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サジシーム
第128話 ベルブルグに偵察に行く
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「ああ、久しぶり。ロッド」
ドルマはびっくりした。
「もう、ここには来ないと思ってたよ。レイビック伯に仕えてるって聞いたよ」
「ねえ、ドルマ、俺のことはどれくらい知ってる?」
「どれくらいって……。だって、すごい力持ちだってことくらいは知っているけど。結構な剣の使い手だとも聞いたよ。知らなかったけどね。もし、本当にレイビック伯のところで働いているんだったら、もうここには縁がないと思ったよ」
「用心棒の仕事のこと?」
「そう。まあ、もともと、あんたが用心棒やってる意味が分からなかったけどね。修道士だって言ってたくらいだから」
ロドリックは黙った。
確かにその通りだった。
「それで、今日はどうしてここに来たの?」
ロドリックは空いている椅子にどっかり腰を掛け、途端に椅子がミシミシ言い出したので慌てて立ち上がった。
「どうも、俺は重すぎるらしいな」
ドルマが急に笑い出した。
「そうだよ。そこの箱の上にお座んなさいよ。一番似合いよ。でないと、イスやソファはみんな潰れちまう」
助言に従って、ロドリックは慎重に頑丈そうな箱の上に恐る恐る腰を掛けた。今度は大丈夫だった。
「最近、ハブファン殿はどうしてる?」
「なんだ。そんなことか」
ドルマは急ににっこりした。
だが、すぐに真剣な顔になった。
「そうねえ。きっと何か大変なことがあったのだと思うわ。だって、全然、ここには来ないのよ。来る暇がないみたい」
「そうなんだ……何があったんだろう」
「わかるわけないじゃない」
ドルマは肩をすくめた。
「筋肉旋風の店長を紹介するから、彼に聞いてみたら? 毎晩、ハブファンの恋人が遊びに来てるわ。何か聞いているかもしれない」
「いやだよ。それにレイビック伯のところににいるのがばれたら、どうしたらいいんだ」
「筋肉旋風の店長は、それは知らないわよ」
「なんで?」
「だって、ロッドのことをよく知ってるのは、私だけだもん」
ドルマはにっこり笑って見せた。
「あんたのことは内緒よ。私だけが知っているのよ」
突然、ロドリックはドルマを理解した。理解したのじゃなくて、傾向と対策が読めた。
人間、理解ができなくても(ドルマの性癖のことだ)、計算の結果、正しい結論に達することがある。
絶対にドルマは彼のことを黙っている。ドルマは、ロドリックを裏切らない。
ロドリックは、いつもの半裸の制服に着替えることにした。
フリースラントじゃないが、彼だって、こんな格好は好きじゃなかったが、やむを得なかった。
「じゃあ、筋肉旋風の店長に知らせて来るわね」
知らせるって何を? ロドリックは不安になったが、筋肉旋風の店長は文字通り、疾風のように走ってきた。
実は噂には聞いていたが、ロドリックが筋肉旋風の店長を見るのは初めてだった。筋肉旋風の店長は、ロドリックに見つからないように彼を鑑賞していたからだ。
店長は小男だったが、もりもりに筋肉をつけた男だった。
ロドリックの筋肉は、実用である。力の割には、(相対的に)しょぼく見える。それでも、見事に均整の取れた芸術品のような体だった。
店長は感激のあまり、涙を流さんばかりだった。くるくるとロドリックの周りをまわると、心ゆくまで鑑賞し始めた。
「触ってもいい?」
「帰れ!」
ロドリックは思わず怒鳴った。
「さわんな」
「ちょっと、ちょっと、ロッド」(と、ドルマが言い)
「ごめんごめん!」(と、筋肉旋風の店長が心から謝った)
「さわんな。コロスぞ」
ロドリックは、筋肉旋風の店長の腕を汚そうにつまんだ。
「骨、つぶすぞ」
「止めて止めて!」
「ロッド! 止めなさい。あんたのバカ力は知ってっから」
掴まれたところををふーふーしながら、筋肉旋風の店長は、なぜかとてもうれしそうだった。
「すごい! すごい力! すばらしい」
ロドリックは不機嫌そうだった。こんなバカげた真似で、情報収集できるのか?
