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癒やされしもの
33*
しおりを挟むひとりなのを理解していても、寂しさを埋めるために誰かに縋る。そんな矛盾した自分にもうんざりしながら、そうやって生きていく事を否定するつもりもない。
だからこそ今日は誰かに慰めて貰おうとどこかで考えていた。今までだってそうしてきたからだ。
なのに。
自室の部屋の明かりが扉の隙間から漏れているのに気付き、俺は足を止めた。
消し忘れただけなら、それがいい。でももし違っていたら……。
入らない訳にもいかず、一瞬躊躇してそしてドアノブに手をかける。
「……ナツヤ! おかえり」
案の定、慌てて駆け寄ったエンリィが俺を見て安堵したような笑みを浮かべた。
俺はそれに言葉を失くして立ち尽くす。くすぐったい様な、何とも言えぬ感情が湧いてきて、どうしたらいいのか戸惑い視線を彷徨わせた。
エンリィはそんな俺を不思議そうに見下ろし、そうして真顔に戻る。
「どうした? やはり、辛かったか?」
つらかった。
その言葉に息を呑んで、慌てて首を横に振り笑った。
エンリィがそんな言葉を言うのに何の躊躇いもないのは、彼が弱さを弱味だと思っていないからだろうか。
真っ直ぐで、正直で、他人を思い遣れる男。傷は開くものではなく、癒やすものだと信じている。
「……疲れたよ」
顔を上げて肩を竦めて、エンリィから目を逸らす。そのままシャワーを浴びる為タオルを取り出す俺にエンリィは何も言わずにいた。
「……シャワー浴びて寝るからもう帰れ、な?」
静かに言うと、エンリィは聞いているのか分からぬ生返事を寄越した。そのまま視線を背に感じながらパタンと風呂のドアを閉める。
こいつに頼るわけにはいかない。それだけは分かっている。
蛇口を捻り、ぬるい湯にあたりながら消えていった真我を思い浮かべる。
姿を消した迫間の者は、真我の消滅と共に納得できたのだろうか。二度食われると言う事が更に無念を募らせるのならば、未だに此処にいても不思議じゃない。
けれど彼等はいなくなった。ゾっとするような悪寒はなくなり、かといって晴れたような気持ちも湧かない。真我に食われた霊は食われた瞬間に、消滅するのか。
だとしたらやはり、シンディの両親は真我になった? 最後に見たのが俺の願望じゃないんだとしたら、彼等は子どもと共に上へ昇れたはずだ。
その違いは一体何なのだろう。
「……はぁ」
埒が明かぬ事を考えても仕方ない。気を取り直し手早く全身を洗う。そうしながらも碌に会話も出来ずにいたアーシュを思い出した。仕事に追われ、家族もいるあいつに何から何まで世話になるわけにもいかない。
やめたやめた!
首を振ってマイナス思考を振り払うように、俺はシャワーを止めて勢いよく風呂を出た。扉にかかっているタオルを手にし、そこで漸く人の気配に気付く。
「って、まだいんのかよ!」
思わず叫んだ俺に、エンリィは顔を真っ赤にして震えている。
そうしていつもの癖で全裸のまま出てきたことに思い当たり、苛立つ感情のまま口を開く。
「見てんなよえっち! 今すぐ出てけバーカ!」
ケッと悪態をつき、後ろを向いてガシガシと髪を拭き身体を拭く。
帰れって言ったのが聞こえなかったのか? こちらとら今はクソガキに付き合っている余裕はない。
憤慨しながら水気を拭っていると、出て行く音もしないのでハア、と溜め息を吐く。
振り返れば相変わらずエンリィはこちらを凝視していて、だがほんのり赤みを帯びた頬はそれだけではない感情を露わにしていた。
「……なんなのお前」
「放っておけない」
じっと俺を見つめながら、エンリィは言う。
「……帰れって言っただろ。今はお前と話したくないんだよ」
「でも、今のナツヤを放っては置けない」
「俺がいいって言ってるんだからいいんだよ。ほら、さっさと帰れ」
「断る」
くそ、と呟き、微動だにしないエンリィの元へ仕方なく近寄る。怒りをそのままにタオルはその辺に投げ捨てた。
こいつに分からせるつもりだった。
俺は今、他人と話したくない。だが大人の事情があるんだと。
「ならお前が俺を慰める? こんな日は酒だけじゃ足りない」
「……あなたがそれで気が済むなら」
返答にぎり、と歯を噛みしめた俺はエンリィの胸倉を掴んで引き寄せる。
数十センチほどの身長差の俺達は口づけなど容易だ。エンリィは近付く俺の唇をじっと見つめ、塞がれてもそのままだった。
その視線を受け止めながら、歯列を割り、彼の舌を舐めて遠慮がちに動くそれを追ってやる。絡めとり吸って、角度を変えて深く入り込むように。
