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第四話
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「……嘘だろ」
「くそっ、βだから許してたのに結局これか! やはりお前の同行を許すべきじゃなかったんだ!」
ぶつぶつアレスが文句を言っているが、俺はもうそんなことどうでもよかった。
このままこいつとここにいれば、俺に被害がくるのでは?
黒王はアレスを陥れるために俺に細工をしたのだ。
だって、βの俺がΩになんかなるわけがない。
なのにフェロモンが出ているとしたら、それは……。
慌てて俺は自分の身体を確認する。以前、なにかで耳にしたのを思い出したからだ。
遙か昔、偉大なαの魔法使いが、闇に堕ちて禁断の術を作り上げた。それは、いわば他人を何かに変える呪いで、その術を有効にするためには対象の肉体に直接術式を刻むのだと。
解くためにはその魔法使いと同等かそれ以上の力を持つ者が、刻まれた傷を修復する……。
俺は無言で自分の着ていたものを剥ぐように捲り上げた。腹、胸、二の腕の裏、すべて何もないのを確認してズボンに手をかける。
「なにをして……っ」
アレスの声が遠くでしたが、勢いよくズボンを脱いだ俺にはどうでもよかった。太もも、ふくらはぎ、ブーツを脱いだ足の裏。
どこにも、刻まれたような術式の痕はない。
それなら、あとは……。
「おい役立たず! いきなり脱ぎだして一体なにを……っ、う」
は、と我に返ってアレスを見遣る。
服を脱いだ俺を血走った目で見ながら、それでも彼は鼻と口を腕で覆っている。その様は先程よりあからさまにつらそうだ。
もしかして服を脱いだ方が余計に匂うのか……?
一瞬やめようかと迷ったが、すぐに考え直す。
だとしても、俺には他に選択肢などない。この状況を打破できる方法があるとすれば、こいつの魔法で俺から出ているフェロモンを解いて元に戻し、この妙な仕掛けのダンジョンから一刻も早く抜け出すことだ。
──βに仕込んだフェロモンを鎮めないとこのダンジョンは閉じられたままだと。
アレスが先程言った言葉が真実ならば。
下着まで手をかけて、はっとなって動きを止める。ひとまずそのまま下着を引っ張ってアレスから見えないように上から中を確認した。
「ここにも、ない」
「……、説明しろ役立たず!」
「……うるせえクソ勇者! 昔聞いたことがあるんだよ、他人に呪いをかけるなら、対象の肌に術式が刻まれている、と! それさえ消せれば、こんな……っ」
「どういうことだ」
「……たぶん、多分だ。俺は呪いをかけられた。Ωのフェロモンを出す、とかそんな類いの」
「ふざけるな、そんなの可能なものか!」
「じゃあどうやってこの状況を説明する! 言っておくが俺は生まれてこの方ずっとβで、両親も親戚も孫までβが確定してるんだ! なぜならβからお前等みたいなのは逆立ちしたって生まれないからな! じゃあどうして俺からΩのフェロモンが出てるのかって? そんなものは呪いに決まってるからだ!」
「……っ」
「だが俺が自分で確認出来る場所にはその術式はない! おいクソ勇者! 今から俺は後ろを向くから、お前が確認しろ!」
叫ぶと、勇者が息を呑んだ。
その反応もそこそこに、俺は勇者に背を向けて、まずは上に着ていたものを脱ぐ。
「なにかあるか?!」
「……いや、ない」
「……くそっ」
それならあとは尻しかない。
躊躇していても仕方ない。むかつく勇者に尻を見せるのは屈辱以外の何物でも無いが、この際そんなことも言ってられまい。
俺は次に下着に手をかけ、そろそろと太ももまでずらした。
「どうだ!」
言ってから、尻なら自分で確認できることに気付いて、思わず頬が赤くなる。
馬鹿か俺! 焦りすぎだ!
