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第7章 遅れてやっときた二人の新婚生活
9.招かれざる客
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『・・・』
煕子は、状況を理解できず、沈黙している。
『・・・』
煕子の横に座っている十兵衛も又、予想していなかった状況に困惑し、言葉が出ない。
(どうして、この方が此処に居るのだ・・)
(つい、先刻、養老の滝を見た後、又何処かで会えればと、別れの挨拶をして別れたばかりではないか・・)
十兵衛は、冷静な目で一人の男の顔を見る。
十兵衛に見つめられた男は、ツルツルとした頭の坊主、斎雪であった。
見つめられた男は、そんな十兵衛の視線を気にしていない様子で、鍋の管理人の様に的確に指示を出す。
そう、正に鍋奉行である。
『煕子はん、鴨肉、火が通りましたで、ワテのは多めにしてくれますか』
『ア、ハイ、コレぐらいでしょうか?』
『それじゃあ、肉だけでんがな、野菜も頼んます、お椀入った状況で、その鍋の真価が問われますのや』
『あ、この御汁、美味しそう!!って思わせなイカンのです。そりゃ、もう一つの美でんがな』
『料理を活かすも殺すも、盛り付けでんがな、盛り付けが命どす』
『ドス、どす、ドスコイでっしゃろ』
斎雪は、マクシタテル様に言葉を出すが、十兵衛と煕子には理解できない。
『・・・スミマセン・・どうでしょうか?』
言葉の意味は、良く理解できないが、煕子は、雰囲気で察し、その場を繕う様に、再び盛りつけたお椀を斎雪に見せる。
『そうや、其れぐらいが良い塩梅で・・』
斎雪はニコニコしながら、煕子が持ったお椀を受け取ろうと手を出す。
満足気な斎雪の様子に、心なしか、煕子の表情も安堵の様子を示す。
(イカン、いかん、またこの老人の術中にはまりそうだ。今度こそはガツンと冷静に対処しなければ)
十兵衛は、突然、仕掛けられた先制抗議に、混乱しながらも、昼間から強引に自分達を自分の世界にまねきいれてしまう怪しい坊主の斎雪を、牽制する様に口を開いた。
『・・・斎雪殿、言いたくはないが、仏の道を歩む方が、鴨の肉を当然の様に食べるのは如何なものか?』
『十兵衛はん、仏はんは、どんな生き物にも平等に死を与える』
『この鴨の命を無駄にしない事が仏の道じゃ、可哀そうなこの鴨を労いながら美味しく食べるのが、仏の道、ワテの唯一出来る供養でっしゃろ』
斎雪は、そう言いながら、煕子から盛りつけてもらったばかりのお椀を受け取ろうと手を出す。
煕子は、苦笑いをしながらも、楽しそうである。
『人間は、他の者の命を喰らい、生きている罪深い生き物でっしゃろ』
『そんな当たり前の事を、直視せず、一人だけ、肉を食べてはイケマセン、そんな偽善者にだけはなってはアカン。そうでっしゃろ、煕子はん・・』
『・・・ハイ』
煕子は、突然、話しを振られ無理矢理相づちを強要され、困ったように返事をする。
(そうだ、人間とは、なんと残酷な宿命を背負った・・・ンン、イカン・・そんな事ではない・・)
十兵衛は、斎雪の言葉に納得しかけた自分に気づき、現状を確認する様に斎雪に問いかけた。
『斎雪殿・・・ソモソモ、どうして我らと同じ宿に泊まっておるのだ』
『しかもよりによって、我らの隣の部屋に、いきなり、宿の女将が我らだけでは食べきれない量の料理を持って来たかと思うと』
『後ろに貴殿が居られるとは・・』
『何、ツレナイ事言いなはる・・旅は道ずれ、世は情けと言うでっしゃろ』
『二人と別れて、適当に歩いて、適当に宿を取ったら、何と二人の部屋が隣でっしゃろ、これは仏はんのお導きやとピーンと来ましてな』
『女将に事情を言ったら、それじゃ、御二人の部屋に食事を運びましょうってな運びで・・』
『お代を気にする事必要はありません。ワテ・・こう見えても、都の偉い公家さんから仰山お小遣い貰っておりましてな、何時も世話になってるから、たまにはユックリ足伸ばして来いって』
『そりゃ、そんな事言われたら、いくらワテの短い脚も、無理矢理でも伸ばさな、バチが当たりますがな、ガツハハ』
そう言うと、不服そうな十兵衛を無視して、斎雪は自分の傍らに置いていた酒を取り出し、宿の女将が置いて行った空の盃を二つ持ち、一つは十兵衛に、もう一つを煕子に手渡す。
『鴨肉には、この駿河の酒が、よう合います。煕子はん、飲めます??、まあ、飲めんでも、形だけでいいから、乾杯のフリをして下さい』
斎雪は、勢いに戸惑う二人の盃に次々と持っていたドブロクから酒を注ぐ。
名人芸の様に、酒は、二人の盃の限界までナミナミに注がれる。
『それでは、3人の再会に、乾杯しましょう』
『・・斎雪殿、我々は夫婦になったばかりで、一年も遠くに離れ離れになり・・』
十兵衛は、斎雪の強引さに流される事に反発する様に、言葉を切り出そうとすると、そんな十兵衛を煕子が制すように、十兵衛の耳元に口を近づけ、十兵衛にだけ聞こえる様に囁いた。
『貴方、2人よりも3人の方が、私達の良い思い出になります。それに、私、斎雪殿が他人に思えなくて・・・』
(・・ウム、煕子がそう言うのであれば、・・・斎雪殿の言われる様に、仏のお導きかもな・・)
『何、二人だけで、内緒話してはるのや、サッサと乾杯して、料理食べましょう。』
『せっかくの料理が冷めてしまいますよって』
『・・斎雪殿、お気持ちは嬉しいが、私は酒がそんなに得意ではない・・飲むと直ぐに酔っぱらってしまう』
『大丈夫や、十兵衛はんとワシが寝れる様に、隣の部屋にはとうに、ふたつ布団をひいております』
『サツ、心置きなく、今日は飲みましょう!!』
斎雪が、悪気も無く言うので、十兵衛は、言葉をのみ絶句してしまう。
『御二人共、御止め下さい、フフ、私、二人のやり取りを見てると、もう可笑しくて』
『そうじゃ、食べよ、食べよ』
斎雪も、煕子の笑顔を見て、満足げにほほ笑む。
煕子が十兵衛にお椀と箸を渡す。
こんな形で、変な縁で旅路で出会った3人の
煕子は、状況を理解できず、沈黙している。
『・・・』
煕子の横に座っている十兵衛も又、予想していなかった状況に困惑し、言葉が出ない。
(どうして、この方が此処に居るのだ・・)
(つい、先刻、養老の滝を見た後、又何処かで会えればと、別れの挨拶をして別れたばかりではないか・・)
十兵衛は、冷静な目で一人の男の顔を見る。
十兵衛に見つめられた男は、ツルツルとした頭の坊主、斎雪であった。
見つめられた男は、そんな十兵衛の視線を気にしていない様子で、鍋の管理人の様に的確に指示を出す。
そう、正に鍋奉行である。
『煕子はん、鴨肉、火が通りましたで、ワテのは多めにしてくれますか』
『ア、ハイ、コレぐらいでしょうか?』
『それじゃあ、肉だけでんがな、野菜も頼んます、お椀入った状況で、その鍋の真価が問われますのや』
『あ、この御汁、美味しそう!!って思わせなイカンのです。そりゃ、もう一つの美でんがな』
『料理を活かすも殺すも、盛り付けでんがな、盛り付けが命どす』
『ドス、どす、ドスコイでっしゃろ』
斎雪は、マクシタテル様に言葉を出すが、十兵衛と煕子には理解できない。
『・・・スミマセン・・どうでしょうか?』
言葉の意味は、良く理解できないが、煕子は、雰囲気で察し、その場を繕う様に、再び盛りつけたお椀を斎雪に見せる。
『そうや、其れぐらいが良い塩梅で・・』
斎雪はニコニコしながら、煕子が持ったお椀を受け取ろうと手を出す。
満足気な斎雪の様子に、心なしか、煕子の表情も安堵の様子を示す。
(イカン、いかん、またこの老人の術中にはまりそうだ。今度こそはガツンと冷静に対処しなければ)
十兵衛は、突然、仕掛けられた先制抗議に、混乱しながらも、昼間から強引に自分達を自分の世界にまねきいれてしまう怪しい坊主の斎雪を、牽制する様に口を開いた。
『・・・斎雪殿、言いたくはないが、仏の道を歩む方が、鴨の肉を当然の様に食べるのは如何なものか?』
『十兵衛はん、仏はんは、どんな生き物にも平等に死を与える』
『この鴨の命を無駄にしない事が仏の道じゃ、可哀そうなこの鴨を労いながら美味しく食べるのが、仏の道、ワテの唯一出来る供養でっしゃろ』
斎雪は、そう言いながら、煕子から盛りつけてもらったばかりのお椀を受け取ろうと手を出す。
煕子は、苦笑いをしながらも、楽しそうである。
『人間は、他の者の命を喰らい、生きている罪深い生き物でっしゃろ』
『そんな当たり前の事を、直視せず、一人だけ、肉を食べてはイケマセン、そんな偽善者にだけはなってはアカン。そうでっしゃろ、煕子はん・・』
『・・・ハイ』
煕子は、突然、話しを振られ無理矢理相づちを強要され、困ったように返事をする。
(そうだ、人間とは、なんと残酷な宿命を背負った・・・ンン、イカン・・そんな事ではない・・)
十兵衛は、斎雪の言葉に納得しかけた自分に気づき、現状を確認する様に斎雪に問いかけた。
『斎雪殿・・・ソモソモ、どうして我らと同じ宿に泊まっておるのだ』
『しかもよりによって、我らの隣の部屋に、いきなり、宿の女将が我らだけでは食べきれない量の料理を持って来たかと思うと』
『後ろに貴殿が居られるとは・・』
『何、ツレナイ事言いなはる・・旅は道ずれ、世は情けと言うでっしゃろ』
『二人と別れて、適当に歩いて、適当に宿を取ったら、何と二人の部屋が隣でっしゃろ、これは仏はんのお導きやとピーンと来ましてな』
『女将に事情を言ったら、それじゃ、御二人の部屋に食事を運びましょうってな運びで・・』
『お代を気にする事必要はありません。ワテ・・こう見えても、都の偉い公家さんから仰山お小遣い貰っておりましてな、何時も世話になってるから、たまにはユックリ足伸ばして来いって』
『そりゃ、そんな事言われたら、いくらワテの短い脚も、無理矢理でも伸ばさな、バチが当たりますがな、ガツハハ』
そう言うと、不服そうな十兵衛を無視して、斎雪は自分の傍らに置いていた酒を取り出し、宿の女将が置いて行った空の盃を二つ持ち、一つは十兵衛に、もう一つを煕子に手渡す。
『鴨肉には、この駿河の酒が、よう合います。煕子はん、飲めます??、まあ、飲めんでも、形だけでいいから、乾杯のフリをして下さい』
斎雪は、勢いに戸惑う二人の盃に次々と持っていたドブロクから酒を注ぐ。
名人芸の様に、酒は、二人の盃の限界までナミナミに注がれる。
『それでは、3人の再会に、乾杯しましょう』
『・・斎雪殿、我々は夫婦になったばかりで、一年も遠くに離れ離れになり・・』
十兵衛は、斎雪の強引さに流される事に反発する様に、言葉を切り出そうとすると、そんな十兵衛を煕子が制すように、十兵衛の耳元に口を近づけ、十兵衛にだけ聞こえる様に囁いた。
『貴方、2人よりも3人の方が、私達の良い思い出になります。それに、私、斎雪殿が他人に思えなくて・・・』
(・・ウム、煕子がそう言うのであれば、・・・斎雪殿の言われる様に、仏のお導きかもな・・)
『何、二人だけで、内緒話してはるのや、サッサと乾杯して、料理食べましょう。』
『せっかくの料理が冷めてしまいますよって』
『・・斎雪殿、お気持ちは嬉しいが、私は酒がそんなに得意ではない・・飲むと直ぐに酔っぱらってしまう』
『大丈夫や、十兵衛はんとワシが寝れる様に、隣の部屋にはとうに、ふたつ布団をひいております』
『サツ、心置きなく、今日は飲みましょう!!』
斎雪が、悪気も無く言うので、十兵衛は、言葉をのみ絶句してしまう。
『御二人共、御止め下さい、フフ、私、二人のやり取りを見てると、もう可笑しくて』
『そうじゃ、食べよ、食べよ』
斎雪も、煕子の笑顔を見て、満足げにほほ笑む。
煕子が十兵衛にお椀と箸を渡す。
こんな形で、変な縁で旅路で出会った3人の
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