王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

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第8章 不屈の男、信秀

8.前島伝次郎登場【誰?】、そして父の本音

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信秀と信長の軍は、大垣城の救援を諦め、平手政秀と織田信広の軍と一度合流し、謀反を起こした二人の城主、織田信清(信秀の弟・信康の子)と織田寛貞ひろさだの討伐へ向かった。

戦力をまとめた信秀軍は4千を超え、又信秀の庶子(側室が産んだ子供、信長の異母兄に当たる)信広と平手政秀の活躍もあり、二つの城を各個撃破し、二人の城主の反乱を1週間もかからず、鎮圧したのであった。

信秀が大軍を投入できた理由は、大垣城を返上を条件に斎藤家と手を結べた事、後顧の憂いを無くせた事が大きな理由であった。

しかし、反乱の火は一向に止まらない。
なんと、今度は信秀の主家筋にあたる、尾張4群の守護代織田信友が信秀の留守を知り、ここぞとばかりに信秀、信長の居城、古渡ふるわたり城へ攻め寄せているという報が入って来たのであった。

犬山城を降伏させ、城主織田信清を、一時的に拘束した信秀は、疲れを癒す間もなく軍議を招集する。

軍議に参加する者は、信秀、信長と、信広、政秀、そして信広が連れて来た家来であった。

5人が揃い、軍議が始まった。

『信広、誰じゃ、その者は、見ぬ顔じゃが・・、この軍議に何故その者を連れて来た』

軍議の第一声は、信秀の息子信広に対する問いかけであった。

問いかけられた信広の容姿は、信秀の若い頃ソックリであった。

『ハッ、この者は、此度の戦いにおいて、抜群の働きをした者にて・・』

『オヤジ殿に、会わせたく・・・』

信広の声も、父信秀にソックリである。

『抜群の働きとは?その方、何をした?自分の口で、ワシに報告して見よ!』

息子、信広の言葉を聞き、信広の横で頭を下げている男に興味を持った信秀は、その男に視線を移しユックリと問いかける。

『ワシは前島伝次郎と申します。・・・頭とおうぎを一つづつ、射落としました』

男は、顔もあげず、伏したまま信秀の問いに答える。

男の声は低く、少し聞きづらい。

『・・・それだけか?』

『それだけでございます・・。』

言葉少ない己の家来に、業を煮やしたのが連れて来た信広である。

『オヤジ殿、スマヌ、この者は、少し変わり者でござって、コラッ!伝次郎、しっかり説明せぬかぁ・・、お主を連れて来たワシの面目も考えよ、このタワケがぁ』

『オヤジ、この者が落とした首は、信清の片腕と呼ばれた来島主水くるしま もんどの首、そして落とした扇は、陣頭指揮を取ろうと出て来た信清が、持っていた扇じゃ』

『こ奴は弓の名人で、合戦のおり、信清の前で先ずは主水の眉間を打ち抜き、2射目で信清の扇を打ち抜いた』

『信清は、その2射のみで、戦意を失った、此度の戦いにおいて一番の功名はこの男なのじゃ』

『・・信広、よくわかった。この男、前島伝次郎の働き、誠に大儀じゃったな』

『前島よ、褒美を取らせるぞ、何か望みがあるか?』

『・・・望み等何も・・・、願う事は、終生しゅうせい信広様に仕えさせて頂ければと・・・思っておりまする』

『ただ一つ、宜しければ、大殿様に一つだけお聞きしたい事があります・・・』

『ワシには一人妹がおりまして、6年前に亡くなりました』

『大殿様の住まわれている古渡城に仕えさせて頂いておりました』

『ホウッ、名は何という?』

『カナエと言う名でございます『

『カナエか・・・初めて聞く名じゃ』

『それで、其方の妹は、何故亡くなった・・』

『・・流行り病でございます・・・生前、妹は大殿様には大変よくして頂いた感謝しておりました』

『此度は、大殿様に、妹の名を呼んで頂いただけで、有り難く・・・』

『そうか・・そうか、お主と、お主の妹、二人そろって、我が家の忠臣じゃ。』

『伝次郎、今後とも、信広を、我ら織田家を頼むぞ!』

『ハツ!』

信秀はが言葉をかけると、男は改めて深く頭を下げ、信秀、信広達に退出する許可を得て、その場から立ち去った。

(・・・ン、涙・・)

信秀の斜め横に座っていた信長は、伝次郎と呼ばれた男が立ち去る時の様子に違和感を覚えた。

(あやつ・・泣いていた)

あにぃ、あの男、泣いていなかったか?』

信長は、幼い時からの呼び方で異母兄に聞いた。

三郎さぶろう、オンシは、その呼び方、いい加減にやめんか!』

『信広殿と呼べ、信広殿と・・・』

『それだったら、兄ぃだって、オレを三郎と呼ぶのを止めろよ』

『こ奴、正妻の子だからと言って、調子に乗りおってェ』

『オンシが、当主の器でなければ、ワシが直ぐに代わってやるからな』

『・・・・お前ら、止めんか?軍議の場は、兄弟ゲンカをするのは御法度じゃ』

二人の幼子の様な会話を聞いた、信秀が飽きれた様に二人を止める。

『信長は、信広に少しは学べよ。家来から慕われん主は、良い仕事はできんからな』

『オレは、信広兄ぃを認めてるぜ。兄弟の中で、オヤジに一番ソックリだし・・・嫌いじゃない』

信長は、信秀の言葉に物おじせず、吐き捨てる様に言う。

『認めてるとは、何ぞ、ワシより4つも下のクセに、上からモノを言うな!!』

『若も、信広様も、口を慎まれよ。今は軍議じゃ!!』

信秀の制止を聞かない、二人に平手政秀が一括する。

『・・・・・・スマヌ』

『・・・・悪かったな』

一括された二人は、流石に反省し、気を取り直して軍議は再開する。

軍議で4人が出した結論は、全軍を持って古渡城へ戻るであった。

しかし、信秀が率いる全軍はユックリと戻り、先行して平手政秀が信秀の使者として信友の元へ行き、反乱を止めるように交渉するというモノであった。

『平手、お主に1千貫(現在の価格で1億2千万円)を渡す、その金で、欲の皮が張った信友の横っ面を、それで叩いてこい・・・この信秀に不満があればなおすと、それでも一戦を交えるというのであれば、この信秀、本意ではないが、全力で御相手すると』

『ハツ、この政秀にお任せ下され!必ずや、信友様に軍を引いてもらえるように説得致しまする。』

平手政秀は、そう言って頭を下げ、一人一足先に織田信友が待つ古渡城へ向かったのであった。

平手が退席した後、信秀が二人の息子に呟くように本心を告げる。

『信長、信広、今は未だできんが、今回ワシらを裏切った者達の事を忘れるな・・』

『何時の日か、必ずあ奴らを後悔させてやる、裏切者だけは、誰であろうと、血縁があろうがなかろうが絶対許さんぞ』

父の本音を聞いて、二人の息子は、父親の目を見て、同時に力強く頷いた。
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