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第一話:魔法使い、誕生
◆閑話 悪夢◆
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「はぁ、はぁっ!」
智也は真っ暗闇の空間を走り続けていた。
(一体、あれは何なんだ!)
********
智也が眠りにつき、気が付くとこの空間に立っていた。
見渡す限り闇が広がり、空気も冷えていてどこか肌寒い。
今まで見たことのない夢に、智也はどこか不安を抱いた。
そんな不安に押しつぶされそうになりながらも、智也は歩き始めようとした。
その時だった。
『見ぃつけた』
幼い女の子の声が智也の耳に入ってきた。
「え、誰かいるの?」
智也はキョロキョロと周囲を見るが、人の姿はない。
『見ツケタ、見ツケタ』
今度は、おどろおどろしい声が響き渡る。
それだけではない。
『あぁ。やっと見つかったわね』
『これで我らの願いが――』
妖しげで艶のある女性の声、威厳のある低い声も聞こえてくる。
自分のことを見ている【何か】がそこにいる。だが、智也の目はその姿を捉えることはできない。
さまざまな声が重なり、不安は次第に恐怖へと変わっていった。
「何だよ……一体何が、いるんだよ」
智也は今まで感じたことのない恐怖からか、目を見開き瞬きができずにいる。
身体もガタガタと小刻みに震えてている。
『我らの元へ、参れ』
目でとらえることができない【何か】が迫ってきていると直感した智也は、勇気を振り絞って走り出した。
『あ、逃げたぁ』
『あら。いけない』
智也は走りながら、後ろから【何か】が追いかけてくるのを感じていた。
『捕マエロ、捕マエロ』
「ヤバい! あれに捕まったら……っ」
捕まったら、終わる。
智也の直感が、頭のなかで警鐘を鳴らす。
どれだけ走っただろうか。
智也の息は乱れ、心臓は聞こえそうなくらいバクバクと脈を打ち、脚は悲鳴をあげている。
「ダメだ……」
智也の身体は限界を迎えていた。
あともう少し、少しと心の中で言い聞かせてながら走っていたが、バンと何かにぶつかって倒れてしまった。
「え……?」
フラフラになりながら立ち上がった智也は、手を伸ばしてみた。
そこには、壁のようなものがあった。
行き止まりだった。
これ以上、先に進むことはできない。
「はは……」
智也の口から乾いた笑いがもれた。
『ここまでだな』
低い声が辺りに響き渡る。
得体のしれない【何か】がズルズルと引きずる音をたてながら、智也に近付いてくる。
智也は少しでも距離を取りたかったが、走り続けた身体はもうピクリとも動かすことができない。
『来てもらおう。我らの元へ』
智也がギュッと、目を閉じた。その時だった。
温かく、柔らかい風が智也の頬を撫でた。
「え……?」
智也が目を開けると、光を帯びた風が智也を守るように集まっていた。
『ウゥ……!』
『わぁ! 眩しいよぉ』
『何故、この風が吹いているの!?』
『……これは』
【何か】は風に反応して智也から後ずさり、距離をとった。
風は智也から離れ、今度は【何か】を包み込むように集まり始めた。
『……ここは撤収だ。次は必ず』
しばらくして、風が消え去るとそれと同時に【何か】もいなくなり、真っ暗闇に静けさだけが残った。
智也は座りこんだまま、呆然としていた。
「一体、何だったんだろう……」
そう呟くと、真っ暗闇の空間にヒビが入りはじめ、ガラスのようにパリンと割れると、そこにはあの草原が広がっていた。
(あの草原の夢だ……助かった)
何度も夢で見ている空間に来た智也は顔を下げ、どこかホッとしていた。
「智也」
名前を呼ばれ顔を上げると、あの青年が立っていた。
「もしかして……俺のこと助けてくれたのは君なの?」
青年は何も答えず、ただ優しく智也の頭を撫でる。
「――」
その口元が何かを言いかけたが、声は届かないまま――。
夢はここで終わり、智也は現実世界へ引き戻された。
智也は真っ暗闇の空間を走り続けていた。
(一体、あれは何なんだ!)
********
智也が眠りにつき、気が付くとこの空間に立っていた。
見渡す限り闇が広がり、空気も冷えていてどこか肌寒い。
今まで見たことのない夢に、智也はどこか不安を抱いた。
そんな不安に押しつぶされそうになりながらも、智也は歩き始めようとした。
その時だった。
『見ぃつけた』
幼い女の子の声が智也の耳に入ってきた。
「え、誰かいるの?」
智也はキョロキョロと周囲を見るが、人の姿はない。
『見ツケタ、見ツケタ』
今度は、おどろおどろしい声が響き渡る。
それだけではない。
『あぁ。やっと見つかったわね』
『これで我らの願いが――』
妖しげで艶のある女性の声、威厳のある低い声も聞こえてくる。
自分のことを見ている【何か】がそこにいる。だが、智也の目はその姿を捉えることはできない。
さまざまな声が重なり、不安は次第に恐怖へと変わっていった。
「何だよ……一体何が、いるんだよ」
智也は今まで感じたことのない恐怖からか、目を見開き瞬きができずにいる。
身体もガタガタと小刻みに震えてている。
『我らの元へ、参れ』
目でとらえることができない【何か】が迫ってきていると直感した智也は、勇気を振り絞って走り出した。
『あ、逃げたぁ』
『あら。いけない』
智也は走りながら、後ろから【何か】が追いかけてくるのを感じていた。
『捕マエロ、捕マエロ』
「ヤバい! あれに捕まったら……っ」
捕まったら、終わる。
智也の直感が、頭のなかで警鐘を鳴らす。
どれだけ走っただろうか。
智也の息は乱れ、心臓は聞こえそうなくらいバクバクと脈を打ち、脚は悲鳴をあげている。
「ダメだ……」
智也の身体は限界を迎えていた。
あともう少し、少しと心の中で言い聞かせてながら走っていたが、バンと何かにぶつかって倒れてしまった。
「え……?」
フラフラになりながら立ち上がった智也は、手を伸ばしてみた。
そこには、壁のようなものがあった。
行き止まりだった。
これ以上、先に進むことはできない。
「はは……」
智也の口から乾いた笑いがもれた。
『ここまでだな』
低い声が辺りに響き渡る。
得体のしれない【何か】がズルズルと引きずる音をたてながら、智也に近付いてくる。
智也は少しでも距離を取りたかったが、走り続けた身体はもうピクリとも動かすことができない。
『来てもらおう。我らの元へ』
智也がギュッと、目を閉じた。その時だった。
温かく、柔らかい風が智也の頬を撫でた。
「え……?」
智也が目を開けると、光を帯びた風が智也を守るように集まっていた。
『ウゥ……!』
『わぁ! 眩しいよぉ』
『何故、この風が吹いているの!?』
『……これは』
【何か】は風に反応して智也から後ずさり、距離をとった。
風は智也から離れ、今度は【何か】を包み込むように集まり始めた。
『……ここは撤収だ。次は必ず』
しばらくして、風が消え去るとそれと同時に【何か】もいなくなり、真っ暗闇に静けさだけが残った。
智也は座りこんだまま、呆然としていた。
「一体、何だったんだろう……」
そう呟くと、真っ暗闇の空間にヒビが入りはじめ、ガラスのようにパリンと割れると、そこにはあの草原が広がっていた。
(あの草原の夢だ……助かった)
何度も夢で見ている空間に来た智也は顔を下げ、どこかホッとしていた。
「智也」
名前を呼ばれ顔を上げると、あの青年が立っていた。
「もしかして……俺のこと助けてくれたのは君なの?」
青年は何も答えず、ただ優しく智也の頭を撫でる。
「――」
その口元が何かを言いかけたが、声は届かないまま――。
夢はここで終わり、智也は現実世界へ引き戻された。
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