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第4章 誘拐事件
18.大切なモノを失った経験
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宗治、月清、宗忠の3兄弟での話し合いがあった日の翌日、播磨国上月城への出兵が発表された。
毛利輝元率いる約2万の大軍と合流し、尼子氏残党3,000が守る上月城を攻めるという事であったが、上月城を落城させた後、城を守備する部隊として駐留する可能性も有り、高松城を離れ長い遠征になる可能性がある事も兵に告げられた。
その日、城にて遠征前の最後の大太刀の稽古をしていた久之助の元へ月清がやってきた。
『久之助、宗治より今回の遠征には、お主を連れて行かぬと言われておる。自分が留守の間、この城を頼むと伝えてくれと言われておる。今から、お主は病人じゃ、遠征部隊が出兵するまで、家で待機しておれ!お主が宗忠(伝助)に申した件じゃ・・・分かるな!。』と月清は、一度だけ伝え、久之助の顔を見る。
『・・・承りました。』と久之助は月清の顔を見て、頷き愛刀を鞘にしまい、帰宅の準備を始めた。
『明日にでも、伝、・・宗忠がお主の様子を見に行く筈じゃ、その時二人でよく話し合え。』と月清は言い、足早に去っていったのであった。
月清が去った後、久之助は人目のつかない部屋に入り、高松城にいる筈である鶴姫に呼びかける。
『鶴姫様、いらっしゃいますか?』と久之助の呼びかけに答える声は無く、城で働く者達の気配を感じるだけであった。
(鶴姫様は、今日は城へ来ていなのだろうか?できれば、宗忠様とお会いする前に姫様のお考えを確認したかったのだが・・・)
『鶴姫様、久之助でござる。いらっしゃいますか?』と久之助は再度呼びかけたが、応答はなく、静寂の時が暫く流れる。
仕方なく、久之助は自分の家への帰路についたのであった。
久之助が高松城で鶴姫に呼びかけをしている頃、鶴姫は原三郎の傅役桐浦秀久の屋敷にいた。
鶴姫が秀久の屋敷にいる理由は、彼が謀略に巻き込まれる可能性が高いと思ったからである。
鶴姫の仮説は、二つあり、一つは要人の暗殺であり、その場合暗殺の対象は、清水3兄弟の誰かである。
もう一つの誘拐の場合、対象は上記3名に加え、宗治の嫡男である原三郎が加わる可能性があると考えたからであった。
城へ刺客を手引きする者がおり、初めてその計画は実行される。その手引きする者が秀久になる可能性があると、鶴姫は考えたのであった。
その直感の理由が、あの越中富山の薬売りであった。頻繁に来る薬売り。もしその薬売りが、他国の間者であれば辻褄があうと鶴姫は思った。
しかし、鶴姫が秀久の屋敷を監視し始め、数日間が経過していた。屋敷には変化はなく、平和そのものであった。
鶴姫としても、秀久の人柄、彼が原三郎に並々ならぬ感情を持っている事は理解していたので、自分の取りこし苦労かと心の緊張がすこしづつ緩んできていた。できれば自分の勘が外れていて欲しいと鶴姫は思っていたのである。
夕方、城へ出仕していた秀久と秀久の息子桐浦宗秀の二人が帰って来た。宗秀が、屋敷の者達へ自分が2日後の播磨国への遠征に出る旨を伝え、彼の留守中、屋敷の事を頼むと言っているのを見て、鶴姫も播磨国への遠征の件を知ったのであった。
その日の夜、鶴姫は久之助の様子を確認しようと、一度秀久の屋敷を離れ、久之助の屋敷へ向かったのであった。
久之助の長屋を鶴姫が訪れると、久之助は一人寝床にいた。隣の部屋には新妻が静かに寝息をたてている。
『久之助、久之助、おい、起きろ、私じゃ、鶴姫じゃ。』
久之助は、鶴姫に気づくと起き上り、稽古着をきて大太刀を持って外に出ようとする。
『久之助殿、どうなさいましたか?。』と気配に気づき、静が久之助に声をかける。
『起こしてしまい、スミマセヌ、寝付けないので、素振りをしきます。』と久之助が答える。
『外は寒いですので、本当に風邪引いてしまいますよ、お早い御戻りを。』と美津が久之助を心配する。
『分かっておりまする。美津殿は寝ていて下され、ひと汗かいたら直ぐ戻りますので。』と言い、久之助は部屋を出て外に出た。その後を鶴姫も追っていく。
