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第一章 始まりの春
7th Mov. 発表会と待ち合わせ
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伏見さんの演奏曲を見て、鼓動が高まっていたのも束の間、ホールの出入口ドアが開けられた。
外側で待っていた僕は、邪魔にならないように流れに従って中へと入る。
広い……。思っていたよりも広いぞ。まず感じたのはホールの広さ。体育館くらいありそうだ。学校行事なんかで借りるのならば理解できるけど、町のピアノ教室が借りる規模なのか、これ。300席というのも伊達じゃないな。
驚いてばかりはいられない。どこか席に座らないと。
複数の小さな子供連れの親子が忙しそうに出入りしている。出入口に立ったままだと邪魔だよな。
どこに座ろうか悩んだけど、とりあえず端っこの列の一番後ろに腰を下ろす。
ステージでは、慌ただしそうにスタッフさんが椅子を置いたり、ピアノの下に潜って何かやっている。程なくしてスタッフさんが捌けると、アナウンスが流れ、ホールのざわめきが落ち着きだした。
「プログラムナンバー22番 町田あかりさん。演奏はウィリアム・ギロック作曲 舞曲。同じくウィリアム・ギロック作曲のフランス人形」
アナウンスが終わると舞台袖から小さな女の子が登場。お姫様のようなドレスを纏い、頭にはキラキラのティアラまで。晴れの場だからなのかな。衣装も髪型も気合が入ってる。可愛らしいお姫様の姿を見て何となく微笑ましく思う。
まだ幼い演奏者さんは、堂々と舞台中央まで歩くと、こちらに向かって一礼。腕をお腹の前で組んで丁寧なお辞儀だった。
座面を高めに上げられた椅子に座り、背筋を伸ばすと躊躇いなくピアノに手を伸ばす。
そのまま、当然のように鍵盤に両手を置く。
息を吸い込む音が聞こえそうな仕草。
鳴り始める音。柔らかで軽い。
軽快でステップを踏んでいるような。でも飛び跳ねるような感じではなくて、ゆったり揺れるような。ダンスとはまた違う優雅さがある。
舞曲というくらいなのだから、舞う曲なのか?
クラッシックだと古いヨーロッパのイメージが強いし、そうなると貴族の人たちが躍るアレかな?
知識が無いから良く分からないけど、とても上手だ。
ピアノなんて小学校の合唱コンクールとかで伴奏を弾いているくらいの印象しかないけど、こんなに綺麗な曲が弾けるようになるんだな。
あと感じたのは器用だなってことくらい。
あんな風に両手で違うメロディを弾いて良くこんがらないもんだ。両手で別の動きをするって難しくないか?
それに何よりこんな小さな子がこれほどのレベルの曲を弾けるなんて。プログラムを確認すると今弾いている子は小学一年生らしい。小学一年生の時って俺、何してたっけ? 思い出せないな。たぶん、大したことしてなかったような。マンガ読んでゲームして、友達と遊んで……。
小さかった自分の生活スタイルを考えていると、次の曲が始まった。一曲って意外と短いな。二分はかかってないと思う。えーと、次はフランス人形って曲か。この曲も聞いたことが無いけど綺麗なメロディーだ。明るい感じに暗い感じが入れ替わって、ゆっくりと音が遠ざかって。本当に上手だな、この子は。良いタイミングでホールに入れた。この子の演奏を聴けただけでも、早く来た甲斐があったよ。
一人三分ほどの演奏時間で入れ替わる発表会。
最初に見た小学一年生の子が特別上手いのだろうと思っていたけど、出てくる子みんな上手かった。もちろん、トチっちゃう子もいたし、間違えて止まってしまう子もいた。それでも、弾き直したら綺麗に曲になっていて、上手だなって思ってしまう。
そもそも発表会に出られるレベルだから上手いのか、ちゃんと練習すれば上手に弾けるものなのか、ピアノに詳しくない僕には分らなかった。それでも出演者の子たちが一生懸命だっていうのは良く分かった。
とりとめもない考えが散らかりながら、演奏を聴いていると、待ち合わせ時間が迫っていた。そろそろ中野や神田さんと合流しないと。演奏の終わり目を狙い、退室するとトイレを済ませておく。待ち合わせは受付の前。邪魔にならないところを探して二人を待った。
初めてピアノの発表会というものに来てみたけれど、案外楽しめていた自分に驚く。見ず知らずの人たち、それも小学生や幼稚園生の演奏を聴いて、退屈を感じずに一時間も座っていたのだから。
もしかすると、僕はピアノが好きなのかもしれない。小さいころ無為に過ごすくらいなら、ピアノ習っていれば良かったかな。そんな風に思わずにはいられないけど、きっと当時の僕なら、男の子がピアノなんてやらないよとか言いそうだな。そうなると結局やってないや。こればっかりは仕方ない。
中野とかなら、やっていても違和感ないんだけどな。あいつ何でも出来るし、ピアノやってたって言われても納得する気がする。
中野みたいなやつの人生って楽しいだろうな。やりたいことは出来て、友達も多くて。それでも、周りを気にせず、読書をして自分の好きに時間を使える強さもあって。
僕にないものばかりだ。中野がいなければ、休み時間は机に突っ伏して、ゲームやって時間を潰していることだろう。積極的にクラスメイトと関わろうとしないかもしれない。勉強は普通だし、身長も平均並み。容姿もまあ並だろうな。
中野はもちろん、神田さんはクラスどころか学年でも話題に上がるほど美人だし、伏見さんも可愛いと人気があるらしい。この四人組で僕だけ平均値を下げているような……。
