黒祓いがそれを知るまで

星井

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恋しい男

10*

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 そうこうしているうちに、イーニアスが跪いたままアーシュの足の間に身体をねじ込ませ、躊躇いもせず隊服のズボンのチャックを下ろす。
 その行動力に舌を巻いたのは俺だ。
 純粋な恋心を想像して協力したのに、なんだこの肉欲に塗れた状態は!
 やめろやめろと思いながら、下着の中に隠れていたその男根を見て目が釘付けになる。

「……凄い……かっこいい……」

 ごくりと唾を飲み込み、イーニアスが口を開く。喉を開けまだ萎えたままだったそれを躊躇せずに飲み込み、舌を這わす。ムクムクと力を持ち始める熱に眉を寄せて口を窄め吸い付いて、愛おしくてたまらないと言うようなほど熱烈な愛撫を施した。
 ああ、もう……。
 口いっぱいにそれを頬張りながら疼く体に理性を投げ出し始める。
 俺も便乗していいかなぁ。溜まってるし……アーシュに会いたかったし……。
 それにこんな風に、どうしようもないほどの恋心を持ちながらその相手へ奉仕するコイツをちょっとだけ羨ましく思った。
 どう考えても俺の方が恵まれているし、彼はもう行先も決まっているのに。

「アーシュ……好き……」

 甘えた声を出して、膝の上に乗ってくちづけをする。
 はしたなく舌を絡ませれば溢れ出た唾液が喉仏を伝って落ちる。
 明け透けな言葉に目を細めて彼が笑う。嬉しそうで、満足気な表情だ。
 隊服を脱がすのを手伝い、自分のスラックスとシャツも早急に脱ぎ捨てた。最早自分がイーニアスか俺なのかわからない。
 時折丁寧な言葉が混じるのはイーニアスのものだろう。だがそれ以外はどちらの言葉なのか途中でどうでもよくなった。

 ぐい、と腰を掴まれぽすん、とベッドの上に押し倒される。尖った乳首を硬い指で圧し潰され、横を向いた無防備な首筋に舌を這わされ、ただ喘ぐ。
 期待に膨らんだ中心に触ってほしくて、そしてすぐにでも繋がりたい一心で、指を下腹部に下ろした時だった。

「……ぁ」
「勝手に触ったら駄目だろう」

 囁くような声音で言われたが、何故か従わなければいけない気がした。下ろしかけた手を止め、そのままアーシュの首に回す。アーシュはそれに口許を緩め、誘うように長い舌を突き出した。そして目線はこちらのまま、薄く色づいた小さな突起に舌を押し付けたのだ。
 れろ、と湿った感触に腰が震えた。
 れろれろと強く舐められ、その快感に身悶える。

「あ、ぁ……っあ……、きもち……い……っ」

 徐々に早くなる愛撫に声が勝手に漏れ、中心の熱がぐるぐると行き場なく渦巻く。
 アーシュは、どこまでも優しい目をして俺を見つめている。イーニアスが相手だからだろうか。彼の真っ直ぐな想いに気付きながらも知らぬふりをしていた。だからこそ、こんなことも許すのだろうか。
 複雑な思いを抱きながら、まあいいか、と俺は思った。
 互いに満足するのなら、ついでに俺も満足させて貰おう。
 だが最後は必ず、迫間のままでいないでほしい。
 この世界は、迫間には冷たくて恐ろしい場所なはずだから。

 アーシュの舌が徐々に下に降りて、脇腹を通り過ぎた。時折力を込められ悪戯に彷徨うその感触に身震いしながら次の箇所を期待する。
 下生えの下の肉にやさしく歯を立てられ、くすぐったさに腰が震えた。待望のその熱に触れられた時は息が上がって、目が回って、何もかもがいっぱいいっぱいだった。
 この感情は、イーニアスのものなのだろうか。逃げ出したくなる緊張も、羞恥も俺が遠い昔に置いてきたものばかりだ。
 下を見れば丁度その桃紫色の瞳と目が合う。満足気に微笑まれて、叫びたくなる衝動をグっと堪えた。

「……や、やめ……っ」

 温かくて濡れた感触に驚いて声を上げる。目眩がしそうな快感だった。アーシュが俺のを口内に招き入れている。じゅぷじゅぷ、と大袈裟に音を出されて声を抑えるのに必死になる。
 感覚は普段と変わらない。それどころか増しているのかと思うほどドキドキと心臓がうるさく、甘酸っぱい期待と逃げ出したくなる羞恥は、どう考えてもイーニアスの感情と同期しているとしか思えなかった。
 普段やっていることが物凄く恥ずかしくて、恥ずかしがってる自分にすら恥ずかしくてループ状態だ。

「……うぁ!……待って、そこはっ」

 そっと後孔を撫でられて焦った声が上がる。だがアーシュは容赦しない。
 つぷ、と指先をねじ込まれその痛みに身体が強張った。そうして驚愕する。
 ……なんだこの痛みは。
 違和感に気付いたのはアーシュもだろう。ぐい、と指を進めようにも固く閉ざされているそこに動きが止まった。何やら考えているようだ。
 まさか。
 イーニアスと同期しているから身体もその仕様になったのか……?
 つまり、イーニアスは経験がなくて俺の身体に入っているから、俺の身体も処女みたいに……。

「や、やめよう……!」

 起き上がろうとした俺の胸をすかさず大きな手のひらが押さえつけてきて、危機感に汗が垂れる。
 こんな風に固く閉じた状態の俺をアーシュは知らないはずだ。
 俺がゲイだと自覚したのは中学生の頃だったし、三十過ぎた今はそれなりに経験して生きてきた。初めての記憶なんて遠い昔のことで曖昧に覚えている程度で、っていうかどちらかと言えば思い出したくもない過去だ。
 逃げ出したい俺と、遂行するつもりのイーニアスが足を開き、相反した行動でパニック状態に陥る。

「俺……俺、隊長と……繋がりたいです……」

 イーニアスが言う。
 その想いを酌むことにしたアーシュは、俺を無視することに決めたようだ。
 ベッドサイドに置かれている潤滑油を手慣れた手つきで取り上げ、たっぷりと掬い取る。ぐい、と更に足を開かれヒヤリとした冷たい感触を後孔に感じ、身を竦めた。
 この流れに逆らう事は簡単だ。だがそれによってイーニアスが迫間のままでとどまる事も考えられた。
 結局、俺に選択肢はない。
 心中でこの状況に身悶えしながらも、結局身を任せる事にした。

「……ぃ、痛い……」

 ゆっくりと入ってくる温かい指に短く息を整えながらなんとかその部分を開こうと努力する。
 違う、力を抜くんじゃない、入れるんだ!
 と、俺が命令しても、イーニアスはすべてにいっぱいいっぱいなのか一切協力してくれない。
 というより、やり方がわからないと言った方がいいのか。確かに俺の初体験も散々だったけどさ。
 あーあ……。
 もうどーにでもなーれ、と天井を見つめる。
 ぐりぐり、と長い指がその部分を擦ったのはその時だ。一瞬でカっと全身が熱くなり、喉が震えた。

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