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第二章 七海諸島 大江島
第九話 キーパーソンは誰だ?
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「ええ。同級生で、俺と同じく漁師の息子で、将来はこの島で漁師になると疑っていなかった奴なんです。そいつとはこの島で漁師の腕を競い合おうと話していました」
「不躾な質問ですが、今、その方は……?」
俺の表情を察したようで、大津さんは慌てて手を振りながら否定する。
「ああ! すみません。誤解を生むような話し方をしてしまって。あいつはピンピンしてますよ! ただ家庭の事情で、この島を離れざるを得なかっただけなんです。今は内地で漁師をしてますよ」
「そうでしたか。その方も漁師という仕事をされているのですね」
「はい! 俺もあいつも海が好きですから。いつかは同じ海で綾の腕を競い合おうなんて話をしたりしています。しかし、おばさんをおいて自分だけ戻るわけには行かないと。離婚したんですよ、あいつの両親」
「なるほど。それでですか。当然のことかもしれませんが、大江島の外にも味方がいるのですね。大江島を良くしようと島民の方に聞き取り調査をしていましたが、その視点はありませんでした」
当たり前かもしれないが、島を出た人たちだって、島が良くなって欲しいと思っている可能性がある。今はその縁を結ぶことは難しいけれど、そういう人々の存在を忘れていいということにはならない。
「確かにあいつほど島を良くしようと考えているやつはいないでしょう。島に戻れないというフラストレーションが、あいつの気持ちを助長している部分があるとは思いますが。それに、ここにいるメンバーも島を良くしようという気持ちは負けてませんよ! みんな内地で就職していたにも関わらず、島に戻ってくるようなバカモノ達ですから!」
「そうだな! みんな戻る選択をして、身内からバカモノ扱いされてきた口だからな!」
「収入も減っちまうし仕方ねえって。俺なんて、せめて嫁を見つけてきてからすれば良かったのにって、今でも親に言われてるさ」
やはり同年代の青年部会のメンバーは大津さんと気持ちが近いようだ。人数は少ないが、連帯感がある。
「皆さん、本当にこの島を愛されているのですね!」
彼らのやり取りを聞いた中川さんは、ヒーローでも見るような表情を浮かべている。
「何ででしょうね。不便だし、娯楽は少ないし、先行きも暗い。なのに、この島じゃないと駄目なんです。これが故郷ってやつなんですかね」
「私はそこまで思えるような愛着はなかったです。でも皆さんは島のことを話していると、キラキラしてて。そんな風に思える故郷って羨ましいです!」
「そう言われると恥ずかしいな。結局、島を何とか良くしたいと思ってたんですけど、これといって何か出来ることもなくて」
褒められることに慣れていないのか、大津産の話の終着点には、今までどうにも出来なかったという後悔に繋がってしまう。
「烏滸がましい言い方になってしまいますが、私からすれば青年部会の皆様がいてくれて、どれだけ心強いか。部外者の私達がどれだけ言葉を並べても、島民の方を動かすには力不足です。大江島再建プロジェクトには大津さんたちの協力が必要なのです」
「そう言ってもらえると、僕らがやって来たことも無駄じゃなかったって思えます。それで、協力とは具体的にどうすれば良いのですか?」
「まずは、この島のキーパーソンを教えて下さい。どうも村長や村議会議員のような公的な役職者に、そこまで影響力が無いように見受けられるのですが」
「議員も村長も、島民が持ち回りで受け持つ役職みたいなものですからね。誰かがやらなくてはならないけど、誰がやっても構わない。そんな程度の認識です。なので、キーパーソンと呼ぶなら、天満のオヤジでしょうかね」
「不躾な質問ですが、今、その方は……?」
俺の表情を察したようで、大津さんは慌てて手を振りながら否定する。
「ああ! すみません。誤解を生むような話し方をしてしまって。あいつはピンピンしてますよ! ただ家庭の事情で、この島を離れざるを得なかっただけなんです。今は内地で漁師をしてますよ」
「そうでしたか。その方も漁師という仕事をされているのですね」
「はい! 俺もあいつも海が好きですから。いつかは同じ海で綾の腕を競い合おうなんて話をしたりしています。しかし、おばさんをおいて自分だけ戻るわけには行かないと。離婚したんですよ、あいつの両親」
「なるほど。それでですか。当然のことかもしれませんが、大江島の外にも味方がいるのですね。大江島を良くしようと島民の方に聞き取り調査をしていましたが、その視点はありませんでした」
当たり前かもしれないが、島を出た人たちだって、島が良くなって欲しいと思っている可能性がある。今はその縁を結ぶことは難しいけれど、そういう人々の存在を忘れていいということにはならない。
「確かにあいつほど島を良くしようと考えているやつはいないでしょう。島に戻れないというフラストレーションが、あいつの気持ちを助長している部分があるとは思いますが。それに、ここにいるメンバーも島を良くしようという気持ちは負けてませんよ! みんな内地で就職していたにも関わらず、島に戻ってくるようなバカモノ達ですから!」
「そうだな! みんな戻る選択をして、身内からバカモノ扱いされてきた口だからな!」
「収入も減っちまうし仕方ねえって。俺なんて、せめて嫁を見つけてきてからすれば良かったのにって、今でも親に言われてるさ」
やはり同年代の青年部会のメンバーは大津さんと気持ちが近いようだ。人数は少ないが、連帯感がある。
「皆さん、本当にこの島を愛されているのですね!」
彼らのやり取りを聞いた中川さんは、ヒーローでも見るような表情を浮かべている。
「何ででしょうね。不便だし、娯楽は少ないし、先行きも暗い。なのに、この島じゃないと駄目なんです。これが故郷ってやつなんですかね」
「私はそこまで思えるような愛着はなかったです。でも皆さんは島のことを話していると、キラキラしてて。そんな風に思える故郷って羨ましいです!」
「そう言われると恥ずかしいな。結局、島を何とか良くしたいと思ってたんですけど、これといって何か出来ることもなくて」
褒められることに慣れていないのか、大津産の話の終着点には、今までどうにも出来なかったという後悔に繋がってしまう。
「烏滸がましい言い方になってしまいますが、私からすれば青年部会の皆様がいてくれて、どれだけ心強いか。部外者の私達がどれだけ言葉を並べても、島民の方を動かすには力不足です。大江島再建プロジェクトには大津さんたちの協力が必要なのです」
「そう言ってもらえると、僕らがやって来たことも無駄じゃなかったって思えます。それで、協力とは具体的にどうすれば良いのですか?」
「まずは、この島のキーパーソンを教えて下さい。どうも村長や村議会議員のような公的な役職者に、そこまで影響力が無いように見受けられるのですが」
「議員も村長も、島民が持ち回りで受け持つ役職みたいなものですからね。誰かがやらなくてはならないけど、誰がやっても構わない。そんな程度の認識です。なので、キーパーソンと呼ぶなら、天満のオヤジでしょうかね」
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