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第二章 近づく夏
22nd Mov. 好みと地雷
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「だけどさ、中学生で時代小説ばかり読んでるってどうなんだ?」
「中学生の女の子が読んでちゃいけない?」
何気なく言い放った中野の発言に対し、少し冷たい空気感を出しながら、神田さんは心持ち不機嫌そうに尋ねた。
何か彼女の地雷を踏んだのだろうか。
僕よりも人の機微に敏い中野もそれを感じたようで、しどろもどろになりながら言葉を重ねる。
「いや、俺だってその頃から読んでいたし、いけないって訳じゃねえけどさ。それより何で神田がムキになってんだ?」
「べ、別に良いでしょ! 人の趣味をとやかく言わない方が良いって話よ!」
不思議な点はあるものの、彼女の言は正しい。
人の趣味をどうこう言うのは良くない。
「うーん。ま、そりゃそうだな。神田の言い分が正しい。兄妹ってなるとどうもな。遠慮が無くなっちまっていけねえや。みんなは一人っ子なんだろ?」
「そうね。私も紬も一人っ子よ。野田もそうなの?」
神田さんの質問に「そうだよ」と返事をした。四人中三人が一人っ子だったんだな。伏見さんには兄弟はいないと聞いていたので驚きはないが、神田さんは面倒見の良さもあって弟か妹がいるのかと思っていた。
想像と違って一人っ子だったとは。面倒見の良さは、彼女の性格によるものらしい。
「神田は妹か弟が居そうだけどな」
どうやら中野も同じように思っていたようだ。
「千代ちゃんの妹分には私がおりますから!」
こればかりは譲れないと主張してくるのは伏見さん。確かに姉妹みたいな関係なんだけどね……。
「同級生だろうに……。そんで、勉強会の場所はどうすんだっけ?」
露骨に話題をそらした中野は大したものだと思う。これ以上、深入りしたところで伏見さんの世界観に迷い込むだけだろう。彼女がそうだと言ったら、そうなのだと受け入れる方が良い。これは、この数か月で学んだことだ。
「ファミレスは勉強で長時間居座るのは迷惑だし……。千代ちゃんのおうちもウチと似たような感じだしね」
話は戻って勉強会の実施場所について。
伏見さんや神田さんの家は駄目、中野の家は遠いうえに妹さんがいて落ち着かないらしい。
となると、残る選択肢は一つしかないわけで。
その結果、みんなの目線が僕に集まるわけで。
「……僕のウチに来る? 両親は共働きだし、兄妹もいないから静かだよ。ちょっと駅から距離があるんだけど」
「よぉーし! じゃあ野田んちに決定! 初めてだな! 野田の家に行くの」
自分で言っておきながら、決まってしまうと後悔する気持ちが湧きあがってきた。
「大して面白いものなんてないよ?」
「良いってことよ。勉強しに行くんだからな。お邪魔するんだから、俺らで飲み物を買って行こうぜ」
「そうね。それが良いと思う」
「わーい! あとお菓子はジャンボパックにして、チョコ系も揃えましょう!」
伏見さん勉強しに来るんだよね?
「ほどほどにしておきなさいよ、紬。あんた食べるのに夢中で勉強疎かになるんだから」
「はーい。お姉ちゃん」
「姉ちゃん、トランプくらいなら持って行って良いか?」
「あんたの姉ちゃんじゃありません! それにトランプなんて始めたら勉強できないじゃない」
「野田んち初訪問記念ってことで何卒《なにとぞ》! なっ?」
中野は神田さんに拝むように両手を合わせている。
そして上目遣いで全力スマイル。
……勉強会だよね?
「……。一回くらいなら良いんじゃない」
思っていたより早い陥落。案外、神田さんも遊びたかったのではないだろうか。
「やったぜ! なんか友達の家に行くってテンション上がるよな! 千代ちゃんもそうだろ?」
「……否定は出来かねるわね」
神田さん、勉強会だよ?
だけど、基本的に僕が教えてもらう側であって、勉強会を欲しているのは僕と伏見さんくらい。遠くまで来てもらうんだし仕方ないかな。
――僕も自宅に友達を招いてトランプしてみたい気持ちがあることは否めないのだし。
ボードゲームか何かを用意しておいた方が良いかな?
いやいや、僕は教えを乞う立場なんだから真面目にやらねば。
皆が遊びたくなったら、ご一緒させてもらうというスタンスに留めるのが良いだろう。
「場所が決まったのなら、あとはいつにするかだな」
「そうだね。僕としてはピアノのレッスン日以外ならいつでも」
「そんじゃあ、次の土曜どうだ? ちょうど土曜授業の日だし、みんなで飯食ってから行けば、いくらか遊んだところで勉強の時間取れるだろ」
「僕は大丈夫。伏見さんたちは?」
「私たちも大丈夫だよ」
伏見さんはアイコンタクト一つで確認が取れるようだ。
本当に神田さんと仲良いよな。顔も性格も似ていないのに姉妹と言われて納得してしまいそうな空気感がある。小さなころからの幼馴染で長い時間を共有してきたからなのかもしれない。
大人びた印象の神田千代さん。さっぱりした気性で付き合いやすい人だ。
見た目はもちろん綺麗なんだけど、それだけじゃない。分け隔てない人との接し方や揺るがない芯のあるところとかが彼女の魅力なんじゃないかと思う。
……さっきはすぐに揺らいでいたけど、おそらく遊びたかったという気持ちに素直になっただけなんだろう。
思い返せば、入学当初は外見に惹かれて何となく目で追ってしまうという感じだった。話したことも無かったし、外見くらいしか判断材料が無いから、それも仕方のないことだと思う。
普通に考えて意識していたんだろうな。中野にもバレてしまうくらいに。
だけど不思議なんだよな。当時はそこまで冷静に観察できなかったのに、今ではそんな風に考えられるようになっている。目で追うことも少なくなった。
それもそうか。何だかんだ一緒にいる時間も増えたし。
きっと、その過程で人間性を知ることが出来たんだろうな。
ただ、前より神田さんの魅力を理解出来ているのに、前ほど彼女を想う時間は減った気がするんだよな。それは単にピアノの練習で忙しくなったからかもしれないけど。
「中学生の女の子が読んでちゃいけない?」
何気なく言い放った中野の発言に対し、少し冷たい空気感を出しながら、神田さんは心持ち不機嫌そうに尋ねた。
何か彼女の地雷を踏んだのだろうか。
僕よりも人の機微に敏い中野もそれを感じたようで、しどろもどろになりながら言葉を重ねる。
「いや、俺だってその頃から読んでいたし、いけないって訳じゃねえけどさ。それより何で神田がムキになってんだ?」
「べ、別に良いでしょ! 人の趣味をとやかく言わない方が良いって話よ!」
不思議な点はあるものの、彼女の言は正しい。
人の趣味をどうこう言うのは良くない。
「うーん。ま、そりゃそうだな。神田の言い分が正しい。兄妹ってなるとどうもな。遠慮が無くなっちまっていけねえや。みんなは一人っ子なんだろ?」
「そうね。私も紬も一人っ子よ。野田もそうなの?」
神田さんの質問に「そうだよ」と返事をした。四人中三人が一人っ子だったんだな。伏見さんには兄弟はいないと聞いていたので驚きはないが、神田さんは面倒見の良さもあって弟か妹がいるのかと思っていた。
想像と違って一人っ子だったとは。面倒見の良さは、彼女の性格によるものらしい。
「神田は妹か弟が居そうだけどな」
どうやら中野も同じように思っていたようだ。
「千代ちゃんの妹分には私がおりますから!」
こればかりは譲れないと主張してくるのは伏見さん。確かに姉妹みたいな関係なんだけどね……。
「同級生だろうに……。そんで、勉強会の場所はどうすんだっけ?」
露骨に話題をそらした中野は大したものだと思う。これ以上、深入りしたところで伏見さんの世界観に迷い込むだけだろう。彼女がそうだと言ったら、そうなのだと受け入れる方が良い。これは、この数か月で学んだことだ。
「ファミレスは勉強で長時間居座るのは迷惑だし……。千代ちゃんのおうちもウチと似たような感じだしね」
話は戻って勉強会の実施場所について。
伏見さんや神田さんの家は駄目、中野の家は遠いうえに妹さんがいて落ち着かないらしい。
となると、残る選択肢は一つしかないわけで。
その結果、みんなの目線が僕に集まるわけで。
「……僕のウチに来る? 両親は共働きだし、兄妹もいないから静かだよ。ちょっと駅から距離があるんだけど」
「よぉーし! じゃあ野田んちに決定! 初めてだな! 野田の家に行くの」
自分で言っておきながら、決まってしまうと後悔する気持ちが湧きあがってきた。
「大して面白いものなんてないよ?」
「良いってことよ。勉強しに行くんだからな。お邪魔するんだから、俺らで飲み物を買って行こうぜ」
「そうね。それが良いと思う」
「わーい! あとお菓子はジャンボパックにして、チョコ系も揃えましょう!」
伏見さん勉強しに来るんだよね?
