63 / 109
青年藩主編
第二十三話
しおりを挟む
タタタッ。
駆け寄る音がする。
その勢いのまま、俺へ抱きつく。俺は倒れないようにするのに必死だ。
いつもの、さくら殿の匂いがする。香を焚きしめたわけでもないのに良い香りがするのだ。
さくら殿の下へ一番に駆け付けようとした政信は信じられないものを見るような顔で立ち尽くしている。
「お助けいただきありがとうございます!」
「早く助けに行けず、すまなかった。それに俺の問題に巻き込んでしまい申し訳ない」
本来ならこんな怖い思いをする必要はなかったのだ。俺と知り合ったせいで誘拐劇に巻き込んでしまった。申し訳なさで胸が一杯になる。
「良いのです! そんな事はどうでも良いのです。危険を顧みず、ここへ来てくれたことが嬉しいのです」
「当り前じゃないか。来るに決まっているだろう」
「当り前ではありませぬ。私のような身分の低い女のために、藩主様ともあろう松平様が危険を冒すなど」
身分など考えもしなかった。人の付き合いは身分なんていらないだろう。助けたいから助ける。仲間を助け合うのに身分を確認する事なんて必要ないのだから。
「良いではないか。こうやって無事に助け出せたのだから。みんなのお蔭でもあるのだがな」
「はい。皆様ご迷惑をおかけしました」
「大丈夫よ~。悪者なんか私が倒してやるんだから」
一番最後に来たのに全員の意見を代表するように話す彼女には苦笑いをするしかない。嫌な気分にならないのは彼女の明るさか人柄のおかげなのか。
と考えていると苦笑いでは済まない事象が起きていた。
先ほどの忍びの形相が可愛く思えるくらいの顔をした兄君。いつ般若の仮面をかぶったのだと問い質したくなるようなお顔をされていらっしゃる。
確かに他の男に抱きしめられている妹を見て良い気分がするわけはない。ましてや妹を溺愛する政信であれば尚更だ。
それでも分け入って辞めさせないところを見るに、致し方ないとは理解できるようだ。理性がギリギリ体を押しとどめているに過ぎない事はわかるが、もう少し表情も押しとどめる努力をしてほしいものだ。俺から抱き着いたのではないのだし。
だから呪い殺しそうな顔を辞めてくれ。
あの顔を見てしまった以上、どうにも耐えられなくなったので、さくら殿と離れる事にする。
「さくら殿、そろそろ落ち着いたかな?」
「すみません、私ったら、はしたない」
皆へ挨拶をした時以外、俺に抱きついてジッと上目遣いで見つめていたのだが、はたと気がつき俺から離れる。少し惜しい気がしたがやむをおえん。せっかく助かった命だ。
あの般若は今でこそ耐えているが、明日も耐えているかわからん。その先も溜まったマグマがいつ噴き出るか。今後、後ろから狙撃される可能性がゼロではない。というか、むしろ高めな気がする。
そんな危険の原因を放置するわけにはいかないだろう。
それに他の者も労わねばならぬしな。
さすがにこの流れで、真っ先に政信に声は掛けられん。落ち着かせるためにも最後に回して、ここは、巻き込まれた部外者とも言える寅に声をかけるのが吉だろう。
「寅、すまなかったな。二度も往復してもらって。おかげで助かったよ」
「いいって事よ。無事に助けられて良かったな。さすがにあの小娘が舟を出せって来た時は、一日に二度もこんな事あるのかって思ったけどな」
寅の言葉にビクッとする。寅の口の悪さには慣れたものだが、彼女の悪口とも取れる小娘呼ばわりとは……恐る恐る彼女を見るが、さくら殿が捕らわれていた事を思い出したかのようにさくら殿を労っていた。お陰で、ひまり殿には聴こえなかったようだ。あっちと絡むと必然さくら殿とも話す事になる。政信の怒りの熱を上げないためにも、今はさくら殿と距離を取るべきだろう。
「俺も、まさか日葵殿が来るとは思ってなかったよ。でも彼女のお陰で助けられた。もちろん寅が頼みを聞いてくれたから良い展開に持ち込めたのだ」
「お前には巳之助の借りもあるしな。それにお前らのことが気になってた。あの小娘のお願いは渡りに船ってやつだったんだよ」
「それでも助かったよ。ありがとう」
「いいって事よ。俺なんかより部下を労ってやれってんだ」
照れ隠しなのか言ってる内容と言葉遣いがそぐわないが、寅だけとも話していられないのも確かで、水野に声をかける。
