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第三章 島民説明会

質疑応答

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「わが社からの説明は以上となります。次は質疑応答の時間となります。本日の説明会でご不明な点がございましたら、挙手の上、ご質問ください」 

 満足のいく説明ではなかったものの、まず一つの役目を終えて、一息つく。 
 そうして会場を見回してみるが、目立った反応は見られなかった。かといって、会場が静まり返っているわけではない。隣同士で話をしているようで、静かなざわめきが広がっている。 

 そのうち質問が出てくるかもと期待して待っていたものの、手が挙がることはなく、静かなざわめきが広がるのみ。次第にそれすらも落ち着きをみせてきた。すると、会場の前方でふんぞり返るように座っていた人物が手を挙げる。 

「天満さん、どうぞ」 
「あんたは島民の皆様の生活改善を図るって言ったよな?」 

 天満のオヤジさんは、ブスッとした表情で質問を投げかけてきた。 
 この感じはあまり良い方に進みそうにない。俺は、できるだけ丁寧に誤解を生まないように言葉を探す。 

「はい。可能な限り、そうしていけるように計画を練ってきました。皆様のご理解とご協力を得ながら、実施していければと考えています」 
「そんで、輸送船を使えばそうなるって言うのかい?」 

「完全にとは言えませんが」 
「そうかい。俺はそうは思わねぇけどな。だってそうだろ? 輸送船なんて言ったって、得するのは腕の劣る漁師共だけじゃねえかよ。俺の生活は良くなるのか? そこに座ってる婆さんたちは? 苦労して腕を磨いてきたやつには何もなくて、出来ないやつには恩恵があるなんて、おかしいじゃねえか。そんでみんなに理解を求める? こんな反応になるのは当然だろうが」 

 今までは他人事のような空気感が会場を包んでいたのだが、天満のオヤジさんの発言を受けて、賛同を示すように頷いている人と居心地が悪そうにしている人に分かれた。 

 ただ、居心地が悪そうにしている人たちは、この島の平均的な腕前の漁師だろう。彼らに対して、天満のオヤジさんが否定するような口ぶりだったけれども、それはあの人が腕が良いというだけの話。その腕前は才能や努力によるものかもしれないけど、他者を否定する権利があるわけではない。 

「輸送船の計画は、大江島再建プロジェクトの第一歩に過ぎません。現段階では、漁師の方と、医療難民になりがちな持病をお持ちの方に恩恵があると思います。しかし、次の一歩は別の方にも恩恵があるようにしていきたいと考えております」 
「ほぉ、言うじゃねえか。次は誰に利益があるって?」 

「それは……、まだ……。なんとも」 
「空手形で俺らを丸め込めるとでも思ってたのかい? そんなんじゃ、島民全員に恩恵がいきわたるのに何時になるのかもわからねえ。次の計画もなくて、輸送船だけで終わるかもしれないってのに、全員に賛同を求めるのは、虫が良すぎるってやつだろ」 

 次第に同調の圧力が高まる。 
 会場は天満のオヤジさんの意見に傾いていく。 

 それも仕方ないかもしれない。今回の説明会は再建プロジェクトがどのようなものかを理解してもらうためのもの。輸送船計画についても、説明会に向けて、一部の意見を聞き取り、急遽組み上げたプランに過ぎない。まだまだ荒い部分があるし、クリアすべき課題も山積みである。次の展望なんて無いに等しい。 

 そもそも、第二弾の計画にしたって、島民全体の同意があって検討していくもの。広く住民の意見を募り、問題を共有し、解決していく。それが再建プロジェクトのあるべき姿と思う。 

 そのためにも、こちらから今後のプランをすべて提案するのではなく、この説明会を経て、みんなで考えていくものだ。つまり輸送船計画は一つの案に過ぎず、採用する必要は無い。 

 無いのだが、今の流れでそれを伝えても、言い負かされて取り下げただけに見えてしまうだろう。そうなれば、再建プロジェクトを進めようとすると、天満のオヤジさんの同意を得なければならなくなる。彼の判断によって全てが決ってしまうのは良い状態とは言えない。 

 天満のオヤジさんは必ずしも島の代表とは言い切れない。腕の良い数少ない漁師で、特別な人である。そんな特別な人が島全体の行く末を左右する判断が出来るのか。全体利益のバランスが取れるなんて保障はどこにもないのだ。 
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