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第6話 ストーカー?
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「あなたは、その人を知ってるんですか?」
彼女はとても困った顔をした。
しばらく俺の顔をじっと見つめて、そして、しばらく考えていた。
俺も黙っていた。
二人とも食べ終わっていたし、今は昼休み。店は混んでいるから長居は出来ない。
「僕はその少女が誰なのか知って、そして注意したいだけなんです。僕の庭に入ってこないでくれって」
俺は用件を言った。
「知っているなら教えてください。何も、もったいぶることはないじゃないですか」
「もったいぶっているわけじゃないんです。でも……」
「そもそもあなたは、なんて言う名前なのですか?」
相手の名前がわからないのは、割とまどろっこしい。
「私は宇津木《うつぎ》と言います。宇津木蓮《うつぎれん》」
彼女は字を書いてくれた。それから連絡先の交換をした。
彼女の連絡先を知ってしまうと、余計な誤解が生まれるかもしれないので、俺は一応伝えてみた。
「僕はあなたの連絡先を知りたいわけじゃないんです。僕の庭に出没する少女の連絡先を知りたいだけなんだ」
彼女は一瞬真っ赤になったが、次の瞬間怒ったように言った。
「私だって、自分の連絡先を教えたいわけではありません。ですけど、事情があるんです。潤夏ちゃんのことは、ちょっと」
俺は黙った。俺たちは都合のついた晩に近所の飲み屋で落ち合うことになった。なぜなら、お互いの連絡先の交換には、双方とも不本意を表明していたが、なんだか知らないけど事情があるらしかったからだ。
一応、気の利いたイタリアンレストランから、いわゆる飲み屋での会合は落差が酷いなと(仮にも女性を迎え入れる側としては)思わないわけではなかったが、とにかく話を聞くだけなので、どうでもよかった。
俺は人間が合理的に出来ているだけなのに、どうして時々ケチと言われるのだろう。
飲み屋に来た私服の彼女は、予想した通りで、可もなく不可もなく、特に印象に残らない子だった。
その点では俺も全く同じで、くたびれた安物のスーツで全然目立たない。
多分、二人とも理由は同じで、サラリーマン稼業にお金をかける気が全くないからだろう。要は同僚などたちから文句さえ出なければいいのである。
ちなみに彼女はチューハイ党で俺はビール派だった。
「なんでさっさと教えてくれないんです」
聞きたかったのは、誰がチューハイ党なのかではなくて、例の座敷童の正体だ。
「だって、面倒くさいんですよ。あなただって聞いたら面倒くさいって思いますよ」
「どこが面倒なんです? 彼女の連絡先を教えてもらえば、注意できますからね」
「まあ、個人情報だっていう点は置いといて」
「あなたは個人的に知り合いですよね? まあ、僕みたいな知らない男性に女性の連絡先を教えるのをためらう気持ちはわからなくはないが、あの子は未成年でしょ? 親に言ってもいいんですよ」
「真壁さん、潤夏ちゃんは高校生じゃありません。私と同い年です」
俺は彼女の顔をまじまじと見つめた。
よく考えたら宇津木さんの年齢を僕は知らなかった。
「私は二十代後半です」
どこかブスッとした様子で彼女は自分の年齢を教えてくれた。
「潤夏ちゃんが若く見えるのは、服のせいです」
彼女は言い切った。
「そして私が連絡先を教えないのは、知らないからです」
ビールを飲もうとグラスをつかんだ手が止まった。
「じゃあ、なんでここへ呼んだの?」
「連絡先は、親戚に聞けばわかるかもしれないけど……私と潤夏ちゃんは従姉妹です。でも、私が教えないのは、潤夏ちゃんが、病気だからです」
「病気?」
「そう」
彼女は真剣にうなずいた。
「花が置いてあるってことは、今度のターゲットはあなただと思うんです」
「はい?」
ターゲット?
「潤夏ちゃんは、ストーカー常習犯なんですよ。わかります?ストーカー」
「ストーカー……」
俺は繰り返した。
「正確にはストーカーではないのかも知れませんが」
「どっちなんだ」
曖昧な言い方に俺はキレ気味に彼女に聞いた。
「そこまで知らないですよ。でもね、あなたが努力して彼女の連絡先を知ろうとしていることがわかれば、きっと彼女は喜びますよ」
彼女はとても困った顔をした。
しばらく俺の顔をじっと見つめて、そして、しばらく考えていた。
俺も黙っていた。
二人とも食べ終わっていたし、今は昼休み。店は混んでいるから長居は出来ない。
「僕はその少女が誰なのか知って、そして注意したいだけなんです。僕の庭に入ってこないでくれって」
俺は用件を言った。
「知っているなら教えてください。何も、もったいぶることはないじゃないですか」
「もったいぶっているわけじゃないんです。でも……」
「そもそもあなたは、なんて言う名前なのですか?」
相手の名前がわからないのは、割とまどろっこしい。
「私は宇津木《うつぎ》と言います。宇津木蓮《うつぎれん》」
彼女は字を書いてくれた。それから連絡先の交換をした。
彼女の連絡先を知ってしまうと、余計な誤解が生まれるかもしれないので、俺は一応伝えてみた。
「僕はあなたの連絡先を知りたいわけじゃないんです。僕の庭に出没する少女の連絡先を知りたいだけなんだ」
彼女は一瞬真っ赤になったが、次の瞬間怒ったように言った。
「私だって、自分の連絡先を教えたいわけではありません。ですけど、事情があるんです。潤夏ちゃんのことは、ちょっと」
俺は黙った。俺たちは都合のついた晩に近所の飲み屋で落ち合うことになった。なぜなら、お互いの連絡先の交換には、双方とも不本意を表明していたが、なんだか知らないけど事情があるらしかったからだ。
一応、気の利いたイタリアンレストランから、いわゆる飲み屋での会合は落差が酷いなと(仮にも女性を迎え入れる側としては)思わないわけではなかったが、とにかく話を聞くだけなので、どうでもよかった。
俺は人間が合理的に出来ているだけなのに、どうして時々ケチと言われるのだろう。
飲み屋に来た私服の彼女は、予想した通りで、可もなく不可もなく、特に印象に残らない子だった。
その点では俺も全く同じで、くたびれた安物のスーツで全然目立たない。
多分、二人とも理由は同じで、サラリーマン稼業にお金をかける気が全くないからだろう。要は同僚などたちから文句さえ出なければいいのである。
ちなみに彼女はチューハイ党で俺はビール派だった。
「なんでさっさと教えてくれないんです」
聞きたかったのは、誰がチューハイ党なのかではなくて、例の座敷童の正体だ。
「だって、面倒くさいんですよ。あなただって聞いたら面倒くさいって思いますよ」
「どこが面倒なんです? 彼女の連絡先を教えてもらえば、注意できますからね」
「まあ、個人情報だっていう点は置いといて」
「あなたは個人的に知り合いですよね? まあ、僕みたいな知らない男性に女性の連絡先を教えるのをためらう気持ちはわからなくはないが、あの子は未成年でしょ? 親に言ってもいいんですよ」
「真壁さん、潤夏ちゃんは高校生じゃありません。私と同い年です」
俺は彼女の顔をまじまじと見つめた。
よく考えたら宇津木さんの年齢を僕は知らなかった。
「私は二十代後半です」
どこかブスッとした様子で彼女は自分の年齢を教えてくれた。
「潤夏ちゃんが若く見えるのは、服のせいです」
彼女は言い切った。
「そして私が連絡先を教えないのは、知らないからです」
ビールを飲もうとグラスをつかんだ手が止まった。
「じゃあ、なんでここへ呼んだの?」
「連絡先は、親戚に聞けばわかるかもしれないけど……私と潤夏ちゃんは従姉妹です。でも、私が教えないのは、潤夏ちゃんが、病気だからです」
「病気?」
「そう」
彼女は真剣にうなずいた。
「花が置いてあるってことは、今度のターゲットはあなただと思うんです」
「はい?」
ターゲット?
「潤夏ちゃんは、ストーカー常習犯なんですよ。わかります?ストーカー」
「ストーカー……」
俺は繰り返した。
「正確にはストーカーではないのかも知れませんが」
「どっちなんだ」
曖昧な言い方に俺はキレ気味に彼女に聞いた。
「そこまで知らないですよ。でもね、あなたが努力して彼女の連絡先を知ろうとしていることがわかれば、きっと彼女は喜びますよ」
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