黒祓いがそれを知るまで

星井

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絆と傷と明日と眠り

42*

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「い、痛い……っ」

 叫んだ俺の声は思った以上に小さく掠れていて、我ながら虫の息だと実感した。
 このままでは殺されてしまう。
 本気で身の危険を感じてアーシュの腕を力なく叩き、エンリィを振り返るけど二人とも目が合う事もない。
 エンリィはアーシュの動向をじっと見ているし、アーシュも結合部を見下ろしたまま指を増やしていく。

 次の指が増やされた時、あまりの痛みに叫ぶが、冷静に油を足されてマッサージをするように内部を伸ばされた。徐々に指を広げていくアーシュに泣きながらやめて欲しいと懇願をするが、彼の指は止まらない。
 じんじんと熱を持ったそこが痛いのか気持ちいいのか最早全然分からなくて、それでも萎えたままだったはずの中のエンリィが徐々に固くなっていく感触がして、内部が更にいっぱいになっていく。

「……あーしゅ、あーしゅ……! 痛い……こわい……って……!」

 どうにかやめてほしくて本気で泣き始めた俺に、一度二人が動きを止めてじっと見ていた。一瞬の間をおいて、アーシュがそこから指を引き抜く。
 ああ、助かった。
 と思った次にはアーシュが無言で自身の下着を下ろす様子に目を瞠り唇を震わせる。

「……ぅそ、うそうそうそ……っ! やだって……や───っ!!!」

 ただでさえエンリィのものでいっぱいなそこに、アーシュの凶悪なものが押し付けられる。
 そうしてゆっくりグ、と腰を進めてきた彼の腕に両手を置いて引き離そうとしても、それは抵抗にも入らぬ動きだったようだった。

「……っく」
「あに、うえ」

 痛いのは俺だけではないのだろうか。
 声も出ずに喉を仰け反らせる俺をアーシュが見下ろして、半開きの唇を優しく食んでくる。
 宥めるような動きにすらもがいて首を振る俺は、内部が無理矢理広げられていく感覚にこのまま身が割けるんじゃないかと恐怖した。
 熱い。痛い。苦しい。裂ける。

「……ぃた……い……痛いよぉ……っやめて……お願い。おねが……っ」

 ボロボロ零れる涙もそのままに、アーシュの腕を力の入らない拳で叩く。そんな俺をしっかりと抱き込んだエンリィが涙で濡れた頬にくちづけを落としていく。
 だが俺はそれすら気付かずに、下腹部の痛みにすべての気を取られていた。
 こんなに必死に頼んでいるのに、どうして二人はやめてくれないのだろうか。

「……これだけ力が入っていなければ、いけると思ったんだがな……」
「兄上、本当に鬼畜ですね」

 ぼそぼそと喋る兄弟に終わったら絶対許さんと誓いながら、兎に角やめてほしいと哀願していれば、アーシュがじわじわと進めていた腰を止めた。

「……ここまでだな」
「きっつ……。大丈夫かナツヤ?」

 どうやら亀頭部分だけ飲み込んだらしいそこは、今にもはち切れそうなつっぱり具合で、すべて飲み込んでいるエンリィが少し腰を揺らすだけで衝撃が走る。
 広げられた箇所が燃えるように熱かった。力を抜いても本能的に排除しようと締める動きをするせいでピリピリと痛み、力を入れても許容範囲を超えたそこは変わらずに痛みを与える。
 どうやっても逃れられない痛みにはくはくと呼吸を荒らげ耐える俺に、二人はどこか満足気な声音で言う。

「可愛い……ナツヤ」
「……惜しいが……仕方ない」

 ぼやけるアーシュの顔を見上げれば、慈しむような眼差しと目が合った。
 その表情に許されたのかとどこか安心して、アーシュの身が離れるのを待つのに、何故かその時が一向に来る気配もなく再度アーシュを見上げる。

「……もう少し」
「アーシュ……っ!」

 掠れた声で叫んだのとアーシュがほんの僅かに腰を引いたのは同時だった。
 先端部分だけ飲み込んだそこがずりずりと引き攣れてアーシュのものを追いかけていく。殆ど動いていないはずのその刺激にすら鋭く襲う痛みに、恥も外聞もなく泣き叫んだ。

「やめ……ゃめて、壊れる……っ」
「……大丈夫だ」
「うそ……嘘、痛い……っ! ……壊れちゃうっ……お尻、こわれちゃうから……っ」

 はぁ、と熱い吐息が首筋にかかり、どうにか逃げようとする俺にエンリィが囁く。

「ナツヤは酷いことされると凄く可愛いんだな……」

 泣いている俺をよそに二人は暫く僅かに腰を揺らして体内から出ないように中の感触を愉しんでいるようだった。
 だが限界まで広げられたそこと痛がる俺を見てさすがの二人も諦めたのだろう。
 年甲斐もなく泣き叫ぶ俺に漸く憐れみを感じたのか、アーシュが小さく溜め息を吐いてゆっくりと身を引いていく。

「……ん……はっ……」

 ちゅぽん、と追い出すように離れる男根は凶悪な大きさと長さで硬いままだ。碌に動いても無かったし極めるほどの快楽を味わっていないアーシュは、不満げな表情で繋がる俺たちを見ている。
 怖くて痛かった先程までの行為から解放されたことに安心しきっていた俺は、解放してくれたアーシュに感謝までしたい気分だった。冷静に考えればそんなもの間違っているんだが。

「アーシュ……」

 呟いて口を開ければ、ふ、と彼が口許を緩める。
 舌を突き出した俺の合図はすぐに伝わったのだろう。エンリィが凭れ掛かったままの俺の背を押して四つん這いにさせる。

「あ……駄目か」

 けれど俺の身体は軟体動物かのようにぐでぐでで、力が一切入らない。
 膝を立たせようとエンリィが手伝ってくれてもそんな力も残されていない俺を見て、思いついたかのようにそのままずりずり腰を持たれて後ろに下げられた。
 一度身体を離したエンリィは、ベッド下に立ち上がり、俺の下半身を同じように下ろした。かろうじて足がつく体勢にされそのまま腰をもたれ、再度挿入してくる。
 上半身だけベッドに預けている俺の顔に、アーシュが下腹部を寄せて当然のようにその勃ち上がったものを押し付ける。抵抗もせず口を開けて舌を這わす俺の頭を優しく撫でられた。
 大きく出っ張ったカリに舌先を這わせて、裏筋を丁寧に舐め上げる。だがもうその行為ですら疲労で緩慢な動きにしかならなくて、もどかしさからかアーシュが俺の顎を指で開かせた。

「うン……ッ」

 口内に侵入するこの規格外に大きいものがほんの少しでも二本も入っただなんて、俺の尻はもう手遅れなのではないだろうか。
 朦朧とする意識の中でそんな事を思って、遠慮もなく突き入れられる前後のものにされるがままになる俺をこの兄弟はそれでも躊躇なく動いている。
 死んじゃいそう……。

「はっ……はっ」
「ぐ……ゥ、ン……ッ……ン」

 背後のエンリィの動きと共に上下に揺れる動きで口内も同じ様に犯されて、苦しさだけではなく性懲りもなく高まる身体が快楽を器用に拾い上げていく。
 自分のマゾ気質にほんの少しうんざりしながらも、痛みを伴わない二人のぬくもりにただ安心して身体を預けた。

「も、出るっ……」

 低く呻いたエンリィが最奥を抉りビクビクと内部が蠢くのが自分でも分かった。
 擦られる敏感な部分が規則正しいリズムに侵され意思に反して身体が痙攣する。脈打つエンリィのものから出る液体が内部の壁に当たり何とも言えぬ気分に陥った。
 そんなものにすらどうしようもなく感じて頭が真っ白になり、沼底に入り込むような絶頂に喘ぐ俺の口からアーシュがずるりと出て行った。
 口の端から涎が垂れて、それを拭いたいのに腕すら動かない。ガクガク震える脚はエンリィに持ち上げられているからまだ体勢を保っていたが、その腕が離れて身体を離された瞬間にぺたんと床に座り込んだ。

「ナツ」

 短く呼ぶ声はアーシュのものだ。中途半端に出て行った欲望を鎮めるために弟と入れ替わり、俺の身体をベッドに運ぶ。
 ふにゃふにゃの俺にアーシュは端から体位を決めていたようで、彼は一度胡坐をかくように座り、俺を自分の男根の上に座らせた。ぐちゅりと入る衝撃に震える俺の背をアーシュに預ければ、そのまま二人ベッドへ背を沈める。
 寝っ転がった状態で繋がる俺たちの目の前に、エンリィが座っている。
 知らずに脚を閉じようとしたのだろう。アーシュがそれを許さないとでも言うように自分の両膝に俺の脚をかけまるで見せつけるように開かせた。

「……お前のいやらしい姿、よく見て貰おうか」

 やっぱり。

「……ァ、あ、あっ……!」

 精液と潤滑油だらけのそこが、ばちゅばちゅと音を立てて責め立てられる。
 俺の視界は揺れる天井だが、室内はいつの間にか白み始めた窓の外のおかげで暗くはない。
 カーテン、開いたままだ……。

「……凄い……兄上のでいっぱいなのに……さっきは私のも入ってたなんて……」

 ぼそぼそと呟くエンリィの声が聞こえ、俺は一瞬身を強張らせた。この体勢ではエンリィの姿が見えない。なので完全に油断していたが、言葉通りならば彼は足元で繋がる俺たちをしっかりと見ているのだろう。

「ひっ……ぁ、見るな……!」
「……そんな格好しておいて無理があるだろう。……小さな穴なのに……ああ、少し赤くなってる。さっきのあれのせいか……?」
「や、やめ」
「ん……締まるな。見られると感じるのか」

 違う! 断固として違う!

「泡立ってて……卑猥すぎる……。体格差もそうだけど、ナツヤってなんか……線が細いから兄上相手だと余計にこう……」

 ええい、実況するな!

 叫んで止めたいのに、俺から出る声は言葉にならないバカみたいな喘ぎ声だけで、その上逃げられもしない使えない身体のせいで遠慮なく突き上げるアーシュに人形のようにされるがままだった。
 何もかももう、限界だった。
 だらんと投げ出された腕と足が揺れて、萎えたままの中心も動きに合わせてふるふると上下している。
 なのに内部はアーシュの突き上げを悦び震えて、すべて飲み込もうと蠢いていた。

「ぁ、ア──……ッ」

 小さく掠れた声が遠くで聞こえて、まるで死にゆく人間のようだと思った。
 ぞくぞくとした快感が背筋を走り、内部が歓喜に戦慄いた。
 えぐられて突かれて乱暴にされて見られて……、それなのにどうしようもなく感じて絶頂が容赦なく全身を襲う。
 くるしい、たすけて。
 もう、気持ち良くなりたくない。放して欲しい。

 俺の言葉はちゃんと音として放たれたのだろうか。
 それすらも分からず、幕を引くように暗くなった視界と同時に意識をも暗闇に持っていかれるのが分かる。
 
 俺が覚えてるのはここまでだった。


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