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第6章 土岐家の名君
24.ジジと姫君
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『フォッフォフォ、これはこれは、思わぬ処から、餅が落ちてきおった』
(誰がオモチよ、私は人間に決まっているじゃない、私の話を聞いていたのかしら?それとも、この爺様ボケているの?)
帰蝶は、自分の気持ちを悟らせない様に少し下を向き、焦る気持ちを抑え自分の提案への回答を待った。
『姫様、帰蝶様と言われましたか?お幾つかな?』
『今年で12です、私の年など聞いてどうするのですか?』
『フォッフォフォ、いや、勇気ある姫君だと、見たところ、お若いので、ちと気になりましての』
『帰蝶様、失礼ですが、頼純様とは寝屋を共にされておりましたかな?』
プツリ・・何処からか音がした。それは、帰蝶にしか聞こえない、帰蝶の堪忍袋の緒が切れた音であった。
帰蝶の心の中で、心の歯止めが切れた。
『平手殿と申されたか?お主、無礼であろう!!私は、美濃守護職が土岐頼純の正妻ですぞ』
『お主の主、織田信秀よりも格上の方の正妻ですぞ、その者を捕まえて、寝屋を共にしてたかどうかとは無礼千万、こんな恥辱を私に受けさせるのであれば、私を今、この場で殺せ』
『私の首を持って、今から全軍で稲葉山城へ参られよ!!』
『山崎殿、私が殺されても、十兵衛兄様をどうか、越前まで連れて行ってあげて下さい』
帰蝶は、腹の底から、生まれて初めてというぐらい、大きい声でそう山崎に伝えた。
帰蝶の、声の大きさ、その気迫で、一瞬、その場の空気が止まる。
『・・・・』
『・・・』
平手政秀は、無言で乗っていた馬から降り、降りたと思うと、帰蝶の目の前で、膝をつき土下座をし、頭を地に擦り付けるように頭を下げた。
『申し訳ございませぬ。姫様の物言い、まことその通りでございます』
『この平手政秀、この場で腹を掻き切って、お詫び申し上げます』
誰もが、平手の突然の態度の豹変に、驚いた。
『・・・イエ、切腹など、許さないわ、私が貴方を斬ります』
更に、帰蝶の思いがけない、返しの言葉に誰もが驚いたのは当然である。
『ごもっとも、・・だれか、帰蝶様、姫様に刀を、刀を渡すのじゃ・・』
立っている者達、馬に乗っている者達も関係なく、平手の家来達はドヨメキ、二人を見つめる。
誰もが、平手の指示に従わない、正直、皆何をしていいか分からないという状況であった。
『権六、刀を渡すのじゃぁ!!!』
痺れを切らしたように平手が権六という家来を怒鳴りつける様に命令する。
声に促され、権六という名の若い武士は、少し短い刀を帰蝶に渡すべく、走り寄る。
帰蝶は、その刀を堂々と受け、そして、ユックリと平手政秀の座っている場所まで近づく。
平手が、覚悟をする様に一度、両手を重ね、仏に祈る仕草をすると、首が斬りやすい様にと、前かがみに座る。
『エェイ!!』
刀を抜いた帰蝶は、大きく気合を声に出し、一目散に刀を振り落とす。
ガギッと、刀と石がぶつかる音が響く。
帰蝶は、平手の首を斬らず、ワザと平手政秀の身体より少し横に刀を振り落としたのであった。
『平手殿、私には、イエ、十兵衛兄様には時間が無いの、アナタを斬ると、もっと時間がかかりそうだから、斬らないわ、お願い致します。一刻も早く、兄様を、私達を父の城へ・・』
『お願い致します・・』と帰蝶は、平手に頭を下げる。下げた顔から、落ちて来た涙を、帰蝶を驚いて凝視していた平手政秀は理解した。
『権六、お主とお前の部隊の者達は、ワシと共に来い。その他の者達は、此処で待機じゃ!!』
『帰蝶様が下りて来た籠に乗っている御仁、十兵衛殿といったか、権六お主の身体に縛り付けよ』
『帰蝶様、馬は乗れますかな?、もし乗れるのであれば、このジジの後ろに乗ってくだされ』
『なぁに、このジジは齢をとっておりますが、馬は若こうございまする』
平手政秀は、そういい、立ち上がり、優しい笑顔を帰蝶に向けたのであった。
『乗れます!』とだけ、帰蝶は言い、平手の後ろについて行き、平手が先に馬に乗ると、権六という若い武士の助けを受け、平手の後ろに乗りこんだのである。
それから、平手の指示通り、権六という男の背中に十兵衛をおんぶさせ、二人の者が、ギッチリと縄で二人を締め付ける。
平手政秀は、準備が確認できると、朝倉家の山崎吉家に別れを告げ、尾張兵数百名に、一行の護衛の為、越前との国境沿いまで、ついて行く様に命令した。
『それでは、帰蝶様、行きますぞ!!』
『言葉は要りませぬ、サッサと!・・・して下さい』
帰蝶の言葉は厳しい。
『ハッ!』
平手は、そんな物言いに、怒るどころか、少し嬉しそうに笑い、力強く馬の身体を叩き、駆けさせたのであった。
この時の行為が、帰蝶の運命を変える事になるとは、帰蝶本人は思ってもいなかったのである。
(誰がオモチよ、私は人間に決まっているじゃない、私の話を聞いていたのかしら?それとも、この爺様ボケているの?)
帰蝶は、自分の気持ちを悟らせない様に少し下を向き、焦る気持ちを抑え自分の提案への回答を待った。
『姫様、帰蝶様と言われましたか?お幾つかな?』
『今年で12です、私の年など聞いてどうするのですか?』
『フォッフォフォ、いや、勇気ある姫君だと、見たところ、お若いので、ちと気になりましての』
『帰蝶様、失礼ですが、頼純様とは寝屋を共にされておりましたかな?』
プツリ・・何処からか音がした。それは、帰蝶にしか聞こえない、帰蝶の堪忍袋の緒が切れた音であった。
帰蝶の心の中で、心の歯止めが切れた。
『平手殿と申されたか?お主、無礼であろう!!私は、美濃守護職が土岐頼純の正妻ですぞ』
『お主の主、織田信秀よりも格上の方の正妻ですぞ、その者を捕まえて、寝屋を共にしてたかどうかとは無礼千万、こんな恥辱を私に受けさせるのであれば、私を今、この場で殺せ』
『私の首を持って、今から全軍で稲葉山城へ参られよ!!』
『山崎殿、私が殺されても、十兵衛兄様をどうか、越前まで連れて行ってあげて下さい』
帰蝶は、腹の底から、生まれて初めてというぐらい、大きい声でそう山崎に伝えた。
帰蝶の、声の大きさ、その気迫で、一瞬、その場の空気が止まる。
『・・・・』
『・・・』
平手政秀は、無言で乗っていた馬から降り、降りたと思うと、帰蝶の目の前で、膝をつき土下座をし、頭を地に擦り付けるように頭を下げた。
『申し訳ございませぬ。姫様の物言い、まことその通りでございます』
『この平手政秀、この場で腹を掻き切って、お詫び申し上げます』
誰もが、平手の突然の態度の豹変に、驚いた。
『・・・イエ、切腹など、許さないわ、私が貴方を斬ります』
更に、帰蝶の思いがけない、返しの言葉に誰もが驚いたのは当然である。
『ごもっとも、・・だれか、帰蝶様、姫様に刀を、刀を渡すのじゃ・・』
立っている者達、馬に乗っている者達も関係なく、平手の家来達はドヨメキ、二人を見つめる。
誰もが、平手の指示に従わない、正直、皆何をしていいか分からないという状況であった。
『権六、刀を渡すのじゃぁ!!!』
痺れを切らしたように平手が権六という家来を怒鳴りつける様に命令する。
声に促され、権六という名の若い武士は、少し短い刀を帰蝶に渡すべく、走り寄る。
帰蝶は、その刀を堂々と受け、そして、ユックリと平手政秀の座っている場所まで近づく。
平手が、覚悟をする様に一度、両手を重ね、仏に祈る仕草をすると、首が斬りやすい様にと、前かがみに座る。
『エェイ!!』
刀を抜いた帰蝶は、大きく気合を声に出し、一目散に刀を振り落とす。
ガギッと、刀と石がぶつかる音が響く。
帰蝶は、平手の首を斬らず、ワザと平手政秀の身体より少し横に刀を振り落としたのであった。
『平手殿、私には、イエ、十兵衛兄様には時間が無いの、アナタを斬ると、もっと時間がかかりそうだから、斬らないわ、お願い致します。一刻も早く、兄様を、私達を父の城へ・・』
『お願い致します・・』と帰蝶は、平手に頭を下げる。下げた顔から、落ちて来た涙を、帰蝶を驚いて凝視していた平手政秀は理解した。
『権六、お主とお前の部隊の者達は、ワシと共に来い。その他の者達は、此処で待機じゃ!!』
『帰蝶様が下りて来た籠に乗っている御仁、十兵衛殿といったか、権六お主の身体に縛り付けよ』
『帰蝶様、馬は乗れますかな?、もし乗れるのであれば、このジジの後ろに乗ってくだされ』
『なぁに、このジジは齢をとっておりますが、馬は若こうございまする』
平手政秀は、そういい、立ち上がり、優しい笑顔を帰蝶に向けたのであった。
『乗れます!』とだけ、帰蝶は言い、平手の後ろについて行き、平手が先に馬に乗ると、権六という若い武士の助けを受け、平手の後ろに乗りこんだのである。
それから、平手の指示通り、権六という男の背中に十兵衛をおんぶさせ、二人の者が、ギッチリと縄で二人を締め付ける。
平手政秀は、準備が確認できると、朝倉家の山崎吉家に別れを告げ、尾張兵数百名に、一行の護衛の為、越前との国境沿いまで、ついて行く様に命令した。
『それでは、帰蝶様、行きますぞ!!』
『言葉は要りませぬ、サッサと!・・・して下さい』
帰蝶の言葉は厳しい。
『ハッ!』
平手は、そんな物言いに、怒るどころか、少し嬉しそうに笑い、力強く馬の身体を叩き、駆けさせたのであった。
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