しかし、彼は一晩だけと言う約束で、しぶしぶ筋肉旋風の用心棒として店長の後をついて歩いた。
「じゃあ、あそこ。ううん、こっちに……あ、いいわ。あそこでいい」
こっちと言うのは店の入り口の目立つ場所で、あそこと言うのは、奥の方だった。
入口の目立つ場所を指した途端、ロドリックの目つきが凶暴になったので、言を翻したのだった。
「言っとくけど、用心棒だからな? 客の相手なんかさせたら命はないと思えよ?」
「も、もちろん! もちろんよ!」
しかし、やがて日が暮れて、客が三々五々入ってくると、いくらロドリックが半分隠れるようにしていても、客の視線が次々に彼の体を這い始めた。
と言うのは、店長が事あるたびに、ロドリックに見惚れたような視線を送るので、何があるのだろうと、客がみな店長の視線を追うからだった。そして、ロドリックを発見すると、皆一様にその見事な肉体に釘付けになり、一斉に客同士でひそひそ話を始めるのだった。
そして、その次には、必ず店長が呼ばれ、彼らは何かひそひそと話し合っていた。
「何を話してるんだか、知らないが……」
気分が悪いわ……とロドリックは、内心思った。そして、これでは何の情報収集にもならないと後悔した。
単に、さらし者になっただけではないか。
だが、ついに、待っていた瞬間が来た。
ハブファンの愛人と呼ばれている男が来たのだった。
ロドリックは立っているだけでよかった。
彼は、その人物の声を聞きさえすれば、声質を覚えることができた。
声質を覚えれば、ざわざわしていても、声をたどることができる。
「あれ? 新しい人入れたんだ?」
思いがけず、甲高い声で男は言った。細く痩せた、色白の美しい顔立ちの男だった。
なるほどな……とロドリックは思った。ハブファンを思えばずっと若く、顔立ちは美しかったが、なんとなく疲れたような飽きたような顔をしていた。
「退屈だからね。いい体してるよね。え、なに?」
店長が、ロドリックのことを、ただの用心棒で、何を言うかわからないほど乱暴な奴なのでと断っていた。
付き添いが大声で店長のことを「生意気な奴だ」と言いだしたが、ロンゴバルト語だったので、ロドリックははっとした。
店長はロンゴバルト語がわからないので、一生懸命、ロドリックのことを、田舎者で、ジュリマン様に対する物言いも心得ておりません、失礼があったら手前どもの責任になりますのでと弁解に努めていた。
「逆に面白いじゃない?」
ジュリマンは、おもしろがった。
「これでどうか聞いてみてよ」
彼は三十フローリン貨を差し出した。
店長は渋った。
金で動くとなったら、店中の客が金を出しそうで、そのうち、誰か彼に触る者が出て来るかもしれない。ロドリックのバカ力は、店長もわかっていた。
マジで怒り出したら、店舗破壊では済まない。
「実は、男は嫌いなんでございます。そして、ものすごい力持ちなんで……」
「へえ?」
ジュリマンは、余計興味を惹かれたようだった。
「ここにいるカルムとだったらどうかな?」
カルムとは、ロンゴバルト語の用心棒のことだった。
「力比べなら、乗って来ないか?」
ジュリマンがカルムに通訳すると、カルムは、じろりとロドリックを値踏みした。
彼は、ロドリックほどではないが、かなり大柄の力の強そうな男だった。
「ジュリマン様、こんなところで人を殺めたりしたら、ハブファン様に叱られます」
「ははは、酒場の用心棒だ。金でカタが付く話さ」
「こんなところで、用心棒だなどと言っているヤツなんか、どいつもこいつも見掛け倒しで、別に武術を習っているわけでもなければ、実際の殺し合いに参加したこともないようなつまらんやつです」
実際の殺し合いとは、どんな規模の話だろう。別に競う気はなかったが、ロドリックは、ちょっと気になった。
「本人はできる気満々なんだろう」
ジュリマン、その頭が単純そうな男をあおるのは止めた方が……とロドリックは思わず忠告したくなったが、この距離で聞こえているとばれたくなかったし、ロンゴバルト語に堪能なことも知られたくなかったので、黙っていた。
