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第20話 ハイ、出発(説明してよ)

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 射撃場に着いたときは、まだ一時間たっていなかったのに、すでにバルク少佐は待ち構えていた。

「コースは申し込んでおいた。銃は直接持っていかせた。行こう」

 銃をレッドに運ばせたので、文句を言われるかと思ったが、全くの無視だった。今度は何を練習させる気なんだろう。

 おかしなことに射撃場には誰もいなかった。助かった。見物がいると気が散る。
 バルク少佐は気難しい気分に違いなかった。へまをすると怒鳴られそうだった。

 着くと早速、銃の調子を試してみた。まず、七百メートル。

 やはり全然違う。抜群の安定性。黒光りするバレルが頼もしい。

 命中音が五回づつ、きもちよく鳴り響き続けた。ちょっといい気になりかけた。

 どんなもんだい。明るくさえあれば、そしてこの銃と一緒なら、外しっこない。
 ちらりと少佐の顔を見た。どんな表情も浮かべていない。

「よし、千メートル」

 有効射程ぎりぎりなんですが。
 ちょっと首をかしげた。
 しかたない。外す気はしないが、風の具合で外すかもしれなかった。

 簡単に狙って、撃つ。

「OK」

 少佐の声と命中音が同時だった。彼はモニターを見ていたのだ。
 同様に五発続けて撃って、最後の一発だけ外した。
 怒られるかと思ったが、同じく表情が無かった。

「ノルライド、実戦だとどうなる?」

「光の量によります。七百メートルくらいなら、これくらいの光があれば、多分、まず大丈夫でしょう。好天を選べば、百パーセントとは言いませんが、確率は高い」

「一発必中だが、最悪二発あれば当てられるということだな」

「たとえ相手が動いても、狙いをつける時間は短いから、死角に入らない限り、大丈夫でしょう」

「いまのも、全部標的は変えているからな」

「はい。全部、狙いを付け直してから撃っています」

「千メートルはどうだ」

「野外だと、おそらく半分以下に落ちるでしょう。ライトを消してトライしてみればわかります」

 少佐は、電話機で受付の女性に何事か交渉した。ライトだけ消すことが可能なのかどうかわからなかったが、五分ほど待っていると、ライトだけが消えた。すごい。さすが少佐だ。あのおばさんが言うことを聞いている。

 結果、七百メートルだと、十発撃って惜しいところで一発外してしまった。かすめてはいるのだが、多分あれでは死なない。
 千メートルは、十発撃って、もうほとんど勘状態になってしまい五発外した。

「どうだ」

「七百メートルなら、おそらくですが、当てられるでしょう。千メートルは、ご覧のとおり半々です」

「理由は?」

「明るさです。光が少なすぎる。光学スコープの限界です。私の腕の問題ではありません。おそらく、もう少し確率的にはあがるでしょう。今は、ライトをオフしてから時間がたっていないので、目が慣れていません」

「よし、よくわかった。君はこのまま帰りたまえ。自宅待機だ。外へ出るな」

 ちょっとあっけにとられたが、少佐の顔は何の表情も浮かべていなかった。一礼するとそのままその場を出た。

 おかしなことに気づいた。

 誰も見物が出なかったのだ。

 確かに入ったときから誰もいなかった。でも、午後のこの時間帯なら見物が必ずうようよしているはずだった。

 見物どころではない、競技者もいなかった。本当に私と少佐以外、人っ子一人いなかったのだ。私は首をかしげながら自室へ帰った。


 部屋に帰ると、またもや着替えた。

 夕飯を食べに行くわけにも行かなかった。自宅待機といわれているのだ。仕方ないから寝ていた。
 そして、今度はジェレミーから連絡が入って、自宅待機は解除されたということだった。

