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第一話:魔法使い、誕生
◆夢の中の青年①◆
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『ピピピピピピ……』
スマートフォンのアラーム音が朝を告げるために、けたたましく鳴り響く。
「ん~……」
布団の中で動く小さなかたまりから、にゅっと手が伸びてアラームを止めた。
数秒、小さなかたまりは動かなかったが、意を決したかのようにばさりと布団から姿を現した。
「ふあぁ~……」
智也はゆっくりと身体を起こすと、両腕を天井に向けくんと伸ばした。
完全に目が覚めきっていないからか、目はまだうつろのままだ。
(……あの夢、いつもと違った……どうしてだろう?)
智也はぼんやりと昨晩見た夢の事を考えいた。
これまでジッとこちらを見つめていただけの青年が、話しかけてきたのだ。
それだけじゃない。
夢の中にもかかわらず、頭に痛みが走ったのも気になってしまう。
何かが変わろうとしている合図なのか、それとも。
(そういえば何か言っていた気がするけど……何だったんだろう?)
夢の中で青年が言っていたことを思い出そうとしたが、起きたばかりの頭は思うように動いてくれない。
(……ま、いっか。思い出すのは後でいいや)
智也は夢のことを考えるのを止め、リビングへ向かった。
********
(うーん……。やっぱり気になる)
智也は一人、昨晩見た夢のことを考えながら通学路を歩いていた。
あの銀髪の青年は何か自分に伝えたい事があったんじゃないか。
だが、彼の言葉は聞き取る事ができなかった上に、聞きなおそうとしたら目が覚めてしまった。
(肝心なところで聞こえなかったんだよなぁー)
はぁ、と小さくため息をつき、どこかしょんぼりと背中を丸めながら歩いていると、後ろから「智也君」と声をかけられた。
智也は一瞬、肩をビクッと震わせながらも後ろに振り返った。
「颯君!」
智也に声をかけたのは春風颯だった。
近所の高校に通う年上の友人で、濃灰色の髪に分厚いメガネ――その風貌は目立たないが、どこか不思議な雰囲気を持つ青年だ。
三年前の夏休み、市民図書館で出会った事がきっかけで仲良くなり、一緒に登校したり、時折勉強を見てもらっている。
「お、おはよう!」
「おはよう。どうしたの? 何か考え事でもしてた?」
「う、うん。ちょっとね……」
智也は颯に夢のことを話してみようかと考えた。
颯は学校の授業で得られる知識だけではなく、多くの知恵も持っている。
一円玉を一枚作るのに材料費が三円かかることや、シャープペンの芯をレンジで加熱すると光るといった雑学も教えてくれた。
もしかしたら、自分が見た夢がどういうものかも知っているかもしれないと智也は考えた。
「颯君。今日、放課後予定ある?」
「今日? いや、ないけど。どうかした?」
「その……少し、話しができないかなって」
「うん、いいよ。いつもの公園でいいかい?」
いつもの公園というのは、智也が通う小学校と颯が通う高校の中間にある遊具のない小さな公園で、二人が待ち合わせる時に利用している場所だ。
「ありがとう。じゃあ、学校出る時に連絡するね!」
「了解」
智也と颯は一旦分かれて、それぞれの学校へ向かった。
********
放課後。
『今から学校を出るよ!』
五年三組の教室にて智也はランドセルからコッソリとスマホを取り出し、颯にメッセージを送った。
智也が暮らす【新都心:貴志間ニュータウン】では、すべての学校でスマホの持ち込みが許可されている。
ただし、授業中に使用したりアプリゲームをすることは禁止されており、もし使用が発覚した場合、使用していたアプリは問答無用でその場で削除される。
「よし、行くか」
スマホをランドセルにしまい、教室を出ようとした時に声をかけられた。
「お~い、トモ~!」
「暁?」
智也の親友の一人、秀島暁が駆け寄ってきた。
明るい茶色の髪に短く切りそろえられたツーブロック。
やんちゃな性格をあらわしたような、ややつり上がった目つきと黒い瞳が特徴で、運動神経抜群で学年で一番足が速い。
「この後緑ヶ丘公園で遊ぶんだけど、一緒に来ないか?」
暁からの誘いは智也にとって、とても魅力的なものだった。
小学校から少し離れた場所にある緑ヶ丘公園にはたくさんの遊具があり、毎日遊んでも飽きることがない場所だからだ。
だが、今日はもう既に予定を入れている。
「ゴメン! 今日は用事があって……また今度いい?」
「そうなのか? じゃあまた今度な!」
「うん」
智也は暁と別れて、駆け足で公園に向かった。
スマートフォンのアラーム音が朝を告げるために、けたたましく鳴り響く。
「ん~……」
布団の中で動く小さなかたまりから、にゅっと手が伸びてアラームを止めた。
数秒、小さなかたまりは動かなかったが、意を決したかのようにばさりと布団から姿を現した。
「ふあぁ~……」
智也はゆっくりと身体を起こすと、両腕を天井に向けくんと伸ばした。
完全に目が覚めきっていないからか、目はまだうつろのままだ。
(……あの夢、いつもと違った……どうしてだろう?)
智也はぼんやりと昨晩見た夢の事を考えいた。
これまでジッとこちらを見つめていただけの青年が、話しかけてきたのだ。
それだけじゃない。
夢の中にもかかわらず、頭に痛みが走ったのも気になってしまう。
何かが変わろうとしている合図なのか、それとも。
(そういえば何か言っていた気がするけど……何だったんだろう?)
夢の中で青年が言っていたことを思い出そうとしたが、起きたばかりの頭は思うように動いてくれない。
(……ま、いっか。思い出すのは後でいいや)
智也は夢のことを考えるのを止め、リビングへ向かった。
********
(うーん……。やっぱり気になる)
智也は一人、昨晩見た夢のことを考えながら通学路を歩いていた。
あの銀髪の青年は何か自分に伝えたい事があったんじゃないか。
だが、彼の言葉は聞き取る事ができなかった上に、聞きなおそうとしたら目が覚めてしまった。
(肝心なところで聞こえなかったんだよなぁー)
はぁ、と小さくため息をつき、どこかしょんぼりと背中を丸めながら歩いていると、後ろから「智也君」と声をかけられた。
智也は一瞬、肩をビクッと震わせながらも後ろに振り返った。
「颯君!」
智也に声をかけたのは春風颯だった。
近所の高校に通う年上の友人で、濃灰色の髪に分厚いメガネ――その風貌は目立たないが、どこか不思議な雰囲気を持つ青年だ。
三年前の夏休み、市民図書館で出会った事がきっかけで仲良くなり、一緒に登校したり、時折勉強を見てもらっている。
「お、おはよう!」
「おはよう。どうしたの? 何か考え事でもしてた?」
「う、うん。ちょっとね……」
智也は颯に夢のことを話してみようかと考えた。
颯は学校の授業で得られる知識だけではなく、多くの知恵も持っている。
一円玉を一枚作るのに材料費が三円かかることや、シャープペンの芯をレンジで加熱すると光るといった雑学も教えてくれた。
もしかしたら、自分が見た夢がどういうものかも知っているかもしれないと智也は考えた。
「颯君。今日、放課後予定ある?」
「今日? いや、ないけど。どうかした?」
「その……少し、話しができないかなって」
「うん、いいよ。いつもの公園でいいかい?」
いつもの公園というのは、智也が通う小学校と颯が通う高校の中間にある遊具のない小さな公園で、二人が待ち合わせる時に利用している場所だ。
「ありがとう。じゃあ、学校出る時に連絡するね!」
「了解」
智也と颯は一旦分かれて、それぞれの学校へ向かった。
********
放課後。
『今から学校を出るよ!』
五年三組の教室にて智也はランドセルからコッソリとスマホを取り出し、颯にメッセージを送った。
智也が暮らす【新都心:貴志間ニュータウン】では、すべての学校でスマホの持ち込みが許可されている。
ただし、授業中に使用したりアプリゲームをすることは禁止されており、もし使用が発覚した場合、使用していたアプリは問答無用でその場で削除される。
「よし、行くか」
スマホをランドセルにしまい、教室を出ようとした時に声をかけられた。
「お~い、トモ~!」
「暁?」
智也の親友の一人、秀島暁が駆け寄ってきた。
明るい茶色の髪に短く切りそろえられたツーブロック。
やんちゃな性格をあらわしたような、ややつり上がった目つきと黒い瞳が特徴で、運動神経抜群で学年で一番足が速い。
「この後緑ヶ丘公園で遊ぶんだけど、一緒に来ないか?」
暁からの誘いは智也にとって、とても魅力的なものだった。
小学校から少し離れた場所にある緑ヶ丘公園にはたくさんの遊具があり、毎日遊んでも飽きることがない場所だからだ。
だが、今日はもう既に予定を入れている。
「ゴメン! 今日は用事があって……また今度いい?」
「そうなのか? じゃあまた今度な!」
「うん」
智也は暁と別れて、駆け足で公園に向かった。
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