20 / 86
第20話 ハイ、出発(説明してよ)
しおりを挟む
射撃場に着いたときは、まだ一時間たっていなかったのに、すでにバルク少佐は待ち構えていた。
「コースは申し込んでおいた。銃は直接持っていかせた。行こう」
銃をレッドに運ばせたので、文句を言われるかと思ったが、全くの無視だった。今度は何を練習させる気なんだろう。
おかしなことに射撃場には誰もいなかった。助かった。見物がいると気が散る。
バルク少佐は気難しい気分に違いなかった。へまをすると怒鳴られそうだった。
着くと早速、銃の調子を試してみた。まず、七百メートル。
やはり全然違う。抜群の安定性。黒光りするバレルが頼もしい。
命中音が五回づつ、きもちよく鳴り響き続けた。ちょっといい気になりかけた。
どんなもんだい。明るくさえあれば、そしてこの銃と一緒なら、外しっこない。
ちらりと少佐の顔を見た。どんな表情も浮かべていない。
「よし、千メートル」
有効射程ぎりぎりなんですが。
ちょっと首をかしげた。
しかたない。外す気はしないが、風の具合で外すかもしれなかった。
簡単に狙って、撃つ。
「OK」
少佐の声と命中音が同時だった。彼はモニターを見ていたのだ。
同様に五発続けて撃って、最後の一発だけ外した。
怒られるかと思ったが、同じく表情が無かった。
「ノルライド、実戦だとどうなる?」
「光の量によります。七百メートルくらいなら、これくらいの光があれば、多分、まず大丈夫でしょう。好天を選べば、百パーセントとは言いませんが、確率は高い」
「一発必中だが、最悪二発あれば当てられるということだな」
「たとえ相手が動いても、狙いをつける時間は短いから、死角に入らない限り、大丈夫でしょう」
「いまのも、全部標的は変えているからな」
「はい。全部、狙いを付け直してから撃っています」
「千メートルはどうだ」
「野外だと、おそらく半分以下に落ちるでしょう。ライトを消してトライしてみればわかります」
少佐は、電話機で受付の女性に何事か交渉した。ライトだけ消すことが可能なのかどうかわからなかったが、五分ほど待っていると、ライトだけが消えた。すごい。さすが少佐だ。あのおばさんが言うことを聞いている。
結果、七百メートルだと、十発撃って惜しいところで一発外してしまった。かすめてはいるのだが、多分あれでは死なない。
千メートルは、十発撃って、もうほとんど勘状態になってしまい五発外した。
「どうだ」
「七百メートルなら、おそらくですが、当てられるでしょう。千メートルは、ご覧のとおり半々です」
「理由は?」
「明るさです。光が少なすぎる。光学スコープの限界です。私の腕の問題ではありません。おそらく、もう少し確率的にはあがるでしょう。今は、ライトをオフしてから時間がたっていないので、目が慣れていません」
「よし、よくわかった。君はこのまま帰りたまえ。自宅待機だ。外へ出るな」
ちょっとあっけにとられたが、少佐の顔は何の表情も浮かべていなかった。一礼するとそのままその場を出た。
おかしなことに気づいた。
誰も見物が出なかったのだ。
確かに入ったときから誰もいなかった。でも、午後のこの時間帯なら見物が必ずうようよしているはずだった。
見物どころではない、競技者もいなかった。本当に私と少佐以外、人っ子一人いなかったのだ。私は首をかしげながら自室へ帰った。
部屋に帰ると、またもや着替えた。
夕飯を食べに行くわけにも行かなかった。自宅待機といわれているのだ。仕方ないから寝ていた。
そして、今度はジェレミーから連絡が入って、自宅待機は解除されたということだった。
「なあ、作戦に出たらダメって言うのはまだ続いているのかな」
「そっちはダメだ。まぁしばらく休暇だと思っておいてくれよ」
「君は何か知っているのか、ジェレミー」
「知っている。でも、今は話せない」
「わかった。聞かないよ。GPSは持ち歩く」
「そうしてくれ」
そして、その翌日、ジェレミーから招集がかかった。
「ノッチ、フル装備ですぐ基地に来てくれ。出動だ」
あわてて着くと、バルク少佐がオーツ中佐と一緒に待ち構えていた。このふたりと私、ジェレミーとマイカ以外、不思議なことに、基地には誰もいなかった。
「ノルライド少尉、スナイパーデビューだ。すぐ向かってくれ。幸運を祈る」
真面目くさった顔つきで、オーツ中佐が言った。ジェレミーも頷いた。
なにがなんだか、わからない。マイカが一週間分の装備を渡してくれた。
「マイカ、これ、鶏のササミとか、野菜の煮込みとか、豆だけとか、魚のにこごりとか……」
小さな声でマイカに聞いてみた。しかし、返事を聞けないうちに少佐が割り込んだ。
「さあ、行くぞ、ノルライド。銃はこれでいいか?」
こればっかりは自分で確認した。
「OKです。少佐」
「弾薬も大丈夫だな? じゃ、ジェレミー頼むぞ」
オーツ中佐が勝手に私のGPSを取り上げて、セットした。
「行って何をするんですか?」
「行けばわかる。説明する」
少佐が手短に言った。
同じく装備をもうワンセット、マイカが少佐に渡していた。
「少佐も一緒ですか?」
驚いて私は聞いた。
「そうだ。私が君の荷物持ちだ。前にそう言ったろう。ジェレミー、行くぞ」
先に少佐がGPSを確認、移動した。
ジェレミーがうなずく。
しかたない。私もすぐ後を追った。
ドスンと衝撃がして、衝撃を和らげるために地面の上で一回転した。周りを見渡すと、少佐が立って、GPSを確認していた。
体勢を立て直して、私も急いでGPSを見た。何もいない。やつらもいない。
地形を見ると、非常に見晴らしのいい場所だった。
だが、ここは、戦闘が行われている場所とは全然違う場所だった。
一体、こんなところに何があるって言うんだろう。
「ノルライド、先に、ベースを決めよう」
少佐が言った。そして、ここしばらく一週間をめどにこのあたりにキャンプするといった。
「そして、説明しておこう」
それこそ、待っていた言葉だった。私はまじめに少佐を見つめた。
「ノルライド、君は、グラクイをよく知っているよね」
「はい」
「やつらは、本来おとなしい野生動物だった。ほかのどんな野生動物とも同じで、我々を攻撃してくるなんてことは、考えられない動物だった」
私は首をかしげた。
「少なくとも卵に関する限り、彼らは凶暴です」
「軍に来てまだ二年か三年しかたたない君は知らないだろうが、グラクイがおかしくなり始めたのは、ここ二、三年くらいのことなんだ。そう、ちょうど君が入隊してきた頃からだ」
私は過去のグラクイを知らない。少佐の話に耳を傾けた。
「君が入隊してくる前までは、グラクイは本当に人前に出てこなかった。見つけるのが大変だった。
我々は、今までグラクイ相手にいろいろな罠を仕掛けてきた。彼らを引っ張り出すためにね。
やつらの死体をおとりとして出してみたこともある。その体の中には、卵が残っていたはずなのに、彼らは一度として興味を示したことがなかった。
それが、今はどんな犠牲もいとわず回収している。
野生動物たちが仲間の死体を回収するだなんて聞いたことがあるかね。病気で死んだのかもわからない。そんなものを巣に持ち帰ったら、仲間に伝染するかもしれない。
おかしいと思わないか? その理由が問題なんだ」
「理由があるんですか?」
「そう。あるんだ。やっとわかり始めた。あそこに……」
と、彼は、遠くの小高い丘の上を指した。
「原因がある。あそこに住んでいるのは、人間なんだ。ジャニス・ガーランという一人の変わり者の男だ。我々の標的だ」
「コースは申し込んでおいた。銃は直接持っていかせた。行こう」
銃をレッドに運ばせたので、文句を言われるかと思ったが、全くの無視だった。今度は何を練習させる気なんだろう。
おかしなことに射撃場には誰もいなかった。助かった。見物がいると気が散る。
バルク少佐は気難しい気分に違いなかった。へまをすると怒鳴られそうだった。
着くと早速、銃の調子を試してみた。まず、七百メートル。
やはり全然違う。抜群の安定性。黒光りするバレルが頼もしい。
命中音が五回づつ、きもちよく鳴り響き続けた。ちょっといい気になりかけた。
どんなもんだい。明るくさえあれば、そしてこの銃と一緒なら、外しっこない。
ちらりと少佐の顔を見た。どんな表情も浮かべていない。
「よし、千メートル」
有効射程ぎりぎりなんですが。
ちょっと首をかしげた。
しかたない。外す気はしないが、風の具合で外すかもしれなかった。
簡単に狙って、撃つ。
「OK」
少佐の声と命中音が同時だった。彼はモニターを見ていたのだ。
同様に五発続けて撃って、最後の一発だけ外した。
怒られるかと思ったが、同じく表情が無かった。
「ノルライド、実戦だとどうなる?」
「光の量によります。七百メートルくらいなら、これくらいの光があれば、多分、まず大丈夫でしょう。好天を選べば、百パーセントとは言いませんが、確率は高い」
「一発必中だが、最悪二発あれば当てられるということだな」
「たとえ相手が動いても、狙いをつける時間は短いから、死角に入らない限り、大丈夫でしょう」
「いまのも、全部標的は変えているからな」
「はい。全部、狙いを付け直してから撃っています」
「千メートルはどうだ」
「野外だと、おそらく半分以下に落ちるでしょう。ライトを消してトライしてみればわかります」
少佐は、電話機で受付の女性に何事か交渉した。ライトだけ消すことが可能なのかどうかわからなかったが、五分ほど待っていると、ライトだけが消えた。すごい。さすが少佐だ。あのおばさんが言うことを聞いている。
結果、七百メートルだと、十発撃って惜しいところで一発外してしまった。かすめてはいるのだが、多分あれでは死なない。
千メートルは、十発撃って、もうほとんど勘状態になってしまい五発外した。
「どうだ」
「七百メートルなら、おそらくですが、当てられるでしょう。千メートルは、ご覧のとおり半々です」
「理由は?」
「明るさです。光が少なすぎる。光学スコープの限界です。私の腕の問題ではありません。おそらく、もう少し確率的にはあがるでしょう。今は、ライトをオフしてから時間がたっていないので、目が慣れていません」
「よし、よくわかった。君はこのまま帰りたまえ。自宅待機だ。外へ出るな」
ちょっとあっけにとられたが、少佐の顔は何の表情も浮かべていなかった。一礼するとそのままその場を出た。
おかしなことに気づいた。
誰も見物が出なかったのだ。
確かに入ったときから誰もいなかった。でも、午後のこの時間帯なら見物が必ずうようよしているはずだった。
見物どころではない、競技者もいなかった。本当に私と少佐以外、人っ子一人いなかったのだ。私は首をかしげながら自室へ帰った。
部屋に帰ると、またもや着替えた。
夕飯を食べに行くわけにも行かなかった。自宅待機といわれているのだ。仕方ないから寝ていた。
そして、今度はジェレミーから連絡が入って、自宅待機は解除されたということだった。
「なあ、作戦に出たらダメって言うのはまだ続いているのかな」
「そっちはダメだ。まぁしばらく休暇だと思っておいてくれよ」
「君は何か知っているのか、ジェレミー」
「知っている。でも、今は話せない」
「わかった。聞かないよ。GPSは持ち歩く」
「そうしてくれ」
そして、その翌日、ジェレミーから招集がかかった。
「ノッチ、フル装備ですぐ基地に来てくれ。出動だ」
あわてて着くと、バルク少佐がオーツ中佐と一緒に待ち構えていた。このふたりと私、ジェレミーとマイカ以外、不思議なことに、基地には誰もいなかった。
「ノルライド少尉、スナイパーデビューだ。すぐ向かってくれ。幸運を祈る」
真面目くさった顔つきで、オーツ中佐が言った。ジェレミーも頷いた。
なにがなんだか、わからない。マイカが一週間分の装備を渡してくれた。
「マイカ、これ、鶏のササミとか、野菜の煮込みとか、豆だけとか、魚のにこごりとか……」
小さな声でマイカに聞いてみた。しかし、返事を聞けないうちに少佐が割り込んだ。
「さあ、行くぞ、ノルライド。銃はこれでいいか?」
こればっかりは自分で確認した。
「OKです。少佐」
「弾薬も大丈夫だな? じゃ、ジェレミー頼むぞ」
オーツ中佐が勝手に私のGPSを取り上げて、セットした。
「行って何をするんですか?」
「行けばわかる。説明する」
少佐が手短に言った。
同じく装備をもうワンセット、マイカが少佐に渡していた。
「少佐も一緒ですか?」
驚いて私は聞いた。
「そうだ。私が君の荷物持ちだ。前にそう言ったろう。ジェレミー、行くぞ」
先に少佐がGPSを確認、移動した。
ジェレミーがうなずく。
しかたない。私もすぐ後を追った。
ドスンと衝撃がして、衝撃を和らげるために地面の上で一回転した。周りを見渡すと、少佐が立って、GPSを確認していた。
体勢を立て直して、私も急いでGPSを見た。何もいない。やつらもいない。
地形を見ると、非常に見晴らしのいい場所だった。
だが、ここは、戦闘が行われている場所とは全然違う場所だった。
一体、こんなところに何があるって言うんだろう。
「ノルライド、先に、ベースを決めよう」
少佐が言った。そして、ここしばらく一週間をめどにこのあたりにキャンプするといった。
「そして、説明しておこう」
それこそ、待っていた言葉だった。私はまじめに少佐を見つめた。
「ノルライド、君は、グラクイをよく知っているよね」
「はい」
「やつらは、本来おとなしい野生動物だった。ほかのどんな野生動物とも同じで、我々を攻撃してくるなんてことは、考えられない動物だった」
私は首をかしげた。
「少なくとも卵に関する限り、彼らは凶暴です」
「軍に来てまだ二年か三年しかたたない君は知らないだろうが、グラクイがおかしくなり始めたのは、ここ二、三年くらいのことなんだ。そう、ちょうど君が入隊してきた頃からだ」
私は過去のグラクイを知らない。少佐の話に耳を傾けた。
「君が入隊してくる前までは、グラクイは本当に人前に出てこなかった。見つけるのが大変だった。
我々は、今までグラクイ相手にいろいろな罠を仕掛けてきた。彼らを引っ張り出すためにね。
やつらの死体をおとりとして出してみたこともある。その体の中には、卵が残っていたはずなのに、彼らは一度として興味を示したことがなかった。
それが、今はどんな犠牲もいとわず回収している。
野生動物たちが仲間の死体を回収するだなんて聞いたことがあるかね。病気で死んだのかもわからない。そんなものを巣に持ち帰ったら、仲間に伝染するかもしれない。
おかしいと思わないか? その理由が問題なんだ」
「理由があるんですか?」
「そう。あるんだ。やっとわかり始めた。あそこに……」
と、彼は、遠くの小高い丘の上を指した。
「原因がある。あそこに住んでいるのは、人間なんだ。ジャニス・ガーランという一人の変わり者の男だ。我々の標的だ」
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる