115 / 168
第7章 遅れてやっときた二人の新婚生活
11.心の内(うち)
しおりを挟む
煕子は、斎雪の言いつけ通りに、隣の部屋からかけ布団を持ってくると、規則正しい寝息をたてている夫十兵衛の上に掛けた。
『煕子殿、今日は御二人の折角の水入らずの時間に、お邪魔して誠にスマヌ事をしましたな。』
『この通りじゃ、許して下され・・・』
煕子は、畏まった様子の声で話しかけられ、斎雪のいる方に注意を戻すと、其処には畳に頭をつけ謝罪している斎雪の姿があった。
『斎雪様、エッ、突然、何故、謝られるのですか?』
『私は、斎雪様と食事を一緒にできて、楽しい時間を頂き、感謝しておりますのに・・』
『いや、御二人が1年以上も離れ離れになっていたとは知らず、折角の夫婦水入らずの旅を邪魔してしまい・・ついつい、御二人の人の良さに甘えてしまいました』
『イエ、本音を言いますと、私としては斎雪様が居てくれて・・良かったのです・・』
『斎雪様、とにかく頭をあげて下さいませ』
煕子がそう言うと、斎雪はユックリと頭を挙げた。
『御足も崩して下さいませ・・』
『斎雪様がそのようにお座りですと、私はずっと緊張していなければなりませんので』
『いや、十兵衛殿が寝てしまったので、ワテはもう、自分の部屋に戻りまする』
斎雪は、そう言うと、先ず先に片足を曲げ、その膝小僧に片手を乗せ、勢いをつける様にその腕に重心を乗せた。
『もし、宜しければ!』
煕子は、斎雪の動作を制止する様な大きな声で、そう叫んだ。
『斎雪様、もうちょっとだけで宜しいので、私の話を聞いて下さりませんか??』
『今まで、誰にも話せなかった私の心の内を、誰かに聞いて欲しいのです・・・』
『ダメですか・・?』
そう言って、立ち上がろうとしていた斎雪の表情を伺うように、斎雪の目を見つめる。
『・・・こんな老いぼれで良ければ、お話を聞きましょう・・』
『何かお悩み事でも??十兵衛殿の事ですかな?』
『イエ、夫の問題ではなく、私の心の問題です・・・』
『水知らずのワシで宜しいのですか?』
再度確認する斎雪の一人称が、変わっている事に煕子は気づいたが、敢てそれは指摘せず、言葉を続ける。
『水知らずの、斎雪様だからこそ、聞いてもらえるのです・・』
『そういうモノですかな?』
『そういうモノです・・多分』と、最後に自身がない事を付け足す所が煕子の謙虚さをうかがわせた。
『これも、御仏が作ってくれた縁、いや、枕詞は必要ないな、煕子殿の頼みであれば、断れん・・』
斎雪は、そう言うと、起こしていた片足を戻し、そして足を崩し、その場で正座から胡坐にかえ、その場に座った。
『本当ですか、有難うございます!!』
斎雪が自分の願いを聞いてくれた事が分かり、煕子の声と表情はパッと明るくなる。
『それで、煕子殿の抱えている悩みは、何なのかな?』
『十兵衛殿が居ない間に、好きな男でも現れたのか?』
『そんなワケありません。私の夫は十兵衛様だけです!!』
咄嗟に、煕子の顔がヒキツリ、少し怒った様に斎雪を睨みつける。
『ガツハハ、煕子はんの人柄は分かってまんがな、一日二人を見ただけで分かりますがな。戯言でんがな・・』
『煕子はんは、怒った顔も可愛いなぁ』
『斎雪様ぐらいですわ、私のこの顔を可愛いと言って下さるのは・・・』
『この顔のキズ、キズのせいかもしれませんね、私の性格が変わってしまったのは・・』
煕子は、そう言うと自分の手でそっと顔の疱瘡の後を隠す様に触ったのである。
『斎雪様、私と十兵衛様は元々、従兄同士で、縁があって夫婦になれたのだけど・・・』
煕子は、少し悲しそうな表情をして、斎雪に自分と十兵衛が祝言を挙げる迄の思い出を語り出した。
それは、思い出という名前で語るには、悲しすぎる経験であった。
斎雪は、煕子が振り返る様に語る辛い思い出を、黙って聞いた。
女性にとって、疱瘡を患った事、その後の心情の変化を他者へ語る事は勇気のいる事だという事を分かった上で、彼女の辛い告白を聞いたのである。
二人の馴れ初めを知った斎雪は、噛みしめる様に感想を述べた。
