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第19話 アデル嬢とのデート

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「殿下、真実の愛って信じます?」

私は次の日の朝食の時、真剣に殿下に向かって尋ねた。

殿下は例の魔法の絨毯を撤去してくれない。毎朝、朝食を取りに出現するのである。ちょっと心臓に悪いんだけど。

殿下はせき込んで、ナプキンを口に当てた。

彼は私を見つめて、真剣に答えた。

「信じるよ」

「では、その機会が必要だと思いませんか?」

「機会?」

「真実の愛の相手をよりよく知って愛を確かめるとか……」

正直、私には、何をどうしたらいいのかわからないけど。

殿下は、目をまんまるにしてから、突然口元を押さえて横を向いた。

「でも、学内では難しいと思うな」

殿下はしばらくしてから答えた。

「やはり、真実の愛の相手を危険にさらしたくはないですものね」

殿下はやや赤くなってその通りだと答えた。目が物欲しそう。
殿下とは言え、恋人を求める心はあるんだろうな。

二人でよく話し合った結果、王家の馬車ではない車を用意して、学校の外で楽しむことになった。

「当日のデートコースは任せて欲しい」

殿下、意外に意欲的だな。

「真実の愛の相手かどうかを確かめるためのお試しコースですよ? 万人向けの方がいいかもしれません」

私は心からアドバイスした。もう少し、アデル嬢の好みを聞いておけばよかったな。

「安心してくれ」

殿下は自信満々だった。とても嬉しそうだ。顔がニヤけている。よかった。
私も安心して、微笑んだ。



翌日、アデル嬢に会って、詳細を話すと彼女も本当に嬉しそうだった。

「よくやったわ、ポーシャ!」

彼女は褒めてくれた。学校に来てから褒められたことなんか一度もない。めっちゃ嬉しかった。

「後でたっぷり支払うわ」

「ありがとうございます」

侯爵令嬢のお役に立って幸いです。

「ですけど、直ぐにアランソン公爵家の知るところになります。もちろん、殿下が真実の愛を探しているというのが理由になりますけど」

アデル嬢はきらりと目を光らせて答えた。

「大丈夫よ。父のほかに新興貴族の会や商工会にも話を通してある」

賢くて勇敢な令嬢だ。それに美しい。私みたいな平凡顔とはわけが違う。

平凡顔を通り越して、みっともないとそしられたことも多い。
私は私のことが嫌いじゃない。でも、自分の顔は嫌いだ、ほんと言うと。
それは自信と自尊心を削いでいく。特に殿下が美しいだけに、いつだって自信がない。殿下の隣に並ぶ未来は、押しつぶされるような気がする。

街でポーション屋をやる分には、きっと私の顔なんか誰も気にしないだろう。気にするのはポーションの効き目だけだ。
そして、殿下が言うように、いつか結婚するかもしれない。でも、それは似合いの平凡顔の夫がいい。落ち着くから。

デート当日、私は、殿下と打ち合わせた通り、正門ではない使用人用の門に向かった。

殿下と殿下の馬車は、もう準備万端、用意が整っていた。

ちょうどうまい具合に、とてもきれいに着飾ったアデル嬢が現れたところだった。

私はアデル嬢のところにまず駆け寄って、彼女を引き連れて馬車のところに向かった。

「ポーシャ? その女性は誰だ? お前の侍女か?」

アデル嬢の顔がゆがんだ。

「とんでもございません。こちらはリーマン侯爵令嬢のアデル様でございます。出来ることなら、私がアデル様の侍女になりたいくらいでございますよ。平民ですので、そんな夢は叶いませんが。さあ、アデル様」

私はアデル嬢の前に低く頭を下げた。

「こちらの馬車でございます。本日は、おしのびだそうで、王家の馬車でない方が何かと自由で良いという殿下の仰せでございます。それでこのような馬車になっております」

「ポーシャ!」

殿下が怒鳴ったが、私は殿下に向かって言った。

「殿下、真実の愛のお相手は誰だかわかりません。探す必要はあるでしょう、殿下の真実の幸せのために」

私は二人を馬車に詰め込んだ。正確に言うと、殿下は目立たないように先に乗っていたので、アデル嬢を押し込んだだけだが。

そして御者に言った。

「OKです。出かけて」

御者の一声で、馬車はガラガラと動き出し、私は一緒に門の外に出た。
ついでにモンフォール街十八番地に寄ろうと思ったのだ。

「やれやれ。でも、お似合いのおふたりだったなあ……」

事情の説明の手紙はアランソン家に出してある。私は言ってみれば二重スパイのようなものだ。手紙はアランソン家へのアリバイだ。

『殿下はどこぞの令嬢とデートに出かけるそうです』


「令嬢のお名前を書かなければ、その分時間が稼げるしね」

殿下は悪い人ではない。それだけに、ぜひ幸せになって欲しいと思う。
アデル嬢は賢くて美人で野心家だ。その上、実家も金持ちの侯爵家。アランソン公爵家とは違うパワーバランスで動いていると本人が言っていた。
悪くないんじゃなかろうか。知らんけど。





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