良く稽古をする木の下まで来て、久之助はようやく鶴姫に声をかけた。
『鶴姫様、何処に行っておられたのですか?今日、城にいるものと呼びかけたのですがいらっしゃらなかったので、心配しておりました。』と久之助が切り出す。
『あぁ、スマヌ、今日は、実は外出しておってな、城にはいなかったのじゃ。』と鶴姫が謝ると、久之助は、『どちらに?。』と確認する。
『桐浦秀久殿の屋敷におった。もしかして、手引きする者ではないかと疑っておったのでの。』と鶴姫は、自信無さげに呟く。
『桐浦殿が、まさかそんな事はしない、いやできない方です。』と久之助は言いながら、驚きを隠せない。
『私もあの御仁がそんな事をする方とは思えぬが、気がかりな部分があってな、他国からくる薬売りが怪しくてな。』
『おお、それより、2日後に播磨国へ遠征に出ると聞いたが、お主も行くのか?』と鶴姫は久之助に聞いた。
『いえ、今回の遠征は、私は行かない事になりました。理由は、鶴姫様から言われた謀略に備える為・・・みたいです。』
『私の・・・。』『そうか、それは有難い。宗治殿は、私の言う事に耳を傾けて下さったのか・・・。』
『お主が播磨国へ行ってしまうと、私は実際何も出来ないからな、お主が居てくれれば、色々打つ手がある。』と鶴姫は言い、嬉しそうに両手で握り拳を作り自分の目の高さまで挙げた。
『明日にでも、城代家老難波宗忠様が、私の家に来てくれるそうです。見舞いとして。その時、今後の動きを二人で相談するつもりです。』と久之助は、鶴姫に宗忠が明日自分に会いに来る事も伝えた。
『見舞い??お主、具合が悪いのか?』
『いえ、突然の急病の為、竹井将監こと、この久之助自宅療養となり、播磨国への遠征には参加できないと・・。』と久之助は最後まで言わず。
『・・・仮病、・・そういう事か。』と鶴姫が呟き理解した事を告げると、『そういう事です。』と鶴姫の目をみて頷き同意したのであった。
『だから、静殿が隣の部屋で寝ていたのか!あの本当に病気になってしまう、とはそういう事か・・。』と鶴姫は自分の疑問がなくなり、納得した様に言った。
『それより、明日、宗忠様とどういう話をすれば宜しいでしょうか?その後、何か分かった事ありますか?』
『高松城に入った間者が誰なのかが分かった。庭師、あの植木を切る男じゃ、辰三とかいう男だ。あの男は字の読み書きができ、城で起こっている状況を手紙に書き、他国への誰かに送っている。当然その男は私が見えないので、その一連の動きを私はじっくり観察する事ができた。』
『1年半ぐらい前に、簪が盗まれた事があっただろ、最初に女中の女の子が疑われ、私が真犯人の植木屋の男を見つけた時、その時、捕まった男の代わりに入ったのがその男であった。謀略を仕掛けた男は、1年半も前から間者を高松城へ忍び込ませていたのじゃ。恐ろしい男じゃ。』と鶴姫は感嘆の声を上げる。
『間者・・植木屋の男が、旅芸人10人と協力するか分からぬが、その可能性が高いと思って、考えていた方が良いじゃろうな。』
『奴らが行動を起こすのは、宗治殿の兵が、播磨国へ付き、直ぐには城へ戻れない状況になった時じゃと思う。そうじゃのう、出発して4日、ないし5日以降じゃ、5日以降は、何時奴らが仕掛けてきても可笑しくないと思う。』
『あと・・・・、城へ手引きする者は、植木屋の男か、秀久殿のどちらかだと私は予想している。』
『しかし、植木屋の男にそんな事ができるわけはない、秀久殿の可能性が高い。』
『秀久殿は、そんな方では・・。』と久之助が言いかけると、『甘い、秀久殿の人柄は考えるな、もし、秀久殿の家族が人質にされたら、そうせざるをえない状況に追い込まれた場合も想定して対策を考えておかなければならないのじゃ。』と鶴姫は久之助に叱りつける様に言った。
『私はな、昔実の父を刺客の手によって殺された。その経験があるから、その失敗があるから、もう2度とそのような事を見たくないのじゃ。』
『大事なものは、失ってからでは遅いのじゃ。』と鶴姫は辛そうな声で久之助へ伝えた。
『申し訳ございません。私が甘かったです。それでは、秀久殿の家族が人質にとられ、秀久殿が手引きをしたと仮定して、どう対処すれば宜しいでしょうか?』と久之助は、自分の甘さを認め、鶴姫に改めて対処方法を求めた。
『分かってくれれば良い、扇の要はお主じゃ、久之助!。頼りにしておるぞ!』と鶴姫は自分の考えを総て久之助に告げたのであった。
毛利輝元率いる約2万の大軍と合流し、尼子氏残党3,000が守る上月城を攻めるという事であったが、上月城を落城させた後、城を守備する部隊として駐留する可能性も有り、高松城を離れ長い遠征になる可能性がある事も兵に告げられた。
その日、城にて遠征前の最後の大太刀の稽古をしていた久之助の元へ月清がやってきた。
『久之助、宗治より今回の遠征には、お主を連れて行かぬと言われておる。自分が留守の間、この城を頼むと伝えてくれと言われておる。今から、お主は病人じゃ、遠征部隊が出兵するまで、家で待機しておれ!お主が宗忠(伝助)に申した件じゃ・・・分かるな!。』と月清は、一度だけ伝え、久之助の顔を見る。
『・・・承りました。』と久之助は月清の顔を見て、頷き愛刀を鞘にしまい、帰宅の準備を始めた。
『明日にでも、伝、・・宗忠がお主の様子を見に行く筈じゃ、その時二人でよく話し合え。』と月清は言い、足早に去っていったのであった。
月清が去った後、久之助は人目のつかない部屋に入り、高松城にいる筈である鶴姫に呼びかける。
『鶴姫様、いらっしゃいますか?』と久之助の呼びかけに答える声は無く、城で働く者達の気配を感じるだけであった。
(鶴姫様は、今日は城へ来ていなのだろうか?できれば、宗忠様とお会いする前に姫様のお考えを確認したかったのだが・・・)
『鶴姫様、久之助でござる。いらっしゃいますか?』と久之助は再度呼びかけたが、応答はなく、静寂の時が暫く流れる。
仕方なく、久之助は自分の家への帰路についたのであった。
久之助が高松城で鶴姫に呼びかけをしている頃、鶴姫は原三郎の傅役桐浦秀久の屋敷にいた。
鶴姫が秀久の屋敷にいる理由は、彼が謀略に巻き込まれる可能性が高いと思ったからである。
鶴姫の仮説は、二つあり、一つは要人の暗殺であり、その場合暗殺の対象は、清水3兄弟の誰かである。
もう一つの誘拐の場合、対象は上記3名に加え、宗治の嫡男である原三郎が加わる可能性があると考えたからであった。
城へ刺客を手引きする者がおり、初めてその計画は実行される。その手引きする者が秀久になる可能性があると、鶴姫は考えたのであった。
その直感の理由が、あの越中富山の薬売りであった。頻繁に来る薬売り。もしその薬売りが、他国の間者であれば辻褄があうと鶴姫は思った。
しかし、鶴姫が秀久の屋敷を監視し始め、数日間が経過していた。屋敷には変化はなく、平和そのものであった。
鶴姫としても、秀久の人柄、彼が原三郎に並々ならぬ感情を持っている事は理解していたので、自分の取りこし苦労かと心の緊張がすこしづつ緩んできていた。できれば自分の勘が外れていて欲しいと鶴姫は思っていたのである。
夕方、城へ出仕していた秀久と秀久の息子桐浦宗秀の二人が帰って来た。宗秀が、屋敷の者達へ自分が2日後の播磨国への遠征に出る旨を伝え、彼の留守中、屋敷の事を頼むと言っているのを見て、鶴姫も播磨国への遠征の件を知ったのであった。
その日の夜、鶴姫は久之助の様子を確認しようと、一度秀久の屋敷を離れ、久之助の屋敷へ向かったのであった。
久之助の長屋を鶴姫が訪れると、久之助は一人寝床にいた。隣の部屋には新妻が静かに寝息をたてている。
『久之助、久之助、おい、起きろ、私じゃ、鶴姫じゃ。』
久之助は、鶴姫に気づくと起き上り、稽古着をきて大太刀を持って外に出ようとする。
『久之助殿、どうなさいましたか?。』と気配に気づき、静が久之助に声をかける。
『起こしてしまい、スミマセヌ、寝付けないので、素振りをしきます。』と久之助が答える。
『外は寒いですので、本当に風邪引いてしまいますよ、お早い御戻りを。』と美津が久之助を心配する。
『分かっておりまする。美津殿は寝ていて下され、ひと汗かいたら直ぐ戻りますので。』と言い、久之助は部屋を出て外に出た。その後を鶴姫も追っていく。
良く稽古をする木の下まで来て、久之助はようやく鶴姫に声をかけた。
『鶴姫様、何処に行っておられたのですか?今日、城にいるものと呼びかけたのですがいらっしゃらなかったので、心配しておりました。』と久之助が切り出す。
『あぁ、スマヌ、今日は、実は外出しておってな、城にはいなかったのじゃ。』と鶴姫が謝ると、久之助は、『どちらに?。』と確認する。
『桐浦秀久殿の屋敷におった。もしかして、手引きする者ではないかと疑っておったのでの。』と鶴姫は、自信無さげに呟く。
『桐浦殿が、まさかそんな事はしない、いやできない方です。』と久之助は言いながら、驚きを隠せない。
『私もあの御仁がそんな事をする方とは思えぬが、気がかりな部分があってな、他国からくる薬売りが怪しくてな。』
『おお、それより、2日後に播磨国へ遠征に出ると聞いたが、お主も行くのか?』と鶴姫は久之助に聞いた。
『いえ、今回の遠征は、私は行かない事になりました。理由は、鶴姫様から言われた謀略に備える為・・・みたいです。』
『私の・・・。』『そうか、それは有難い。宗治殿は、私の言う事に耳を傾けて下さったのか・・・。』
『お主が播磨国へ行ってしまうと、私は実際何も出来ないからな、お主が居てくれれば、色々打つ手がある。』と鶴姫は言い、嬉しそうに両手で握り拳を作り自分の目の高さまで挙げた。
『明日にでも、城代家老難波宗忠様が、私の家に来てくれるそうです。見舞いとして。その時、今後の動きを二人で相談するつもりです。』と久之助は、鶴姫に宗忠が明日自分に会いに来る事も伝えた。
『見舞い??お主、具合が悪いのか?』
『いえ、突然の急病の為、竹井将監こと、この久之助自宅療養となり、播磨国への遠征には参加できないと・・。』と久之助は最後まで言わず。
『・・・仮病、・・そういう事か。』と鶴姫が呟き理解した事を告げると、『そういう事です。』と鶴姫の目をみて頷き同意したのであった。
『だから、静殿が隣の部屋で寝ていたのか!あの本当に病気になってしまう、とはそういう事か・・。』と鶴姫は自分の疑問がなくなり、納得した様に言った。
『それより、明日、宗忠様とどういう話をすれば宜しいでしょうか?その後、何か分かった事ありますか?』
『高松城に入った間者が誰なのかが分かった。庭師、あの植木を切る男じゃ、辰三とかいう男だ。あの男は字の読み書きができ、城で起こっている状況を手紙に書き、他国への誰かに送っている。当然その男は私が見えないので、その一連の動きを私はじっくり観察する事ができた。』
『1年半ぐらい前に、簪が盗まれた事があっただろ、最初に女中の女の子が疑われ、私が真犯人の植木屋の男を見つけた時、その時、捕まった男の代わりに入ったのがその男であった。謀略を仕掛けた男は、1年半も前から間者を高松城へ忍び込ませていたのじゃ。恐ろしい男じゃ。』と鶴姫は感嘆の声を上げる。
『間者・・植木屋の男が、旅芸人10人と協力するか分からぬが、その可能性が高いと思って、考えていた方が良いじゃろうな。』
『奴らが行動を起こすのは、宗治殿の兵が、播磨国へ付き、直ぐには城へ戻れない状況になった時じゃと思う。そうじゃのう、出発して4日、ないし5日以降じゃ、5日以降は、何時奴らが仕掛けてきても可笑しくないと思う。』
『あと・・・・、城へ手引きする者は、植木屋の男か、秀久殿のどちらかだと私は予想している。』
『しかし、植木屋の男にそんな事ができるわけはない、秀久殿の可能性が高い。』
『秀久殿は、そんな方では・・。』と久之助が言いかけると、『甘い、秀久殿の人柄は考えるな、もし、秀久殿の家族が人質にされたら、そうせざるをえない状況に追い込まれた場合も想定して対策を考えておかなければならないのじゃ。』と鶴姫は久之助に叱りつける様に言った。
『私はな、昔実の父を刺客の手によって殺された。その経験があるから、その失敗があるから、もう2度とそのような事を見たくないのじゃ。』
『大事なものは、失ってからでは遅いのじゃ。』と鶴姫は辛そうな声で久之助へ伝えた。
『申し訳ございません。私が甘かったです。それでは、秀久殿の家族が人質にとられ、秀久殿が手引きをしたと仮定して、どう対処すれば宜しいでしょうか?』と久之助は、自分の甘さを認め、鶴姫に改めて対処方法を求めた。
『分かってくれれば良い、扇の要はお主じゃ、久之助!。頼りにしておるぞ!』と鶴姫は自分の考えを総て久之助に告げたのであった。
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