『十兵衛はんも、煕子ハンも、よく乗り切ったなあ、絶対二人は良い夫婦になれる。良い家族が出来る、ワテが保証する。偉いなぁ二人共』
『私なんか、偉くありません。』
『一ヵ月前、十兵衛様が寝言で、私の知らない女の人の名前を言ったのです。もう、その日から、私は見た事もない、その女の人を、気になって、イエ、憎んでしまって』
『夫に、その人の事を聞きたくて、聞きたくて、だけど怖くて、聞けなくて・・』
『私、自信が無いんです。何時か、十兵衛様が私ではない女の方に心奪われ、その方の元へ行ってしまうのではないかと思うと・・私はその日が来ることを恐れているんです・・』
言葉の最後の方は、感情が溢れ、言葉を言い終えると煕子は泣き出してしまった。
『煕子ハン、貴方は本当に可愛いなあ、ワテはあんさんの様な娘が欲しかったなあ』
そう言うと、斎雪は優しく泣いている煕子に、涙を拭くように手ぬぐいを渡した。
手ぬぐいを煕子に渡した後、斎雪は優しく一回煕子の頭を撫でる。
『今まで、煕子ハンは、自分の弱音を人に言わず、一人頑張ってきたんやなぁ』
『偉い、アンタは偉い!!』
そう言うと、少し考える様に斎雪は天井を見上げた。
『そうや、煕子はん、ワテの昔話、聞いてくれはりますか??』
『煕子はんの参考になるか、わからんけど、ワテもな、若い頃、いや、今でも好きな女がいてなぁ、ずっと片思いしてるんや』
『ワシ、坊さんやし、その人と祝言上げる事もできなくてな・・・仏はんには悪いけど、仏はんよりもその人が好きでな・・・、もしその人が今、ワテと祝言上げてくれるというなら、直ぐに坊さんを辞めるとおもいます、本気で・・多分そんな事絶対に相手は言わんけど・・』
ちょっと寂しそうに、斎雪は煕子に語り出したのであった。
『煕子殿、今日は御二人の折角の水入らずの時間に、お邪魔して誠にスマヌ事をしましたな。』
『この通りじゃ、許して下され・・・』
煕子は、畏まった様子の声で話しかけられ、斎雪のいる方に注意を戻すと、其処には畳に頭をつけ謝罪している斎雪の姿があった。
『斎雪様、エッ、突然、何故、謝られるのですか?』
『私は、斎雪様と食事を一緒にできて、楽しい時間を頂き、感謝しておりますのに・・』
『いや、御二人が1年以上も離れ離れになっていたとは知らず、折角の夫婦水入らずの旅を邪魔してしまい・・ついつい、御二人の人の良さに甘えてしまいました』
『イエ、本音を言いますと、私としては斎雪様が居てくれて・・良かったのです・・』
『斎雪様、とにかく頭をあげて下さいませ』
煕子がそう言うと、斎雪はユックリと頭を挙げた。
『御足も崩して下さいませ・・』
『斎雪様がそのようにお座りですと、私はずっと緊張していなければなりませんので』
『いや、十兵衛殿が寝てしまったので、ワテはもう、自分の部屋に戻りまする』
斎雪は、そう言うと、先ず先に片足を曲げ、その膝小僧に片手を乗せ、勢いをつける様にその腕に重心を乗せた。
『もし、宜しければ!』
煕子は、斎雪の動作を制止する様な大きな声で、そう叫んだ。
『斎雪様、もうちょっとだけで宜しいので、私の話を聞いて下さりませんか??』
『今まで、誰にも話せなかった私の心の内を、誰かに聞いて欲しいのです・・・』
『ダメですか・・?』
そう言って、立ち上がろうとしていた斎雪の表情を伺うように、斎雪の目を見つめる。
『・・・こんな老いぼれで良ければ、お話を聞きましょう・・』
『何かお悩み事でも??十兵衛殿の事ですかな?』
『イエ、夫の問題ではなく、私の心の問題です・・・』
『水知らずのワシで宜しいのですか?』
再度確認する斎雪の一人称が、変わっている事に煕子は気づいたが、敢てそれは指摘せず、言葉を続ける。
『水知らずの、斎雪様だからこそ、聞いてもらえるのです・・』
『そういうモノですかな?』
『そういうモノです・・多分』と、最後に自身がない事を付け足す所が煕子の謙虚さをうかがわせた。
『これも、御仏が作ってくれた縁、いや、枕詞は必要ないな、煕子殿の頼みであれば、断れん・・』
斎雪は、そう言うと、起こしていた片足を戻し、そして足を崩し、その場で正座から胡坐にかえ、その場に座った。
