上 下
91 / 97

第91話 ポーシャの大誤解

しおりを挟む
セス様はカールソンさんも呼んできて、私に領地経営について講義をした。
現場のプロは違う。
微に入り細に入り、わからなさそうな顔をしていると、掘り下げて懇切丁寧に説明してくれた。

私はげっそりした。

なんて面倒臭い。

怒涛の勢いで領地について語り終えたカールソンさんが帰ると、セス様が真面目な様子になって言った。

「私も帰りますけどね、ポーシャ様」

「はい。なんでしょうか」

領地経営の話なら、もうお腹いっぱいである。

「モロゾフにグレイ様といますって、殿下に知らせたのは私ですけど」

そりゃ知ってますって。そのせいで、あんな大惨事になってしまった。

「それから、アデル嬢を呼んだのも私ですが」

本当に余計な真似をしてくれやがって。

「全部、殿下の指示ですからね」

「え?」

セス様が頷いた。

「絶対呼べと。公開断罪したいからって」

私は、この時、ものすごい間抜けヅラを晒したと思う。公開断罪って何?
なんで、そんなことをしなくてはいけないの?

「満員のモロゾフの客の前でしなくたっていいじゃありませんか」

私は今更ながら泣き言を言った。貧乳が大勢にバレてしまったではないか。

「そりゃそうですけど、まさか、王宮であれはできません。王家公認になってしまいますから」

王家公認の貧乳ってあるのか。王家はそんなことを判定する機関じゃないと思うけどな。

「王宮で公開暴露されるよりマシかもしれないけど」

私の貧乳問題……

「暴露というか……できるだけ大勢の、それも高位の貴族や平民でも富豪の方々の目前で、難癖をつけたかったのだと思います」

セス様は大きく頷きながら、爆弾発言を投げつけた。

「結婚相手としては絶対ないと」

えええええ?

なんじゃそりゃあ! 

公開婚約破棄だったの?

どう言うつもりなの? 殿下? 婚約者だと堂々と紹介しながら、貧乳だなんて非難するなんて。

私に結婚願望はなかったが、お嫁に行けなくなりそうだ。しょんぼり。あ、私の場合、婿を取るのか。

「ひどいな殿下。人権侵害だと思います」

私は抗議した。

いくら貧乳だからって、結婚相手から外れたはないだろう。じゃあ、貧乳は結婚できないのか? そりゃ殿下の趣味の話だろう。難癖をつけて公開って何? ひどくない?

「そんなことのために、アデル嬢を呼んだのですか?」

セス様は私の人権侵害発言に驚いたらしかったが、頷いた。

「人権侵害と言われましても。グレイ様が疑いをかけられるのはもっともですから、人権侵害には当たりませんよ」

「いや、グレイ様の話ではなくて、私への人権侵害です」

私は訴えた。

セス様は目に見えて狼狽えた。

「ええと、あの……なんのお話ですか? 殿下はですね、ただ単にグレイ様を排除したかっただけなんですよ?」

「え? グレイ様、かわいそう」

私もかわいそう。あんなことバラされて。アデル嬢が憎い。でも、アデル嬢なんか、どうにもこうにもならない。失言のオンパレード。わかっているくせに、そんな人間をわざわざ連れて来るだなんて、殿下が悪い。

「殿下はもうグレイ様が憎たらしくて憎たらしくて、あのまま箱詰めにして元居た国に送り返したいとおっしゃっていました」

「グレイ様、この国の出身でしょ? 元居た国といっても、貿易で訪れたことがあるだけの国じゃないんですか?」

「まあ、つまり国外追放かな? 毒殺に関係があるとわかれば、ポーシャ様が怖がって、興味を失うだろうと……」

そんなわけあるか。

何回、毒殺されたと思っているのだ。

「毒殺に関係していても、怖くはありませんが」

「あ、でも、嫌いになってくれないかなとか、とにかくもう、デートの相手が許せなくてですね?」

「デートじゃなくて、捜査協力しただけなのに」

「それでもダメです。あんなエッチなドレスをプレゼントした時点で、頭のタガが外れたらしくって」

あああ……。そうか。あのドレスも一役買ったのか。デコルテのデザインが限界近い感じだったもんな。

「まあ、有る事無い事、モロゾフの客にも認識させて、あれはないと思わせたい」

あれって、貧乳女、つまりは私のことか。

「殿下のお気持ちはよくわかりました」

私はキッパリと言った。

ものすっごくイラっとする。

有る事無い事、難癖つけて、あれはないと思わせたいんですってさ。

「お嬢様、バスター様がお見えになりました」

侍女が伝えにきた。

私はキリッとして、セス様に言った。

「それでは、お引取りくださいませ。殿下のお気持ちは、承りましたとお伝えください」

セス様はどうしてだか、びっくりしていた。

「そ、それでは、ご婚約問題は了承されたと?」

「も、ち、ろ、ん、です」

私は一字一句に力を込めた。

「もう二度とお会いいたしません。殿下のお気持ちはよぉーっく伝わりました。アデル嬢まで呼んできて、私の欠点をあげつらってモロゾフの客の前で嘲笑するとは、見上げた嫌がらせです。そんなことをしなくても、いつでも婚約破棄には応じましたのに」

あれ? 誓約のキスしてたっけ? こういう場合はどうなるのかな?

「とにかく、これで一件落着ですわ!」

「えっ? ちょっと? どう言うこと? またまたポーシャ様、変なこと考えてるでしょう? いいですか? 殿下はですね?」

私はなぜか渋り、抵抗するセス様を絨毯部屋に押し込めて、魔術塔に強制送還した。


それからバスター君を迎えに行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語

buchi
恋愛
借金だらけの貧乏伯爵家のシエナは貴族学校に入学したものの、着ていく服もなければ、家に食べ物もない状態。挙げ句の果てに婚約者には家の借金を黙っていたと婚約破棄される。困り果てたシエナへ、ある日突然救いの手が。アッシュフォード子爵の名で次々と送り届けられるドレスや生活必需品。そのうちに執事や侍女までがやって来た!アッシュフォード子爵って、誰?同時に、シエナはお忍びでやって来た隣国の王太子の通訳を勤めることに。クールイケメン溺愛偽弟とチャラ男系あざとかわいい王太子殿下の二人に挟まれたシエナはどうする? 同時に進む姉リリアスの復讐劇と、友人令嬢方の推し活混ぜ混ぜの長編です……ぜひ読んでくださいませ!

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

処理中です...