王になりたかった男【不老不死伝説と明智光秀】

野松 彦秋

文字の大きさ
62 / 168
第4章 狂王の末路

12.問いかけ

しおりを挟む
声を荒げる始皇帝に対し、フォンミンは調子を変えず冷静に言葉を続ける。

『お主は、己を真人と呼ぶが、真人とはどういう意味じゃ?』

『そんな事を聞いてどうする?それに答えれば、霊薬をくれるのか?』

『お主が、己が言っている真人かどうかを試すのじゃ、お主が真の人、真人であれば望みのモノを与えよう』

フォンミンがそう言うと、始皇帝の態度が豹変する。

『そうか・・これは、偉大なる真人、この真人を確認する為の儀式なのだな』

『よかろう、真人は其方の問いに答えてつかわす』と始皇帝は、嬉々とした口調でフォンミンへ宣言する様に言う。

『・・・・』、フォンミンはそう言う始皇帝をじっと観察するような目で見る。

暫く、沈黙した後、フォンミンは再び口を開く。
『では、再度問う、お主の言う真人とは?』

『真人とは、真理を悟った者という意味じゃ』

『お主の言う真理とは?』

『真人こそが、この天下の者総てを治める王である』、そう言う始皇帝の声は威厳と自信に満ち溢れていた。それは、初めて武力で中国を統一した男の矜持《きょうじ》から出てくるモノであっただろう。

『天下の者、総てを治める王とな・・・』
フォンミンは、始皇帝のその威厳も、意に介さないように淡々と質問を続ける。

『お主の言う王とは』

『天下でたった一人の権威者である』
『天下に選ばれし者』

始皇帝の声は大きく、その声は浜辺の陣所に待機している兵達にも届くような勢いがあった。

『・・・お主が、真理を悟った王?』

『天下の者、総てを治める王とな、天下に選ばれし、たった一人の権威者・・フッ』

フォンミンは、始皇帝の言った言葉を、繰り返し、そして苦笑する様に鼻で笑ったのであった。

『・・・何が可笑しい、唯の仙女の分際で、この真人を愚弄するか!』

始皇帝は、自信のある自分の真理を鼻で笑われた事に憤慨したのである。

フォンミンは、始皇帝の様子を気にせず、最後の質問を始皇帝に問う。

『真理を悟った、お主は、今日もし、我が人魚の角を食べた赤ん坊を連れて来ていたらどうするつもりじゃった?』

『・・・その赤ん坊を食べれば、真人は不老不死になれる。食べられる赤ん坊も、真人の為なら喜んで命を投げ出すであろう・・・』

始皇帝は、ユックリ大きな声で、フォンミンに、いや自分に言い聞かせる様に語る。

そして、フォンミンに反論を許さないように、大声で叫んだ。
『天下もそれを望んでおる!真人が不老不死になり、永遠にこの天下を治める事を!!』

そう語る始皇帝の顔は、狂信的な目をしており、既に常軌を逸した目になっていた。

フォンミンは、最初から始皇帝の本性を分かっていた様に、驚きもせず黙って聞いていた。

慌てたのは、李覚を始め船の上で松明を燃やしていた1万の兵達である。

多くの兵達は、口々に聞こえて来た男に反論する様に声をあげる
『今、しゃべってる奴が俺たちの大王様なのか』
『俺たちが護衛していた大王様は、こんな男だったのか!』
『俺たちの王様は、自分が不老不死になる為に、赤ん坊を食べるのかよ』
『自分も子供がいるだろうに、狂ってやがる』

男達は何故か、自分達の耳に届く、その男の声を、言葉の内容に嫌悪感を感じ始めていた。

そして、そんな彼らの耳には始皇帝と話をしている女の声が聞こえて来たのである。

『其方達が言う蓬莱の地で、私が不老不死の霊薬を与えた者はお主とは違う答えを持つ男じゃった』

『その男は統治者として、統治する者達と共に、限りある食事を自分も含め均等に分配した』

フォンミンの言葉は、初めは冷静に淡々と始まった。

しかし、話しを続ける毎に彼女の言葉は熱を帯びていく。

『その男は、人生とは限りがあるから尊いと言い、皆で飲む美味い酒こそが霊薬と言った』

『その男は、私の与えた不老不死の霊薬を飲まず、それどころが私の前で、自分とは血縁ではない赤子の為に、当然の様に命を使い切った』

『それは、自分の先が短い人生よりも、未来ある赤子の命の方が尊いという事を知ってでの行動である』

『人外である私が言うのも何だが、その御仁は、真理を悟り人格を完成させた、人間の理想像であったと思う』

『後になって、感じた事じゃが、その男、徐福様こそが正に真人であった。しかし、其方はどうじゃ』

『己自身にとって都合の良い事を真理とし、天下でたった一人の権威者と称し、民の命の重さと自分の命を別とし躊躇なく処刑する』

『ただ自分の欲望の為だけに、未来ある赤子でさえも躊躇なく殺そうとする』

『お主は、唯の人じゃ、自分から権威を奪う死を恐怖するあまり、常軌を逸したただの人間じゃ』

フォンミンは、徐福を思い出し、彼とは真逆の考えを持つ始皇帝を糾弾する様に叫んだのである。

遠く離れた場所で青い鱗を通して聞いていた、姜文は自分の思いを代弁してくれたフォンミンの声を泣きながら聞いていた。

二人を取り囲む船の上の兵隊たちも、自分達の気持ちを代弁するような話に、心が熱くなっていた。

『そうじゃ、そうじゃ』
『血も涙もない男は、王様な訳が無い』と、多くの兵達から声が漏れる。

『真人を、唯の人間だとぉう・・朕を、このワシを・・誰だっと思っておるのじゃぁ!』

糾弾された始皇帝は、逆上し大声で叫ぶ。

『臣民は、総てワシの奴隷じゃ。すべては、ワシの思いのまま、ワシが天下なのじゃぁ』

『仙女の姿をした、海神が、妖ふぜいが、調子に乗りおって』

『赤子がいないのであれば、お前を殺して、お前を食ってやる!!』

始皇帝は、そう言うと、自分の座っている椅子の下に隠していた連弩《れんど》(連続射撃を容易にするように改良された小型の弩)を取り出し、フォンミン目がけて矢を放った。

フォンミンの目を通して、見ていた姜文も、自分目がけて矢が来ると思い、思わず目を瞑ったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月 後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。 ーーこんなはずちゃうやろ? それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。 果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?  そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

【読者賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

処理中です...