19 / 97
第19話 アデル嬢とのデート
しおりを挟む
「殿下、真実の愛って信じます?」
私は次の日の朝食の時、真剣に殿下に向かって尋ねた。
殿下は例の魔法の絨毯を撤去してくれない。毎朝、朝食を取りに出現するのである。ちょっと心臓に悪いんだけど。
殿下はせき込んで、ナプキンを口に当てた。
彼は私を見つめて、真剣に答えた。
「信じるよ」
「では、その機会が必要だと思いませんか?」
「機会?」
「真実の愛の相手をよりよく知って愛を確かめるとか……」
正直、私には、何をどうしたらいいのかわからないけど。
殿下は、目をまんまるにしてから、突然口元を押さえて横を向いた。
「でも、学内では難しいと思うな」
殿下はしばらくしてから答えた。
「やはり、真実の愛の相手を危険にさらしたくはないですものね」
殿下はやや赤くなってその通りだと答えた。目が物欲しそう。
殿下とは言え、恋人を求める心はあるんだろうな。
二人でよく話し合った結果、王家の馬車ではない車を用意して、学校の外で楽しむことになった。
「当日のデートコースは任せて欲しい」
殿下、意外に意欲的だな。
「真実の愛の相手かどうかを確かめるためのお試しコースですよ? 万人向けの方がいいかもしれません」
私は心からアドバイスした。もう少し、アデル嬢の好みを聞いておけばよかったな。
「安心してくれ」
殿下は自信満々だった。とても嬉しそうだ。顔がニヤけている。よかった。
私も安心して、微笑んだ。
翌日、アデル嬢に会って、詳細を話すと彼女も本当に嬉しそうだった。
「よくやったわ、ポーシャ!」
彼女は褒めてくれた。学校に来てから褒められたことなんか一度もない。めっちゃ嬉しかった。
「後でたっぷり支払うわ」
「ありがとうございます」
侯爵令嬢のお役に立って幸いです。
「ですけど、直ぐにアランソン公爵家の知るところになります。もちろん、殿下が真実の愛を探しているというのが理由になりますけど」
アデル嬢はきらりと目を光らせて答えた。
「大丈夫よ。父のほかに新興貴族の会や商工会にも話を通してある」
賢くて勇敢な令嬢だ。それに美しい。私みたいな平凡顔とはわけが違う。
平凡顔を通り越して、みっともないとそしられたことも多い。
私は私のことが嫌いじゃない。でも、自分の顔は嫌いだ、ほんと言うと。
それは自信と自尊心を削いでいく。特に殿下が美しいだけに、いつだって自信がない。殿下の隣に並ぶ未来は、押しつぶされるような気がする。
街でポーション屋をやる分には、きっと私の顔なんか誰も気にしないだろう。気にするのはポーションの効き目だけだ。
そして、殿下が言うように、いつか結婚するかもしれない。でも、それは似合いの平凡顔の夫がいい。落ち着くから。
デート当日、私は、殿下と打ち合わせた通り、正門ではない使用人用の門に向かった。
殿下と殿下の馬車は、もう準備万端、用意が整っていた。
ちょうどうまい具合に、とてもきれいに着飾ったアデル嬢が現れたところだった。
私はアデル嬢のところにまず駆け寄って、彼女を引き連れて馬車のところに向かった。
「ポーシャ? その女性は誰だ? お前の侍女か?」
アデル嬢の顔がゆがんだ。
「とんでもございません。こちらはリーマン侯爵令嬢のアデル様でございます。出来ることなら、私がアデル様の侍女になりたいくらいでございますよ。平民ですので、そんな夢は叶いませんが。さあ、アデル様」
私はアデル嬢の前に低く頭を下げた。
「こちらの馬車でございます。本日は、おしのびだそうで、王家の馬車でない方が何かと自由で良いという殿下の仰せでございます。それでこのような馬車になっております」
「ポーシャ!」
殿下が怒鳴ったが、私は殿下に向かって言った。
「殿下、真実の愛のお相手は誰だかわかりません。探す必要はあるでしょう、殿下の真実の幸せのために」
私は二人を馬車に詰め込んだ。正確に言うと、殿下は目立たないように先に乗っていたので、アデル嬢を押し込んだだけだが。
そして御者に言った。
「OKです。出かけて」
御者の一声で、馬車はガラガラと動き出し、私は一緒に門の外に出た。
ついでにモンフォール街十八番地に寄ろうと思ったのだ。
「やれやれ。でも、お似合いのおふたりだったなあ……」
事情の説明の手紙はアランソン家に出してある。私は言ってみれば二重スパイのようなものだ。手紙はアランソン家へのアリバイだ。
『殿下はどこぞの令嬢とデートに出かけるそうです』
「令嬢のお名前を書かなければ、その分時間が稼げるしね」
殿下は悪い人ではない。それだけに、ぜひ幸せになって欲しいと思う。
アデル嬢は賢くて美人で野心家だ。その上、実家も金持ちの侯爵家。アランソン公爵家とは違うパワーバランスで動いていると本人が言っていた。
悪くないんじゃなかろうか。知らんけど。
私は次の日の朝食の時、真剣に殿下に向かって尋ねた。
殿下は例の魔法の絨毯を撤去してくれない。毎朝、朝食を取りに出現するのである。ちょっと心臓に悪いんだけど。
殿下はせき込んで、ナプキンを口に当てた。
彼は私を見つめて、真剣に答えた。
「信じるよ」
「では、その機会が必要だと思いませんか?」
「機会?」
「真実の愛の相手をよりよく知って愛を確かめるとか……」
正直、私には、何をどうしたらいいのかわからないけど。
殿下は、目をまんまるにしてから、突然口元を押さえて横を向いた。
「でも、学内では難しいと思うな」
殿下はしばらくしてから答えた。
「やはり、真実の愛の相手を危険にさらしたくはないですものね」
殿下はやや赤くなってその通りだと答えた。目が物欲しそう。
殿下とは言え、恋人を求める心はあるんだろうな。
二人でよく話し合った結果、王家の馬車ではない車を用意して、学校の外で楽しむことになった。
「当日のデートコースは任せて欲しい」
殿下、意外に意欲的だな。
「真実の愛の相手かどうかを確かめるためのお試しコースですよ? 万人向けの方がいいかもしれません」
私は心からアドバイスした。もう少し、アデル嬢の好みを聞いておけばよかったな。
「安心してくれ」
殿下は自信満々だった。とても嬉しそうだ。顔がニヤけている。よかった。
私も安心して、微笑んだ。
翌日、アデル嬢に会って、詳細を話すと彼女も本当に嬉しそうだった。
「よくやったわ、ポーシャ!」
彼女は褒めてくれた。学校に来てから褒められたことなんか一度もない。めっちゃ嬉しかった。
「後でたっぷり支払うわ」
「ありがとうございます」
侯爵令嬢のお役に立って幸いです。
「ですけど、直ぐにアランソン公爵家の知るところになります。もちろん、殿下が真実の愛を探しているというのが理由になりますけど」
アデル嬢はきらりと目を光らせて答えた。
「大丈夫よ。父のほかに新興貴族の会や商工会にも話を通してある」
賢くて勇敢な令嬢だ。それに美しい。私みたいな平凡顔とはわけが違う。
平凡顔を通り越して、みっともないとそしられたことも多い。
私は私のことが嫌いじゃない。でも、自分の顔は嫌いだ、ほんと言うと。
それは自信と自尊心を削いでいく。特に殿下が美しいだけに、いつだって自信がない。殿下の隣に並ぶ未来は、押しつぶされるような気がする。
街でポーション屋をやる分には、きっと私の顔なんか誰も気にしないだろう。気にするのはポーションの効き目だけだ。
そして、殿下が言うように、いつか結婚するかもしれない。でも、それは似合いの平凡顔の夫がいい。落ち着くから。
デート当日、私は、殿下と打ち合わせた通り、正門ではない使用人用の門に向かった。
殿下と殿下の馬車は、もう準備万端、用意が整っていた。
ちょうどうまい具合に、とてもきれいに着飾ったアデル嬢が現れたところだった。
私はアデル嬢のところにまず駆け寄って、彼女を引き連れて馬車のところに向かった。
「ポーシャ? その女性は誰だ? お前の侍女か?」
アデル嬢の顔がゆがんだ。
「とんでもございません。こちらはリーマン侯爵令嬢のアデル様でございます。出来ることなら、私がアデル様の侍女になりたいくらいでございますよ。平民ですので、そんな夢は叶いませんが。さあ、アデル様」
私はアデル嬢の前に低く頭を下げた。
「こちらの馬車でございます。本日は、おしのびだそうで、王家の馬車でない方が何かと自由で良いという殿下の仰せでございます。それでこのような馬車になっております」
「ポーシャ!」
殿下が怒鳴ったが、私は殿下に向かって言った。
「殿下、真実の愛のお相手は誰だかわかりません。探す必要はあるでしょう、殿下の真実の幸せのために」
私は二人を馬車に詰め込んだ。正確に言うと、殿下は目立たないように先に乗っていたので、アデル嬢を押し込んだだけだが。
そして御者に言った。
「OKです。出かけて」
御者の一声で、馬車はガラガラと動き出し、私は一緒に門の外に出た。
ついでにモンフォール街十八番地に寄ろうと思ったのだ。
「やれやれ。でも、お似合いのおふたりだったなあ……」
事情の説明の手紙はアランソン家に出してある。私は言ってみれば二重スパイのようなものだ。手紙はアランソン家へのアリバイだ。
『殿下はどこぞの令嬢とデートに出かけるそうです』
「令嬢のお名前を書かなければ、その分時間が稼げるしね」
殿下は悪い人ではない。それだけに、ぜひ幸せになって欲しいと思う。
アデル嬢は賢くて美人で野心家だ。その上、実家も金持ちの侯爵家。アランソン公爵家とは違うパワーバランスで動いていると本人が言っていた。
悪くないんじゃなかろうか。知らんけど。
15
お気に入りに追加
1,764
あなたにおすすめの小説
【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。
buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる