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フリースラント
第25話 ハンターに大人気
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翌日、彼が例の競り市が行われる石造りの立派な建物へ入ると、彼を待ちかまえていたらしい、数人のひげ面のハンターが立ち上がった。
「フリーだね? 俺たちは、ここでA級ライセンスを持ってるグループだ」
一人が自己紹介した。
「一人でイノシシ5頭を持って帰ったって? すごいじゃないか。ものは相談だけど、一緒にユキヒョウ狩りをやらないか?」
ほかの3人が真剣な様子で頷いた。
「あんたの腕なら、山に慣れれば、きっとユキヒョウを狙えるんじゃないかと思う。俺たちはここで何年もハンターをやっている。山をよく知ってるんだ」
「あんたの腕と、俺たちの知識、これを足せば、きっと幻のユキヒョウを捕えられる」
「一攫千金だ」
一人が口を挟んだ。
「八百フローリンで売れるんだ。一財産だ」
熱を込めて、もう一人が言った。
「金だけじゃない。最高の名誉だ」
フリースラントは本気で困った。
「ぼ、僕はC級のライセンスしか持ってません。ユキヒョウどころかクマも狩れません」
「いや、それは大丈夫。俺たちにはAライセンスがある。誰かがもっていれば問題ない」
「でも、僕には、多分、まだ無理じゃないかと思います。もう少し、修行を積んでから、仲間に入れてもらえたら……。昨日のイノシシは偶然でしたし……」
偶然に間違いはなかった。向こうの方から来たのだから。
「ここのルールも良く分かっていません。昨日は、あのジュリアにいろいろ聞いていました」
ジュリアと聞いたとたん、そのうちの一人が気色ばんだ。
「女の子に聞くのは良くないな」
「そうなんですか」
フリースラントはまじめに答えた。
「猟のことはハンターに聞いた方がいい。その方が勉強になる。まじめに、もっと上を目指すならならな」
もっともである。ただし、上を目指す気はフリースラントにはなかったが。フリースラントは、とても一生懸命そうに、その男の顔を見た。
「皆さんをお手本に、もっと、がんばって修行に励もうと思います」
彼は、そういうと丁重に頭を下げて、ふんぞり返って説教した男の脇をすり抜けていった。
まあ、もっともではある。
ジュリアに話を聞いたのもよくなかったらしい。彼女は人気者だったんだ。
ジュリアのことは気に入っていたし、それなりに話が聞けて、重要な情報源だったが、彼が知りたい一番肝心な物語の部分を知っているわけではなさそうだった。今の猟師連中も、多分何も知らなさそうだ。
それに全員、ユキヒョウにこだわりすぎる。
彼の家のじゅうたんの一部になんでそんなこだわるんだ。
宿の亭主まで、どこかから聞きつけてきて、ユキヒョウが獲れたら、町が活気づくのでぜひ頑張ってくださいと彼にエールを送る始末だった。
「ユキヒョウが獲れるとなれば、近隣からもこの町に来る者の数が増えます。にぎやかになります。この町は、昔は金が取れて、もっとずっと大きな町だったんですが、ある時、鉱山で事故が起きて、金が取れなくなって、それ以来、すっかりさびれてしまいました」
「へえ。鉱山の町だったのか」
山師が猟師になったわけか。だが、幻のユキヒョウ狙いの猟師なんて、山師と似たようなものだ。
「金が取れるからって、あまりにおごり高ぶりすぎた天罰が下ったと言われています」
「いつの話?」
「百年ほど昔の話ですよ。昔、町はもっと山の方にありました。金は山で採れるのでね」
「昔のレイビックの町は、ここじゃないの?」
「違います。教会もみんな、新しく立て直したんです。神に祟られた地になったので」
「じゃあ、その百年ほど前の教会はどこにあるの?」
フリースラントは身を乗り出した。
亭主は心配そうな顔になった。この前、フリースタントに山奥には行かないようにと、釘を刺したのだったが、どうやら、本人は山奥の危険性を全く認識していないらしい。
