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青年藩主編
第四十三話
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◇◇◇宮地日葵
木枠で囲んだ井戸、土壁に茅葺の農家がいくつか。畑と草ぼうぼうの田んぼが少々。
いたって普通の田舎の村って感じです。忍びの里っぽくないですね。
風羽の三左さんは井戸に一番近い比較的大きな農家に入っていきました。
私たちも後を追います。
屋敷に入ってみれば、酒瓶が転がり荒んだ様子をありありと表していました。飲んだくれ爺さんですか。さもありなん。偏屈飲んだくれ爺さんと呼んであげましょう。
それにしても、どこからお酒を調達しているのでしょうか。
「好きに座れや。そんで何の用だ」
「まず、突然の訪問、誠に申し訳ございません。」
どんな相手にも丁寧に対応する政信さん。やはり大人ですね。私だけだったら、会った瞬間に喧嘩別れして帰っている所でしょう。
「回りくどいのは好かん。悪い気はせんがな」
どっちですか! やっぱり私このお爺さん苦手です。
「我が主君、松平頼方様は忍び衆を鍛えられる経験豊富な忍びを探しております」
「俺が忍びだと?」
「違いますか? ご先祖様は山伏流れの忍び衆でしょう」
「そこまで言われちゃあ惚ける訳にもいかねえな。まあ抜け道を通してやった時点でバレてるのはわかってたがな」
「でなければ、あの道を見せる訳がありませんからね。どうしてです?」
「見せた理由かい? あの迷路道を通るのが面倒だったからさ」
そんな理由ですか! 邪魔になるから口をはさみませんけどね!心の中ではツッコませてもらいますよ!
「一人になって退屈でしたか? それとも忍びの技術を途絶えさせるのが耐えられないからですか?」
政信さんのスルースキル最高です。
三左さんの雰囲気が変わりましたね。
「なんでそんな論理になるかわかんねえな」
「簡単ですよ。私たちがここに来ることを想定している動きでしたし、頼方様の話にも何の疑問も持ちません。私たちが騙りではない事も事前にご存じだったのでしょう」
「そんな事まで知っているとは限らん。俺はただの爺さんかもしれんぞ」
ただの爺さんなわけないじゃないですか。偏屈で飲んだくれですよ。まあ、気配の消し方は目を見張るものがありましたね。
「あなたの技術は、気配を消す程度なのですか?」
政信さんの煽り話術発動です!
「そんなわけねえだろ! 夕凪衆史上 最高の使い手 風羽の三左様だぞ」
「私もそう願っています」
完勝です。口で政信さんに勝てる人はそう相違ないと思います。
政信さんのドヤ顔、今回ばかりは好きですよ。
「……食えねえ野郎だな。俺に忍び衆を鍛えろって事だな。どんな奴らだ?」
「私や彼女の家でもありますが、庭番と言われる者達の部屋住みです」
「素人か」
「ええ。どうです? 素人相手では難しいですか?」
「誰でもそれなりに鍛えてやらぁ。と言いてぇとこだが、素養が無いと厳しいな。そこの小娘が庭番にとって特別じゃねえなら、問題ねえだろ」
「庭番の女性は彼女のように動けませんが、男は同じ水準の能力を有していますよ」
「こいつは変なのか。どうりで」
何が、どうりでなんでしょう。真面目な話の最中でなければ、しっかり問い詰めたいところですね。後で覚えておいてくださいよ。
「しかし忍びの素養としては彼女の才能は飛びぬけていると思いますよ。迷路道の入り口も彼女が見つけましたし、恐らく最終的には通り抜けられたでしょう。私であればもっと時間がかかったはずです」
「だろうな。だから声をかけたんだ。踏破されちゃあ舐められかねんからな。なんせ初日通りかかっただけで、入口に気が付きやがった」
あれ褒められてます? 案外良いお爺様ですね。
踏破されて舐められるという言い回しから、こちらの提案に乗る気だったのは間違いないようです。自分の技術を高く売るため、天狗村まで引き込んで見せつけたのでしょう。
恐ろしいのは、その情報収集力です。高野山での動きはもちろん、和歌山城下でしか知りえない情報も得ているように思えます。