「ほどほどにしておきなさいよ、紬。あんた食べるのに夢中で勉強疎かになるんだから」
「はーい。お姉ちゃん」
「姉ちゃん、トランプくらいなら持って行って良いか?」
「あんたの姉ちゃんじゃありません! それにトランプなんて始めたら勉強できないじゃない」
「野田んち初訪問記念ってことで何卒《なにとぞ》! なっ?」
中野は神田さんに拝むように両手を合わせている。
そして上目遣いで全力スマイル。
……勉強会だよね?
「……。一回くらいなら良いんじゃない」
思っていたより早い陥落。案外、神田さんも遊びたかったのではないだろうか。
「やったぜ! なんか友達の家に行くってテンション上がるよな! 千代ちゃんもそうだろ?」
「……否定は出来かねるわね」
神田さん、勉強会だよ?
だけど、基本的に僕が教えてもらう側であって、勉強会を欲しているのは僕と伏見さんくらい。遠くまで来てもらうんだし仕方ないかな。
――僕も自宅に友達を招いてトランプしてみたい気持ちがあることは否めないのだし。
ボードゲームか何かを用意しておいた方が良いかな?
いやいや、僕は教えを乞う立場なんだから真面目にやらねば。
皆が遊びたくなったら、ご一緒させてもらうというスタンスに留めるのが良いだろう。
「場所が決まったのなら、あとはいつにするかだな」
「そうだね。僕としてはピアノのレッスン日以外ならいつでも」
「そんじゃあ、次の土曜どうだ? ちょうど土曜授業の日だし、みんなで飯食ってから行けば、いくらか遊んだところで勉強の時間取れるだろ」
「僕は大丈夫。伏見さんたちは?」
「私たちも大丈夫だよ」
伏見さんはアイコンタクト一つで確認が取れるようだ。
本当に神田さんと仲良いよな。顔も性格も似ていないのに姉妹と言われて納得してしまいそうな空気感がある。小さなころからの幼馴染で長い時間を共有してきたからなのかもしれない。
大人びた印象の神田千代さん。さっぱりした気性で付き合いやすい人だ。
見た目はもちろん綺麗なんだけど、それだけじゃない。分け隔てない人との接し方や揺るがない芯のあるところとかが彼女の魅力なんじゃないかと思う。
……さっきはすぐに揺らいでいたけど、おそらく遊びたかったという気持ちに素直になっただけなんだろう。
思い返せば、入学当初は外見に惹かれて何となく目で追ってしまうという感じだった。話したことも無かったし、外見くらいしか判断材料が無いから、それも仕方のないことだと思う。
普通に考えて意識していたんだろうな。中野にもバレてしまうくらいに。
だけど不思議なんだよな。当時はそこまで冷静に観察できなかったのに、今ではそんな風に考えられるようになっている。目で追うことも少なくなった。
それもそうか。何だかんだ一緒にいる時間も増えたし。
きっと、その過程で人間性を知ることが出来たんだろうな。
ただ、前より神田さんの魅力を理解出来ているのに、前ほど彼女を想う時間は減った気がするんだよな。それは単にピアノの練習で忙しくなったからかもしれないけど。
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