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第二章 七海諸島 大江島
第十一話 厳しい戦いには友の助けが必要
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「いや~、これはかなり酔ってるな」
「田宮先輩は結構飲まされてましたもんね」
青年部会の会合が終わりかけた頃、ぞろぞろと見知らぬ男性たちが公民館に入ってきた。一瞬、何事かと驚いたが、みな一様に美味しそうな匂いをさせた包みと酒瓶を持っていて、俺は察してしまった。
会合の後には、青年部会のメンバーで親睦会という名の宴会をするのが通例なのだそう。そして、侵入してきた男たちは、青年部会の幽霊部員。会合には参加しないが、宴会には参加するのだとか。なので、会合の終了時間になると、公民館に集まってくる。総勢20名。
この半分でも会合に参加してくれれば、もう少し青年部会も活発になるのにと思わずにはいられない。しかし、宴会では直接顔を合わせて話もできたのは良かったことだろう。
それにしても大江島の人たちは酒が強い。
焼酎は割らずにそのままガンガン飲む。こちらもコップを差し出せば、焼酎をなみなみと注がれる。酔うわけにいかないと、焼酎を薄めたい気持ちで一杯だったのだが、お湯や炭酸などはなく、飲み方といえば、コップという名の湯呑み茶碗に一升瓶の焼酎を注ぐだけだ。挨拶で回るからにはコップを開けて、注ぎ合う行為が必要となる。どうしても酒量が増えてしまった。
「こんなことになるとは思わなかった。ウコンドリンクを飲んでおかないと、明日は二日酔い間違いなしだな」
「この島でウコンドリンクを見た記憶はないですよ?」
そう。この島の商店には、サラリーマンの友はいない。
なんとも寂しい限りだ。今日のような宴会が続くなら、俺一人で立ち向かえる気がしない。いつか内地に戻るときがあれば、心強い友を箱買いしておかねばと決心する。
「だよな~。中川さんも結構飲んでいたけど大丈夫か?」
「私は大丈夫ですよ! ちゃんとペース配分守ってましたし」
「そうは言うが、君は酔うと距離感が近くなるし、男性諸君に誤解を与えてしまうから気をつけないと」
「え~? 距離感近いです?」
そう言いながらも確信犯のように身を寄せてくる。
南国の夜風に乗った柑橘系の香りは、ひどく心をざわつかせる。
「ほら! 今も近いじゃないか」
覗き込まれた美しい瞳に、思わず顔を逸らす。火照る顔がより熱く感じた。
「ちゃんと思い出してくださいよ! 今日の宴会で他の人と距離近かったりしてました?」
中川さんの言葉を受けて、先程までの宴会の光景を思い出す。
序盤から中盤までを思い返すと、さほど気になる様子はなかったように思えた。酔いが加速していた終盤についても、何とか思い出そうと記憶をまさぐるが、やはり普通の距離感だった気がする。いつも中川さんと酒を飲んでいる時の距離感は……、今日は出ていなかったのか……?
「う~ん、そう言われて思い返してみれば……、言うほど距離感が近いことも無かったか?」
「無いです。全然」
当然とばかりにハッキリと明言されてしまい、自分の認識に不安を覚える。
「おかしいなぁ……。飲み会とか残業してる時とか、気が抜ける時間の中川さんって距離感が近くなってる気がしたんだけどなぁ」
「なんだ、ちゃんと分かってるじゃないっすか! 距離が近くなるのは特別なんですよ!」
「そうか。今日は気が抜けるような飲み会じゃなかったし、大丈夫なのか」
「分かってるようで分かってないんだよな~。まったく」
あまりな言葉に、一応、年上で上司なんだけどなと思わずにはいられない。
去年こそ、入社したばかりで世話になりっぱなしだったけど、その分、業務以外の面では彼女に気を配ってきた自信がある。
「分かってないか……。ちゃんと見ているつもりなんだけどな。君のことは」
「もう! そういうとこっすよ!」
「そういうところって言うと……、どういうところ?」
「内緒です。さあ、シャンとしてください。明日はお休みだからって、お昼まで寝てちゃ駄目ですからね!」
すでに歩くことすら限界を迎えている俺の頭では、彼女の言葉のニュアンスを汲み取ることが出来なかった。早々に白旗を上げて、当人に意図を尋ねてみたものの、内緒と言われてしまった。
そればかりか、至らぬ弟のような扱いを受け、家に押し込まれるように背を押された。
上司たるもの、本当なら彼女を一人で帰らせるのではなく、俺が送っていくべきだったのだが。
「おう、善処する。――っと、着いたな。夜道を送っていけなくてすまん。俺の方が限界だ」
「私は大丈夫ですから。スーツは皺にならないように脱いでから寝てくださいね」
結局、起きたのは翌日のお昼。中川さんの言葉に対して、生返事をして借家へと入ったはずなのだが、それを最後に記憶は飛んでいた。
自分の格好を眺めてみれば、スラックスは履いたままで、上着は床に放り投げられている。全く弁明の余地がないほどに、中川さんから注意されていたことは何一つ守れていなかった。
カーテンが開けっ放しの窓から見える自然豊かな景色。すでに太陽はしっかり昇りきっていて、二日酔いの俺には眩しすぎる日差しが部屋を照らしていた。
「田宮先輩は結構飲まされてましたもんね」
青年部会の会合が終わりかけた頃、ぞろぞろと見知らぬ男性たちが公民館に入ってきた。一瞬、何事かと驚いたが、みな一様に美味しそうな匂いをさせた包みと酒瓶を持っていて、俺は察してしまった。
会合の後には、青年部会のメンバーで親睦会という名の宴会をするのが通例なのだそう。そして、侵入してきた男たちは、青年部会の幽霊部員。会合には参加しないが、宴会には参加するのだとか。なので、会合の終了時間になると、公民館に集まってくる。総勢20名。
この半分でも会合に参加してくれれば、もう少し青年部会も活発になるのにと思わずにはいられない。しかし、宴会では直接顔を合わせて話もできたのは良かったことだろう。
それにしても大江島の人たちは酒が強い。
焼酎は割らずにそのままガンガン飲む。こちらもコップを差し出せば、焼酎をなみなみと注がれる。酔うわけにいかないと、焼酎を薄めたい気持ちで一杯だったのだが、お湯や炭酸などはなく、飲み方といえば、コップという名の湯呑み茶碗に一升瓶の焼酎を注ぐだけだ。挨拶で回るからにはコップを開けて、注ぎ合う行為が必要となる。どうしても酒量が増えてしまった。
「こんなことになるとは思わなかった。ウコンドリンクを飲んでおかないと、明日は二日酔い間違いなしだな」
「この島でウコンドリンクを見た記憶はないですよ?」
そう。この島の商店には、サラリーマンの友はいない。
なんとも寂しい限りだ。今日のような宴会が続くなら、俺一人で立ち向かえる気がしない。いつか内地に戻るときがあれば、心強い友を箱買いしておかねばと決心する。
「だよな~。中川さんも結構飲んでいたけど大丈夫か?」
「私は大丈夫ですよ! ちゃんとペース配分守ってましたし」
「そうは言うが、君は酔うと距離感が近くなるし、男性諸君に誤解を与えてしまうから気をつけないと」
「え~? 距離感近いです?」
そう言いながらも確信犯のように身を寄せてくる。
南国の夜風に乗った柑橘系の香りは、ひどく心をざわつかせる。
「ほら! 今も近いじゃないか」
覗き込まれた美しい瞳に、思わず顔を逸らす。火照る顔がより熱く感じた。
「ちゃんと思い出してくださいよ! 今日の宴会で他の人と距離近かったりしてました?」
中川さんの言葉を受けて、先程までの宴会の光景を思い出す。
序盤から中盤までを思い返すと、さほど気になる様子はなかったように思えた。酔いが加速していた終盤についても、何とか思い出そうと記憶をまさぐるが、やはり普通の距離感だった気がする。いつも中川さんと酒を飲んでいる時の距離感は……、今日は出ていなかったのか……?
「う~ん、そう言われて思い返してみれば……、言うほど距離感が近いことも無かったか?」
「無いです。全然」
当然とばかりにハッキリと明言されてしまい、自分の認識に不安を覚える。
「おかしいなぁ……。飲み会とか残業してる時とか、気が抜ける時間の中川さんって距離感が近くなってる気がしたんだけどなぁ」
「なんだ、ちゃんと分かってるじゃないっすか! 距離が近くなるのは特別なんですよ!」
「そうか。今日は気が抜けるような飲み会じゃなかったし、大丈夫なのか」
「分かってるようで分かってないんだよな~。まったく」
あまりな言葉に、一応、年上で上司なんだけどなと思わずにはいられない。
去年こそ、入社したばかりで世話になりっぱなしだったけど、その分、業務以外の面では彼女に気を配ってきた自信がある。
「分かってないか……。ちゃんと見ているつもりなんだけどな。君のことは」
「もう! そういうとこっすよ!」
「そういうところって言うと……、どういうところ?」
「内緒です。さあ、シャンとしてください。明日はお休みだからって、お昼まで寝てちゃ駄目ですからね!」
すでに歩くことすら限界を迎えている俺の頭では、彼女の言葉のニュアンスを汲み取ることが出来なかった。早々に白旗を上げて、当人に意図を尋ねてみたものの、内緒と言われてしまった。
そればかりか、至らぬ弟のような扱いを受け、家に押し込まれるように背を押された。
上司たるもの、本当なら彼女を一人で帰らせるのではなく、俺が送っていくべきだったのだが。
「おう、善処する。――っと、着いたな。夜道を送っていけなくてすまん。俺の方が限界だ」
「私は大丈夫ですから。スーツは皺にならないように脱いでから寝てくださいね」
結局、起きたのは翌日のお昼。中川さんの言葉に対して、生返事をして借家へと入ったはずなのだが、それを最後に記憶は飛んでいた。
自分の格好を眺めてみれば、スラックスは履いたままで、上着は床に放り投げられている。全く弁明の余地がないほどに、中川さんから注意されていたことは何一つ守れていなかった。
カーテンが開けっ放しの窓から見える自然豊かな景色。すでに太陽はしっかり昇りきっていて、二日酔いの俺には眩しすぎる日差しが部屋を照らしていた。
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