【完結】不本意ながら、結婚することになりまして

buchi

文字の大きさ
上 下
13 / 17

第13話 王太子妃教育とフランツの裏切り

しおりを挟む
謎の座敷童は絶叫した。

「どこの女なの? こんな変な格好の女が好きなの?」

ちゃうし!

「否定すな!」

鋭い声で、宇津木さんが俺に警告した。

「否定すると、ヤツがキレる!」

しかし、彼女の注意を素直に聞けるほど、俺は冷静ではなかった。

「誰が恋人だ、誰が」

思わず反論した。

「議論にならんから、黙っといて! 刺激すると、何やり出すか分からんし!」

宇津木さんは横から忠告したが、その顔は引き攣っていた。そんなにひどいの?このワンピース女?


「成敗!」

レースとリボンが大量に付いた、ワンピースを着た黄色い塊が、そう叫びながら、こっちに向かって突進してきた。

「フランツ王太子殿下!」

ちょっと! ちょっと、待って? それ誰?

「セント・ローレンツ大聖堂で婚約式をした時も、あなたは愛をささやいてくれた。お父様の国王陛下も認めて下さった」

そんなんあり? この世に婚約式ってありましたっけ? 国王陛下って誰? 俺の父ちゃん、明義って言うんですけど。

「京都の神社で綿帽子の君が見たいって言ったじゃない」

いきなり日本に戻るな。

「王太子妃教育も頑張ったのに……」

涙声だった。

「あの、中学校も不登校気味って言ってたよね」

俺は傍らの宇津木さんにささやいた。

「黙って……」

座敷童を必死に見つめていた宇津木さんだったが、叫んだ。

「危ない!」

王太子妃教育の件で、一瞬だけ目を離していた隙に、座敷童は懐から包丁を取り出していた。 

包丁!

「ギャー」

雄叫びと共に突進してくる。

なんか、なんかないか?

ジョウロしかなかった。プラスチックの。緑色の一番安いやつ。

包丁に勝てないかも。

ジョウロを振りかぶったと見せかけて、俺は、座敷童の腹を蹴った。

「ギャアアアー」

驚くほど大きな声で座敷童は吹っ飛んでいき、その拍子に包丁は手からすっ飛んで、宇津木さんに当たった。

「宇津木さん! 大丈夫か?」

もたもた着込んだジャージのおかげで、多分包丁は刺さらなかったと思うが、俺は大声で叫んだ。

「なぜ、そんな女を庇うの?」

「いや、何で包丁なんか持ち出すのよ」

俺は言い返した。

「あっぶねー」

ナスの枝を添え木にくくりつけるヒモがあったので、俺は素早く座敷童の手を縛り上げた。

「護衛騎士はどこ? 王太子妃の危機よ?」

「やかましい」

手をくくっても、立ち上がって走り去ろうとするので、足払いを食らわせ、足も縛ってやった。

普段なら、こんなこと、絶対やらないし出来ないはずだが、これが火事場のバカ力ってヤツだろうか。

「110番くらいやれよ!」

宇津木さんに怒鳴ったが、一言返ってきた。

「圏外」



その後の騒ぎは、生まれて初めての体験だった。

田舎のくせに、パトカーはやたらに速く来た。

事情聴取され、連絡先を聞かれ、もう恥ずかしいったらなかった。

だが、意外だったのは、座敷童の顔を見た途端、警察の表情が変わったことだった。

「またか」

「でも、今度は包丁持ち出してますからね」

警察のもう一人の方が言った。

「あなた、ケガは?」

宇津木さんは渋々腕をまくった。

「えっ?」

あんなに軽く当たっただけなのに?

彼女の腕には、小さいけれど傷があり、わずかばかりだが、血が流れていた。

「傷害罪だね」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ すべてフィクションです。読んでくだり感謝いたします。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

処理中です...