【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

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第52話 総司令部の爺さん連中

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なんだか、話がズレ始めてきたことは私も認識していた。

私はポーションを持って、世界を助けに来たはずだった。
ケガをしたり、弱っている兵士や住民にに命のポーションを配る天使のような?自分を想像していたのに。

なぜ、レストランでアルバイトをしていたのか、理解に苦しむところだったが、とりあえず、大本営に行くところまでは達成できた。


昨夜、なんでレイビックに来たの?と聞かれて、救える命を助けたいと崇高な理想を胸に、レイビックまでにやって来たと答えたら、セス様に呆れられた。

「え? それなのに飲み屋でバイトなの?」

「だって、どこへ行ったらいいのかわからなくて。店のバイトは話の成り行きで」

「普通の公爵令嬢は、飲み屋でバイトしない」

そりゃそうですよね。と言うか、普通の公爵令嬢って概念そのものがあるのかないのか。
言ってて、自分で自分の計画性のなさを反省した。

「うーん。でも、なるほどねー」

セス様は私の顔をよーく見ながら言った。

「まあ、せっかく命のポーション持って来たなら、せいぜい顔を売ろうよ。それも悪くないと思うね」

「顔を売るんですか? 誰に?」

「兵士に売っても、ストーカーとファンが増えるだけだからね。えらい人たちに売っとくべきだと思うよ」

そんなこんなで、私はちょっとばかり見た目も整えた上で、大本営へ御目見することになった。大本営とは、総司令部のことだ。

大本営は、レイビックの街から少し離れたエッセンの村にあった。丘の上の大きな家だった。
倉庫を兼ねているらしく、荷馬車や人の出入りが多かった。

ガウス元帥をはじめとした参謀たちは、日当たりのいい二階でのんびりお茶を飲んでいた。

「おお、これはセバスチャン・マルク殿」

セス様は、例の黒マントをやめて、ひどく生真面目そうな貴族の格好をしていた。

「ベリー公爵夫人の孫娘、アランソン女公爵をお連れしました」

私はニコリと微笑んだ。

この爺さんたちより、私の方が格上なのだ。だって公爵だから!

杖を片手に、お茶を飲みながら、ケンケンガクガク何かの議論に熱中していた白髪の連中が、あわてて立ちあがろうとし始めた。

私は手で押しとどめた。

「戦中に礼儀は無用ですわ」

「おお、なんとお優しい……」

顔も保護魔法は解いてきた。この方がウケがいいって、セス様が言うもんだから。

彼らは一斉に私の顔に見惚れた。

「こんなお美しい方に、お会いできるとは……ほんに目の保養ですわ。眼福、眼福」

私が行くってセス様が伝えた時、素人の見物には困ったものじゃ、何の役にも立たんくせに、かえって警護の手間が増えるだけじゃとかエラソーに言ってたそうじゃないの、あなた方。

立ち上がるのも大変そうなくせに、私の警護なんかできないんじゃないの?

「して、我らが勇姿を見学に?」

「いえ」

ここは全面否定しておいた。

「アランソン女公爵におかれましては、稀代のポーション作りなのでございます」

セス様は、ガラスの容器に入れられた命のポーションを、高々と爺さん連中の目の前に掲げた。

「これこそは、幻の命のポーション。飲めば十歳は若返り、ボケ老人も立ち直り、瀕死のケガ人も重体者も生き返るというポーションです。これを作られたのです」

「な、なんと?」

若返りの項目は初耳だ。だが、爺さんどもの目がらんらんと輝き始めた。

「まことか?」

嘘だって。

しかし、冥界の主はうなずいた。

「これを悪獣に襲われた村の人々、勇敢に戦う戦士たちに届けにきてくださったのです……」

断じて、あなた方の為ではない。そもそも若返りの薬ではない。

だが、その刹那、ドオオーンという大音響がして、家がビリビリと震えた。

爺さんたちも、身構えた。

「きゃ……」

下で馬のいななく声が聞こえる。馬にとっても脅威らしい。

「今のは?」

「流れ弾だな」

爺さんたちのうちの一人が言った。

「ちょいちょいある。最近はこのすぐ下で戦っとるから」

一人が立ち上がって、窓のところに行った。白い煙が上がっている。

「庭に着弾したらしいの。家でなくてよかった」

「保護魔法は?」

頭の毛がなくて、顔のぐるりを頬髭で覆われた爺さんが、何を言っているんだと言う顔で答えた。

「そんな高度な魔法、使えるわけないじゃろ?」

え? 使えないの?

「今のは、大砲ですか? 少し振動が大きめでしたが」

セス様が爺さんのうちの一人に聞いた。

「いーや。多分、ベリー公爵夫人の魔弾が悪獣に弾かれたんだろう」

「ベリー夫人の魔弾は攻撃力がすごいが、時々外れるのがたまに傷だ」

「悪獣に弾かれたんだよ。真っ芯を狙わないとこうなるな」

次にヒューンという聞きなれない音がした。

「ハズレ弾の音だな。あれは、ベリー夫人やルーカス殿下の弾じゃない。音でわかる」

私は蒼白になっていたが、さすがに爺さん連中は慣れた様子だった。お茶を飲んでるだけに見えたが、それだけではないらしい。

「納得していただけましたか、アランソン女公」

セス様が丁重に言った。

「ポーションは私ども兵站部が確実かつ的確にお届けします。アランソン様のような身分が高くて、か弱い女性がこのような戦地に長くおられることはお勧めできません」

それ地は見た目だけの問題であって、私は自分自身をか弱いだなんて考えていない。

「そろそろ王都に戻りましょう、アランソン女公」

セス様が言った。

「いいえ!」

私は言った。

「ポーションを届けに行きます」

「え?」

爺さん連中もだが、誰よりセス様が呆気にとられた。

「危のうございます……」

「セス様、私、自分で自分に保護魔法がかけられます」

「えー?」

ジジイどもが叫んだ。

「そんなに美人なのに?」

それとこれとは全く関係ないと思う。

「セス様も自分で保護魔法をかけてください。保護魔法があれば、さほどの危険はないはず」

セス様は世にも情けない顔をした。

「私には、保護魔法の能力がないので……」

「え?」

私に保護魔法をかけたのはセス様だったのに?

「だから言ったでしょう。人には魔力の向き不向きがあるって。細かい設定はできますが、かけることそのものはおばあさまにお願いしたのですよ」

そうなのか。

「この中で、保護魔法をかけられる人?」

私は元帥を初めとして、大勢の軍師様がたの顔を見た。

誰も手をあげない。みんな、聞かれた途端にコソコソし始めた。

「誰もできないの?」

びっくりした。

「じゃあ、いいわ。セス様、行きましょう!」

私はセス様の手首を握った。

「あ、ちょっと待って。あんなところに行ったら、命がいくつあっても足りない……」

「何を言ってるの! だからこそのポーションよ!」

私はぐいっとセス様を引っ張った。

「ついてきなさい! 闇の帝王の名が泣くわよ?」

「いやだあああ」

私は力任せにセス様を引きずって外に出た。抵抗するセス様を引きずって、ドアを開けたら、爺さんたちの一人がウィンクして言った。

「大丈夫じゃ。案外死なないもんだ」

私は叫び返した。

「大丈夫よ。私がセス様の分も、保護魔法をかけてあげるわ」

背中から、爺さん連中の、えー?とかずるいーとか言う声がした。



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