社長! 南の島オフィスとはどこですか?!

裏耕記

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第二章 七海諸島 大江島

第八話 大江島 青年部会

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 島内の協力者とキーパーソン足り得る影響力のある人物を探るため、南の島オフィス所属の俺達二人は、とあるグループに会いに来ていた。 

「これが今日集まっている大江島 青年部会のメンバーです」 

 青年部会のリーダーである大津さんから、そのように紹介を受けたのだが、人数は多くなかった。今、公民館にいる青年部会のメンバーは4名。 

 緊急かつ特別な議題がある訳ではなく、定例会議に参加させてもらっているので、人数が少ないけれど、仕方ないと言えなくもない。  

 問題は、青年部会を構成しているメンバーの年齢層だ。 
 ご多分に漏れず、大江島の青年部会も高齢化が進んでいる。事前に聞き取りした情報が確かなら、50代が一番多く、40代が二割。30代に至っては数えるほどだという。20代以下は存在すらしていない。 
 本来、青年部会は40代までしか在籍できない組織だったが、人員が集まらなくて50代も所属できるようになっているそうだ。 

 そういう経緯なものだから、50代のメンバーは会合に顔を出すことは珍しい。幽霊部員のような状況になっていると、大津さんが恥ずかしそうに話してくれた。 

 それなら若手はどうしたと思うが、そもそも30代以下の島民の絶対数が少ない。 

 大江島には中学校までしかなく、高校や大学は島を出なくてはならない。その上、大江島には漁業くらいしか産業がないものだから、将来を見据えた時に島に戻るという選択肢は上位に来ず、都市部で就職してしまうらしい。 

 こうして今の大江島の課題である超高齢化社会が醸成されていった。 
 翻って、そのような状況でも島に戻るという決断をした若手の島民は、大江島に愛着があり、今の現状を何とかしたいと考えている。 

 つまり、彼らは今回のプロジェクトについて明確に味方になりうる存在であると言える。  

 青年部会は若手の組織であり、一派的には行動力があり、変化を厭わない性質が見受けられるので、協力を取り付けようと考えていた。しかし、青年部会の活動の成果は上がっているとは言い難く、島の実権を握っている上の世代に意見を述べるのは難しいようだ。 

 それもこれも、ほとんどのメンバーは漁師であり、上の世代も漁師が多い。必然と漁師の先輩か師匠といった関係に当たる。何か意見を言おうものなら『若造は上の言う事を聞いてれば良い』と返されるのだそうだ。 

 頭を押さえつけられたまま、何も変わらず、変えられずという日々を過ごしていくうちに、青年部会の40代、50代は島を良くしていこうという気概を失っていったようだ。 

 今日の定例会の出席者は40代前半の一人を除いて、残る三人は全員30代。リーダーの大津さんも36歳という若さだ。やる気のない年嵩のメンバーから、何とかリーダーの座を奪えたと言う言葉を聞いて、俺は何も言えなかった。 

 少し暗い空気になったところで、紅一点の中川さんが明るく努めた声で質問を投げかけた。 

「ここにいる皆さんは大江島を愛されているのですね! 青年部会としては、今後大江島がどうなっていったら良いかというビジョンはありますか?」 
「ビジョンですか……。今の島の状況からすると夢物語みたいなものばかりですよ」 

「良いじゃないですか! 夢物語でも! 夢は叶えようとしなければ叶いませんから」 
「夢なんて言葉……使っていなかったな。高校卒業して漁師になって、頑張っていれば良くなるって思っていました。だんだん、そうじゃないって分かってきて、青年部会に入ってみたんですけど、結局はこの有り様です」 

 力不足を自嘲するように呟く様は、漁師特有の焼けた肌と逞しい身体付きとは相容れない雰囲気が出ていた。もしかすると、大津さんの元来の性格によるものかもしれない。 

 大津さんは自信を失っているようだが、青年部回を取り仕切ったり、リーダーの座を獲得したりと決断力や行動力が劣っているようには思えない。 

 それは、高校を卒業して、すぐに漁師の道に飛び込んだ経緯からも察せられる。 

「10代で島に戻ってくる選択肢は大きな決断だったのではありませんか?」 
「そうですね。親戚だけじゃなくて、近所の爺さん婆さんまで口を揃えて止めておけと言われました。こんな先行きのない島で漁師になる必要はない。漁師になりたいなら良い漁場のある別のところに行けばいいと」 
「大津さんの決断は、すごい勇気のある決断だと思います」 

 中川さんから素直な称賛を受けて、首をポリポリと掻く大津さん。 

「決して勇気があったわけじゃないんです。この島が好きでしたし、友人との約束もありましたし」 
「ご友人ですか?」 
  
「ええ。同級生で、俺と同じく漁師の息子で、将来はこの島で漁師になると疑っていなかった奴なんです。そいつとはこの島で漁師の腕を競い合おうと話していました」 
「不躾な質問ですが、今、その方は……?」 

大津さんが、そこまでの決断をするに至った経緯。
島が好きなことと、友人との約束。これはもしかして……。
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