「おーい! 野田。早いじゃん! もう来てたんだな」
そんな下らない考えが頭をよぎる時、平均値を押し上げている当の本人が登場した。
外側で待っていた僕は、邪魔にならないように流れに従って中へと入る。
広い……。思っていたよりも広いぞ。まず感じたのはホールの広さ。体育館くらいありそうだ。学校行事なんかで借りるのならば理解できるけど、町のピアノ教室が借りる規模なのか、これ。300席というのも伊達じゃないな。
驚いてばかりはいられない。どこか席に座らないと。
複数の小さな子供連れの親子が忙しそうに出入りしている。出入口に立ったままだと邪魔だよな。
どこに座ろうか悩んだけど、とりあえず端っこの列の一番後ろに腰を下ろす。
ステージでは、慌ただしそうにスタッフさんが椅子を置いたり、ピアノの下に潜って何かやっている。程なくしてスタッフさんが捌けると、アナウンスが流れ、ホールのざわめきが落ち着きだした。
「プログラムナンバー22番 町田あかりさん。演奏はウィリアム・ギロック作曲 舞曲。同じくウィリアム・ギロック作曲のフランス人形」
アナウンスが終わると舞台袖から小さな女の子が登場。お姫様のようなドレスを纏い、頭にはキラキラのティアラまで。晴れの場だからなのかな。衣装も髪型も気合が入ってる。可愛らしいお姫様の姿を見て何となく微笑ましく思う。
まだ幼い演奏者さんは、堂々と舞台中央まで歩くと、こちらに向かって一礼。腕をお腹の前で組んで丁寧なお辞儀だった。
座面を高めに上げられた椅子に座り、背筋を伸ばすと躊躇いなくピアノに手を伸ばす。
そのまま、当然のように鍵盤に両手を置く。
息を吸い込む音が聞こえそうな仕草。
鳴り始める音。柔らかで軽い。
軽快でステップを踏んでいるような。でも飛び跳ねるような感じではなくて、ゆったり揺れるような。ダンスとはまた違う優雅さがある。
舞曲というくらいなのだから、舞う曲なのか?
クラッシックだと古いヨーロッパのイメージが強いし、そうなると貴族の人たちが躍るアレかな?
知識が無いから良く分からないけど、とても上手だ。
ピアノなんて小学校の合唱コンクールとかで伴奏を弾いているくらいの印象しかないけど、こんなに綺麗な曲が弾けるようになるんだな。
あと感じたのは器用だなってことくらい。
あんな風に両手で違うメロディを弾いて良くこんがらないもんだ。両手で別の動きをするって難しくないか?
それに何よりこんな小さな子がこれほどのレベルの曲を弾けるなんて。プログラムを確認すると今弾いている子は小学一年生らしい。小学一年生の時って俺、何してたっけ? 思い出せないな。たぶん、大したことしてなかったような。マンガ読んでゲームして、友達と遊んで……。
小さかった自分の生活スタイルを考えていると、次の曲が始まった。一曲って意外と短いな。二分はかかってないと思う。えーと、次はフランス人形って曲か。この曲も聞いたことが無いけど綺麗なメロディーだ。明るい感じに暗い感じが入れ替わって、ゆっくりと音が遠ざかって。本当に上手だな、この子は。良いタイミングでホールに入れた。この子の演奏を聴けただけでも、早く来た甲斐があったよ。
一人三分ほどの演奏時間で入れ替わる発表会。
最初に見た小学一年生の子が特別上手いのだろうと思っていたけど、出てくる子みんな上手かった。もちろん、トチっちゃう子もいたし、間違えて止まってしまう子もいた。それでも、弾き直したら綺麗に曲になっていて、上手だなって思ってしまう。
そもそも発表会に出られるレベルだから上手いのか、ちゃんと練習すれば上手に弾けるものなのか、ピアノに詳しくない僕には分らなかった。それでも出演者の子たちが一生懸命だっていうのは良く分かった。
とりとめもない考えが散らかりながら、演奏を聴いていると、待ち合わせ時間が迫っていた。そろそろ中野や神田さんと合流しないと。演奏の終わり目を狙い、退室するとトイレを済ませておく。待ち合わせは受付の前。邪魔にならないところを探して二人を待った。
初めてピアノの発表会というものに来てみたけれど、案外楽しめていた自分に驚く。見ず知らずの人たち、それも小学生や幼稚園生の演奏を聴いて、退屈を感じずに一時間も座っていたのだから。
もしかすると、僕はピアノが好きなのかもしれない。小さいころ無為に過ごすくらいなら、ピアノ習っていれば良かったかな。そんな風に思わずにはいられないけど、きっと当時の僕なら、男の子がピアノなんてやらないよとか言いそうだな。そうなると結局やってないや。こればっかりは仕方ない。
中野とかなら、やっていても違和感ないんだけどな。あいつ何でも出来るし、ピアノやってたって言われても納得する気がする。
中野みたいなやつの人生って楽しいだろうな。やりたいことは出来て、友達も多くて。それでも、周りを気にせず、読書をして自分の好きに時間を使える強さもあって。
僕にないものばかりだ。中野がいなければ、休み時間は机に突っ伏して、ゲームやって時間を潰していることだろう。積極的にクラスメイトと関わろうとしないかもしれない。勉強は普通だし、身長も平均並み。容姿もまあ並だろうな。
中野はもちろん、神田さんはクラスどころか学年でも話題に上がるほど美人だし、伏見さんも可愛いと人気があるらしい。この四人組で僕だけ平均値を下げているような……。
「おーい! 野田。早いじゃん! もう来てたんだな」
そんな下らない考えが頭をよぎる時、平均値を押し上げている当の本人が登場した。
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