「では交渉成立という事ですかね。それと村から出た村民は各地に草として放ったといったところですか? それとも最近、村民が一人になったという事自体、放言だったのですか?」
「どうかな。手を明かしちゃあ価値が下がるだろ。とりあえず依頼は承ろう」
「詳しくは頼方様よりお話があります。ご同行願えますか?」
「ああ。一次面接は終了だな。酒飲んでいいか?」
「良いわけないでしょう!」
「おっ。やっと口を開いたか。さっきから黙っていても表情で文句を言ってたぜ」
つい声を出してツッコんじゃいました。踊らされたようで悔しいですね。
「あなたから忍術を学んで、近いうちに、けちょんけちょんにしてやりますからね!」
「言うねぇ。師匠にそんな口を聞いていいのかい? 教えてやんねえぞ。お前さん藩士じゃねえんだから鍛える対象には入ってねえだろ」
うぐっ。痛いところを突かれました。確かに私が教われる訳ではありません。頼方様から許可を頂いたわけではありませんし、勝手に教われる気でいただけですし。
ここは我を張れば損するだけですね。悔しいですけど教えを請わねばなりません。悔しいですけど。
「……よろしくお願いします」
「えっ? 何がよろしくだって?」
あのニヤケ面、ぶん殴ってやりたいです。絶対聞こえているのにわざと聞こえないフリをしていますよね。
「よろしくお願いしますって言ったんです!」
「おうおう、逆ギレかい。怖いねえ、若い子は。爺さん怖すぎて教えられないかもしれんのう」
こんな可憐な少女をいたぶるなんて。私がこんなにお願いしているのに!
でも忍者になる夢を諦められません。忍術を習得するまでの我慢です。大人ですから耐えてみせます。
「そんなこと言わず、私にも忍術を教えてください。よろしくお願いします」
「そこんところは、俺に決める権限はねえから、頼方様にでも頼みな」
このくそじじい!!!
木枠で囲んだ井戸、土壁に茅葺の農家がいくつか。畑と草ぼうぼうの田んぼが少々。
いたって普通の田舎の村って感じです。忍びの里っぽくないですね。
風羽の三左さんは井戸に一番近い比較的大きな農家に入っていきました。
私たちも後を追います。
屋敷に入ってみれば、酒瓶が転がり荒んだ様子をありありと表していました。飲んだくれ爺さんですか。さもありなん。偏屈飲んだくれ爺さんと呼んであげましょう。
それにしても、どこからお酒を調達しているのでしょうか。
「好きに座れや。そんで何の用だ」
「まず、突然の訪問、誠に申し訳ございません。」
どんな相手にも丁寧に対応する政信さん。やはり大人ですね。私だけだったら、会った瞬間に喧嘩別れして帰っている所でしょう。
「回りくどいのは好かん。悪い気はせんがな」
どっちですか! やっぱり私このお爺さん苦手です。
「我が主君、松平頼方様は忍び衆を鍛えられる経験豊富な忍びを探しております」
「俺が忍びだと?」
「違いますか? ご先祖様は山伏流れの忍び衆でしょう」
「そこまで言われちゃあ惚ける訳にもいかねえな。まあ抜け道を通してやった時点でバレてるのはわかってたがな」
「でなければ、あの道を見せる訳がありませんからね。どうしてです?」
「見せた理由かい? あの迷路道を通るのが面倒だったからさ」
そんな理由ですか! 邪魔になるから口をはさみませんけどね!心の中ではツッコませてもらいますよ!
「一人になって退屈でしたか? それとも忍びの技術を途絶えさせるのが耐えられないからですか?」
政信さんのスルースキル最高です。
三左さんの雰囲気が変わりましたね。
「なんでそんな論理になるかわかんねえな」
「簡単ですよ。私たちがここに来ることを想定している動きでしたし、頼方様の話にも何の疑問も持ちません。私たちが騙りではない事も事前にご存じだったのでしょう」
「そんな事まで知っているとは限らん。俺はただの爺さんかもしれんぞ」
ただの爺さんなわけないじゃないですか。偏屈で飲んだくれですよ。まあ、気配の消し方は目を見張るものがありましたね。
「あなたの技術は、気配を消す程度なのですか?」
政信さんの煽り話術発動です!