「奥地には入ってはいけないと言われています。その古い教会のあたりは、神に呪われた土地だから。フリーさん、絶対、行っちゃだめですよ?」
宿の亭主は親切な男だった。フリースラントもそれは良く分かっていたが、彼はその古い教会に行きたいのだ。
「奥地って、どこら辺が奥地なのかわからないよ」
亭主はためらった。なんだか、興味があるらしいが、呪いがかかると言われているのだ。行ってはいけない。
「正確には知りませんが、ハンターが出入りするより、もっとずっと奥の方だそうです」
「まあ、猟に関係のないところには行かないからね」
フリースラントは関心なさそうなふりをして相槌を打った。
「でも、山は広いからなあ。奥地のどこらへんか危ないのかわからなくて、うっかり足を踏み入れると困るなあ。地図でもあるといいんだけど」
亭主はハンターではない。山になど行ったことがないから、昔の教会の方面に行ってはいけないと言ったものの、どこにその教会があるのか、正確には知らなかった。
「競り市のある会館には、昔の地図が飾ってあります」
そんなわけで、例のひげ面の連中をやり過ごしたフリースラントは、競り市のある会館の壁に飾ってあった、変色した古めかしい地図をひたすらに眺めていた。
最初は、どこがどこだか、さっぱりわからなかった。
街の移転以前の地図なので、現在の建物は何も載っていないことになる。山の地形だけが頼りだ。
「おい、そんなのを見るくらいなら、いい地図を売ってやるぞ?」
先のグループとは違うグループだった。
昨日ゾフと名乗ってきた男だった。彼の家の家令と同じ名前だったので覚えていた。
「昨日、会った……ゾフさんでしたね?」
「そう。よく覚えていてくれたね」
そりゃあ、うちの家令と同じ名前ですから……と言うわけにはいかないので、そこは飲み込んだ。
「地図はどこかで売っているのですか? それとも手作り?」
「地図は売っているが、俺の地図には印が付いている。獲物が獲れる場所と、冬なんか、雪で道がわからなくなるから目印が書いてあるんだ」
「貴重な地図ですね」
ただではあるまい。
「一緒にやらないか? あんたと一緒ならユキヒョウが狙える」
ゾフはさっきの男と違って、もっとずっとソフトな感じがした。上から目線ではなかった。
フリースラントは正直なところを言った。
「僕には、まだ、みんながそんなにユキヒョウにこだわる理由がわからないんです。むろん、高価なものだということはわかっているんですが」
ゾフはちょっと驚いたようだったが、答えた。
「だって、名誉なことなんだ。ユキヒョウハンターは。この世に怖いものなんか何もない」
「クマをやっつける方が、皆さんの役に立ちませんか?」
「そりゃ……クマは退治して減らさないと困ったことになるからな。でも、ユキヒョウはその美しさで心をとらえる。危険を伴うが、ハンターの勇気と技量を証明してくれる」
なるほど。
のんべんだらりと寝ている彼の家のじゅうたんと違って、生きているユキヒョウは手の届かない孤高の獲物なのだ。
「僕は目下のところ、C級ライセンスしかもっていませんし、全くの修行中の身の上です」
ゾフは何か言いかけた。彼もA級ライセンスを持っていると言いたいのだろう。それを手で押しとどめて、フリースラントは続けた。
「もう少し、慣れてからにしたいです」
「みんなと一緒の方が、ずっと早く慣れられるぞ」
それは本当だろう。だが、彼の目的は違うのだ。彼は山に入って古い教会や、昔の町を探したいのだ。
「ご忠告ありがとうございます。まず、地図を買ってきます。それから、どこかのチームに入れてくれるようお願いしたいと思います」
「まあ、あんたほどの腕の持ち主なら、あちこちから声がかかるのは無理はない」
ゾフは、そこのところも理解したようだった。彼は少し諦めたように続けた。
「そうだな。相性があるからな。どこのグループに入るかは、少し付き合ってから決めないといけないだろうな」
みんな、勘違いしている、とフリースラントは思った。
フリースラントが卓越しているのは、山を感じ取る能力だった。優れた視力で地形を測り、風の匂いを嗅ぎ分ける。それは常人にはない能力だった。