慌てて振り向き見下ろした先には、黒い紋様がはっきりと右臀部に広がっているのがわかり、息を呑んだ。
呪いの術式は、まるでそこに一輪の美しい花が花開いたような、美しい紋様だった。花弁の部分を凝視していると赤く腫れ上がっている自分の肌が確認できる。
本当に、直接刻まれたのだ。呪いを、俺の肌に。
なのに俺はまったく気付かずに、勇者の元へ戻された。
「なんだよ、これ……っ」
情けなさに声が震えた。
今になって、俺たちが立ち向かっている相手がどれほど強力な相手なのか、実感できたような気がした。
俺は非力で無力なβだ。魔法など出すことも出来ず、驚異的な身体能力もない。
けれど発情期などなくて、フェロモンに振り回される人生を歩む必要もないのだ。
「……おい、お前は勇者なんだろ! αの頂点なら、こんな呪い、解けるんだろ! 今すぐに俺を戻してくれ!」
叫んだ瞬間に、ふ、と自分のすぐ間近に影が降りて、驚いて後退る。
アレスが、いつの間にか目の前にいた。
血走った瞳で無表情に俺を見下ろして、そして──。
「だから、役立たずは嫌いなんだ」
という呟きと共に、俺の背後に覆い被さって、腕を掴む。
そのまま、俺のうなじに歯を立てた。
「ああああっ……!」
痛みと恐怖で逃れようと踏み出した俺の上に、アレスがのしかかる。
その重みで二人とも地面に倒れ込んで、両膝が尋常じゃない痛みを走らせた。
だが、俺はもう恐怖でそれどころではなく、もがいた。
アレスが噛みついている。俺の首の後ろを、容赦ない力で噛んでいる。
燃えるようにそこが熱くて、痛くて、逃げようと這い上がった。なのにそれをアレスの腕が引き寄せる。剥き出しの腹を掴まれ、まるで自分のものだというように。
「や、やめろっ!」
ぼたぼたと首筋から流れる血が、地面を濡らした。
痛い。痛い。
なのにアレスは俺の尻を掴んで、腫れ上がった紋様を親指の腹で撫でて、「すぐに孕ませてやるからな」と言う。
「っちがう、ちがうちがう、アレス! これは呪いだ、お前がすべきことは俺の呪いを解くことだ! 目を覚ませ!」
「うう……ぅ……っく、そ……こんな魔術、俺にかかれば……っ」
俺の必死な声に我に返ったかのような声がして、安堵した。
そうして尻肉の親指にぎゅ、と力を入れられる。聞き取れないほどの声で、なにかを紡ぐアレス。
呪文だ。魔法だ。
そうだ、そのまま俺を──。
「ひあっ!」
なのに、アレスは俺の尻の間に顔を埋めた。
そう、紛うことなく、俺の尻の割れ目に。
「くそっ、βだから許してたのに結局これか! やはりお前の同行を許すべきじゃなかったんだ!」
ぶつぶつアレスが文句を言っているが、俺はもうそんなことどうでもよかった。
このままこいつとここにいれば、俺に被害がくるのでは?
黒王はアレスを陥れるために俺に細工をしたのだ。
だって、βの俺がΩになんかなるわけがない。
なのにフェロモンが出ているとしたら、それは……。
慌てて俺は自分の身体を確認する。以前、なにかで耳にしたのを思い出したからだ。
遙か昔、偉大なαの魔法使いが、闇に堕ちて禁断の術を作り上げた。それは、いわば他人を何かに変える呪いで、その術を有効にするためには対象の肉体に直接術式を刻むのだと。
解くためにはその魔法使いと同等かそれ以上の力を持つ者が、刻まれた傷を修復する……。
俺は無言で自分の着ていたものを剥ぐように捲り上げた。腹、胸、二の腕の裏、すべて何もないのを確認してズボンに手をかける。
「なにをして……っ」
アレスの声が遠くでしたが、勢いよくズボンを脱いだ俺にはどうでもよかった。太もも、ふくらはぎ、ブーツを脱いだ足の裏。
どこにも、刻まれたような術式の痕はない。
それなら、あとは……。
「おい役立たず! いきなり脱ぎだして一体なにを……っ、う」
は、と我に返ってアレスを見遣る。
服を脱いだ俺を血走った目で見ながら、それでも彼は鼻と口を腕で覆っている。その様は先程よりあからさまにつらそうだ。
もしかして服を脱いだ方が余計に匂うのか……?
