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第三章 島民説明会

撤退宣言?

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  「たしかに天満さんのご指摘はご尤もです。今回の場は大江島再建に向けた計画を進めるという説明会であり、具体的な計画は皆様のご意見を伺いながら、作り上げていきたいと考えております。輸送船計画についても、皆様のご意見を頂き、より良い計画にしていくつもりです」 

「あれだけ言っておいて、それで済ますのかい? じゃあ、俺の意見を聞かせてやるよ。よそ者にとやかく言われる筋合いはねえ。島のことは島のやつらで決める。東京者に用はない。観光が済んだら帰ってくれ」 

 天満のオヤジさんは明確に否定の意見を述べた。反対という言葉では微温いほどの。 
 会場は困惑の空気が半分、緩やかな同意の空気が半分。誰も新たな意見を述べることはない。 
 このままでは、声の大きい意見に全てを押し流されてしまうだろう。俺の立場から天満のオヤジさんを言い負かしたところで、プロジェクトが良い方向に進むことはない。むしろ島民の協力は得られず、立ち枯れになるだろう。 

 少なくとも島民の一部でも賛同してくれれば。そう思い、数少ない味方である青年部会のメンバーが座る方に視線を移すが、彼らは一様に顔を俯けている。天満のオヤジさんの意見に全面的に賛同しているわけではないが、否定できない部分もあるのだろう。 

 もしかすると、自分の腕が悪いのを棚に上げて、輸送船計画を考えたと思われたくないのかもしれない。そんな風に考えてみても、彼らの心情を察することは出来ない。そして、助けを求める視線を受け止めてくれる人もいない。 

 俺が会場を見回しているように、天満のオヤジさんも後ろを振り返り、反対意見を言う島民がいないことを確認して、更に言葉を重ねた。 

「どうやら話はこれ以上なさそうだな。みんなも同じ意見のようだし、もう良いかい?」 

 勝ち誇ったように聞こえる言葉。最終通告。 
 そのまま受け入れてしまえば、もう一度再建プロジェクトを進めようとしても機運が高まらないだろう。そうなれば撤退を検討しなければならなくなる。 

 しかし、俺には有効な手立てがない。そもそも役場側で、この説明会が終わっている前提だったのだ。県知事からは再建プロジェクトに大江島全体で賛同しているという情報を得ていたから、エコソーシャル社も話に乗った。 

 なのに……、島民は再建プロジェクトの存在を知らず、生活向上というお題目には興味がないという始末。それどころか、反発されて追い返されている。望まれてきたのではなかったのか。 

 望まれているどころか、島の自然を破壊してごみ処理施設を作ろうとでもしているかのような扱いを受けている。厳しい大江島の状況を少しでも良くしたいと考えてきたというのに。 

 県知事も、再建に向けた格好だけでも獲っておけば充分と言っていた。 
 誰にも求められていないなら……。このまま受け入れて東京に帰ってしまおうか……。 
 急な転勤で税収を十倍にするという無茶振り。出来なくても仕方のない仕事だ。今なら言い訳も立つ。 

 そんな考えが頭を占めて、「一旦持ち帰らせていただきます」と言う事実上の撤退宣言が口から出かかった時――。 

 バタン! という大きな音とともに、会場後方の扉が勢いよく開いた。 
  
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