「なあ、作戦に出たらダメって言うのはまだ続いているのかな」

「そっちはダメだ。まぁしばらく休暇だと思っておいてくれよ」

「君は何か知っているのか、ジェレミー」

「知っている。でも、今は話せない」

「わかった。聞かないよ。GPSは持ち歩く」

「そうしてくれ」



 そして、その翌日、ジェレミーから招集がかかった。

「ノッチ、フル装備ですぐ基地に来てくれ。出動だ」

 あわてて着くと、バルク少佐がオーツ中佐と一緒に待ち構えていた。このふたりと私、ジェレミーとマイカ以外、不思議なことに、基地には誰もいなかった。

「ノルライド少尉、スナイパーデビューだ。すぐ向かってくれ。幸運を祈る」

 真面目くさった顔つきで、オーツ中佐が言った。ジェレミーも頷いた。

 なにがなんだか、わからない。マイカが一週間分の装備を渡してくれた。

「マイカ、これ、鶏のササミとか、野菜の煮込みとか、豆だけとか、魚のにこごりとか……」

 小さな声でマイカに聞いてみた。しかし、返事を聞けないうちに少佐が割り込んだ。

「さあ、行くぞ、ノルライド。銃はこれでいいか?」

 こればっかりは自分で確認した。

「OKです。少佐」

「弾薬も大丈夫だな? じゃ、ジェレミー頼むぞ」

 オーツ中佐が勝手に私のGPSを取り上げて、セットした。

「行って何をするんですか?」

「行けばわかる。説明する」

 少佐が手短に言った。

 同じく装備をもうワンセット、マイカが少佐に渡していた。

「少佐も一緒ですか?」

 驚いて私は聞いた。

「そうだ。私が君の荷物持ちだ。前にそう言ったろう。ジェレミー、行くぞ」

 先に少佐がGPSを確認、移動した。

 ジェレミーがうなずく。

 しかたない。私もすぐ後を追った。


 ドスンと衝撃がして、衝撃を和らげるために地面の上で一回転した。周りを見渡すと、少佐が立って、GPSを確認していた。

 体勢を立て直して、私も急いでGPSを見た。何もいない。やつらもいない。

 地形を見ると、非常に見晴らしのいい場所だった。
 だが、ここは、戦闘が行われている場所とは全然違う場所だった。

 一体、こんなところに何があるって言うんだろう。

「ノルライド、先に、ベースを決めよう」

 少佐が言った。そして、ここしばらく一週間をめどにこのあたりにキャンプするといった。

「そして、説明しておこう」

 それこそ、待っていた言葉だった。私はまじめに少佐を見つめた。

 

「ノルライド、君は、グラクイをよく知っているよね」

「はい」

「やつらは、本来おとなしい野生動物だった。ほかのどんな野生動物とも同じで、我々を攻撃してくるなんてことは、考えられない動物だった」

 私は首をかしげた。

「少なくとも卵に関する限り、彼らは凶暴です」

「軍に来てまだ二年か三年しかたたない君は知らないだろうが、グラクイがおかしくなり始めたのは、ここ二、三年くらいのことなんだ。そう、ちょうど君が入隊してきた頃からだ」

 私は過去のグラクイを知らない。少佐の話に耳を傾けた。

「君が入隊してくる前までは、グラクイは本当に人前に出てこなかった。見つけるのが大変だった。
 我々は、今までグラクイ相手にいろいろな罠を仕掛けてきた。彼らを引っ張り出すためにね。
 やつらの死体をおとりとして出してみたこともある。その体の中には、卵が残っていたはずなのに、彼らは一度として興味を示したことがなかった。
 それが、今はどんな犠牲もいとわず回収している。
 野生動物たちが仲間の死体を回収するだなんて聞いたことがあるかね。病気で死んだのかもわからない。そんなものを巣に持ち帰ったら、仲間に伝染するかもしれない。
 おかしいと思わないか? その理由が問題なんだ」

「理由があるんですか?」

「そう。あるんだ。やっとわかり始めた。あそこに……」

 と、彼は、遠くの小高い丘の上を指した。

「原因がある。あそこに住んでいるのは、人間なんだ。ジャニス・ガーランという一人の変わり者の男だ。我々の標的だ」
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