敢えて政信との話を避けたわけではない。決して。今回の一番の功労者であるからだ。むしろ彼がいなければ浪人どもに斬り殺されていただろう。こうして、ふざけたり笑ったりしている状況は訪れなかったのは間違いないのだ。
「水野、剣の腕前と体術ともに見事であった。達人とはここまでの者かと驚いたよ。葛野藩を認められた時、水野を剣術師範にしようと考えていたが、間違いではなかった」
「某などまだまだ。上には上がおりますれば」
あれでまだまだなんて、その上にいる達人はどんな化け物なのか。実際、水野の前にして忍びは何もできなかった。仮に俺と同じ腕前であれば、忍びどもは、二対二であっても勝負を仕掛けてきたであろう。本領を発揮できるのは奇襲など搦手とはいえ、正攻法の武術の腕が悪いわけではないのだ。
さあ、最後は政信か。どう切り出したものか。冗談は抜きにして謝らねばならぬだろう。
「政信。まずさくら殿を巻き込んでしまって、すまなかった。それと狙撃についても俺の不注意で敵にバレてしまった」
「いえ、あれだけ用意周到な忍びです。我が家の特技が砲術なのは知られていたでしょう。元々対策も兼ねてのこの場所のはず。おそらくバレたバレないの話は揺さぶりに使われたのではないかと」
おお、政信が冷静に戻っている。表情も嘘のように、いつもの澄まし顔だ。良かった。なんてふざけたことを考えていると政信が驚きの内容を告げる
「しかしこれで終わりではないやもしれませぬ。もう一人潜んでいるようでありました」
「そこまで分かったのか。庭番の気配察知というのは凄いな」
「いえ、日葵殿の印地打ちが思いの外だったようで一瞬気配が漏れました」
「なんですか~? もしかして私のお手柄話ですか?!」
「まあ、そうだな。印地打ちで敵を倒した事で潜んでいた敵も炙り出したらしい」
「ほぇー。そんな事にも役立ってたんですね。って事は~……私の印地打ちは一撃必中だけでなく、一投二役。ここまで凄ければ、いっその事、ひまり流印地術なんて命名しちゃったり……」
段々と、とんでもない方向に進んでいく思考について行けなくなる。このままでは話が終わらなそうだ。
「一投二役って一台二役みたいだな」
「ひまり流印地術の開祖になんたる暴言。一台って私は便利道具じゃありませんからね!!」
彼女は流派を立ててしまわれた。
駆け寄る音がする。
その勢いのまま、俺へ抱きつく。俺は倒れないようにするのに必死だ。
いつもの、さくら殿の匂いがする。香を焚きしめたわけでもないのに良い香りがするのだ。
さくら殿の下へ一番に駆け付けようとした政信は信じられないものを見るような顔で立ち尽くしている。
「お助けいただきありがとうございます!」
「早く助けに行けず、すまなかった。それに俺の問題に巻き込んでしまい申し訳ない」
本来ならこんな怖い思いをする必要はなかったのだ。俺と知り合ったせいで誘拐劇に巻き込んでしまった。申し訳なさで胸が一杯になる。
「良いのです! そんな事はどうでも良いのです。危険を顧みず、ここへ来てくれたことが嬉しいのです」
「当り前じゃないか。来るに決まっているだろう」
「当り前ではありませぬ。私のような身分の低い女のために、藩主様ともあろう松平様が危険を冒すなど」
身分など考えもしなかった。人の付き合いは身分なんていらないだろう。助けたいから助ける。仲間を助け合うのに身分を確認する事なんて必要ないのだから。
「良いではないか。こうやって無事に助け出せたのだから。みんなのお蔭でもあるのだがな」
「はい。皆様ご迷惑をおかけしました」
「大丈夫よ~。悪者なんか私が倒してやるんだから」
一番最後に来たのに全員の意見を代表するように話す彼女には苦笑いをするしかない。嫌な気分にならないのは彼女の明るさか人柄のおかげなのか。
と考えていると苦笑いでは済まない事象が起きていた。
先ほどの忍びの形相が可愛く思えるくらいの顔をした兄君。いつ般若の仮面をかぶったのだと問い質したくなるようなお顔をされていらっしゃる。
確かに他の男に抱きしめられている妹を見て良い気分がするわけはない。ましてや妹を溺愛する政信であれば尚更だ。
それでも分け入って辞めさせないところを見るに、致し方ないとは理解できるようだ。理性がギリギリ体を押しとどめているに過ぎない事はわかるが、もう少し表情も押しとどめる努力をしてほしいものだ。俺から抱き着いたのではないのだし。
