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第十三話*

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 ちんぽ、奴隷。
 ちんぽの奴隷。

「……これはひどい」

 チュンチュン、と小鳥のさえずりが窓の外から聞こえていた。差し込む朝日は眩しくて、爛れた情事を消し去るかのように爽やかだ。
 だるい身体を起こし隣で寝息を立てるアレスを横目に、全裸のままベッドに座り込み頭を抱える。

「ああぁぁぁ……」

 絶望的な声が喉から勝手に絞り出た。
 だって。
 だって、こんなの、耐えられない。
 こんなの、こんなの、ひどすぎる……っ。

 ち ん ぽ 奴隷だぞ!

 なんなんだよ、あの言葉責めは!
 性交中のアレスの言語はある意味特殊だ。というか色々とひどい。
 だがもっとひどいのは俺の方だ。
 正にあの後、アレスの精液を飲み干した俺はこのまま終わりなんて信じられないとばかりにあいつのちんぽを丁寧にしゃぶり、亀頭を刺激し、竿を擦りながら「これ……もう一回挿れて中に出して♡」とひどい要求をしたのだ。

『子種が欲しいのか』
『ん♡ ほしい♡ ほしいです♡』
『Ωじゃないのにどこに受け入れるつもりだ』
『ン♡ ン♡ おしり……♡』
『まんこだろ』
『ん♡ お尻まんこれす♡♡』

 ──って、頬染めて言ってんなよ俺!
 最低だ!
 まさしくちんぽの奴隷じゃないか!

「だぁああああっ」
「……うるさい」

 にょき、と太い腕が伸びてきてでっかい手のひらが俺の顔面を覆った。突然のことに目を白黒させた俺は強い力に逆らえずそのままアレス側に倒れ込む。
 全裸大の字で寝ていたこの男、俺の頭を抱えながらそのままスヤスヤと寝息を立て始め、妙な体勢になった俺はモガモガと太い腕から逃れようと暴れた。
 αって本当に長身で、その上こいつ勇者だからかすごい筋肉で俺とは体格が違いすぎるんだよ。やってる時もそうだけど、俺を抱えて移動することもいつも屁でもなさそうだし、今だって手のひらの大きさに少し驚いた。
 こうして見ると同じ男なのに、そもそもが違いすぎる。特にこいつ、着痩せするのか一見すると長身痩躯なのにいざ脱いだら結構分厚いし、なのに分厚すぎなくて締まっていて、敵と戦うときのあの俊敏性も頷けるような身体をしている。
 顔だって整っているし、新聞では勇者の花嫁候補とか女優が勇者を口説いているとか、Ωはみな彼等に夢中、とかそんな記事が多くあった。
 αの中でもエリート軍団で、更に頂点の勇者だ。実質こいつは俺みたいな一般人βとは口もきけないような立場なんだ。
 そんな男が、連日俺の尻に呪文を唱えていて、挙げ句の果てにはβと性交に耽る……。
 不憫だ。
 不憫すぎる。
 頬杖をつきながらなんとなしに勇者の寝顔を見つめながら溜め息をつく。
 起きているときは気まずさが多くてろくに目を合わせることもしないし会話だってほぼない俺たち。ちんぽのでかさとどこが性感帯とかそんなことは知り尽くしてるのに、変な話だ。

 そう言えば俺、今日はそんなに身体が重くない。
 大体こうやって勇者の寝顔を見るのも初めてなのは、こいつとした後は気絶するように疲労から長時間眠っていることが多いからだ。
 目を覚ましたときにアレスがいたことなんて一度もなくて、そもそも俺が先に目覚めるなんて今まで無かった。

「……ていうか、何時間してた?」

 少しの違和感に、考える。
 発情期を引き起こしたアレスにはじめて組み敷かれたときは、丸一日以上経っていたと後から聞かされた。それだって仲間達が合流して俺たちを引き離したおかげだ。あのままだったらそれ以上やっていてもおかしくはない。
 二度目は俺の偽発情期だったからか、数日籠もってやりまくっていた。三日は確実にやっていただろうな。覚えているのはちんぽを挿入されて中出しされて言葉にならないほど満たされた感覚がしたことだ。
 Ωって、いつもあんな思いをしているのだろうか。
 だとしたら本当に大変だ。

「そして今日はたぶん、そんなに時間が経っていない……」

 解除呪文を唱えるようになってからアレスとこうなるのは、片手で収まる程度だがある。段々呪文を唱える時間も長くなっているような気がするし、万が一ぶっ飛んだあと性交に耽る時間もなんだか短くなってる気がする。
 ──耐える訓練をするしかない。
 以前のアレスの言葉を思い出す。
 偽フェロモンにも慣れてきて、アレスの解除呪文が長く唱えられるようになってきているとしたら、俺たちのこの意味不明な関係も消え去るわけだ。
 ちんぽ奴隷から、ただの奴隷に……いやちがう、一般人βに戻れるわけだ。

「にしたってコイツ、最低すぎだろ」

 俺だって好きでこんな風になっているわけじゃない。そんな相手を捕まえて、ちんぽ奴隷なんて愚弄しまくって、最低すぎる。
 けど。
 もしかしてフェロモンに屈するのって、こういうことなのか。

 確かに俺は今まで真剣にαやΩのことを考えたことすら無かった。彼等は希少種で魔法を使える。それ故に言葉にしないまでも大多数の人口であるβを格下に見ているような気配は感じていたし、実際そういった扱いをされることも少なくなかった。
 実家が宿屋なだけあって、世界中の人間を多少なりとも見てきたわけだが、αやΩは大抵俺の想像通りの人間が多いせいもあった。
 だが彼等が俺たちを格下に見ているように、βも彼等を軽蔑している部分があったのは事実だ。
 発情期。
 所構わず腰を振り、気が済むまで性交に耽る獣のような種族。こんな風に相手を誘って四六時中性交に耽り、子を作る。
 大変だ、不公平だ、配慮すべきだ。
 そんなことを言われていても、それでも、おまえたちには魔法が使えるからいいじゃないか、って。
 その衝動を彼等がどれほど負担に思い嫌悪していようとも、その恩恵があるからいいだろって、そう思っていた。
 でも、不本意ながらΩの発情期を経験した今ならわかる。
 魔法が使えるからなんだよって。フェロモンとかつがいとか、誰がこんなの好き好んで選ぶんだろうって。
 実際俺とアレスはまともに口をきいたこともないような間柄だったのに、発情フェロモンでがっつり性交してしまったわけだ。おまけに俺がβだったから良かったものの、アレスは初日であっさり俺のうなじを噛んできたし。これがΩだったらあっさりつがいにされていた。
 冷静に考えればこんなに恐ろしいことはない。つがいだけじゃなく、Ωは妊娠するんだぞ。
 理不尽と言ってもいいこの仕組みに、たしかに、黒王がこじらせるのもわかる気はする。
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