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第4章 誘拐事件

20.圧勝の様にみえる、紙一重の勝利

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『竹井殿、お主、何故此処に・・・。』と、秀久は呟く。

久之助は秀久の言葉が聞こえていないかのように、鞘を抜く。その動作は抜くというよりも、鞘を後ろへ飛ばすという表現があっていた。

剝き出しになった大太刀を握り、構えた久之助の姿はまるで本丸を守る仁王像の様であった。

『お主らが、宇喜多の手の者か?』と、久之助が襲撃してきた者達へ問う。

『何故それを・・・。』と思わず、薬売りの男が言葉を漏らした。薬売りのもらした言葉が、合図になったかのように10人の刺客達は一斉に自分達の武器を持ち身構えた。

緊張が走る静寂の中、3人の男が久之助に切ってかかる。久之助は、躊躇とまどう事無く瞬時に低い姿勢を取り回転し、向かってくる男達の足を大太刀で薙ぎ払う。

一瞬にして、一人の男の足が両断され、その横にいた男の片足を切ったところで、刃が止まる。足を切られた男達がたまらず呻き声を上げる。

その斬撃の凄まじさに、未だ切られていない男の動きも恐怖で躊躇ちゅうちょする様に止まる。

しかし、久之助は止まらない。躊躇ちゅうちょした男を、蹴り飛ばし一定の間隔を開けたかと思うと、瞬時に相手の懐に入り、肩から腕を一刀両断。辺りは、瞬く間に血の海と化した。

一瞬で、3名の刺客を戦闘不能にした久之助の身体は、決められた旋律の様な舞をまって再び残りの者達へ対峙する。

仲間の呻き声とその姿が、刺客の者達の顔から余裕を一瞬で奪い去った。

『なんだこの者は、化け物か・・・。』

『お主ら、コイツはできる、迂闊に飛び込むな。』と鉄扇を持った刺客達の頭目が部下達に言葉をかける。

『その者は、お前らに任せる、絶対に始末しろ!』と薬売りの男は大声で叫ぶ様に言い、秀久を短刀で脅しながら二人だけで本丸へ向かう。

その二人を止めようと、二人の進行方向の前に立ち塞がろうとした久之助であったが、一人の刺客が切りかかり足止めをする。

刺客の剣を躱し、受け止め、相手の隙をつき、刀を握っている相手の腕を上段から切り落とす。その時、薬売りと秀久達は既に久之助の射程距離を越えていた。

久之助は秀久達を取り逃がした事を悔やんだが、未だ6名の刺客が無傷であり、気持ちを直ぐに刺客達の殲滅せんめつへと切り替えた。

6人が、多勢の有利が生きる様に久之助を囲み出した。しかし囲んだ男達の目の前を、久之助は優雅に大太刀を振り、死の舞を踊る。

一人、又一人と、久之助の鋭い刃の餌食となる。特筆すべきは、その動きのスピードである。常に一か所には立ち止まらず、相手の死角を突き、簡単に腕や足を断っていく。

体の回転による遠心力を加えた大太刀の破壊力は、見た者に恐怖を与え、恐怖によって相手を棒立ちにする。気がつけば、6名の刺客達は倒れうめき声をあげていた。

傍から見ている者がいたら、それは正に一方的な勝利であった。

6名の刺客を倒し、合計10名の動きを止めた久之助であったが、顔や頭からは汗が吹き出し、全身で枯渇した酸素を取り入れる様に呼吸する。

その様子は窒息する直前で水面に上がった人間の様であった。

一方的な勝利に見えたが、戦った後のその姿は疲労困憊であり、その場で刀を地面に刺し、倒れこみたい自分を必死に抑えている様であった。

本人としては、体力が持つギリギリの紙一重の勝利だった。相手を生かして捕らえるという余裕などなく、制限時間内にやっと殲滅できたというのが本人の感想であった。

暫くの間呼吸を整え、やっと落ち着いた時、久之助は倒れている頭目の傍にい行き、男が持っていた鉄扇を拾い上げ、自分の懐にいれる。その行為の意味を知っているのは、久之助と鶴姫だけだった。

鉄扇を拾い上げた久之助は、刀を鞘に納め、秀久達を追って本丸へ向かった。

本丸へ着くと、慌てた様子の男が久之助を見つけ走り寄って来た。

『竹井殿、一大事です。今しがた、桐浦様が男の者を連れてまいり、原三郎様を人質に取り部屋に立てこもりました。』

『しまった・・・私が不甲斐ないばかりに、一足遅れてしまった。お主は、先ず宗忠様と月清様にこの事をすぐ伝えよ。』

『後、私の元へ、城の警護長を大至急来させよ!』

『ハツ、直ぐに!』と男は、再び城へ入っていく。

その後、暫くして城から警護長が出てくると、久之助は城兵を集め、本丸を包囲する様に指示を出し、又同時に本丸にいる者を非難させ、一か所に集め留めて置く事、2ノ丸の傍で自分が切って捨てた襲撃犯がいる事、彼らの捕縛をに申しつけたのであった。

城兵が本丸を包囲するのを見届けた後、久之助は本丸に入り、秀久達が立て籠っている部屋へ向かったのである。
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