だから呪い殺しそうな顔を辞めてくれ。
あの顔を見てしまった以上、どうにも耐えられなくなったので、さくら殿と離れる事にする。
「さくら殿、そろそろ落ち着いたかな?」
「すみません、私ったら、はしたない」
皆へ挨拶をした時以外、俺に抱きついてジッと上目遣いで見つめていたのだが、はたと気がつき俺から離れる。少し惜しい気がしたがやむをおえん。せっかく助かった命だ。
あの般若は今でこそ耐えているが、明日も耐えているかわからん。その先も溜まったマグマがいつ噴き出るか。今後、後ろから狙撃される可能性がゼロではない。というか、むしろ高めな気がする。
そんな危険の原因を放置するわけにはいかないだろう。
それに他の者も労わねばならぬしな。
さすがにこの流れで、真っ先に政信に声は掛けられん。落ち着かせるためにも最後に回して、ここは、巻き込まれた部外者とも言える寅に声をかけるのが吉だろう。
「寅、すまなかったな。二度も往復してもらって。おかげで助かったよ」
「いいって事よ。無事に助けられて良かったな。さすがにあの小娘が舟を出せって来た時は、一日に二度もこんな事あるのかって思ったけどな」
寅の言葉にビクッとする。寅の口の悪さには慣れたものだが、彼女の悪口とも取れる小娘呼ばわりとは……恐る恐る彼女を見るが、さくら殿が捕らわれていた事を思い出したかのようにさくら殿を労っていた。お陰で、ひまり殿には聴こえなかったようだ。あっちと絡むと必然さくら殿とも話す事になる。政信の怒りの熱を上げないためにも、今はさくら殿と距離を取るべきだろう。
「俺も、まさか日葵殿が来るとは思ってなかったよ。でも彼女のお陰で助けられた。もちろん寅が頼みを聞いてくれたから良い展開に持ち込めたのだ」
「お前には巳之助の借りもあるしな。それにお前らのことが気になってた。あの小娘のお願いは渡りに船ってやつだったんだよ」
「それでも助かったよ。ありがとう」
「いいって事よ。俺なんかより部下を労ってやれってんだ」
照れ隠しなのか言ってる内容と言葉遣いがそぐわないが、寅だけとも話していられないのも確かで、水野に声をかける。
敢えて政信との話を避けたわけではない。決して。今回の一番の功労者であるからだ。むしろ彼がいなければ浪人どもに斬り殺されていただろう。こうして、ふざけたり笑ったりしている状況は訪れなかったのは間違いないのだ。
「水野、剣の腕前と体術ともに見事であった。達人とはここまでの者かと驚いたよ。葛野藩を認められた時、水野を剣術師範にしようと考えていたが、間違いではなかった」
「某などまだまだ。上には上がおりますれば」
あれでまだまだなんて、その上にいる達人はどんな化け物なのか。実際、水野の前にして忍びは何もできなかった。仮に俺と同じ腕前であれば、忍びどもは、二対二であっても勝負を仕掛けてきたであろう。本領を発揮できるのは奇襲など搦手とはいえ、正攻法の武術の腕が悪いわけではないのだ。
さあ、最後は政信か。どう切り出したものか。冗談は抜きにして謝らねばならぬだろう。
「政信。まずさくら殿を巻き込んでしまって、すまなかった。それと狙撃についても俺の不注意で敵にバレてしまった」
「いえ、あれだけ用意周到な忍びです。我が家の特技が砲術なのは知られていたでしょう。元々対策も兼ねてのこの場所のはず。おそらくバレたバレないの話は揺さぶりに使われたのではないかと」
おお、政信が冷静に戻っている。表情も嘘のように、いつもの澄まし顔だ。良かった。なんてふざけたことを考えていると政信が驚きの内容を告げる
「しかしこれで終わりではないやもしれませぬ。もう一人潜んでいるようでありました」
「そこまで分かったのか。庭番の気配察知というのは凄いな」
「いえ、日葵殿の印地打ちが思いの外だったようで一瞬気配が漏れました」
「なんですか~? もしかして私のお手柄話ですか?!」
「まあ、そうだな。印地打ちで敵を倒した事で潜んでいた敵も炙り出したらしい」
「ほぇー。そんな事にも役立ってたんですね。って事は~……私の印地打ちは一撃必中だけでなく、一投二役。ここまで凄ければ、いっその事、ひまり流印地術なんて命名しちゃったり……」
段々と、とんでもない方向に進んでいく思考について行けなくなる。このままでは話が終わらなそうだ。
「一投二役って一台二役みたいだな」
「ひまり流印地術の開祖になんたる暴言。一台って私は便利道具じゃありませんからね!!」
彼女は流派を立ててしまわれた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】月よりきれい
悠井すみれ
歴史・時代
職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。
清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。
純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。
嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。
第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。
表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。
悲恋脱却ストーリー 源義高の恋路
和紗かをる
歴史・時代
時は平安時代末期。父木曽義仲の命にて鎌倉に下った清水冠者義高十一歳は、そこで運命の人に出会う。その人は齢六歳の幼女であり、鎌倉殿と呼ばれ始めた源頼朝の長女、大姫だった。義高は人質と言う立場でありながらこの大姫を愛し、大姫もまた義高を愛する。幼いながらも睦まじく暮らしていた二人だったが、都で父木曽義仲が敗死、息子である義高も命を狙われてしまう。大姫とその母である北条政子の協力の元鎌倉を脱出する義高。史実ではここで追手に討ち取られる義高であったが・・・。義高と大姫が源平争乱時代に何をもたらすのか?歴史改変戦記です
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
鎌倉最後の日
もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!
拾われ子だって、姫なのです!
田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ!
お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。
月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。
そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。
しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。
果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!?
痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪
シンセン
春羅
歴史・時代
新選組随一の剣の遣い手・沖田総司は、池田屋事変で命を落とす。
戦力と士気の低下を畏れた新選組副長・土方歳三は、沖田に生き写しの討幕派志士・葦原柳を身代わりに仕立て上げ、ニセモノの人生を歩ませる。
しかし周囲に溶け込み、ほぼ完璧に沖田を演じる葦原の言動に違和感がある。
まるで、沖田総司が憑いているかのように振る舞うときがあるのだ。次第にその頻度は増し、時間も長くなっていく。
「このカラダ……もらってもいいですか……?」
葦原として生きるか、沖田に飲み込まれるか。
いつだって、命の保証などない時代と場所で、大小二本携えて生きてきたのだ。
武士とはなにか。
生きる道と死に方を、自らの意志で決める者である。
「……約束が、違うじゃないですか」
新選組史を基にしたオリジナル小説です。 諸説ある幕末史の中の、定番過ぎて最近の小説ではあまり書かれていない説や、信憑性がない説や、あまり知られていない説を盛り込むことをモットーに書いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる