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フリースラント
第14話 妹の婚約
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「ルシアの?」
「続きをお読みください」
『お相手は国王陛下です』
底冷えのする日、彼の寮の部屋で、フリースラントはゾフと二人だけだった。
フリースラントは、びっくりしてゾフの顔を見た。
「本当なのか?」
ゾフは辛そうだった。
「はい」
「間違いないのか?」
「はい」
「でも、だって、おかしくないか? だって、ルシアの生母はアデリア様だ。異母妹とは言え、伯父姪の間柄ではないか?」
「まことに左様でございます。本来なら、教会からお許しの出ない結婚でございます」
「それに……」
フリースラントは懸命に思い出そうとした。一度だけ宮廷に出仕した時、アデリア王女の後ろには、王妃と王太子、王太子妃が一緒についてきていたはず。
「王妃様はどうされたのだ?」
「お亡くなりに……」
あまりのことに、フリースラントはゾフの顔を見た。
「まさか、殺された……」
「しっ……滅多なことをおっしゃられてはいけません。それはございません。王妃様は長らく御病気で苦しんでおられました。フリースラント様がご覧になられたときも、お苦しそうでございましたろう。あの後、すぐに亡くなられたのでございます」
「そんなことが……」
「王妃様が亡くなられたことは、ご病気が悪かったので、誰も驚きませんでした。でも、まさか、こんなに早く再婚のお相手をお決めになられるとは、誰も想像しておりませんでした」
「それにルシアは、まだ11歳のはずだ。結婚できる齢ではない」
「はい。ですので、ご結婚そのものは、数年後になさるご予定で、今現在はご婚約だけ決められたのでございます」
フリースラントはあきれ返って、ゾフを見つめた。
「ゾフ、ぼくには理由がわからない。ルシアはヴォルダ公爵家の娘だ。国王陛下にとっては臣下の娘だ。ヴォルダ家は確かに裕福だが、陛下にとってメリットになる程ではない。ルシアは美しい娘だが、美貌が理由になるのだろうか?」
「おっしゃる通りです。ほかの貴族の者たちも理由が良く分からないと噂になっております。中にはヴォルダ公爵様が空席になった王妃の座に無理矢理自分の娘を押し付けて、力の保持を狙っているのだなどと言う者もおります」
「父上が? あまり、そんなことはお考えにならないような気がするが……」
「お父上様は、全く賛成されていないのでございます。いえ、これは言ってはならないことでした。王命に逆らうことなど、決してお考えではありませんが、少なくともヴォルダ公爵様からのご提案ではございません」
「それは……国王陛下の強いご意向ということなのか?」
「その通りでございます」
二人は黙った。ゾフが低い声で続きをしゃべった。
「きっと誰にも、本当の理由はわからないでしょう。でも、国王陛下はアデリア様の言いなりです。アデリア様が、自分の娘を王妃の地位に就けようとされたのかもわかりません」
「そうなんだろうか……」
フリースラントは一度だけあったことがあるアデリア王女を思い出した。もう三十代半ばを過ぎてはいたが、豊満な美女だった。そして、忘れられない印象を会う者に残した。わがままと強い意志だ。
次の瞬間、彼ははっとした。
「ルシアはどうなのだ? 喜んでいるのか?」
ゾフは悲しそうな顔になった。
「いいえ」
それはそうだろう……。
国王は自分の父くらいの年のはずだった。それに特に魅力的な男性には見えなかった。
「ルシア様はお嫌がりになっておられます。まだ、ご結婚などと言うことを真剣にお考えになるお歳ではございません。考えるとしても、おとぎ話くらいしかお知りにならないでしょう。それに王宮に戻るのが嫌なのです。今のお住まいと、テンセスト女伯様がお好きなのです」
テンセスト女伯とは、フリースラントの母のことだった。
「あの方のことをお母さまと呼んでおられます。まことに、実の親子のようにむつまじく、奥方様も大層かわいがっておられます」
