34 / 86
第34話 撤収作業 終わる
しおりを挟む
「シン!」
私は、大声で叫んだ。
シンはあわてて振り返った。
「マフィ少尉をすぐに病院に搬送しろ。」
「なんだと、ノルライド」
「少尉、どこまでがんばれば気が済むんです。あなたは限界だ。早く病院に行かなければ。」
「ふざけるな、これしきの傷で、ごちゃごちゃ言われる筋合いはない。」
「ナオハラ、手伝え。二人で連れて行け。今すぐだ。重傷だ。シン、わかっているのに、なぜ、ほっておいた?」
「少尉、シンと私は、好きで放っておいたわけではありません。3人がかりでないと、ここの防衛ラインが保てなくて、それで……」
ナオハラがシンをかばって、顔色を変えて言い始めた。
「ナオハラ、シン、わかっている。ご苦労だった。ここは私が一人で守れる。だが、すぐ戻って来い。じきに日が暮れる。ライフルが役に立たなくなる。そのときは、私一人では守れない。早く連れて行け。そして、早く帰ってきてくれ。」
「わかりました、少尉」
シンが言った。彼は彼の上司の肩を抱えていた。
「ノルライド、貴様は……」
「マフィ少尉、あなたは、まぎれもなく勇敢な方だ。任務に忠実な方だ。だが、今は、病院に行かなくてはならない。その出血をみなさい。化膿したら、命にかかわる。ナオハラ、すぐに行け」
私は、ナオハラとシンが、ふたりがかりでマフィ少尉を連れて行く様子をちょっとの間見ていたが、すぐにライフルで続きを始めた。ライフル弾は一発ですむが、微弱に調整したレーザーは照射の時間を長くかけないと気絶してくれない。明るいうちに(といってもかなり暗いのだが)、ライフルで届く範囲のグラクイは退治しておかねばならない。
マフィ少尉ではないが、殺すのはタブーだから、重々気をつけなければならない。
護衛が一人に減ったことで、作業員のほうはかなり不安そうだったが、順調にグラクイが減っていく様を見て、少し安心したようだった。私は、また、同じことを叫んだ。
「一人でもグラクイを見かけたら、教えてくれ。すぐに撃ち取る。昼間の間は、グラクイを決して近づけない」
その後、すぐにギルが移動してきた。
「少尉、どうです?」
「大丈夫だ。ほとんど追い散らした」
ギルは周りを見回して
「ナオハラとシンは?」
「マフィ少尉を病院に連れて行かせた」
「えっ? マフィ少尉は重傷なんですか?」
「うん。脳みそと腹がな」
「え? 頭もやられたんですか?」
「元々、あいつは頭がどうかしてるよ。自分の部隊を荒らすなと怒鳴られたよ。ライフル馬鹿とも言われた。しかも、病院に行かないとダダをこねていた」
「どうしたんですか?」
「腹を撃たれてて、かなりの時間が立っていたらしい。
火傷なのに、血が出てきていた。あのままだとまずい。すぐに病院に行かないと大変なことになる……と思う。
行けと言ったのに、私の言うことは聞かないんだ。
元々、生意気だと思われているからね。シンだけじゃダメなので、ナオハラにも命令して、二人で無理やり連れて行かせた。
帰ってくるのが遅いところを見ると基地でも暴れているな。きっと私の悪口を言っているんだ」
このセリフに、ギルが思わず微笑んだ。彼は、私とマフィ少尉の仲が悪いことを知っているのだ。
「あの人は頑固ですからね」
「君が来てくれて助かったよ。もう、ライフルがそろそろだめだと思うんだ。
ここの責任者を探してきて、あとどれくらい時間がかかるか聞いてみてくれないか?」
ギルは、作業部隊に走りこんで行った。そして、やせて色の黒い、まだ若い男を連れてきた。
「ここの代表で、ロペスといっています」
色が黒いほかはどう見てもスペイン系には見えなかったが、ロペスは少なくともあと三時間はかかると主張した。
「ということは、七時にはなりますね。」
「日没は、五時半ごろだろう。その後が心配だな。」
「人数を集めないと、ヤバイですよ。」
ジェレミーに聞くと、やはりマフィ少尉は基地でも相当てこずらせたらしかった。
「病院は、今、手一杯で、看護師や医者を呼びつけるわけには行かないから、病院に行かせなくちゃならなかったんだが、本人が行かなくていい、大丈夫だって言うんだ。
あんな傷でどこが大丈夫なものか。
マフィは気違いだよ。
仕方ないから、あの二人に病院まで送り届けさせたんだ。
すまない。すぐに護衛の仕事に戻すから。
なにしろ手が足りない上に、マフィは体重があるもんでね。麻酔銃でも打ち込みたいくらいだよ。せめて黙っててくれたらいいんだが」
(何を叫んでいたのだろう、ひょっとして私の悪口だろうか。)
シルバーは、ほとんど撤収作業が終わりかけているようだった。
「時間のほうはわからないが、おそらく日没までには片がつくだろうといっている。片がつき次第、ゼミーほか三名をそちらへ回す。ただ、護衛の撤収は一番最終だから、たぶんかなり遅くなるだろう。」
「夜は危険だ。だんだんグラクイが凶暴性を増してきている上に、今日は、特に、他の部隊の分が全部ここへやってくる可能性がある。夜間はレーザーでしか対応できないから、人数がいないと危険だ。」
ギルと私はライフルとレーザーを並べて、GPSとにらめっこをしていた。
二人ともほとんど口を利かず、たまにどちらかが立ち上がってグラクイを撃った。まだライフルが有効だった。
だんだん日が落ちてきた。作業は、もう少し時間がかかるようだ。ようやくシンとナオハラが帰ってきた。
私は、大声で叫んだ。
