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第一章 辞令は南の島オフィス

第四話 旅は道連れ世は情けという言葉もありますし

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 赴任先の南の島に行くには船便しかない。
 気軽に行けるような場所ではない事は確か。

 中川さんもそこに気が付いたらしい。 
 アクセスを見ると、フェリーで五時間もかかるという。 
 本数も少なく、運航は週に一本。中々ハードな環境だ。 

「小さな空港はあるが、直行便が無いようだな。これでは行くだけでも一仕事だ」 
「そうですね。このアクセスの悪さでは、観光を盛り上げて、税収アップって作戦は狙えなさそうです」 

 やっと本格起動したのか、中川さんの口調も仕事モードに戻った。 
 先ほどまでの部活の後輩のような口調は、飲み会の時か二人で残業している時くらいなものだ。 

 日頃は優秀な三年目社員。新卒で入社しているので、俺より社歴は二年は多い。 
 そのため、俺が入社して以来、会社のことなどいろいろと教えてもらっていた。 

「あのー、田宮さん。このプロジェクト、本当にやるんですよね?」 
「ああ。二人して悪夢を見ていなければな」 

「全然笑えないです。……ちなみにプロジェクトの期間は?」 
「社長からは聞いていないな。資料にも記載はない。半年ごとに報告会があるとしか」 

「それって少なくとも半年は帰ってこられないということでは?」 
「……そうとも言えるな」 

「そうとも言えるというか、そうとしか言えないじゃないっすか! あー、絶対これ、田宮さんの巻き添えくらいましたよね、私!」 

 薄々感じていたが、おそらく中川さんの指摘は正しいだろう。 
 俺に誰か部下を付けるならと考えた時に、中川さんが第一候補になるのは予想が付く。 
 入社以来、中川さんが直属の上司のように、あれこれ教わっていたのだから。 


 その分、他の社員よりも気心知れた関係になれている。離島の税収を上げろなどという無茶なプロジェクトを任されるなら、真っ先に頼るのは彼女くらいなものだ。出来ることなら無茶振りをした社長本人を連れていきたいものだが、それは出来ない。となれば、頼るべき存在は一人しかいない。 

 ただ、それを認めてしまうと、彼女の言う巻き添え以外の何物でもなくなってしまうので、ささやかながら抵抗を試みる。 

「中川さんが期待されているからじゃないか? 若手のエースとして」 
「持ち上げてごまかそうとしたって、そうはいきませんよ! もう!」 

 少しテンションを上げながら騙されないと強弁しているが、彼女の左手は耳を触っている。 
 彼女が照れ隠しをするときの癖だ。 

「年上ばかりのチームの中でも、臆さず意見を言えるし、誰もが思いがけないアイディアを出したりするじゃないか。いつも助かっているよ」 
「そりゃあ、私がいないと田宮さんは困っちゃうでしょうよ。入社初日の田宮さんったら、飼い主とはぐれた子犬みたいな顔してましたもん」 

「子犬って……。確かに、妙におしゃれなオフィスで居心地は悪かったけどさ」 
「一人だけばっちりスーツで決めてましたもんね! 田宮さんの周りだけ謎のスペースが生まれてましたよ」 

「いろいろな選択肢を考慮したうえでの、大人な判断だよ」 
「あー、はいはい。何度も聞きましたよ。服装でラフかキッチリかと悩んだら、キッチリしておけば間違いないってやつですよね? あの日はバッチリ間違ってましたけどね!」 

 中川さんは去年の今頃の光景を思い出して、くふふと笑う。確かにあれは失敗だった。 
 スーツにネクタイで初出社した俺。挨拶で他の社員を見渡してみれば、良くてラフなジャケットスタイル。SEさんにいたっては短パンにTシャツという格好だった。 

 まともにスーツを着て、ネクタイまでしているのは俺と社長だけという状況。挨拶が終われば社長はいなくなって、場違い感はより鮮明になった。非常に居心地が悪かったという思い出は記憶に新しい。 

「ともかく! この後は忙しいぞ! 大江島周辺の情報収集に、出張の手配、引っ越しや人事部への手続きもしないと」 
「あいさー。このプロジェクト、やらねばならぬなら、キッチリとやってやりましょう! よろしくお願いしますね、田宮リーダー!」 

 面倒事が多いだろうに、嫌な顔せずに前向きに取り組む姿勢を見せてくれた中川さん。 
 何とも頼もしい先輩だな。 

 今回のプロジェクトはリーダーとしての初仕事。 
 前途多難で先行きは見えない。 
 それでも、中川さんと一緒なら、楽しく仕事が出来そうだ。 
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