でも、彼自身、それを認めるのはイヤだった。
どこかのグループに入って、何か危険が迫ったとしたら、彼の常人ならぬ能力を発揮しないといけないかもしれない。いや、一緒に行動していたら、何事もなくてもばれるに決まっている。
黙っていてくれるとは限らない。
少し悲しくなった。
「一つだけ教えてください」
彼はゾフに言った。
「この古地図の中で、競り市の建物はどこになるのですか?」
「ああ、これは百年前の地図だな。本物は、教会に置いてあるが……ここだ」
彼は隅の方を指した。ということは、もっとずっと、北東の方に、昔の鉱山と町はあるに違いない。
フリースラントはゾフに礼を言った。地図は店で手に入れた。それから、彼は走るように入山許可のゲートを通って、山に入った。
彼が山に入って行くのを見ていた連中もいたが、彼らはもう誰もなにも言わなかった。フリースラントは腕の立つハンターだと、認められつつあったからだ。
まずは教会を探したかった。それから、昔の金鉱。もしかすると、古民家とか何か文書とか残っているかもしれなかった。
だが、百年も昔の話だ。
何も残っていないかもしれなかった。
とにかく行きつきたい。
猟なんか関係なかった。
空気を嗅いだ。なにかが匂う。危険な動物、例えばクマが来たらどうしよう。B級ライセンスをまだ持っていないのだ。
彼は地図にしるしをつけた。今日はここまでにしよう。身の安全のためにはB級ライセンスを早めに取った方がよさそうだ。ユキヒョウを狙えるA級ライセンスには興味はなかったが。ただ、今後、もしも、ユキヒョウに出会ってしまったら、ハンティングできる許可はあった方がいいかもしれなかった。
前回で懲りたので、荷物運搬用のそりを持参してきていた。
帰りがてら、立派な角の鹿と数頭のイノシシ、雌鹿と小鹿を何匹か獲り、山積みにして持って帰った。
競り市は、またもや沈黙した。
そもそも、前回よりはるかに大量である。異様なものを見る目付で人々は彼を見た。
フリースラントは仕方がないから無視した。
目立ちたくないと思っていたが、これ以上ないくらい目立っている。
でも、彼は早めにライセンスを取らないといけないのだ。
「フリーだね? 俺たちは、ここでA級ライセンスを持ってるグループだ」
一人が自己紹介した。
「一人でイノシシ5頭を持って帰ったって? すごいじゃないか。ものは相談だけど、一緒にユキヒョウ狩りをやらないか?」
ほかの3人が真剣な様子で頷いた。
「あんたの腕なら、山に慣れれば、きっとユキヒョウを狙えるんじゃないかと思う。俺たちはここで何年もハンターをやっている。山をよく知ってるんだ」
「あんたの腕と、俺たちの知識、これを足せば、きっと幻のユキヒョウを捕えられる」
「一攫千金だ」
一人が口を挟んだ。
「八百フローリンで売れるんだ。一財産だ」
熱を込めて、もう一人が言った。
「金だけじゃない。最高の名誉だ」
フリースラントは本気で困った。
「ぼ、僕はC級のライセンスしか持ってません。ユキヒョウどころかクマも狩れません」
「いや、それは大丈夫。俺たちにはAライセンスがある。誰かがもっていれば問題ない」
「でも、僕には、多分、まだ無理じゃないかと思います。もう少し、修行を積んでから、仲間に入れてもらえたら……。昨日のイノシシは偶然でしたし……」
偶然に間違いはなかった。向こうの方から来たのだから。
「ここのルールも良く分かっていません。昨日は、あのジュリアにいろいろ聞いていました」
ジュリアと聞いたとたん、そのうちの一人が気色ばんだ。
「女の子に聞くのは良くないな」
「そうなんですか」
フリースラントはまじめに答えた。
「猟のことはハンターに聞いた方がいい。その方が勉強になる。まじめに、もっと上を目指すならならな」
もっともである。ただし、上を目指す気はフリースラントにはなかったが。フリースラントは、とても一生懸命そうに、その男の顔を見た。
「皆さんをお手本に、もっと、がんばって修行に励もうと思います」
彼は、そういうと丁重に頭を下げて、ふんぞり返って説教した男の脇をすり抜けていった。
