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第44話 伯爵邸における戦い(アレクサンドラ編)
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「焼き討ちなんて無理ですよ。それに犯罪者になってしまいます」
マルゴットが指摘した。
フィオナは真っ青になって何か考えている様子だった。
「じゃあ、どうしたらいいの?! このまま、ほっとくわけにはいかないわ!」
クリスチンは叫び出したが、マリアに止められた。
「あのー、クリスチン様、お手伝いはとにかく、これは、グレンフェル侯爵様とフィオナ様の問題でございます。クリスチン様があれこれやり出すと面倒なことに……」
マリアが細々と声を出したが、熱血クリスチンは、燃えるような目をしている。
「じゃあ、フィオナはどうするつもりなの? なにか、いい方法があるって言うの?伯爵邸を焼き討ち……」
「というわけで、戦略を発表します」
マルゴットが宣言した。
クリスチンさえもが、(目をキラキラさせながら)マルゴットに注目した。
「いいですか? フィオナ様。これからが正念場です」
「はい」
フィオナは、居住まいを正した。
マルゴットの言うことは本当だ。いつだって本当だった。
「まず、第一関門は、伯爵邸にお戻りになられた時です」
それはわかった。
みんな、フィオナのことを軽くみている。
強く言えば、逆らわない人物だと。
それは、争いを避けたがるフィオナ自身の性格に原因があった。
「ですけれど、今回はそうは参りません。たとえ、諍いを避けたくても、家族同士意見が違うのですから。もう、正面突破です」
「いいわね!」
クリスチンが口をはさんだ。多分、クリスチンの得意技なんだろう。フィオナにできるかどうかに問題があるのだが。
「わかりました……やってみます」
*********************
伯爵邸に戻った時、まずフィオナが驚いたのは、いつもと違って彼女を執事が仰々しく待ち構えていたことだった。
普段なら誰も出迎えなどしないのに。
「アンドルー様がお待ちです」
機先を制したのは兄のアンドルーか……フィオナはそう思ったけれど、廊下の途中でアレサンドラが突然あらわれ、声をかけてきた。
「ちょっといいかしら? フィオナ」
執事がびっくりして、そしてとても迷惑そうな顔した。
だが、アレクサンドラは強引だった。いきなりフィオナの手を握ると、隣の部屋に彼女を引きずり込んだ。
執事もアレクサンドラを止めることができなかった。
「お待ち下さいませ!」
彼は叫んだが、アレクサンドラは部屋に入ると厳重にドアを閉め鍵までかけた。
従って、執事は廊下に取り残されてしまった。
部屋に入ると、アレクサンドラは、フィオナに向かいの椅子に座らせて、話を始めた。
こわい。目が座っている。
「いいこと? フィオナ。あなたを取り巻く環境がすごく変わってしまった事は知ってるでしょう? まあ、もともとあなたは知っていたのかもしれないわね。私たちに黙っていただけで」
アレクサンドルは恨みがましく言った。本当はもっと言いたいことがたくさんあったのかも知れない。
けれども、今はフィオナこそが財産の持ち主だ。父親でもないアレクサンドラに強制力はない。
だから、フィオナの機嫌を損ねるわけにはいかないと思ったのだろう。いつものキンキンした喋り方ではなかった。
「もともと修道院に入りたいと言っていたわよね。入会金の目処がついたそうじゃないの。よかったじゃない。良いところを探しておいてあげたのよ。あなたにピッタリの修道院。セントピーター記念修道院っていうの。知ってるでしょう? いいところの貴族の婦人しか入らないところよ。環境も抜群だし、街からはだいぶ離れてしまうけど、別にそれは構わないと思うわ」
アレクサンドラは、一気にそこまでまくし立てた。
フィオナは、マルゴットから聞いていたが、あまりにアレクサンドラの話が、マルゴットの予想通りだったのでびっくりした。
アレクサンドラは、マルゴットに相談したわけではないだろう。ちょっとしたアレクサンドラの動きや、話を小耳にはさんで判断したのだろうが、さすが、マルゴットだ。
「それでね、フィオナ。ここに修道院の入会書があるのよ。取り寄せておいたの。修道院に入りさえすれば、後は心配することは何もないわ。旦那様を探してパーティーをウロついたり、物欲しそうに相手に媚を売る必要もなくなるのよ」
以前なら、この台詞を聞いても腹も立たなかったろう。事実、その通りだったからだ。
だが、今日はなんだか腹が立つ。
「ここにサインさえしたらいいのよ。行きたかった修道院に入れるわ」
あとそれからねと、アレクサンドラは少し間をおいて、ちょっと言いにくそうに続けた。
「入会金なんだけれども三万ルイほど必要なの。随分、立派な額よね。あなたには、もったいないくらいだわ。でも、あなたの資産は莫大で、十分残ると思うの。修道院には、一時金で入ることになるから、あとは使うあてもないでしょう? だから……」
フィオナは、口を差し挟めなかった。アレクサンドラが立板に水なのである。
「今までみたいに自分のことばっかり考えてないで、この残された伯爵家のことも、少しは考えて欲しいと思うの。なにしろ、実の甥や姪ですからね。学校にもこれから行かなくてはいけないし、娘は社交界デビューもしなくてはいけないでしょ?」
「お義姉さま、どうして私は社交界デビューしなくてよかったんでしょうか?」
フィオナは義姉をまっすぐに見据えて尋ねた。
マルゴットが指摘した。
フィオナは真っ青になって何か考えている様子だった。
「じゃあ、どうしたらいいの?! このまま、ほっとくわけにはいかないわ!」
クリスチンは叫び出したが、マリアに止められた。
「あのー、クリスチン様、お手伝いはとにかく、これは、グレンフェル侯爵様とフィオナ様の問題でございます。クリスチン様があれこれやり出すと面倒なことに……」
マリアが細々と声を出したが、熱血クリスチンは、燃えるような目をしている。
「じゃあ、フィオナはどうするつもりなの? なにか、いい方法があるって言うの?伯爵邸を焼き討ち……」
「というわけで、戦略を発表します」
マルゴットが宣言した。
クリスチンさえもが、(目をキラキラさせながら)マルゴットに注目した。
「いいですか? フィオナ様。これからが正念場です」
「はい」
フィオナは、居住まいを正した。
マルゴットの言うことは本当だ。いつだって本当だった。
「まず、第一関門は、伯爵邸にお戻りになられた時です」
それはわかった。
みんな、フィオナのことを軽くみている。
強く言えば、逆らわない人物だと。
それは、争いを避けたがるフィオナ自身の性格に原因があった。
「ですけれど、今回はそうは参りません。たとえ、諍いを避けたくても、家族同士意見が違うのですから。もう、正面突破です」
「いいわね!」
クリスチンが口をはさんだ。多分、クリスチンの得意技なんだろう。フィオナにできるかどうかに問題があるのだが。
「わかりました……やってみます」
*********************
伯爵邸に戻った時、まずフィオナが驚いたのは、いつもと違って彼女を執事が仰々しく待ち構えていたことだった。
普段なら誰も出迎えなどしないのに。
「アンドルー様がお待ちです」
機先を制したのは兄のアンドルーか……フィオナはそう思ったけれど、廊下の途中でアレサンドラが突然あらわれ、声をかけてきた。
「ちょっといいかしら? フィオナ」
執事がびっくりして、そしてとても迷惑そうな顔した。
だが、アレクサンドラは強引だった。いきなりフィオナの手を握ると、隣の部屋に彼女を引きずり込んだ。
執事もアレクサンドラを止めることができなかった。
「お待ち下さいませ!」
彼は叫んだが、アレクサンドラは部屋に入ると厳重にドアを閉め鍵までかけた。
従って、執事は廊下に取り残されてしまった。
部屋に入ると、アレクサンドラは、フィオナに向かいの椅子に座らせて、話を始めた。
こわい。目が座っている。
「いいこと? フィオナ。あなたを取り巻く環境がすごく変わってしまった事は知ってるでしょう? まあ、もともとあなたは知っていたのかもしれないわね。私たちに黙っていただけで」
アレクサンドルは恨みがましく言った。本当はもっと言いたいことがたくさんあったのかも知れない。
けれども、今はフィオナこそが財産の持ち主だ。父親でもないアレクサンドラに強制力はない。
だから、フィオナの機嫌を損ねるわけにはいかないと思ったのだろう。いつものキンキンした喋り方ではなかった。
「もともと修道院に入りたいと言っていたわよね。入会金の目処がついたそうじゃないの。よかったじゃない。良いところを探しておいてあげたのよ。あなたにピッタリの修道院。セントピーター記念修道院っていうの。知ってるでしょう? いいところの貴族の婦人しか入らないところよ。環境も抜群だし、街からはだいぶ離れてしまうけど、別にそれは構わないと思うわ」
アレクサンドラは、一気にそこまでまくし立てた。
フィオナは、マルゴットから聞いていたが、あまりにアレクサンドラの話が、マルゴットの予想通りだったのでびっくりした。
アレクサンドラは、マルゴットに相談したわけではないだろう。ちょっとしたアレクサンドラの動きや、話を小耳にはさんで判断したのだろうが、さすが、マルゴットだ。
「それでね、フィオナ。ここに修道院の入会書があるのよ。取り寄せておいたの。修道院に入りさえすれば、後は心配することは何もないわ。旦那様を探してパーティーをウロついたり、物欲しそうに相手に媚を売る必要もなくなるのよ」
以前なら、この台詞を聞いても腹も立たなかったろう。事実、その通りだったからだ。
だが、今日はなんだか腹が立つ。
「ここにサインさえしたらいいのよ。行きたかった修道院に入れるわ」
あとそれからねと、アレクサンドラは少し間をおいて、ちょっと言いにくそうに続けた。
「入会金なんだけれども三万ルイほど必要なの。随分、立派な額よね。あなたには、もったいないくらいだわ。でも、あなたの資産は莫大で、十分残ると思うの。修道院には、一時金で入ることになるから、あとは使うあてもないでしょう? だから……」
フィオナは、口を差し挟めなかった。アレクサンドラが立板に水なのである。
「今までみたいに自分のことばっかり考えてないで、この残された伯爵家のことも、少しは考えて欲しいと思うの。なにしろ、実の甥や姪ですからね。学校にもこれから行かなくてはいけないし、娘は社交界デビューもしなくてはいけないでしょ?」
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