「それじゃ、店長、力くらべならいいだろう。余興だ。ほかのお客も楽しめる」
「一体、どうやって?」
「そうだな? 君のところの用心棒は何が得意か聞いてみてくれよ」
店長は気がのらなさそうに、しばらくジュリマンとカルムの顔をかわるがわる眺めていたが、ジュリマンは悪気なさそうに軽く微笑んでいるだけだったし、カルムの方は表情が全く読めなかった。
店長はロンゴバルト語がわからなかったので、ジュリマンが軽く、彼の手をつかんで押すと仕方なくロドリックの方へやって来た。ジュリマンの手には五十フローリン貨が握られていて、それがそのまま店長の手に移っていた。
「どうしたらいいでしょう?」
「あの男を殺すとどうなるの?」
店長は驚いて、ロドリックの顔を見た。
「殺しちゃだめですよ。ハブファン様の愛人の用心棒なんですよ」
「愛人って、あの細くて青白い男か」
「ジュリマンと言う名前です。ここ十年くらいずっとハブファンが大事にしてます。この店で、毎晩遊んで、相当な金を使ってくれてます」
「用心棒はロンゴバルト人か?」
「いい勘してますね。その通りです。用心棒なのか、恋人なのか知りませんが。かなりの腕の持ち主です」
ロドリックは苦笑した。
「じゃあ、客を楽しませる方がいいのかな?」
「どうでもいいんで、騒ぎにならない方向で」
「店の真ん中で、格闘技はどうだ? 余興だ」
店長は首をひねった。
「素手だ。参戦するやつは、今後出ないと思うがな。金でおさわりされたらたまらん」
店長は懐疑的だったが、戻ってジュリマンとカルムに伝えると、二人は大笑いした。
「命が惜しくないんだな」
「やる気になるとはな。素人は怖いな」
店長が、アナウンスして真ん中の部分を空けさせた。
客たちは、この異例の勝負を、店の企画した余興だと思ったらしかった。軽くざわめいて、歓迎しているようだった。
二人の男は店の真ん中で向き合った。
観客は、これから始まる楽しいゲームに注目した。
ドルマはびっくりした。
「もう、ここには来ないと思ってたよ。レイビック伯に仕えてるって聞いたよ」
「ねえ、ドルマ、俺のことはどれくらい知ってる?」
「どれくらいって……。だって、すごい力持ちだってことくらいは知っているけど。結構な剣の使い手だとも聞いたよ。知らなかったけどね。もし、本当にレイビック伯のところで働いているんだったら、もうここには縁がないと思ったよ」
「用心棒の仕事のこと?」
「そう。まあ、もともと、あんたが用心棒やってる意味が分からなかったけどね。修道士だって言ってたくらいだから」
ロドリックは黙った。
確かにその通りだった。
「それで、今日はどうしてここに来たの?」
ロドリックは空いている椅子にどっかり腰を掛け、途端に椅子がミシミシ言い出したので慌てて立ち上がった。
「どうも、俺は重すぎるらしいな」
ドルマが急に笑い出した。
「そうだよ。そこの箱の上にお座んなさいよ。一番似合いよ。でないと、イスやソファはみんな潰れちまう」
助言に従って、ロドリックは慎重に頑丈そうな箱の上に恐る恐る腰を掛けた。今度は大丈夫だった。
「最近、ハブファン殿はどうしてる?」
「なんだ。そんなことか」
ドルマは急ににっこりした。
だが、すぐに真剣な顔になった。
「そうねえ。きっと何か大変なことがあったのだと思うわ。だって、全然、ここには来ないのよ。来る暇がないみたい」
「そうなんだ……何があったんだろう」
「わかるわけないじゃない」
ドルマは肩をすくめた。
「筋肉旋風の店長を紹介するから、彼に聞いてみたら? 毎晩、ハブファンの恋人が遊びに来てるわ。何か聞いているかもしれない」
「いやだよ。それにレイビック伯のところににいるのがばれたら、どうしたらいいんだ」
「筋肉旋風の店長は、それは知らないわよ」
「なんで?」
「だって、ロッドのことをよく知ってるのは、私だけだもん」
ドルマはにっこり笑って見せた。
「あんたのことは内緒よ。私だけが知っているのよ」
突然、ロドリックはドルマを理解した。理解したのじゃなくて、傾向と対策が読めた。
人間、理解ができなくても(ドルマの性癖のことだ)、計算の結果、正しい結論に達することがある。
絶対にドルマは彼のことを黙っている。ドルマは、ロドリックを裏切らない。
ロドリックは、いつもの半裸の制服に着替えることにした。
フリースラントじゃないが、彼だって、こんな格好は好きじゃなかったが、やむを得なかった。
「じゃあ、筋肉旋風の店長に知らせて来るわね」
知らせるって何を? ロドリックは不安になったが、筋肉旋風の店長は文字通り、疾風のように走ってきた。
実は噂には聞いていたが、ロドリックが筋肉旋風の店長を見るのは初めてだった。筋肉旋風の店長は、ロドリックに見つからないように彼を鑑賞していたからだ。
店長は小男だったが、もりもりに筋肉をつけた男だった。
ロドリックの筋肉は、実用である。力の割には、(相対的に)しょぼく見える。それでも、見事に均整の取れた芸術品のような体だった。
店長は感激のあまり、涙を流さんばかりだった。くるくるとロドリックの周りをまわると、心ゆくまで鑑賞し始めた。
「触ってもいい?」
「帰れ!」
ロドリックは思わず怒鳴った。
「さわんな」
「ちょっと、ちょっと、ロッド」(と、ドルマが言い)
「ごめんごめん!」(と、筋肉旋風の店長が心から謝った)
「さわんな。コロスぞ」
ロドリックは、筋肉旋風の店長の腕を汚そうにつまんだ。
「骨、つぶすぞ」
「止めて止めて!」
「ロッド! 止めなさい。あんたのバカ力は知ってっから」
掴まれたところををふーふーしながら、筋肉旋風の店長は、なぜかとてもうれしそうだった。
「すごい! すごい力! すばらしい」
ロドリックは不機嫌そうだった。こんなバカげた真似で、情報収集できるのか?
しかし、彼は一晩だけと言う約束で、しぶしぶ筋肉旋風の用心棒として店長の後をついて歩いた。
「じゃあ、あそこ。ううん、こっちに……あ、いいわ。あそこでいい」
こっちと言うのは店の入り口の目立つ場所で、あそこと言うのは、奥の方だった。
入口の目立つ場所を指した途端、ロドリックの目つきが凶暴になったので、言を翻したのだった。
「言っとくけど、用心棒だからな? 客の相手なんかさせたら命はないと思えよ?」
「も、もちろん! もちろんよ!」
しかし、やがて日が暮れて、客が三々五々入ってくると、いくらロドリックが半分隠れるようにしていても、客の視線が次々に彼の体を這い始めた。
と言うのは、店長が事あるたびに、ロドリックに見惚れたような視線を送るので、何があるのだろうと、客がみな店長の視線を追うからだった。そして、ロドリックを発見すると、皆一様にその見事な肉体に釘付けになり、一斉に客同士でひそひそ話を始めるのだった。
そして、その次には、必ず店長が呼ばれ、彼らは何かひそひそと話し合っていた。
「何を話してるんだか、知らないが……」
気分が悪いわ……とロドリックは、内心思った。そして、これでは何の情報収集にもならないと後悔した。
単に、さらし者になっただけではないか。
だが、ついに、待っていた瞬間が来た。
ハブファンの愛人と呼ばれている男が来たのだった。
ロドリックは立っているだけでよかった。
彼は、その人物の声を聞きさえすれば、声質を覚えることができた。
声質を覚えれば、ざわざわしていても、声をたどることができる。
「あれ? 新しい人入れたんだ?」
思いがけず、甲高い声で男は言った。細く痩せた、色白の美しい顔立ちの男だった。
なるほどな……とロドリックは思った。ハブファンを思えばずっと若く、顔立ちは美しかったが、なんとなく疲れたような飽きたような顔をしていた。
「退屈だからね。いい体してるよね。え、なに?」
店長が、ロドリックのことを、ただの用心棒で、何を言うかわからないほど乱暴な奴なのでと断っていた。
付き添いが大声で店長のことを「生意気な奴だ」と言いだしたが、ロンゴバルト語だったので、ロドリックははっとした。
店長はロンゴバルト語がわからないので、一生懸命、ロドリックのことを、田舎者で、ジュリマン様に対する物言いも心得ておりません、失礼があったら手前どもの責任になりますのでと弁解に努めていた。
「逆に面白いじゃない?」
ジュリマンは、おもしろがった。
「これでどうか聞いてみてよ」
彼は三十フローリン貨を差し出した。
店長は渋った。
金で動くとなったら、店中の客が金を出しそうで、そのうち、誰か彼に触る者が出て来るかもしれない。ロドリックのバカ力は、店長もわかっていた。
マジで怒り出したら、店舗破壊では済まない。
「実は、男は嫌いなんでございます。そして、ものすごい力持ちなんで……」
「へえ?」
ジュリマンは、余計興味を惹かれたようだった。
「ここにいるカルムとだったらどうかな?」
カルムとは、ロンゴバルト語の用心棒のことだった。
「力比べなら、乗って来ないか?」
ジュリマンがカルムに通訳すると、カルムは、じろりとロドリックを値踏みした。
彼は、ロドリックほどではないが、かなり大柄の力の強そうな男だった。
「ジュリマン様、こんなところで人を殺めたりしたら、ハブファン様に叱られます」
「ははは、酒場の用心棒だ。金でカタが付く話さ」
「こんなところで、用心棒だなどと言っているヤツなんか、どいつもこいつも見掛け倒しで、別に武術を習っているわけでもなければ、実際の殺し合いに参加したこともないようなつまらんやつです」
実際の殺し合いとは、どんな規模の話だろう。別に競う気はなかったが、ロドリックは、ちょっと気になった。
「本人はできる気満々なんだろう」
ジュリマン、その頭が単純そうな男をあおるのは止めた方が……とロドリックは思わず忠告したくなったが、この距離で聞こえているとばれたくなかったし、ロンゴバルト語に堪能なことも知られたくなかったので、黙っていた。
「それじゃ、店長、力くらべならいいだろう。余興だ。ほかのお客も楽しめる」
「一体、どうやって?」
「そうだな? 君のところの用心棒は何が得意か聞いてみてくれよ」
店長は気がのらなさそうに、しばらくジュリマンとカルムの顔をかわるがわる眺めていたが、ジュリマンは悪気なさそうに軽く微笑んでいるだけだったし、カルムの方は表情が全く読めなかった。
店長はロンゴバルト語がわからなかったので、ジュリマンが軽く、彼の手をつかんで押すと仕方なくロドリックの方へやって来た。ジュリマンの手には五十フローリン貨が握られていて、それがそのまま店長の手に移っていた。
「どうしたらいいでしょう?」
「あの男を殺すとどうなるの?」
店長は驚いて、ロドリックの顔を見た。
「殺しちゃだめですよ。ハブファン様の愛人の用心棒なんですよ」
「愛人って、あの細くて青白い男か」
「ジュリマンと言う名前です。ここ十年くらいずっとハブファンが大事にしてます。この店で、毎晩遊んで、相当な金を使ってくれてます」
「用心棒はロンゴバルト人か?」
「いい勘してますね。その通りです。用心棒なのか、恋人なのか知りませんが。かなりの腕の持ち主です」
ロドリックは苦笑した。
「じゃあ、客を楽しませる方がいいのかな?」
「どうでもいいんで、騒ぎにならない方向で」
「店の真ん中で、格闘技はどうだ? 余興だ」
店長は首をひねった。
「素手だ。参戦するやつは、今後出ないと思うがな。金でおさわりされたらたまらん」
店長は懐疑的だったが、戻ってジュリマンとカルムに伝えると、二人は大笑いした。
「命が惜しくないんだな」
「やる気になるとはな。素人は怖いな」
店長が、アナウンスして真ん中の部分を空けさせた。
客たちは、この異例の勝負を、店の企画した余興だと思ったらしかった。軽くざわめいて、歓迎しているようだった。
二人の男は店の真ん中で向き合った。
観客は、これから始まる楽しいゲームに注目した。
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