28 / 97
第28話 おばあさま登場
しおりを挟む
アランソン公爵令嬢たちは馬車で、王宮内の別な場所へ連れていかれたらしい。
私は宮廷内の広間に、殿下のエスコートで通された。
みすぼらしい灰色の、使用人でさえ着ないようなボロボロの服のままで。
中にはかなりの人数の人達が詰めていた。
平民だし、お金がないのだから、これでいいと開き直っていた私だけど、宮廷内でこの服は、いたたまれないを通り越して、どうしたらいいか分からなくなった。
しかも、殿下は宝物でも扱うような丁重な物腰だった。
廊下で通りすがる人々は、殿下に向かって道をあけ、必ず頭を低くして敬意を表す。
すると、殿下にエスコートされている私にも頭を下げる結果になり、これって正しいの?と私はますます縮こまった。
「殿下、なぜ、こんなところへ?」
だが、中で待っていた人の姿に気がついた。
「おばあさま?」
おばあさまだった。宮廷でも堂々としている。そしてその姿は、この広間において、なんの違和感もなかった。
今、気がついた。
なぜ、おばあさまが王宮にいるのか、わからない。だけど、学校に通うようになってから、わかってきたことがあった。
うちのおばあさま、バリバリの貴族だ。
おばあさまは、田舎の屋敷でもずっと宮廷服のドレスか、それに準じた格好をしていたのだ。
しゃべり方だって違うし。
それで、村人たちが「変」と言っていたのだ。
「ポーシャ!」
だけど、私は、おばあさまに抱きついた。なつかしい、嬉しい!
「おばあさま!」
田舎を出て、おばあさまから離れてからいろんな目に遭った。
平民だってそしられた。
一番の思い出は鉄扇でぶたれたこと。
あんなの生まれて初めてだった。
おばあさまだ。なつかしいおばあさまの香水の匂いがする。
「おばあさまと帰るー」
私は泣き出した。
「ポーシャ」
おばあさまは私の頭を撫でながら、微笑んで言った。
「ずいぶんポーションの勉強をしたのね」
「いいえ! だって、実技をさせてくれないの。ポーションの先生が意地悪で、平民だから、見学だけって」
「あら? でも相当魔法力使ったみたいだけど?」
「あ、それは……」
泥棒魔法をめちゃくちゃ使ったから。
泥棒魔法の内容は、ちょっと説明しにくい。
「予定よりずっと早く成長しちゃって。あなたの保護魔法が誕生日前に解けてしまったわ」
おばあさまにしては緻密で精巧な魔法だったわ。
「私が最大出力であなたに保護魔法をかけたのよ。設定はセスに頼んだけど」
……設定はセス様か。そうか。なるほどな。そしてやたらに堅牢な魔法だったのは、おばあさまがパワー全開でかけたからだと。
色々と納得のいった話だった。大雑把なおばあさまにこの魔法は無理だ。
だんだん魔法のルールや仕組みがわかってくるにつれ、ちょっとおかしいなと思っていた。
大好きなおばあさま。だけど、おばあさまは、誰だったの?
私のおばあさまは?
「ベリー公爵夫人」
殿下がうやうやしく話しかけた。
「ポーシャ嬢をお連れしました」
「ありがとう。ルーカス殿下」
おばあさまは平然とこたえた。
「婚約者のお役目、ご苦労様でした。保護膜がなくなったと言うことは、相当な魔力を得たのだと思うわ。そろそろ一人前ね、ポーシャ」
おばあさまは私を見て、にっこり笑った。嬉しそう。
「魔力はね、必要があって、絶対がんばらなくちゃって、思わないと身につかないの」
おばあさまは言った。
「でも、おばあさまは心配性で。あなたがつらい思いをするかと思うと判断がつかず、なかなか手放せなかった。結局はルーカス殿下の婚約者と言う形で王家にお願いしてしまったの」
……なんですって?
「僕は君の婚約者だ」
おずおずと殿下が言った。
……と言うことは? 私がちっとも殿下の言うことを信じなかったから、殿下は私を守りたくても守れずに……
いや、でも、あの溺愛劇場形式の守りは正しかったのかどうか?
あれ、余計な反発を買っただけでは?
殿下がおばあさまに向かって言った。
「ベリー公爵夫人、これまでポーシャ嬢が本来の姿ではなかったため、あいまいなままでしたが、夫人から、アランソン公爵領はポーシャ嬢のものだと宣言してくださいませんか」
おばあさまは殿下に視線を向け、厳かに言った。
「まあ、アランソン公爵家の遠縁に過ぎないジョン・スターリンに好き放題させるわけにはいきませんからね。アランソン公爵を名乗っているジョン・スターリンを呼んできなさい」
ここは王宮の広間なのに、おばあさまは、その場に控えていた侍従たちに、わがもの顔に命令した。
そして、その人たちがいかにも心得ました、みたいな感じにサササッと行動していく様子を私はあっけに取られて見ていた。
王宮の侍従、つまり王家の使用人を顎で使うだなんて。おばあさま、何者なの?
それに、アランソン公爵って、すごい権力者ではなかったの? 呼びつけちゃって大丈夫なのかしら?
「私が来ていることは連絡が入っているはずだから、すぐ来ると思うわ」
おばあさまは涼しい顔をして、扇で顔を仰いだ。
私は宮廷内の広間に、殿下のエスコートで通された。
みすぼらしい灰色の、使用人でさえ着ないようなボロボロの服のままで。
中にはかなりの人数の人達が詰めていた。
平民だし、お金がないのだから、これでいいと開き直っていた私だけど、宮廷内でこの服は、いたたまれないを通り越して、どうしたらいいか分からなくなった。
しかも、殿下は宝物でも扱うような丁重な物腰だった。
廊下で通りすがる人々は、殿下に向かって道をあけ、必ず頭を低くして敬意を表す。
すると、殿下にエスコートされている私にも頭を下げる結果になり、これって正しいの?と私はますます縮こまった。
「殿下、なぜ、こんなところへ?」
だが、中で待っていた人の姿に気がついた。
「おばあさま?」
おばあさまだった。宮廷でも堂々としている。そしてその姿は、この広間において、なんの違和感もなかった。
今、気がついた。
なぜ、おばあさまが王宮にいるのか、わからない。だけど、学校に通うようになってから、わかってきたことがあった。
うちのおばあさま、バリバリの貴族だ。
おばあさまは、田舎の屋敷でもずっと宮廷服のドレスか、それに準じた格好をしていたのだ。
しゃべり方だって違うし。
それで、村人たちが「変」と言っていたのだ。
「ポーシャ!」
だけど、私は、おばあさまに抱きついた。なつかしい、嬉しい!
「おばあさま!」
田舎を出て、おばあさまから離れてからいろんな目に遭った。
平民だってそしられた。
一番の思い出は鉄扇でぶたれたこと。
あんなの生まれて初めてだった。
おばあさまだ。なつかしいおばあさまの香水の匂いがする。
「おばあさまと帰るー」
私は泣き出した。
「ポーシャ」
おばあさまは私の頭を撫でながら、微笑んで言った。
「ずいぶんポーションの勉強をしたのね」
「いいえ! だって、実技をさせてくれないの。ポーションの先生が意地悪で、平民だから、見学だけって」
「あら? でも相当魔法力使ったみたいだけど?」
「あ、それは……」
泥棒魔法をめちゃくちゃ使ったから。
泥棒魔法の内容は、ちょっと説明しにくい。
「予定よりずっと早く成長しちゃって。あなたの保護魔法が誕生日前に解けてしまったわ」
おばあさまにしては緻密で精巧な魔法だったわ。
「私が最大出力であなたに保護魔法をかけたのよ。設定はセスに頼んだけど」
……設定はセス様か。そうか。なるほどな。そしてやたらに堅牢な魔法だったのは、おばあさまがパワー全開でかけたからだと。
色々と納得のいった話だった。大雑把なおばあさまにこの魔法は無理だ。
だんだん魔法のルールや仕組みがわかってくるにつれ、ちょっとおかしいなと思っていた。
大好きなおばあさま。だけど、おばあさまは、誰だったの?
私のおばあさまは?
「ベリー公爵夫人」
殿下がうやうやしく話しかけた。
「ポーシャ嬢をお連れしました」
「ありがとう。ルーカス殿下」
おばあさまは平然とこたえた。
「婚約者のお役目、ご苦労様でした。保護膜がなくなったと言うことは、相当な魔力を得たのだと思うわ。そろそろ一人前ね、ポーシャ」
おばあさまは私を見て、にっこり笑った。嬉しそう。
「魔力はね、必要があって、絶対がんばらなくちゃって、思わないと身につかないの」
おばあさまは言った。
「でも、おばあさまは心配性で。あなたがつらい思いをするかと思うと判断がつかず、なかなか手放せなかった。結局はルーカス殿下の婚約者と言う形で王家にお願いしてしまったの」
……なんですって?
「僕は君の婚約者だ」
おずおずと殿下が言った。
……と言うことは? 私がちっとも殿下の言うことを信じなかったから、殿下は私を守りたくても守れずに……
いや、でも、あの溺愛劇場形式の守りは正しかったのかどうか?
あれ、余計な反発を買っただけでは?
殿下がおばあさまに向かって言った。
「ベリー公爵夫人、これまでポーシャ嬢が本来の姿ではなかったため、あいまいなままでしたが、夫人から、アランソン公爵領はポーシャ嬢のものだと宣言してくださいませんか」
おばあさまは殿下に視線を向け、厳かに言った。
「まあ、アランソン公爵家の遠縁に過ぎないジョン・スターリンに好き放題させるわけにはいきませんからね。アランソン公爵を名乗っているジョン・スターリンを呼んできなさい」
ここは王宮の広間なのに、おばあさまは、その場に控えていた侍従たちに、わがもの顔に命令した。
そして、その人たちがいかにも心得ました、みたいな感じにサササッと行動していく様子を私はあっけに取られて見ていた。
王宮の侍従、つまり王家の使用人を顎で使うだなんて。おばあさま、何者なの?
それに、アランソン公爵って、すごい権力者ではなかったの? 呼びつけちゃって大丈夫なのかしら?
「私が来ていることは連絡が入っているはずだから、すぐ来ると思うわ」
おばあさまは涼しい顔をして、扇で顔を仰いだ。
27
お気に入りに追加
1,762
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる