上 下
36 / 75
第4章 誘拐事件

7.高松城で一番の切れ者(4人に与えられた課題)

しおりを挟む
季節は、夏から秋に変わろうとしていた。

収穫の秋を迎えようとこの時期は、戦国時代の中でも暗黙の掟として収穫が終わるまでは隣国に攻め込まないという事が守られていた。

その為、清水家の領民も武士達も皆手があいている者は収穫を手伝っていた。

その中で、ごく少数であるが例外として収穫作業に従事し無い者達がいた。

久之助達4名及び師である月清であった。

5名は、春から続けている大太刀の訓練を精力的にこなしていた。

4人は、既に基本的な型を身につけ、新たな段階へと移ろうとしていた時期であった。

最初、どんぐりの背比べみたいに同じレベルで修業を始めた4人であったが、5ヶ月も過ぎる頃には、個人の特徴が少しずつ出るようになり、又実力の差が顕著に出始めかけている時期であった。

月清の評価は、松田、庄九朗の二人が大体同じレベルであり、それより頭一つ出ているのが、鳥越であった。

怪力であった、鳥越は剣速がはやく、体重も重い為素振りの音が、松田、庄九朗の素振りの音では、子供と大人の違いのように違った。二人で、やっと鳥越に勝負をかけれるというぐらいの差になったと、月清は見ている。ただ、それ以上の剣速と正確性を持っているのが久之助であった。

久之助の進歩は、月清も疑う程速かった。

その進歩の裏側には、久之助の影の努力がある事を月清は知っていた。

情報源は久之助の長屋に住む者から聞く噂であった。
毎日、天気に関係なく、黙々と鉄の棒を振り続ける久之助をよく一日も欠かさず続くものだと感心していた。

時には、独りでいるのに、誰かと会話をしているように独り言を言う久之助が怖いという声も聞こえてきていた。

まるで、お化けに取りつかれているかのように、修業に没頭しているともっぱらの噂であった。

その自主錬の効果が最近顕著に出始めていた。月清が型の名前を言うと、即座にその型をこなす事が出来る程上達していた。

その剣技もただ覚えているというレベルではなく、ほんの一瞬であるが、久之助の動きをみていた月清は、幼き頃の記憶である李先生の舞の動きと重なる事があるのであった。

そんな状況の中、月清は個人の熟練度の差、個性に合わせて月清は4人に別々の課題を与える事にした。

庄九朗と松田には、山にいる野生馬若しくは猪を2匹捕獲する事、鳥越には山にいる熊を一匹討ち取って来るように命じた。

条件は、もちろん大太刀を使う事が条件であった。

しかし、久之助に指示された任務は、3人のモノとは系統の違うモノであった。

今まで教えた型を全部覚え、其れを自分で考えた順番で20分間舞続けるようになれと言う事であった。

期限は、雪が降り始める迄とされ、4人は言われるがままそれぞれの修行の地へ向かったのであった。

久之助達が修行に明け暮れる中、鶴姫が日課としていたのが原三郎の勉強の観察であった。秀久は、何時もと変わらず優しく原三郎を教え導いている。

何処からみても、仲の良い祖父と孫である。

今日は、馬の乗り方を教えるという事で、先に秀久が馬に乗り、その後馬の世話係の七郎三郎が原三郎を抱きかかえ、秀久の前に乗せ、二人は近い距離を乗馬していた。乗馬中には、特に問題は無かったのだが、城へ戻り、馬を降りる時に、原三郎が体勢を崩し、馬から落ちかけた。

咄嗟に、秀久が強引に原三郎を引き寄せたので、原三郎は落ちずにすんだが、その後、助けた秀久が体勢を崩し、落ちてしまったのである。

七郎三郎がその場に駆け付け、原三郎を馬から安全におろしたが、秀久が落ちた時に腕を打ち、苦痛の顔をしていると、心配した原三郎が『爺、大丈夫??。』と聞く。

『大丈夫です。爺には打ち身に効く薬が有りますので!、』と秀久は原三郎に心配させない様に大きな声で返したのである。

七郎三郎も、その様子をみて原三郎を気遣い、『桐浦殿、良い薬、今度私にも分けて下さい、ところで、どこの薬ですかな?』と話を帰る様に質問した。

『越中富山じゃ、最近よく売りにくるから、何個かあるので、今度お主にも分けてあげよう。』と原三郎に聞かせるかのように、これまた大きな声で返答したのであった。

其れを聞いた鶴姫はまた少し違和感を感じた。

(よく売りに来る??富山の薬売りは有名だが、そんなに来るわけないだろう、早くても半年に一回ぐらい来るぐらいでは無いのか・・・2ヶ月前に来たばかりじゃないか・・何かおかしいのう・・・富山の薬売り?。)と鶴姫の感が何かを感じたのであった。

其の頃、播磨国黒田家の屋敷の一室では、二人の男が話をしていた。

『官兵衛様、腕の立つ者を10名ほど私の下につけてはくれませぬか?。』

『直ぐにではありませんが、精鋭部隊が必要です。』

『その者達がそろい、高松城に隙が生じたとき、私達が行動を起こす時期です。』

『1,2年はかかると思いますが、準備は早い事にこした事はありませぬ。』と薬屋の格好をした男が静かに頼みごとをした。

『ウム、其方の言い分はもっともな事じゃ。腕の立つ者だな、暫し時間をくれ。』と黒田官兵衛は答える。

『しかし、慎重に事を運ぶ様に、お主、又備中の国へ行ったそうだな、頭の切れる者がいたら、怪しまれるぞ、もう今年は行ってはならぬぞ。』と官兵衛が男に注意をする。

『ハハァ、気をつけまする。私の見る限り、切れ者等おりませぬ、大丈夫だと思いますが・・・。』

『噂で、千里眼の竹井という者がおると聞いているが・・・、お主は知らぬか。』

『知りませぬ。官兵衛様は、流石に地獄耳ですな。』

『私よりも御存じで、とにかく、ご指示通り、今年はもう行きませぬのでご安心下さい。』

『官兵衛様、もしや、私以外にも備中の国へ遣わしておる者がいらっしゃるのですか?』と男は官兵衛に聞いた。

『お主、下手に首を突っ込むと、自分の命を粗末するぞ・・・。』と官兵衛は言う。

『肝に命じまする。それでは私はこれで。』と言い、底知れぬ怖さのある、官兵衛の顔を見て、男は頭を下げ、逃げるように部屋を退出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

下級武士の名の残し方 ~江戸時代の自分史 大友興廃記物語~

黒井丸
歴史・時代
~本作は『大友興廃記』という実在の軍記をもとに、書かれた内容をパズルのように史実に組みこんで作者の一生を創作した時代小説です~  武士の親族として伊勢 津藩に仕える杉谷宗重は武士の至上目的である『家名を残す』ために悩んでいた。  大名と違い、身分の不安定な下級武士ではいつ家が消えてもおかしくない。  そのため『平家物語』などの軍記を書く事で家の由緒を残そうとするがうまくいかない。  方と呼ばれる王道を書けば民衆は喜ぶが、虚飾で得た名声は却って名を汚す事になるだろう。  しかし、正しい事を書いても見向きもされない。  そこで、彼の旧主で豊後佐伯の領主だった佐伯權之助は一計を思いつく。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

らぁめん武侠伝 ――異聞水戸黄門――

北浦寒山
歴史・時代
格之進と八兵衛は水戸への帰り道。ある日中国・明からやって来た少女・玲華と出会う。 麺料理の材料を託された玲華の目的地は、格之進の恩師・朱舜水が在する水戸だった。 旅する三人を清国の四人の刺客「四鬼」が追う。故郷の村を四鬼に滅ぼされた玲華にとって、四人は仇だ。 しかも四鬼の本当の標的は明国の思想的支柱・朱舜水その人だ。 敵を水戸へは入れられない。しかし戦力は圧倒的に不利。 策を巡らす格之進、刺客の影に怯える玲華となんだかわからない八兵衛の珍道中。 迫りくる敵を迎撃できるか。 果たして麺料理は無事に作れるのか。 三人の捨て身の反撃がいま始まる! 寒山時代劇アワー・水戸黄門外伝・第二弾。全9話の中編です。 ※表紙絵はファル様に頂きました! 多謝! ※他サイトにも掲載中

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

南町奉行所お耳役貞永正太郎の捕物帳

勇内一人
歴史・時代
第9回歴史・時代小説大賞奨励賞受賞作品に2024年6月1日より新章「材木商桧木屋お七の訴え」を追加しています(続きではなく途中からなので、わかりづらいかもしれません) 南町奉行所吟味方与力の貞永平一郎の一人息子、正太郎はお多福風邪にかかり両耳の聴覚を失ってしまう。父の跡目を継げない彼は吟味方書物役見習いとして南町奉行所に勤めている。ある時から聞こえない正太郎の耳が死者の声を拾うようになる。それは犯人や証言に不服がある場合、殺された本人が異議を唱える声だった。声を頼りに事件を再捜査すると、思わぬ真実が発覚していく。やがて、平一郎が喧嘩の巻き添えで殺され、正太郎の耳に亡き父の声が届く。 表紙はパブリックドメインQ 著作権フリー絵画:小原古邨 「月と蝙蝠」を使用しております。 2024年10月17日〜エブリスタにも公開を始めました。

わが友ヒトラー

名無ナナシ
歴史・時代
史上最悪の独裁者として名高いアドルフ・ヒトラー そんな彼にも青春を共にする者がいた 一九〇〇年代のドイツ 二人の青春物語 youtube : https://www.youtube.com/channel/UC6CwMDVM6o7OygoFC3RdKng 参考・引用 彡(゜)(゜)「ワイはアドルフ・ヒトラー。将来の大芸術家や」(5ch) アドルフ・ヒトラーの青春(三交社)

処理中です...