フリースラントは考え込んだ。
この結婚は不自然で不幸せな気がした。いや、国中で最も高位で最も裕福で権力のある人物に嫁ぐのだから、最も幸せであるべきだった。
アデリア王女よりも権力を持つことになる。だが、そこまで思い至るとさらに奇妙な結婚だった。
「アデリア王女様が賛成されるとは思いにくいが」
「いいえ。実の娘が王妃になれば、もっと権力を振るえるとお考えのようでございます」
そっちか……。
「それで、今日、参りましたのは、ルシア様のご婚約に伴いまして、フリースラント様は自城へ戻るには国王陛下の許可が必要になりまして……」
フリースラントは耳を疑った。もう一度聞き返して、それでもやっぱり意味が分からなかった。
「母上にお目にかかるのに許可がいるのか?」
「違います。城にはルシア様がおられます。母上にお会いになると自動的にルシア様に会うことになりますので」
「兄と妹だぞ?」
「それが……陛下がお気になされまして」
「なんでだ?」
「国王陛下は、最初、結婚が決まったのだから、ルシア様を宮廷に戻そうとされたのでございます。でも、ルシア様が断固反対されまして。宮廷には行きたくないと」
「うむ。なんとなくわかる」
「宮廷に不埒な男どもも多いと、王様ご自身もおっしゃられまして、しばらくはヴォルダの城でもよいだろうと言うことになりました。国王陛下もアデリア様がよき母ではないことはわかっておられます。テンセント女伯が母親らしい立派なお方で、ルシア様を一人前の女性にお育てになるのにふさわしいとよく理解しておられるのですが、兄のあなた様は邪魔だとおっしゃられたのです」
「邪魔……」
「お年頃の男性は、皆、邪魔なのでございましょう」
「兄と妹だぞ?」
フリースラントはもう一度言った。それから思い出して付け加えた。
「伯父と姪ではないか。そんな人物なら、そうも考えるかも知れないが……」
ゾフはため息をついた。
「まあ、いずれにせよ、フリースラント様は学校におられて、城にはおられませんので、問題にならず、帰城の際には許可を取るようにと……」
フリースラントは、人の家庭にツケツケと介入する王に、むかむかしてきた。
「帰るときは父と、特に母に会いに行くのだ。別にルシアに……」
フリースラントは言葉を切った。ルシアのことは気に入っていた。ゾフはしかめつらをしてフリースラントの表情を観察した。
「仲の良いご兄妹に見えます」
「それは……確かに。仲は悪くない。兄妹だから当たり前だ」
深刻な問題に思えたが、しばらくするとまた母から手紙が来た。
『国王陛下からあなたが自由にお城に出入りしてよいと言う許可をもらいました。ですので、次の休暇には帰ってらっしゃい。ルシアが楽しみにしているわ』
休暇で帰ってみると、母はいつも通りにこにこしていた。
「ダンスパーティの時のあなたは、ずいぶん人気だったわねえ」
「母上、見ていらしたのですか?」
「ルシアと一緒にね。ルシアも大興奮でしたわ。もっとも、自分がどれだけもてるか想像して戦う気になってたみたいだけど。あなたに負けないくらい、カードを集めて見せるって言ってたわ」
「母上、あれは戦いではありませんし、貴族同士の結婚には役立っているかもしれませんが、人の心を傷つけるような気がします」
「人の心を傷つけるのは生きていく上では避けられないことだけれど、あのダンスパーティは、人気と家柄があからさまに反映する行事よね。でも、ルシアは出られなくなったのよ。残念がってるわ」
「母上、どうして私が自分の城に帰ってくることは禁止されたのですか? そして、なぜ、こうも簡単に禁止は解かれたのですか?」
母は、ほほほと笑った。
「それはね、国王陛下に陛下とルシアが結婚した後のことも考えてもらったのよ。妹を大事にしてくれる兄は、大切な味方じゃないこと?」
仲のいい兄妹だった。ルシアと毎日遊び、ルシアのせいで森に猟に出かけ、イノシシを獲らされたり、シカを生け捕りにさせられたり、川に落ちたりしながら、毎日楽しく休暇を過ごしていた。
大体、帰りはルシアを背負い、そういう場合、ルシアは彼の背中で寝ていた。