まあ、もっともではある。
ジュリアに話を聞いたのもよくなかったらしい。彼女は人気者だったんだ。
ジュリアのことは気に入っていたし、それなりに話が聞けて、重要な情報源だったが、彼が知りたい一番肝心な物語の部分を知っているわけではなさそうだった。今の猟師連中も、多分何も知らなさそうだ。
それに全員、ユキヒョウにこだわりすぎる。
彼の家のじゅうたんの一部になんでそんなこだわるんだ。
宿の亭主まで、どこかから聞きつけてきて、ユキヒョウが獲れたら、町が活気づくのでぜひ頑張ってくださいと彼にエールを送る始末だった。
「ユキヒョウが獲れるとなれば、近隣からもこの町に来る者の数が増えます。にぎやかになります。この町は、昔は金が取れて、もっとずっと大きな町だったんですが、ある時、鉱山で事故が起きて、金が取れなくなって、それ以来、すっかりさびれてしまいました」
「へえ。鉱山の町だったのか」
山師が猟師になったわけか。だが、幻のユキヒョウ狙いの猟師なんて、山師と似たようなものだ。
「金が取れるからって、あまりにおごり高ぶりすぎた天罰が下ったと言われています」
「いつの話?」
「百年ほど昔の話ですよ。昔、町はもっと山の方にありました。金は山で採れるのでね」
「昔のレイビックの町は、ここじゃないの?」
「違います。教会もみんな、新しく立て直したんです。神に祟られた地になったので」
「じゃあ、その百年ほど前の教会はどこにあるの?」
フリースラントは身を乗り出した。
亭主は心配そうな顔になった。この前、フリースタントに山奥には行かないようにと、釘を刺したのだったが、どうやら、本人は山奥の危険性を全く認識していないらしい。
「奥地には入ってはいけないと言われています。その古い教会のあたりは、神に呪われた土地だから。フリーさん、絶対、行っちゃだめですよ?」
宿の亭主は親切な男だった。フリースラントもそれは良く分かっていたが、彼はその古い教会に行きたいのだ。
「奥地って、どこら辺が奥地なのかわからないよ」
亭主はためらった。なんだか、興味があるらしいが、呪いがかかると言われているのだ。行ってはいけない。
「正確には知りませんが、ハンターが出入りするより、もっとずっと奥の方だそうです」
「まあ、猟に関係のないところには行かないからね」
フリースラントは関心なさそうなふりをして相槌を打った。
「でも、山は広いからなあ。奥地のどこらへんか危ないのかわからなくて、うっかり足を踏み入れると困るなあ。地図でもあるといいんだけど」
亭主はハンターではない。山になど行ったことがないから、昔の教会の方面に行ってはいけないと言ったものの、どこにその教会があるのか、正確には知らなかった。
「競り市のある会館には、昔の地図が飾ってあります」
そんなわけで、例のひげ面の連中をやり過ごしたフリースラントは、競り市のある会館の壁に飾ってあった、変色した古めかしい地図をひたすらに眺めていた。
最初は、どこがどこだか、さっぱりわからなかった。
街の移転以前の地図なので、現在の建物は何も載っていないことになる。山の地形だけが頼りだ。
「おい、そんなのを見るくらいなら、いい地図を売ってやるぞ?」
先のグループとは違うグループだった。
昨日ゾフと名乗ってきた男だった。彼の家の家令と同じ名前だったので覚えていた。
「昨日、会った……ゾフさんでしたね?」
「そう。よく覚えていてくれたね」
そりゃあ、うちの家令と同じ名前ですから……と言うわけにはいかないので、そこは飲み込んだ。
「地図はどこかで売っているのですか? それとも手作り?」
「地図は売っているが、俺の地図には印が付いている。獲物が獲れる場所と、冬なんか、雪で道がわからなくなるから目印が書いてあるんだ」
「貴重な地図ですね」
ただではあるまい。
「一緒にやらないか? あんたと一緒ならユキヒョウが狙える」
ゾフはさっきの男と違って、もっとずっとソフトな感じがした。上から目線ではなかった。
フリースラントは正直なところを言った。
「僕には、まだ、みんながそんなにユキヒョウにこだわる理由がわからないんです。むろん、高価なものだということはわかっているんですが」
ゾフはちょっと驚いたようだったが、答えた。
「だって、名誉なことなんだ。ユキヒョウハンターは。この世に怖いものなんか何もない」
「クマをやっつける方が、皆さんの役に立ちませんか?」
「そりゃ……クマは退治して減らさないと困ったことになるからな。でも、ユキヒョウはその美しさで心をとらえる。危険を伴うが、ハンターの勇気と技量を証明してくれる」
なるほど。
のんべんだらりと寝ている彼の家のじゅうたんと違って、生きているユキヒョウは手の届かない孤高の獲物なのだ。
「僕は目下のところ、C級ライセンスしかもっていませんし、全くの修行中の身の上です」
ゾフは何か言いかけた。彼もA級ライセンスを持っていると言いたいのだろう。それを手で押しとどめて、フリースラントは続けた。
「もう少し、慣れてからにしたいです」
「みんなと一緒の方が、ずっと早く慣れられるぞ」
それは本当だろう。だが、彼の目的は違うのだ。彼は山に入って古い教会や、昔の町を探したいのだ。
「ご忠告ありがとうございます。まず、地図を買ってきます。それから、どこかのチームに入れてくれるようお願いしたいと思います」
「まあ、あんたほどの腕の持ち主なら、あちこちから声がかかるのは無理はない」
ゾフは、そこのところも理解したようだった。彼は少し諦めたように続けた。
「そうだな。相性があるからな。どこのグループに入るかは、少し付き合ってから決めないといけないだろうな」
みんな、勘違いしている、とフリースラントは思った。
フリースラントが卓越しているのは、山を感じ取る能力だった。優れた視力で地形を測り、風の匂いを嗅ぎ分ける。それは常人にはない能力だった。
でも、彼自身、それを認めるのはイヤだった。
どこかのグループに入って、何か危険が迫ったとしたら、彼の常人ならぬ能力を発揮しないといけないかもしれない。いや、一緒に行動していたら、何事もなくてもばれるに決まっている。
黙っていてくれるとは限らない。
少し悲しくなった。
「一つだけ教えてください」
彼はゾフに言った。
「この古地図の中で、競り市の建物はどこになるのですか?」
「ああ、これは百年前の地図だな。本物は、教会に置いてあるが……ここだ」
彼は隅の方を指した。ということは、もっとずっと、北東の方に、昔の鉱山と町はあるに違いない。
フリースラントはゾフに礼を言った。地図は店で手に入れた。それから、彼は走るように入山許可のゲートを通って、山に入った。
彼が山に入って行くのを見ていた連中もいたが、彼らはもう誰もなにも言わなかった。フリースラントは腕の立つハンターだと、認められつつあったからだ。
まずは教会を探したかった。それから、昔の金鉱。もしかすると、古民家とか何か文書とか残っているかもしれなかった。
だが、百年も昔の話だ。
何も残っていないかもしれなかった。
とにかく行きつきたい。
猟なんか関係なかった。
空気を嗅いだ。なにかが匂う。危険な動物、例えばクマが来たらどうしよう。B級ライセンスをまだ持っていないのだ。
彼は地図にしるしをつけた。今日はここまでにしよう。身の安全のためにはB級ライセンスを早めに取った方がよさそうだ。ユキヒョウを狙えるA級ライセンスには興味はなかったが。ただ、今後、もしも、ユキヒョウに出会ってしまったら、ハンティングできる許可はあった方がいいかもしれなかった。
前回で懲りたので、荷物運搬用のそりを持参してきていた。
帰りがてら、立派な角の鹿と数頭のイノシシ、雌鹿と小鹿を何匹か獲り、山積みにして持って帰った。
競り市は、またもや沈黙した。
そもそも、前回よりはるかに大量である。異様なものを見る目付で人々は彼を見た。
フリースラントは仕方がないから無視した。
目立ちたくないと思っていたが、これ以上ないくらい目立っている。
でも、彼は早めにライセンスを取らないといけないのだ。
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