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どっちから申し込んだか?
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いつもとほとんど同じ感じで会って、おなじみのコーヒー店の席に陣取って、今日ばかりは真剣に聞いた。
「ねえ、麻衣が来年の3月に結婚することになってさ」
「ウン」
周平は、気がなさそうに答える。
もう付き合いだして実は7年になる。そして私はもう三十歳近い。したがって周平も三十歳目前なわけだが、男の方がのんびり構えているのは理由があって、やっぱり出産がないせいだと思う。
麻衣は、高校生の時から付き合っていた人と結婚を決めた。公務員だそうだ。現在のところ、式場だなんだと猛烈に忙しそうだ。
仲良し5人組だったけど、うち一人はすでに2人目を妊娠中。一人目の妊娠が結婚の理由だった。最初は眉を顰める手合いもいたかもしれないけど、今となっては、彼女こそが勝者なのではないかと思い始めた。
「それより、今度、3連休どっか行こうよ。どこがいい? 海外とかはまだ厳しそうだけどさあ?」
所詮は大企業にお勤め。金銭的には私よりはるかに余裕がある。
それに割と金持ちの子で、ご自宅にも何回かお邪魔したことがあるが、結構な豪邸。これはなかなか気を遣う。まあ、気さくな人たちでよかったけれど。
したがって、私も出すけど、こういう場合のお金はあまり出す必要はない。そこを恩着せがましくないところは良かった。友達も、そのあたりを聞くとフーンという。悪い話ではないという判断らしい。
「私たちは?」
スタバでする話だったのかどうか分からないけど、周平はギクリとした。
「……まだ、そこまで考えてない。まだ三十にもなってないじゃん」
私は窓の外に目を逸らして(つまり周平から目を離して)つぶやいた。聞こえる感じに。
「でも、女の三十はねえ……」
「いやー、今はみんな結婚遅いしね」
こんなことを聞いたのは、職場のメンバーだけで開かれた、参加者わずか4名の飲み会のせいである。
プッツン黒髪とキラリと輝くメガネっ子の牧村先輩が、めでたく結婚したのを祝うプチ飲み会だ。
どうやって結婚になったのか……なんと私をのぞく既婚者全員が女から申し込まれたと告白したのである。(牧村先輩を含む)
「え……?」
すみません。一人くらい、男から申し込んだケースがあったって、いいんじゃないですか?
40代課長は、
「いやー結婚って、なんか嫁さんから、こう、オーラのようなものが、こう溢れてきて、それで……なんなの? オレ、負けたの? なんか口では説明できん?」
話がはっきりしない。
「結論、結婚したんですよね?」
「ハイ。結果としては」
現在、高校生になろうという息子と中学生の子持ちのくせに、これである。
「嫁、怖い」
飲み会で、家庭内での自分の順位を発表するな。もしかしたら、ネコにも劣るかも知れない。
30代係長は、
「実は結婚には、当時、なんというか恐怖がありまして」
「マリッジブルーですか?」
突っ込んだのは先月結婚したばかりの牧村先輩(女子)。
男のマリッジブルー?
「なんて言うか……結婚に踏み切れなくて……」
3か月前に第二子の男児が生まれ、幸せの絶頂……でしょ?
「今回の出産だって、嫁いないんで、うっかりうかれて飲み過ぎました。体重が大幅に増加しまして、あと空き缶が物証として残ってしまって、バレて、怒られました」
「うかれて?」
嫁がいなくて浮かれて飲む?とな?
「飲むなって言われてるんすよ。もうすぐ四十ですしね? 飲むと叱られるんです。何かと指示が細かくて。言うとおりにしないと、すんごい怒るんで……でも、子どもはかわいくて」
ここんちも嫁怖い派か。
新婚の牧村先輩は涼しい顔。
転勤してきた彼女は、アプリでお相手を調達して十人目で決めたのだそう。
「何が決定打でした?」
「音楽関係の趣味が一緒でして」
「なるほど?……」
「ハイ。ブリテッシュビートとかですね」
ナニソレ?
「ローリングストーンズとか、まあビートルズですね。盛り上がりまして。横浜にあるんですよ、レコード盤扱っている店とか……」
おめでとうございます。なんかわからんけど。
「で? 佐藤さんは? 佐藤さんはどうなの?」
唯一独身の私に視線が集まる。
ハイ。佐藤瑠衣。私の名前デス。
さ、佐藤さんは……ですね、あの、困ってます。
今の流れで言うと、私が周平をどうにか説得しなくちゃいけないんでしょうか?
みんな、嫁から結婚を匂わされたり、迫られたり……
「まあ、結局、私から言っちゃいましたけどねー。そろそろどうするの?って」
アッケラカンと笑う新婚の牧村先輩。
まあ、牧村先輩は結婚アプリで知り合ったわけですから、そもそも言いやすかったとか?かも知れないけど。
最近の飲み会は、そんなにすごい事にはならない。
個人情報なんちゃらが骨の髄まで浸透してるので、嫁怖い小心者の上司たちは、あっという間に話題を変えてしまった。
うん。セクハラとか言われたら困るもんね。
それが夕べの金曜日。
『佐藤さん、どうするの?』
どうするの?私。
周平は、結婚なんかあんまり話題にしたくないなあっていう、オーラを醸し出している。
ウチの上司連中と一緒だな。
周平は私のこと、絶対、キライではないと思っている。でなきゃ、しょっちゅうお誘いやラインも来ないだろうしなあ。
でも、私から結婚を詰め寄るのは、なんだか恥ずかしい。
どうして恥ずかしいのだか、自分でもわからない。
飲みにも食べにも、散々旅行も行って、全く問題ないと思う。
周平は目立つような美男子じゃないけど、服にも気を遣っていて、そういうところはホント捨てがたい。
デート先のお店選びにもセンスがあって、時々怒ったりもするけど、たいていは理由があるから仕方ないなと思うし、自分が悪いと思ったら後から必ず謝って来る。
「ごめん」
潔いしね。
だけど、ほんとに結婚はまだ考えていないんだろうなあと思う。いずれ、どこかで絶対結婚する気なんだろうけど。
「ねえ、麻衣が来年の3月に結婚することになってさ」
「ウン」
周平は、気がなさそうに答える。
もう付き合いだして実は7年になる。そして私はもう三十歳近い。したがって周平も三十歳目前なわけだが、男の方がのんびり構えているのは理由があって、やっぱり出産がないせいだと思う。
麻衣は、高校生の時から付き合っていた人と結婚を決めた。公務員だそうだ。現在のところ、式場だなんだと猛烈に忙しそうだ。
仲良し5人組だったけど、うち一人はすでに2人目を妊娠中。一人目の妊娠が結婚の理由だった。最初は眉を顰める手合いもいたかもしれないけど、今となっては、彼女こそが勝者なのではないかと思い始めた。
「それより、今度、3連休どっか行こうよ。どこがいい? 海外とかはまだ厳しそうだけどさあ?」
所詮は大企業にお勤め。金銭的には私よりはるかに余裕がある。
それに割と金持ちの子で、ご自宅にも何回かお邪魔したことがあるが、結構な豪邸。これはなかなか気を遣う。まあ、気さくな人たちでよかったけれど。
したがって、私も出すけど、こういう場合のお金はあまり出す必要はない。そこを恩着せがましくないところは良かった。友達も、そのあたりを聞くとフーンという。悪い話ではないという判断らしい。
「私たちは?」
スタバでする話だったのかどうか分からないけど、周平はギクリとした。
「……まだ、そこまで考えてない。まだ三十にもなってないじゃん」
私は窓の外に目を逸らして(つまり周平から目を離して)つぶやいた。聞こえる感じに。
「でも、女の三十はねえ……」
「いやー、今はみんな結婚遅いしね」
こんなことを聞いたのは、職場のメンバーだけで開かれた、参加者わずか4名の飲み会のせいである。
プッツン黒髪とキラリと輝くメガネっ子の牧村先輩が、めでたく結婚したのを祝うプチ飲み会だ。
どうやって結婚になったのか……なんと私をのぞく既婚者全員が女から申し込まれたと告白したのである。(牧村先輩を含む)
「え……?」
すみません。一人くらい、男から申し込んだケースがあったって、いいんじゃないですか?
40代課長は、
「いやー結婚って、なんか嫁さんから、こう、オーラのようなものが、こう溢れてきて、それで……なんなの? オレ、負けたの? なんか口では説明できん?」
話がはっきりしない。
「結論、結婚したんですよね?」
「ハイ。結果としては」
現在、高校生になろうという息子と中学生の子持ちのくせに、これである。
「嫁、怖い」
飲み会で、家庭内での自分の順位を発表するな。もしかしたら、ネコにも劣るかも知れない。
30代係長は、
「実は結婚には、当時、なんというか恐怖がありまして」
「マリッジブルーですか?」
突っ込んだのは先月結婚したばかりの牧村先輩(女子)。
男のマリッジブルー?
「なんて言うか……結婚に踏み切れなくて……」
3か月前に第二子の男児が生まれ、幸せの絶頂……でしょ?
「今回の出産だって、嫁いないんで、うっかりうかれて飲み過ぎました。体重が大幅に増加しまして、あと空き缶が物証として残ってしまって、バレて、怒られました」
「うかれて?」
嫁がいなくて浮かれて飲む?とな?
「飲むなって言われてるんすよ。もうすぐ四十ですしね? 飲むと叱られるんです。何かと指示が細かくて。言うとおりにしないと、すんごい怒るんで……でも、子どもはかわいくて」
ここんちも嫁怖い派か。
新婚の牧村先輩は涼しい顔。
転勤してきた彼女は、アプリでお相手を調達して十人目で決めたのだそう。
「何が決定打でした?」
「音楽関係の趣味が一緒でして」
「なるほど?……」
「ハイ。ブリテッシュビートとかですね」
ナニソレ?
「ローリングストーンズとか、まあビートルズですね。盛り上がりまして。横浜にあるんですよ、レコード盤扱っている店とか……」
おめでとうございます。なんかわからんけど。
「で? 佐藤さんは? 佐藤さんはどうなの?」
唯一独身の私に視線が集まる。
ハイ。佐藤瑠衣。私の名前デス。
さ、佐藤さんは……ですね、あの、困ってます。
今の流れで言うと、私が周平をどうにか説得しなくちゃいけないんでしょうか?
みんな、嫁から結婚を匂わされたり、迫られたり……
「まあ、結局、私から言っちゃいましたけどねー。そろそろどうするの?って」
アッケラカンと笑う新婚の牧村先輩。
まあ、牧村先輩は結婚アプリで知り合ったわけですから、そもそも言いやすかったとか?かも知れないけど。
最近の飲み会は、そんなにすごい事にはならない。
個人情報なんちゃらが骨の髄まで浸透してるので、嫁怖い小心者の上司たちは、あっという間に話題を変えてしまった。
うん。セクハラとか言われたら困るもんね。
それが夕べの金曜日。
『佐藤さん、どうするの?』
どうするの?私。
周平は、結婚なんかあんまり話題にしたくないなあっていう、オーラを醸し出している。
ウチの上司連中と一緒だな。
周平は私のこと、絶対、キライではないと思っている。でなきゃ、しょっちゅうお誘いやラインも来ないだろうしなあ。
でも、私から結婚を詰め寄るのは、なんだか恥ずかしい。
どうして恥ずかしいのだか、自分でもわからない。
飲みにも食べにも、散々旅行も行って、全く問題ないと思う。
周平は目立つような美男子じゃないけど、服にも気を遣っていて、そういうところはホント捨てがたい。
デート先のお店選びにもセンスがあって、時々怒ったりもするけど、たいていは理由があるから仕方ないなと思うし、自分が悪いと思ったら後から必ず謝って来る。
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だけど、ほんとに結婚はまだ考えていないんだろうなあと思う。いずれ、どこかで絶対結婚する気なんだろうけど。
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