フリースラントは体の大きい、非常な力持ちだったが、ルシアを背負いながら、暴れまわる鹿を引きずって、城までの十キロの道を帰る羽目になった。
グルダは恐れをなしていた。
鹿は五十キロくらいある大型の動物である。死んだイノシシはもっと体重がある。ルシアと合わせると百キロ近くになるはずだ。
平気な顔をして、毎日でも猟に出かけるフリースラントは、怪物にしか見えなかった。
どうやったのか知らないが、カモを数十羽取って帰ったこともある。
矢で射たというのだが、飛ぶ鳥に当てられるのか、それともこっそり網か何かを仕掛けたのか、グルダは聞くのが怖くて聞けなかった。
「フリースラント様、あまりに殺生をされますと、神のお怒りに触れますぞ」
「じゃあ、お前は食うな」
フリースラントは冷たく答えた。夕食はカモ料理だった。
雨の日は、フリースラントが帰って来たのをいいことに、遊びまくって、たまった勉強をしなくてはならなかったが、ルシアは、家庭教師よりフリースラントの方がいいと駄々をこねた。
「甘いよ、ルシア。僕は勉強はきっちり見るからな」
書き取りや算数をルシアがしている間、フリースラントもそばで本を読んでいた。
彼が学校から借りてきた、教会学の本だった。
「兄さま、その本は何?」
フリースラントは、さっと数学の教科書をルシアの前に出した。
ルシアは見たが、途端に興味を失くして、二度と聞かなくなってしまった。
雨の日、ルシアが嫌そうに算数に取り組んでいたり、熱心に物語本を読んでいたりする時、フリースラントは、こっそり妹を見つめた。
くっきりした横顔と、見事な金髪は、まるで作り物のようだった。
あのダンスパーティの夜の、どの令嬢だって、こんなに美しい人はいなかった。
フリースラントは、自分が最も注目された男子生徒だった件は、すっかり忘れて、目の前のルシアが妹だと言うことが自慢で膨れ上がりそうだった。
しかし……そもそも自慢に思うとは、なんなんだ。
人様のものを自慢に思ってどうする気だ、自分のものではないんだぞ? 結婚て意味、知ってる?
よく考えろ、フリースラント……という注意をする人物は、誰もおらず、少しばかり経験と年齢の足りない兄妹は、仲良く休暇を過ごしていた。
「続きをお読みください」
『お相手は国王陛下です』
底冷えのする日、彼の寮の部屋で、フリースラントはゾフと二人だけだった。
フリースラントは、びっくりしてゾフの顔を見た。
「本当なのか?」
ゾフは辛そうだった。
「はい」
「間違いないのか?」
「はい」
「でも、だって、おかしくないか? だって、ルシアの生母はアデリア様だ。異母妹とは言え、伯父姪の間柄ではないか?」
「まことに左様でございます。本来なら、教会からお許しの出ない結婚でございます」
「それに……」
フリースラントは懸命に思い出そうとした。一度だけ宮廷に出仕した時、アデリア王女の後ろには、王妃と王太子、王太子妃が一緒についてきていたはず。
「王妃様はどうされたのだ?」
「お亡くなりに……」
あまりのことに、フリースラントはゾフの顔を見た。
「まさか、殺された……」
「しっ……滅多なことをおっしゃられてはいけません。それはございません。王妃様は長らく御病気で苦しんでおられました。フリースラント様がご覧になられたときも、お苦しそうでございましたろう。あの後、すぐに亡くなられたのでございます」
「そんなことが……」
「王妃様が亡くなられたことは、ご病気が悪かったので、誰も驚きませんでした。でも、まさか、こんなに早く再婚のお相手をお決めになられるとは、誰も想像しておりませんでした」
「それにルシアは、まだ11歳のはずだ。結婚できる齢ではない」
「はい。ですので、ご結婚そのものは、数年後になさるご予定で、今現在はご婚約だけ決められたのでございます」
フリースラントはあきれ返って、ゾフを見つめた。
「ゾフ、ぼくには理由がわからない。ルシアはヴォルダ公爵家の娘だ。国王陛下にとっては臣下の娘だ。ヴォルダ家は確かに裕福だが、陛下にとってメリットになる程ではない。ルシアは美しい娘だが、美貌が理由になるのだろうか?」
「おっしゃる通りです。ほかの貴族の者たちも理由が良く分からないと噂になっております。中にはヴォルダ公爵様が空席になった王妃の座に無理矢理自分の娘を押し付けて、力の保持を狙っているのだなどと言う者もおります」
「父上が? あまり、そんなことはお考えにならないような気がするが……」
「お父上様は、全く賛成されていないのでございます。いえ、これは言ってはならないことでした。王命に逆らうことなど、決してお考えではありませんが、少なくともヴォルダ公爵様からのご提案ではございません」
「それは……国王陛下の強いご意向ということなのか?」
「その通りでございます」
二人は黙った。ゾフが低い声で続きをしゃべった。
「きっと誰にも、本当の理由はわからないでしょう。でも、国王陛下はアデリア様の言いなりです。アデリア様が、自分の娘を王妃の地位に就けようとされたのかもわかりません」
「そうなんだろうか……」
フリースラントは一度だけあったことがあるアデリア王女を思い出した。もう三十代半ばを過ぎてはいたが、豊満な美女だった。そして、忘れられない印象を会う者に残した。わがままと強い意志だ。
次の瞬間、彼ははっとした。
「ルシアはどうなのだ? 喜んでいるのか?」
ゾフは悲しそうな顔になった。
「いいえ」
それはそうだろう……。
国王は自分の父くらいの年のはずだった。それに特に魅力的な男性には見えなかった。
「ルシア様はお嫌がりになっておられます。まだ、ご結婚などと言うことを真剣にお考えになるお歳ではございません。考えるとしても、おとぎ話くらいしかお知りにならないでしょう。それに王宮に戻るのが嫌なのです。今のお住まいと、テンセスト女伯様がお好きなのです」
テンセスト女伯とは、フリースラントの母のことだった。
「あの方のことをお母さまと呼んでおられます。まことに、実の親子のようにむつまじく、奥方様も大層かわいがっておられます」
フリースラントは考え込んだ。
この結婚は不自然で不幸せな気がした。いや、国中で最も高位で最も裕福で権力のある人物に嫁ぐのだから、最も幸せであるべきだった。
アデリア王女よりも権力を持つことになる。だが、そこまで思い至るとさらに奇妙な結婚だった。
「アデリア王女様が賛成されるとは思いにくいが」
「いいえ。実の娘が王妃になれば、もっと権力を振るえるとお考えのようでございます」
そっちか……。
「それで、今日、参りましたのは、ルシア様のご婚約に伴いまして、フリースラント様は自城へ戻るには国王陛下の許可が必要になりまして……」
フリースラントは耳を疑った。もう一度聞き返して、それでもやっぱり意味が分からなかった。
「母上にお目にかかるのに許可がいるのか?」
「違います。城にはルシア様がおられます。母上にお会いになると自動的にルシア様に会うことになりますので」
「兄と妹だぞ?」
「それが……陛下がお気になされまして」
「なんでだ?」
「国王陛下は、最初、結婚が決まったのだから、ルシア様を宮廷に戻そうとされたのでございます。でも、ルシア様が断固反対されまして。宮廷には行きたくないと」
「うむ。なんとなくわかる」
「宮廷に不埒な男どもも多いと、王様ご自身もおっしゃられまして、しばらくはヴォルダの城でもよいだろうと言うことになりました。国王陛下もアデリア様がよき母ではないことはわかっておられます。テンセント女伯が母親らしい立派なお方で、ルシア様を一人前の女性にお育てになるのにふさわしいとよく理解しておられるのですが、兄のあなた様は邪魔だとおっしゃられたのです」
「邪魔……」
「お年頃の男性は、皆、邪魔なのでございましょう」
「兄と妹だぞ?」
フリースラントはもう一度言った。それから思い出して付け加えた。
「伯父と姪ではないか。そんな人物なら、そうも考えるかも知れないが……」
ゾフはため息をついた。
「まあ、いずれにせよ、フリースラント様は学校におられて、城にはおられませんので、問題にならず、帰城の際には許可を取るようにと……」
フリースラントは、人の家庭にツケツケと介入する王に、むかむかしてきた。
「帰るときは父と、特に母に会いに行くのだ。別にルシアに……」
フリースラントは言葉を切った。ルシアのことは気に入っていた。ゾフはしかめつらをしてフリースラントの表情を観察した。
「仲の良いご兄妹に見えます」
「それは……確かに。仲は悪くない。兄妹だから当たり前だ」
深刻な問題に思えたが、しばらくするとまた母から手紙が来た。
『国王陛下からあなたが自由にお城に出入りしてよいと言う許可をもらいました。ですので、次の休暇には帰ってらっしゃい。ルシアが楽しみにしているわ』
休暇で帰ってみると、母はいつも通りにこにこしていた。
「ダンスパーティの時のあなたは、ずいぶん人気だったわねえ」
「母上、見ていらしたのですか?」
「ルシアと一緒にね。ルシアも大興奮でしたわ。もっとも、自分がどれだけもてるか想像して戦う気になってたみたいだけど。あなたに負けないくらい、カードを集めて見せるって言ってたわ」
「母上、あれは戦いではありませんし、貴族同士の結婚には役立っているかもしれませんが、人の心を傷つけるような気がします」
「人の心を傷つけるのは生きていく上では避けられないことだけれど、あのダンスパーティは、人気と家柄があからさまに反映する行事よね。でも、ルシアは出られなくなったのよ。残念がってるわ」
「母上、どうして私が自分の城に帰ってくることは禁止されたのですか? そして、なぜ、こうも簡単に禁止は解かれたのですか?」
母は、ほほほと笑った。
「それはね、国王陛下に陛下とルシアが結婚した後のことも考えてもらったのよ。妹を大事にしてくれる兄は、大切な味方じゃないこと?」
仲のいい兄妹だった。ルシアと毎日遊び、ルシアのせいで森に猟に出かけ、イノシシを獲らされたり、シカを生け捕りにさせられたり、川に落ちたりしながら、毎日楽しく休暇を過ごしていた。
大体、帰りはルシアを背負い、そういう場合、ルシアは彼の背中で寝ていた。
フリースラントは体の大きい、非常な力持ちだったが、ルシアを背負いながら、暴れまわる鹿を引きずって、城までの十キロの道を帰る羽目になった。
グルダは恐れをなしていた。
鹿は五十キロくらいある大型の動物である。死んだイノシシはもっと体重がある。ルシアと合わせると百キロ近くになるはずだ。
平気な顔をして、毎日でも猟に出かけるフリースラントは、怪物にしか見えなかった。
どうやったのか知らないが、カモを数十羽取って帰ったこともある。
矢で射たというのだが、飛ぶ鳥に当てられるのか、それともこっそり網か何かを仕掛けたのか、グルダは聞くのが怖くて聞けなかった。
「フリースラント様、あまりに殺生をされますと、神のお怒りに触れますぞ」
「じゃあ、お前は食うな」
フリースラントは冷たく答えた。夕食はカモ料理だった。
雨の日は、フリースラントが帰って来たのをいいことに、遊びまくって、たまった勉強をしなくてはならなかったが、ルシアは、家庭教師よりフリースラントの方がいいと駄々をこねた。
「甘いよ、ルシア。僕は勉強はきっちり見るからな」
書き取りや算数をルシアがしている間、フリースラントもそばで本を読んでいた。
彼が学校から借りてきた、教会学の本だった。
「兄さま、その本は何?」
フリースラントは、さっと数学の教科書をルシアの前に出した。
ルシアは見たが、途端に興味を失くして、二度と聞かなくなってしまった。
雨の日、ルシアが嫌そうに算数に取り組んでいたり、熱心に物語本を読んでいたりする時、フリースラントは、こっそり妹を見つめた。
くっきりした横顔と、見事な金髪は、まるで作り物のようだった。
あのダンスパーティの夜の、どの令嬢だって、こんなに美しい人はいなかった。
フリースラントは、自分が最も注目された男子生徒だった件は、すっかり忘れて、目の前のルシアが妹だと言うことが自慢で膨れ上がりそうだった。
しかし……そもそも自慢に思うとは、なんなんだ。
人様のものを自慢に思ってどうする気だ、自分のものではないんだぞ? 結婚て意味、知ってる?
よく考えろ、フリースラント……という注意をする人物は、誰もおらず、少しばかり経験と年齢の足りない兄妹は、仲良く休暇を過ごしていた。
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