シンはあわてて振り返った。
「マフィ少尉をすぐに病院に搬送しろ。」
「なんだと、ノルライド」
「少尉、どこまでがんばれば気が済むんです。あなたは限界だ。早く病院に行かなければ。」
「ふざけるな、これしきの傷で、ごちゃごちゃ言われる筋合いはない。」
「ナオハラ、手伝え。二人で連れて行け。今すぐだ。重傷だ。シン、わかっているのに、なぜ、ほっておいた?」
「少尉、シンと私は、好きで放っておいたわけではありません。3人がかりでないと、ここの防衛ラインが保てなくて、それで……」
ナオハラがシンをかばって、顔色を変えて言い始めた。
「ナオハラ、シン、わかっている。ご苦労だった。ここは私が一人で守れる。だが、すぐ戻って来い。じきに日が暮れる。ライフルが役に立たなくなる。そのときは、私一人では守れない。早く連れて行け。そして、早く帰ってきてくれ。」
「わかりました、少尉」
シンが言った。彼は彼の上司の肩を抱えていた。
「ノルライド、貴様は……」
「マフィ少尉、あなたは、まぎれもなく勇敢な方だ。任務に忠実な方だ。だが、今は、病院に行かなくてはならない。その出血をみなさい。化膿したら、命にかかわる。ナオハラ、すぐに行け」
私は、ナオハラとシンが、ふたりがかりでマフィ少尉を連れて行く様子をちょっとの間見ていたが、すぐにライフルで続きを始めた。ライフル弾は一発ですむが、微弱に調整したレーザーは照射の時間を長くかけないと気絶してくれない。明るいうちに(といってもかなり暗いのだが)、ライフルで届く範囲のグラクイは退治しておかねばならない。
マフィ少尉ではないが、殺すのはタブーだから、重々気をつけなければならない。
護衛が一人に減ったことで、作業員のほうはかなり不安そうだったが、順調にグラクイが減っていく様を見て、少し安心したようだった。私は、また、同じことを叫んだ。
「一人でもグラクイを見かけたら、教えてくれ。すぐに撃ち取る。昼間の間は、グラクイを決して近づけない」
その後、すぐにギルが移動してきた。
「少尉、どうです?」
「大丈夫だ。ほとんど追い散らした」
ギルは周りを見回して
「ナオハラとシンは?」
「マフィ少尉を病院に連れて行かせた」
「えっ? マフィ少尉は重傷なんですか?」
「うん。脳みそと腹がな」
「え? 頭もやられたんですか?」
「元々、あいつは頭がどうかしてるよ。自分の部隊を荒らすなと怒鳴られたよ。ライフル馬鹿とも言われた。しかも、病院に行かないとダダをこねていた」
「どうしたんですか?」
「腹を撃たれてて、かなりの時間が立っていたらしい。
火傷なのに、血が出てきていた。あのままだとまずい。すぐに病院に行かないと大変なことになる……と思う。
行けと言ったのに、私の言うことは聞かないんだ。
元々、生意気だと思われているからね。シンだけじゃダメなので、ナオハラにも命令して、二人で無理やり連れて行かせた。
帰ってくるのが遅いところを見ると基地でも暴れているな。きっと私の悪口を言っているんだ」
このセリフに、ギルが思わず微笑んだ。彼は、私とマフィ少尉の仲が悪いことを知っているのだ。
「あの人は頑固ですからね」
「君が来てくれて助かったよ。もう、ライフルがそろそろだめだと思うんだ。
ここの責任者を探してきて、あとどれくらい時間がかかるか聞いてみてくれないか?」
ギルは、作業部隊に走りこんで行った。そして、やせて色の黒い、まだ若い男を連れてきた。
「ここの代表で、ロペスといっています」
色が黒いほかはどう見てもスペイン系には見えなかったが、ロペスは少なくともあと三時間はかかると主張した。
「ということは、七時にはなりますね。」
「日没は、五時半ごろだろう。その後が心配だな。」
「人数を集めないと、ヤバイですよ。」
ジェレミーに聞くと、やはりマフィ少尉は基地でも相当てこずらせたらしかった。
「病院は、今、手一杯で、看護師や医者を呼びつけるわけには行かないから、病院に行かせなくちゃならなかったんだが、本人が行かなくていい、大丈夫だって言うんだ。
あんな傷でどこが大丈夫なものか。
マフィは気違いだよ。
仕方ないから、あの二人に病院まで送り届けさせたんだ。
すまない。すぐに護衛の仕事に戻すから。
なにしろ手が足りない上に、マフィは体重があるもんでね。麻酔銃でも打ち込みたいくらいだよ。せめて黙っててくれたらいいんだが」
(何を叫んでいたのだろう、ひょっとして私の悪口だろうか。)
シルバーは、ほとんど撤収作業が終わりかけているようだった。
「時間のほうはわからないが、おそらく日没までには片がつくだろうといっている。片がつき次第、ゼミーほか三名をそちらへ回す。ただ、護衛の撤収は一番最終だから、たぶんかなり遅くなるだろう。」
「夜は危険だ。だんだんグラクイが凶暴性を増してきている上に、今日は、特に、他の部隊の分が全部ここへやってくる可能性がある。夜間はレーザーでしか対応できないから、人数がいないと危険だ。」
ギルと私はライフルとレーザーを並べて、GPSとにらめっこをしていた。
二人ともほとんど口を利かず、たまにどちらかが立ち上がってグラクイを撃った。まだライフルが有効だった。
だんだん日が落ちてきた。作業は、もう少し時間がかかるようだ。ようやくシンとナオハラが帰ってきた。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる