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第5話 お昼ごはんをご一緒に
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女子を誘ってしまった。
ヨコシマな思いからではない。
事情があって誘ったのだ。
俺は必死になって弁解した。
「実は、僕の実家もその辺なんですけど、ちょっと妙なことが起きたので知ってらしたら教えて欲しいんです。十分で済むかも知れないですが」
彼女が戸惑っているみたいだったので、俺は畳み掛けた。
「今日、どうですか? ビアンコで。俺、早めに出れますから席取って待ってます。出れます?」
特段の用事はなかったらしく、結局俺に押し込まれて承諾した格好になった。よかった。
俺はドキドキしながら彼女を待った。
女子を待っているんじゃない。
情報を待っているのだ。
あの事務の女性には強引に頼んで悪かったなと思うが、聞きたかった。
あのビルから少し離れたイタリアンレストランを指定したので、着くまで時間がかかるかも知れない。
ビアンコは有名だけど、彼女が知っているとは限らない。
迷子になるかも知れない。
オフィスビル群の中の、人気のレストランの昼ごはんどきは神経を使う。
余計、ドキドキした。
来てくれた時はホッとした。彼女の方は、怪訝そうな感じだった。当たり前だ。
「弧月堂について聞きたいっておっしゃってましたけど?」
弧月堂自体になにも問題はない。
問題は祖父の庭だった。
僕は祖父の庭をよみがえらせ、自分のものにしたかった。
誰もいない見捨てられたその場所の草を刈り、庭を作り、家を直した。
僕しか知らない秘密の庭だ。
家族は勝手にしていいと言っている。まったく関心はないらしい。
だから俺のものだ。俺だけのものだ。異物の侵入は許さない。
異物は排除だ。だが、そのためには異物の正体を知らねばならない。
だが、問題は異物こと座敷わらし?の正体がさっぱりつかめないことだ。
あれ以来、あの少女を見たことはない。
だが、花が置かれているときがあった。
たとえすごく遠慮がちに置かれていたとしても、それが可憐な花束だったとしても、誰かが、俺の庭に入ってきているということだ。
全面的にお断りだ。第一、あの少女はどことなく気味が悪い。
「渋木さんて知ってます?」
俺は尋ねた。
「え? え? 知ってはいますけど」
おお、ビンゴ。
「そこの家に、女子高校生くらいの女の子、いませんか?」
俺は僕の事情を説明した。
野菜作りを楽しんでいること、妙な出没者がいるが、入ってきて欲しくないこと。
彼女はだんだん表情が曇ってきた。
うん。考えてみりゃそれはそうだ。
彼女が弧月堂の近くの実家を離れてから、五年とか相当な年月が経っているに違いなかった。
モデルの集団に囲まれてちょっとだけ話をしたのは、一年か二年前。その前から彼女はあのビルで働いている。
地元にいるうちの母の方が状況はよく知っているはずだ。
その母が知らないことを彼女が知っているわけがない。
だけど、どうしても彼女に聞かなきゃいけない理由があった。
「それで、その少女を見た時、僕はその子を見たことがあると思いました」
なぜかピザとスパゲティを俺たちは仲良くシェアしていた。頼んだものをシェアするのは理の当然みたいに、皿が2枚添えられてきたからだ。店の方針に逆らうほどの気概はない俺らは、黙って分け合って食べていたが、大方食べ終わっていて、ドルチェとコーヒーを楽しんでいた。ように見えていた。と思う。
「そして、こっちへ帰って来て、なぜそう思ったのかって言うと、その少女があなたに似ていたからなんです」
彼女の表情がちょっと変わった。
何か知ってるんだ。
「あなたの名前は、渋木さんですか?」
俺は聞いた。
「いいえ。でも……」
彼女の顔がさらに曇った。
何を知っているんだ。
ヨコシマな思いからではない。
事情があって誘ったのだ。
俺は必死になって弁解した。
「実は、僕の実家もその辺なんですけど、ちょっと妙なことが起きたので知ってらしたら教えて欲しいんです。十分で済むかも知れないですが」
彼女が戸惑っているみたいだったので、俺は畳み掛けた。
「今日、どうですか? ビアンコで。俺、早めに出れますから席取って待ってます。出れます?」
特段の用事はなかったらしく、結局俺に押し込まれて承諾した格好になった。よかった。
俺はドキドキしながら彼女を待った。
女子を待っているんじゃない。
情報を待っているのだ。
あの事務の女性には強引に頼んで悪かったなと思うが、聞きたかった。
あのビルから少し離れたイタリアンレストランを指定したので、着くまで時間がかかるかも知れない。
ビアンコは有名だけど、彼女が知っているとは限らない。
迷子になるかも知れない。
オフィスビル群の中の、人気のレストランの昼ごはんどきは神経を使う。
余計、ドキドキした。
来てくれた時はホッとした。彼女の方は、怪訝そうな感じだった。当たり前だ。
「弧月堂について聞きたいっておっしゃってましたけど?」
弧月堂自体になにも問題はない。
問題は祖父の庭だった。
僕は祖父の庭をよみがえらせ、自分のものにしたかった。
誰もいない見捨てられたその場所の草を刈り、庭を作り、家を直した。
僕しか知らない秘密の庭だ。
家族は勝手にしていいと言っている。まったく関心はないらしい。
だから俺のものだ。俺だけのものだ。異物の侵入は許さない。
異物は排除だ。だが、そのためには異物の正体を知らねばならない。
だが、問題は異物こと座敷わらし?の正体がさっぱりつかめないことだ。
あれ以来、あの少女を見たことはない。
だが、花が置かれているときがあった。
たとえすごく遠慮がちに置かれていたとしても、それが可憐な花束だったとしても、誰かが、俺の庭に入ってきているということだ。
全面的にお断りだ。第一、あの少女はどことなく気味が悪い。
「渋木さんて知ってます?」
俺は尋ねた。
「え? え? 知ってはいますけど」
おお、ビンゴ。
「そこの家に、女子高校生くらいの女の子、いませんか?」
俺は僕の事情を説明した。
野菜作りを楽しんでいること、妙な出没者がいるが、入ってきて欲しくないこと。
彼女はだんだん表情が曇ってきた。
うん。考えてみりゃそれはそうだ。
彼女が弧月堂の近くの実家を離れてから、五年とか相当な年月が経っているに違いなかった。
モデルの集団に囲まれてちょっとだけ話をしたのは、一年か二年前。その前から彼女はあのビルで働いている。
地元にいるうちの母の方が状況はよく知っているはずだ。
その母が知らないことを彼女が知っているわけがない。
だけど、どうしても彼女に聞かなきゃいけない理由があった。
「それで、その少女を見た時、僕はその子を見たことがあると思いました」
なぜかピザとスパゲティを俺たちは仲良くシェアしていた。頼んだものをシェアするのは理の当然みたいに、皿が2枚添えられてきたからだ。店の方針に逆らうほどの気概はない俺らは、黙って分け合って食べていたが、大方食べ終わっていて、ドルチェとコーヒーを楽しんでいた。ように見えていた。と思う。
「そして、こっちへ帰って来て、なぜそう思ったのかって言うと、その少女があなたに似ていたからなんです」
彼女の表情がちょっと変わった。
何か知ってるんだ。
「あなたの名前は、渋木さんですか?」
俺は聞いた。
「いいえ。でも……」
彼女の顔がさらに曇った。
何を知っているんだ。
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