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第33話 お金が欲しい。ポーションを作りまくる

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私はまず、アデル・リーマン侯爵家へ行き、ご令嬢に御目通りをお願いした。

そして、門番に追っ払われた。

「女中風情がなんの用事があって、お嬢様にお目にかかりたいなどと言うのだ」

何の用事って、ものすごく重要な用事、借金の取り立てにきたのに。

門前払いである。

前回は学校内でアデル嬢の方から会いにきたからスムーズだったのだ。

私は一計を案じた。寮に戻って、手紙を書こうと思ったのだ。そしてアランソン公爵令嬢からのお使いですといえば、手紙は届く。

しかし、普通、公爵家からの文書には、それぞれの紋章入りの立派な用箋があるはず。

ご令嬢同士の私信の場合、そんな正式な用紙は使わないかもしれないが、私が普段使っているボロ紙に書かれた手紙ではまずいだろう。

絶対に、アランソン公爵家からのお手紙だなんて信じてもらえないだろう。つまり届かない。

アランソン公爵令嬢になったところで、公爵家の権力とまでは言わない、機能が使えなかったら、何の意味もない。

ある意味、おばあさまのしでかしたことは意味があった。

つまり、ジョン・スターリンの放置。

公爵領は広大で管理は大変だ。
今はセス様が頑張っているが、正直畑違い。有能な管理者など、どこの家も喉から手が出るほど欲しいはず。
どんなに毒を送ってきても、何の被害も出ないなら、少々の毒殺趣味など目をつぶって管理に励ませておけばいい。

「うん。無精なおばあさまが考えそうなことだ」

だが、今、そのせいで私は身動き取れなくなった。

何かと助けになってくれていたんだなあと、殿下のことさえ懐かしくなった。

結局、何をするにしても女中のままではダメらしい。つまり、女中に見えているようではダメだと言うことだ。

服が欲しい。まともな用箋もいる。

私がやりたいことをするためには、小道具が要ったのだ。だけど、全部、これまでの生活とはけた違いのお金が要る。


私は、お金を求めて寮から飛び出した。

目指すはバスター君である。

「え? どう言うこと?」

教室の外で、バスター君は相当ビックリしたらしく聞き返した。

「ハウエル商会で、私のポーションを売ってくれない? 秘密で」


公爵家の娘がポーション売りをしていることがバレたら、おばあさまに叱られる。

でも、バスター君なら、秘密裏に売ってくれる。

そう。私はバスター君の宿題を代わりにやった。バスター君は、これを学校側に知られたくない。私はバスター君の弱みを握ったのだ。

「それに、今のうちに私のポーションが優秀だってハウエル商会の人たちに知っておいて欲しいの」

「どうして?」

私はバスター君を睨んだ。

どう言うわけか彼は赤くなった。

「いつか、バスター君がポーションを作ったんじゃないってことがバレる日が来るかもしれない」

情けなさそうにバスター君は頷いた。

「だけど、その時までにハウエル商会で、私が優秀なポーション作りだっていう評判を取っていたら、バスター君は何も言われないんじゃないかな?」

「優秀なポーション作りを確保してこいって言われているから……か」

「そうよ」

ハウエル商会の会長のバスター君のお父様の考えはわかる。
学校なのだ。もしすると、例えば、平民の特待生なんかに、どこの貴族も知らない超優秀な掘り出し物のポーション作りの天才がいるかもしれないじゃないか。

バスター君にポーションを作る才能がなくても、優秀なポーション作りを発掘してくれたら、それだけでも、商会にとってはプラスになる。

「実際に商品を納入してもらえば、よくわかると思うわ。今回だって、感謝状をもらったのでしょう?」

バスター君は、カバンの中からその紙を取り出した。

粗末な紙に、いかにも字を描き慣れない人の筆跡で、訥々とお礼の言葉が書き連ねられていた。

『娘の命の恩人』『奇跡』

インクが滲んでいるのは涙の跡だろうか。

「とりあえず、ハゲ魔法の治療薬、作ってみるから」

バスター君の目が大きく見開かれた。

「ポーシャさん、どうして、ハゲ魔法治療薬なんですか?」

「それはね、誰も売ってないからだよ。独占販売。これは値段を釣り上げられるよ?」

なにしろ、私にはお金が必要だからね!
それはバスター君は知らなくていいけどね。

とりあえず、バスター君は、父上に話をしてみることになった。
一応、新しい先生が高評価を下したポーションの評価を聞いて、バスター君がそのポーションの作り手に話を持ちかけたていを装うことにする。

「試供品を作ってくるね」

私は、張り切ってモンフォール十八番地に向かった。

今度こそ真価を発揮するのだ。

「ハゲ治療薬は画期的だわ。次は水虫薬を作ろう。命のポーションは目立ちすぎる……」

さすが元?平民。次から次へとアイデアが浮かぶ。

材料は……うん、泥棒魔法の活躍の時が来た。

先立つものがない以上は仕方ない。大事の前の些事である。



一体、ここへ来てから何時間経ったのだろう。気がつくとお腹が減っていた。

そして、向こうからは見えないが、こちらからはよく見える玄関のドア越しに確認すると、もう日は暮れていた。

しまった。

学校の門は午後五時まで。帰れない。
幸い?寮に住んでいるのは私一人だし、アンナさんの姿はあれきりみたことがない。帰っていなくたって、誰も気にしないだろう。殿下は出入り禁止になってるし。

私はモンフォール十八番地は台所と地下しか知らなかったが、二階もあるらしい。

「寝るところがあればいいなあ……」

階段を上がり、最初の目につくドアを開けた途端、私はびっくり仰天した。

そこは寝室だった。

埃などはなかったが、しんとした冷たい空気が、長いこと使われていなかったことを示している。

広くて豪華な天蓋付きのベッド。細かい彫りの飾りのついたチェスト。テーブルと椅子。一人がけのソファー。夜だからか、窓の薔薇と鳥の柄のビロードのカーテンは閉められていた。

そっと開けて外を覗くと、そこは黄昏の王都だった。

二階のはずなのに、見える光景は少なくとも五階以上の高さからのものだった。

少し離れたところに学校。ずっと向こうの小高いところに王宮。

思わず見とれた。この街は、広くて、大きくて、繁栄している。

ふと気がついた。アランソン公爵家のタウンハウスはどうなっているのだろう?王都にも屋敷があるはずだ。

おばあさまがジョン・スターリンを放置していた気持がまた理解できた。

どんな屋敷だか知らないが、誰か絶対に管理人が必要なのだ。そして王国の最終兵器たるおばあさまに、その仕事は無理だ。そして、おばあさまが領地管理なんかに力をくのは才能の無駄遣い。そして、ジョン・スターリンを使わないのも、才能の無駄遣い。

私には才能があるのかな?

私はカーテンを引いて、隣の部屋へ行ってみた。隣の部屋は書斎で、本が山ほどあった。私は思わずニンマリした。だが、床に敷かれている見慣れた模様の絨毯にハッとした。

例の魔法の絨毯だ。

私はそっとドアを閉めた。いつか、絨毯の操作方法や設置方法も教えてもらおう。

寝室の隣に当たり前のようにバスルームと衣裳部屋を見つけた。長いこと放置されていたらしいが、不思議なことにどこも傷んでいなかったし、埃もなかった。

「自動清掃装置?」

首をひねったが、もう、今日は疲れた。眠い。

シャワーを浴びて歯を磨いて、おばあさまの趣味っぽい夜着に着替えてすぐ寝た。服を借りても、おばあさまは怒らないだろう。
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