているの。夏のシーズンの幕開けはグレシャム家のパーティで始まるのよ」
伯母が説明した。
「そうなんだよ。特に決まっているわけではないのだけど、ほぼ義務だね。止める場合は何か月も前から断って歩かないといけないんだ。みんな、楽しみにしているから」
領主の務めみたいなものらしかった。
「そうだ。名前を名乗らずに遠縁の娘として出たらどうかな? 庭いっぱいを提灯で照らすんだ。きれいだよ。メガネがなければ、きっと誰だかわからないだろうし」
「あなた、それはシュザンナの好きにさせてあげて」
提灯パーティか。そう言えば、ずっと子供の頃、そのパーティに出た気がする。
母が一緒だったので、好きにはさせてもらえなかったが、あれはとてもきれいだった。
「見てみたいですわ。きっと、きれいでしょうね」
伯父はとても嬉しそうに、参加するといいよ、でも、ちょっと心配だな、変な男が寄ってきたら困るな、などと言って、伯母ににらまれていた。
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