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第一話:魔法使いと春風の聖霊

◆春風が吹く◆ ③

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 颯の周囲に集まっていた風の力が一段と強くなり、颯の身体を隠した。
「うっ……!」
 あまりの強風に智也は呼吸が詰まった。
 光と風が徐々に止み、姿を現したのは長い銀色の髪をたなびかせ、整った顔立ちに凛々しくつり上がった目。
 そして、五月の新緑を彷彿とさせる若草色の瞳。
 智也が何度も何度も夢の中で会っていた、あの青年の姿そのままだった。
「ようやくこの姿で会えた、な」
 夢の中で会っていた青年の正体は颯だった。
 智也は驚きのあまり目を大きくさせた。
「颯君……」
「智也。今は【ゼピュロス】と呼んでくれるか?」
「ゼピュロス……うん、わかった」
 ゼピュロスはふっと小さく笑いながら、智也の頭を優しく撫でた。
「さてと」
 ゼピュロスはくるりと回り、見えない壁に阻まれたままのバジリスクと対峙する。
「ぐっ……」
「どうした? 俺が相手だと物足りないか?」
 ゼピュロスはゆっくりと歩みを進めバジリスクに近付く。
「こうなったら……っ!」
バジリスクは逃げようと身体を捻るが、ゼピュロスの風が彼を逃さない。
ゼピュロスは両手を広げ、巨大な風の壁を作り出した。
「おいおい、待ちなよ」
バジリスクは必死に抵抗するが、ゼピュロスの力は圧倒的だった。
「智也。もう一度魔法陣に指をのせて」
「うん!」
智也はゼピュロスの指示に従い、グリモワアプリを操作する。
(あ……、また頭の中に言葉が)
 智也は頭に浮かんだ呪文を声に出す。

【ブリッザ・プリマヴェーレ】

 智也の声と共に、ゼピュロスの掌から光輝く風が生まれあっという間に大きくなった。
 大きくなった風は、バジリスクを包み込む。
「ぐあああっ!」
 バジリスクは風に吹かれ、苦しそうにうめき声をあげた。しかし、逃れようとしても、ゼピュロスの風がバジリスクを捉えて離さない。
「元の世界まで送り飛ばしてやる。感謝しろよ?」
 ゼピュロスがスッと右腕を伸ばすと、指を弾いた。
「開け、異界の門!」
 パチンと大きな音が辺りに響き渡ると、ゴォォォっと大きな音と共に光り輝く大きな魔法陣が現れた。
 魔法陣が扉が開くように半分に割れると、更に光が強くなりバジリスクの姿は見えなくなった。
「智也っ!」
 ゼピュロスに呼ばれた智也は、口を動かす。
 スマホの画面の魔法陣に指は乗せられたままだ。
「異界の住人よ、在るべき場所へ帰り給え」
 智也は大きく息を吸った。

【レベニ】

 智也が呪文を唱えると、魔法陣はカッと光を発っし、火花のように散らばり消えた。
 公園に静寂が戻った。
   智也は息を切らしながらも、安堵と達成感に満ちていた。
 ゼピュロスは微笑み、智也に手を差し伸べた。
 智也はその手をしっかりと握り返した。
「やったな智也。初めてとは思えない【魔法】だった」
 智也はその手をしっかりと握り返した。
 二人の周囲に心地よい風が吹くと、ゼピュロスは颯の姿に戻っていた。
「魔法? 俺……魔法を使ったの?」
 颯は力強く頷いた。
「あぁ」
 全てが終わり、冷静さが戻ってきた智也は颯の顔を見た。
「颯君、魔法使いって―――」
 智也は颯に問いかけようとしたが、言葉が続かなかった。
 気を失ってしまったからだ。
 いきなりバジリスクに追いかけられ、生命の危機を感じ、未知の力である魔法も使ったのだ。
 智也の心と身体は許容範囲をゆうに越えていた。
「――おっと!」
 智也が力尽きて倒れる瞬間、颯はすかさず彼を抱き止めた。
 智也はゆっくりと規則的に呼吸をしている。
 颯は智也の頬をゆっくりと撫で、自分の額と智也の額をコツンとくっつけた。

「よく頑張ったな」

 颯が慈愛に満ちた声で囁くと、その足で智也の家へ向かった。
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