正面の桃紫色の瞳が潤み、瞬きが多くなる。長い金色の睫毛が微かに震えていた。
「……ン……ッ……む……」
はあはあと息継ぎをしながら、更にエンリィに密着すれば下腹部にあたるその感触に気付く。
主張し始めたエンリィのその熱さに、は、と我に返って慌てて身体を離した。
「……ナツヤ?」
「……いや、もうお前帰れ」
穢れていない彼の身体を奪う事に躊躇いがあった。
俺は悪い大人で、卑屈な面倒臭いおっさんだ。一時の欲望でエンリィが大切にしていた気持ちを奪う気にはならなかった。
これがエンリィじゃなきゃ躊躇わずに食ってたんだけどな。
そう思う自分に首を傾げながら、床に放り投げたタオルを拾う。
「私が帰ったら、誰かの元へ行くんだろう?」
「……あ?」
そうはさせない、と言ったエンリィがいつの間にか距離を詰めてきて思わず後退る。
狭い室内で逃げ場など殆どなく、結局ベッドまで追いつめられぽすんと腰を下ろした。
その俺に覆いかぶさるようにエンリィが有無を言わせぬ勢いで押し倒してくるのはあっという間だった。
「……やめろエンリィ。お前とはやれない」
「なぜだ、私はしたい。ナツヤは誰かに抱かれたいんだろ?」
「……お前は純潔なんだろ。ならその純潔を大事にしろよ」
首筋を舐めてくるエンリィの金髪をぐぐぐ、と掴み、動きを止めようとするがエンリィは気にした素振りもなく、くぐもった声で答える。
「何も分かってないな。ナツヤが初めての相手なら、こんなに嬉しい事はない。そしてナツヤもそんな気分なら、丁度いいだろう?」
「けど……」
「ナツヤ。私はあなたがいいと言っているんだ」
じ、とその瞳が俺を見下ろし切なげに眉を寄せてエンリィが言った。
本気なんだと嫌でも分かる声音と表情に、言葉を詰まらせて唾を飲み込む。
こいつは、真っ直ぐなのだ。
どこまでも真っ直ぐで、そんな自分を誇っているのだ。
「……後悔しないんだな」
「するわけないだろう」
王子らしい言葉を吐いたエンリィに、俺も覚悟を決める。
なら、遠慮なんかしない。
「覚悟しろよ童貞」
「……へ」
ぐい、とエンリィの後頭部を掴んで引き剥がし肩を押してエンリィと体勢を入れ替える。素肌に当たるエンリィの服が邪魔で、貪るようにくちづけをしながら脱がしにかかった。
目を白黒させ、されるがままのエンリィに口角を緩め、この状況に兆してきた熱に逆らう事も出来ず、攻める手を止めない。
隊服姿ではなく私服のエンリィは、一度部屋に戻ったのだろう。
緩いシャツは腕を上げさせ簡単に脱がせられる。そうして下のラフなズボンを見て、俺はベッドからはみ出た脚の間に跪いた。
「シャワー浴びてきたのか?」
「……あ、ああ。ナツヤが出てる間に」
ふうん、と答え、ベッドの下に降りた俺をエンリィが追うように身を起こした。
そうして己の脚の間に入っている俺に心底驚いたようで狼狽したような声を出す。
「……ビビりすぎだろ。フェラすんのこれで二度目だぞ」
「だ、だって……」
耐えられない、とでも言うように片手で目元を覆ったエンリィを見上げ、次には目を伏せてズボンの端を歯でずり下げてやる。
童貞が夢見るシチュエーションだろう。死ねばいい。
「……ふ……ぁ」
少し下ろしただけのそこから覗く、下着の中で既に固く主張しているエンリィのものにそのまま舌を這わせる。
れろ、と裏筋を辿り歯で挟むように顔を横に向けてそれを優しく食んでやった。
びく、とエンリィの鍛えられた腹筋が小さく震える。
鼻を埋めはむはむと優しく食みながら、時折舌を這わす俺の愛撫に両手をベッドについたエンリィは荒い息を上げていた。完璧に勃ち上がったそれが下着から顔を出すのに、露出した先端部分に唇をつけて舌で愛撫しキスをしてやれば、びくびくと切なげに震えたそこから、あっさりと白い液体が噴出した。
「……んっ」
「はぁっ……は……っ……ナツヤ」
残りをこぼすのは勿体ないとでも言うように、先端を口に含んで更に出る液体を全部吸い取ってやる。じゅるじゅると音を立て、尿道口を舐め回し、震える男根を下品に啜った。
「あぁ……っ」
か細いエンリィの声が色っぽく室内に響く。
ちゅぽ、と口を離した俺は立ち上がり肩で息をしているエンリィに見せつけるように口に含んだ精液を自分の手のひらに出してやった。
「ナツヤ」
「さすが童貞、早いし濃いなぁ……。……童貞はオナニーもあんまりしないのか?」
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