一瞬やめようかと迷ったが、すぐに考え直す。
だとしても、俺には他に選択肢などない。この状況を打破できる方法があるとすれば、こいつの魔法で俺から出ているフェロモンを解いて元に戻し、この妙な仕掛けのダンジョンから一刻も早く抜け出すことだ。
──βに仕込んだフェロモンを鎮めないとこのダンジョンは閉じられたままだと。
アレスが先程言った言葉が真実ならば。
下着まで手をかけて、はっとなって動きを止める。ひとまずそのまま下着を引っ張ってアレスから見えないように上から中を確認した。
「ここにも、ない」
「……、説明しろ役立たず!」
「……うるせえクソ勇者! 昔聞いたことがあるんだよ、他人に呪いをかけるなら、対象の肌に術式が刻まれている、と! それさえ消せれば、こんな……っ」
「どういうことだ」
「……たぶん、多分だ。俺は呪いをかけられた。Ωのフェロモンを出す、とかそんな類いの」
「ふざけるな、そんなの可能なものか!」
「じゃあどうやってこの状況を説明する! 言っておくが俺は生まれてこの方ずっとβで、両親も親戚も孫までβが確定してるんだ! なぜならβからお前等みたいなのは逆立ちしたって生まれないからな! じゃあどうして俺からΩのフェロモンが出てるのかって? そんなものは呪いに決まってるからだ!」
「……っ」
「だが俺が自分で確認出来る場所にはその術式はない! おいクソ勇者! 今から俺は後ろを向くから、お前が確認しろ!」
叫ぶと、勇者が息を呑んだ。
その反応もそこそこに、俺は勇者に背を向けて、まずは上に着ていたものを脱ぐ。
「なにかあるか?!」
「……いや、ない」
「……くそっ」
それならあとは尻しかない。
躊躇していても仕方ない。むかつく勇者に尻を見せるのは屈辱以外の何物でも無いが、この際そんなことも言ってられまい。
俺は次に下着に手をかけ、そろそろと太ももまでずらした。
「どうだ!」
言ってから、尻なら自分で確認できることに気付いて、思わず頬が赤くなる。
馬鹿か俺! 焦りすぎだ!
慌てて振り向き見下ろした先には、黒い紋様がはっきりと右臀部に広がっているのがわかり、息を呑んだ。
呪いの術式は、まるでそこに一輪の美しい花が花開いたような、美しい紋様だった。花弁の部分を凝視していると赤く腫れ上がっている自分の肌が確認できる。
本当に、直接刻まれたのだ。呪いを、俺の肌に。
なのに俺はまったく気付かずに、勇者の元へ戻された。
「なんだよ、これ……っ」
情けなさに声が震えた。
今になって、俺たちが立ち向かっている相手がどれほど強力な相手なのか、実感できたような気がした。
俺は非力で無力なβだ。魔法など出すことも出来ず、驚異的な身体能力もない。
けれど発情期などなくて、フェロモンに振り回される人生を歩む必要もないのだ。
「……おい、お前は勇者なんだろ! αの頂点なら、こんな呪い、解けるんだろ! 今すぐに俺を戻してくれ!」
叫んだ瞬間に、ふ、と自分のすぐ間近に影が降りて、驚いて後退る。
アレスが、いつの間にか目の前にいた。
血走った瞳で無表情に俺を見下ろして、そして──。
「だから、役立たずは嫌いなんだ」
という呟きと共に、俺の背後に覆い被さって、腕を掴む。
そのまま、俺のうなじに歯を立てた。
「ああああっ……!」
痛みと恐怖で逃れようと踏み出した俺の上に、アレスがのしかかる。
その重みで二人とも地面に倒れ込んで、両膝が尋常じゃない痛みを走らせた。
だが、俺はもう恐怖でそれどころではなく、もがいた。
アレスが噛みついている。俺の首の後ろを、容赦ない力で噛んでいる。
燃えるようにそこが熱くて、痛くて、逃げようと這い上がった。なのにそれをアレスの腕が引き寄せる。剥き出しの腹を掴まれ、まるで自分のものだというように。
「や、やめろっ!」
ぼたぼたと首筋から流れる血が、地面を濡らした。
痛い。痛い。
なのにアレスは俺の尻を掴んで、腫れ上がった紋様を親指の腹で撫でて、「すぐに孕ませてやるからな」と言う。
「っちがう、ちがうちがう、アレス! これは呪いだ、お前がすべきことは俺の呪いを解くことだ! 目を覚ませ!」
「うう……ぅ……っく、そ……こんな魔術、俺にかかれば……っ」
俺の必死な声に我に返ったかのような声がして、安堵した。
そうして尻肉の親指にぎゅ、と力を入れられる。聞き取れないほどの声で、なにかを紡ぐアレス。
呪文だ。魔法だ。
そうだ、そのまま俺を──。
「ひあっ!」
なのに、アレスは俺の尻の間に顔を埋めた。
そう、紛うことなく、俺の尻の割れ目に。
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