『本当ですか、有難うございます!!』
斎雪が自分の願いを聞いてくれた事が分かり、煕子の声と表情はパッと明るくなる。
『それで、煕子殿の抱えている悩みは、何なのかな?』
『十兵衛殿が居ない間に、好きな男でも現れたのか?』
『そんなワケありません。私の夫は十兵衛様だけです!!』
咄嗟に、煕子の顔がヒキツリ、少し怒った様に斎雪を睨みつける。
『ガツハハ、煕子はんの人柄は分かってまんがな、一日二人を見ただけで分かりますがな。戯言でんがな・・』
『煕子はんは、怒った顔も可愛いなぁ』
『斎雪様ぐらいですわ、私のこの顔を可愛いと言って下さるのは・・・』
『この顔のキズ、キズのせいかもしれませんね、私の性格が変わってしまったのは・・』
煕子は、そう言うと自分の手でそっと顔の疱瘡の後を隠す様に触ったのである。
『斎雪様、私と十兵衛様は元々、従兄同士で、縁があって夫婦になれたのだけど・・・』
煕子は、少し悲しそうな表情をして、斎雪に自分と十兵衛が祝言を挙げる迄の思い出を語り出した。
それは、思い出という名前で語るには、悲しすぎる経験であった。
斎雪は、煕子が振り返る様に語る辛い思い出を、黙って聞いた。
女性にとって、疱瘡を患った事、その後の心情の変化を他者へ語る事は勇気のいる事だという事を分かった上で、彼女の辛い告白を聞いたのである。
二人の馴れ初めを知った斎雪は、噛みしめる様に感想を述べた。
『十兵衛はんも、煕子ハンも、よく乗り切ったなあ、絶対二人は良い夫婦になれる。良い家族が出来る、ワテが保証する。偉いなぁ二人共』
『私なんか、偉くありません。』
『一ヵ月前、十兵衛様が寝言で、私の知らない女の人の名前を言ったのです。もう、その日から、私は見た事もない、その女の人を、気になって、イエ、憎んでしまって』
『夫に、その人の事を聞きたくて、聞きたくて、だけど怖くて、聞けなくて・・』
『私、自信が無いんです。何時か、十兵衛様が私ではない女の方に心奪われ、その方の元へ行ってしまうのではないかと思うと・・私はその日が来ることを恐れているんです・・』
言葉の最後の方は、感情が溢れ、言葉を言い終えると煕子は泣き出してしまった。
『煕子ハン、貴方は本当に可愛いなあ、ワテはあんさんの様な娘が欲しかったなあ』
そう言うと、斎雪は優しく泣いている煕子に、涙を拭くように手ぬぐいを渡した。
手ぬぐいを煕子に渡した後、斎雪は優しく一回煕子の頭を撫でる。
『今まで、煕子ハンは、自分の弱音を人に言わず、一人頑張ってきたんやなぁ』
『偉い、アンタは偉い!!』
そう言うと、少し考える様に斎雪は天井を見上げた。
『そうや、煕子はん、ワテの昔話、聞いてくれはりますか??』
『煕子はんの参考になるか、わからんけど、ワテもな、若い頃、いや、今でも好きな女がいてなぁ、ずっと片思いしてるんや』
『ワシ、坊さんやし、その人と祝言上げる事もできなくてな・・・仏はんには悪いけど、仏はんよりもその人が好きでな・・・、もしその人が今、ワテと祝言上げてくれるというなら、直ぐに坊さんを辞めるとおもいます、本気で・・多分そんな事絶対に相手は言わんけど・・』
ちょっと寂しそうに、斎雪は煕子に語り出したのであった。
0
あなたにおすすめの小説
マルチバース豊臣家の人々
かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月
後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。
ーーこんなはずちゃうやろ?
それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。
果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?
そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜
旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる