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一章・・・宵の森
異世界の自覚
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体がすくんで動かない新月に、獣は容赦なく飛びかかってくる。
(俺の異世界人生、早くも詰んだ!?)
絶望していると、ひょいと持ち上げられる。
「わぁ!?」
木が、新月を助けてくれていた。
獣はそのまま木に衝突し、戸惑っている。
トン、と太い枝に座らされ、労わるように枝が頭を撫でてくれる。
《あるじさまのいとしご、きずつける
ゆるさない!》
蔦が不穏に蠢く。森中がざわめいて、少し怖くなる。
《つみ、あがなえ!》
その獣に蔦がいっせいに伸び、その体を貫く。
視界が赤くなり、蔦が元の状態に戻った時には獣であったものが無残にも転がっていた。
一瞬に起きたことに、呆然とする。
あっという間に、命が消えた。いとも簡単に、命が消えた。
ドクドクと、心臓が煩くなる。
「あっ、あぁ・・・」
頭が真っ白になる。口から零れそうになる悲鳴を押し殺す。
体がガタガタと震える。気温はちょうどいいはずなのに酷く寒く感じる。
(ここが、異世界なんだ・・・簡単に命が散るのが異世界なんだ・・・)
ツクヨミが危険だと言った意味がようやくわかった。楽しいだけじゃない。面白いだけじゃない。強きものが生き残る世界・・・
自分の浮かれていた気持ちが急速に落ちていく。ただ、ただ恐ろしい。
そして、自分が間接的とはいえ生き物を殺したということに気付く。
自分を助けるために、森はあの獣を殺した。
(俺がちゃんと気をつけていれば、死ななくて済んだんじゃ・・・)
「新月!何があった!?森がかなり怒っていたが・・・」
紅月が駆け寄ってきた。
新月が震えているのを見て慌てる。
新月の視線の先を見て、合点がいったようにため息をつく。
「・・・あの獣の肉は食べられるんだ。せめて回収して、糧にしよう。」
さっと手をあてると、獣の死骸が消える。
気にはなるが、今は聞く気分にはならない。
「帰ろう。」
降りようとしたら、先に木がおろしてくれた。
でも立てなくて、その場にへたり込む。
「腰が抜けた?」
頷けば深くは聞かずに背負ってくれる。
「今日はもう、このまま帰って寝よう。その果実は明日の朝食べようか。」
手の中の果実も消える。
紅月の背中はそこまで広くなくて、でも暖かく、そこに確かに存在しているんだと安心する。揺られていると、少しずつ眠くなってきた。
(ガキかよ・・・でも、今だけはガキでいいや・・・)
背中から聞こえてくる寝息に、紅月はホッと息をもらす。
「少し離れている間に・・・あれくらいなら森が対処してくれると思っていたけど、新月には刺激が強かったかな・・・
・・・そうか、死とは程遠い生活をしていたんだっけ。」
小屋に着く頃には、あたりは暗く闇に飲まれていた。ただ、小屋の周りだけは月が綺麗に照らしている。
紅月がトン、と踵を鳴らす。
扉がひとりでに開き、紅月が入ればパタンとしまる。
新月の靴を脱がせ、ベッドに寝かせる。
紅月がパチンと指を鳴らすと、青白い光の粒が新月の肌をなで、清潔にしていく。
「ゆっくりおやすみ、蓮也。」
カーテンを開ければ月明かりが差し込む。
それを新月の顔に当たらないように調節する。
紅月は外に出て、月光が1番当たるところ・・・屋根の上に移動する。
「主・・・私は人の子の慰め方を知りません。」
返事をする者は、誰もいない。
「主・・・人の子の気持ちが分からない私に、新月を慰めるということが出来るでしょうか?」
見上げても、月は何も変わりはしない。
「こんなに困るのは何年ぶりだろう・・・」
口調の割に紅月の顔は楽しそうで、ワクワクしていることがうかがえる。
「大丈夫、蓮也は必ず幸せにする。」
そんなプロポーズのような言葉を、森と月だけが聞いていた。
To Be Continued・・・・・・
(俺の異世界人生、早くも詰んだ!?)
絶望していると、ひょいと持ち上げられる。
「わぁ!?」
木が、新月を助けてくれていた。
獣はそのまま木に衝突し、戸惑っている。
トン、と太い枝に座らされ、労わるように枝が頭を撫でてくれる。
《あるじさまのいとしご、きずつける
ゆるさない!》
蔦が不穏に蠢く。森中がざわめいて、少し怖くなる。
《つみ、あがなえ!》
その獣に蔦がいっせいに伸び、その体を貫く。
視界が赤くなり、蔦が元の状態に戻った時には獣であったものが無残にも転がっていた。
一瞬に起きたことに、呆然とする。
あっという間に、命が消えた。いとも簡単に、命が消えた。
ドクドクと、心臓が煩くなる。
「あっ、あぁ・・・」
頭が真っ白になる。口から零れそうになる悲鳴を押し殺す。
体がガタガタと震える。気温はちょうどいいはずなのに酷く寒く感じる。
(ここが、異世界なんだ・・・簡単に命が散るのが異世界なんだ・・・)
ツクヨミが危険だと言った意味がようやくわかった。楽しいだけじゃない。面白いだけじゃない。強きものが生き残る世界・・・
自分の浮かれていた気持ちが急速に落ちていく。ただ、ただ恐ろしい。
そして、自分が間接的とはいえ生き物を殺したということに気付く。
自分を助けるために、森はあの獣を殺した。
(俺がちゃんと気をつけていれば、死ななくて済んだんじゃ・・・)
「新月!何があった!?森がかなり怒っていたが・・・」
紅月が駆け寄ってきた。
新月が震えているのを見て慌てる。
新月の視線の先を見て、合点がいったようにため息をつく。
「・・・あの獣の肉は食べられるんだ。せめて回収して、糧にしよう。」
さっと手をあてると、獣の死骸が消える。
気にはなるが、今は聞く気分にはならない。
「帰ろう。」
降りようとしたら、先に木がおろしてくれた。
でも立てなくて、その場にへたり込む。
「腰が抜けた?」
頷けば深くは聞かずに背負ってくれる。
「今日はもう、このまま帰って寝よう。その果実は明日の朝食べようか。」
手の中の果実も消える。
紅月の背中はそこまで広くなくて、でも暖かく、そこに確かに存在しているんだと安心する。揺られていると、少しずつ眠くなってきた。
(ガキかよ・・・でも、今だけはガキでいいや・・・)
背中から聞こえてくる寝息に、紅月はホッと息をもらす。
「少し離れている間に・・・あれくらいなら森が対処してくれると思っていたけど、新月には刺激が強かったかな・・・
・・・そうか、死とは程遠い生活をしていたんだっけ。」
小屋に着く頃には、あたりは暗く闇に飲まれていた。ただ、小屋の周りだけは月が綺麗に照らしている。
紅月がトン、と踵を鳴らす。
扉がひとりでに開き、紅月が入ればパタンとしまる。
新月の靴を脱がせ、ベッドに寝かせる。
紅月がパチンと指を鳴らすと、青白い光の粒が新月の肌をなで、清潔にしていく。
「ゆっくりおやすみ、蓮也。」
カーテンを開ければ月明かりが差し込む。
それを新月の顔に当たらないように調節する。
紅月は外に出て、月光が1番当たるところ・・・屋根の上に移動する。
「主・・・私は人の子の慰め方を知りません。」
返事をする者は、誰もいない。
「主・・・人の子の気持ちが分からない私に、新月を慰めるということが出来るでしょうか?」
見上げても、月は何も変わりはしない。
「こんなに困るのは何年ぶりだろう・・・」
口調の割に紅月の顔は楽しそうで、ワクワクしていることがうかがえる。
「大丈夫、蓮也は必ず幸せにする。」
そんなプロポーズのような言葉を、森と月だけが聞いていた。
To Be Continued・・・・・・
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