「そんなわけねえだろ! 夕凪衆史上 最高の使い手 風羽の三左様だぞ」
「私もそう願っています」
完勝です。口で政信さんに勝てる人はそう相違ないと思います。
政信さんのドヤ顔、今回ばかりは好きですよ。
「……食えねえ野郎だな。俺に忍び衆を鍛えろって事だな。どんな奴らだ?」
「私や彼女の家でもありますが、庭番と言われる者達の部屋住みです」
「素人か」
「ええ。どうです? 素人相手では難しいですか?」
「誰でもそれなりに鍛えてやらぁ。と言いてぇとこだが、素養が無いと厳しいな。そこの小娘が庭番にとって特別じゃねえなら、問題ねえだろ」
「庭番の女性は彼女のように動けませんが、男は同じ水準の能力を有していますよ」
「こいつは変なのか。どうりで」
何が、どうりでなんでしょう。真面目な話の最中でなければ、しっかり問い詰めたいところですね。後で覚えておいてくださいよ。
「しかし忍びの素養としては彼女の才能は飛びぬけていると思いますよ。迷路道の入り口も彼女が見つけましたし、恐らく最終的には通り抜けられたでしょう。私であればもっと時間がかかったはずです」
「だろうな。だから声をかけたんだ。踏破されちゃあ舐められかねんからな。なんせ初日通りかかっただけで、入口に気が付きやがった」
あれ褒められてます? 案外良いお爺様ですね。
踏破されて舐められるという言い回しから、こちらの提案に乗る気だったのは間違いないようです。自分の技術を高く売るため、天狗村まで引き込んで見せつけたのでしょう。
恐ろしいのは、その情報収集力です。高野山での動きはもちろん、和歌山城下でしか知りえない情報も得ているように思えます。
「では交渉成立という事ですかね。それと村から出た村民は各地に草として放ったといったところですか? それとも最近、村民が一人になったという事自体、放言だったのですか?」
「どうかな。手を明かしちゃあ価値が下がるだろ。とりあえず依頼は承ろう」
「詳しくは頼方様よりお話があります。ご同行願えますか?」
「ああ。一次面接は終了だな。酒飲んでいいか?」
「良いわけないでしょう!」
「おっ。やっと口を開いたか。さっきから黙っていても表情で文句を言ってたぜ」
つい声を出してツッコんじゃいました。踊らされたようで悔しいですね。
「あなたから忍術を学んで、近いうちに、けちょんけちょんにしてやりますからね!」
「言うねぇ。師匠にそんな口を聞いていいのかい? 教えてやんねえぞ。お前さん藩士じゃねえんだから鍛える対象には入ってねえだろ」
うぐっ。痛いところを突かれました。確かに私が教われる訳ではありません。頼方様から許可を頂いたわけではありませんし、勝手に教われる気でいただけですし。
ここは我を張れば損するだけですね。悔しいですけど教えを請わねばなりません。悔しいですけど。
「……よろしくお願いします」
「えっ? 何がよろしくだって?」
あのニヤケ面、ぶん殴ってやりたいです。絶対聞こえているのにわざと聞こえないフリをしていますよね。
「よろしくお願いしますって言ったんです!」
「おうおう、逆ギレかい。怖いねえ、若い子は。爺さん怖すぎて教えられないかもしれんのう」
こんな可憐な少女をいたぶるなんて。私がこんなにお願いしているのに!
でも忍者になる夢を諦められません。忍術を習得するまでの我慢です。大人ですから耐えてみせます。
「そんなこと言わず、私にも忍術を教えてください。よろしくお願いします」
「そこんところは、俺に決める権限はねえから、頼方様にでも頼みな」
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