兄の代わりを務めたら嫌われものでした

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寒気がして意識が戻ってくる。

目を開けるとさっきまで僕が寝ていた自分の部屋とはまるで違う場所にいた。

「ゲホッゲホッ」

苦しくて咳き込む。

「目、覚めた?」

知らない男の人が近づいてきて咄嗟に布団を被って丸まる。

こわい。



「ごめんごめん。そのままでいいから少しだけ僕のお話聞いてくれるかな?」

分からないからとりあえずそのまま動かない。

「僕は医者の優木と言います。西園寺くんはね、栄養が足りなくて熱を出して倒れちゃったんだよ。ここは医務室でね、しばらく身体の調子が良くなるまでここにいようね。」


医者?怖い人じゃない?
いや、でも分からない。そう見せかけてのパターンもある。

「今は点滴してるからね、少しは楽になると思うよ。あとね、身体の怪我してるところにもお薬を塗っておいたよ。勝手にしてごめんね。」


「飲み物はここに置いておくから飲めるものを飲んでね。フルーツも置いてるから食べれそうだったら食べてね。僕はこっちでお仕事してるから何かあったら呼んでね。」


それだけ言って僕には近づかずに優木という先生はあっちに行った。

居なくなって少しホッとして、布団から顔を出す。
寒いし頭もガンガンする。

何も考えたくなくてそのまま僕は眠りについた。






またいつものように呼ばれてヤられる夢を見る。
夢だとわかってるのにけどそこから逃げられない。

いやだ、こないで!


「西園寺くん!西園寺くん!!」

誰かいる。いやだ。来ないでほしくてとにかく暴れる。

「やめて!いや!」

「西園寺くん!大丈夫。優木です。ここは医務室だよ。」


優木?医務室...?

手を止めて目をちゃんと開けて見てみるとそこには寝る前に居た優木という先生がこっちを見ていた。

あの人たちはいない。
よかった。

「酷くうなされてたから起こしたんだけど、少しお水飲んだらどうかな...?」


飲んでも吐く気がして飲みたくない。


「まだむずかしいかな?そしたら僕はまたあっちに居るからね。」


「あ......あの.....テスト受けないと.......」


テスト受けないと怒られる。お兄ちゃんの代わりを務めれてない。


「今の状態で受けるのは難しいね。もう少し元気になってから追試があるからそれを受けたら大丈夫だよ。本試よりちょっとだけ難しくなってるかもしれないけど....」


それだけ言って先生は向こうに行った。



よかった。追試があるんだ。
早く受けないとと思う一方で少し安心して眠りについた。





誰かに頭を撫でられている感触がある。なんだかその手つきは優しくてこのまま目が覚めずにそのままでいたいと願ってしまう。

気持ちとは裏腹に無情にも目は覚めてしまう。

ぼんやりしながら目を開けるとそこには皇様がいた。

一気にあの日のことが蘇ってきて身体が強ばる。そんな僕を見て皇様はなんとも言えない顔をして僕から少し離れた。

「ごめん。また来るね。着替えとか置いてるから他に必要なものがあったら言ってね。」

そう言って彼は医務室から出ていった。

最近の皇様と様子が違いすぎて困惑する。


それから毎日皇様はここに来た。なにか話すわけでもなく僕が寝ている時に来て僕が目を覚ますと帰っていくみたいだ。


だんだん皇様の顔色も悪くなっていてここに来るのが負担になっている気がした。

そんなきつい思いしてまでここに来なくていいのに。
そう思ってそれを今度来た時に伝えることにした。


いつものように点滴されて寝ていて目が覚めると皇様がいた。帰ろうとする背中に声をかける。


「あの.....!」

思ったよりもカスカスの小さな声しか出ない。


ハッとした顔でこちらを振り返る。

「もう、来なくていいです。」

その瞬間さっきまでの表情が嘘のように消え、そのまま部屋を出ていった。


何か余計なこと言っちゃったのかな?でもここに来なくなると元気になるんじゃないかな。そもそもなんで僕はずっとここにいるんだろう。


そう思ってると突然先生から声を掛けられた。

「西園寺くん....おはよう。そろそろご飯もう少し食べない?」

ごはん?そういえばここ最近ほとんど食べてない。

食べても直ぐに戻している。


「点滴はしてるけどそれだけじゃ栄養が足りなくてね。ここまで食べれないと外の大きな病院に入院しないといけなくなっちゃう。気づいてるかな?ここに来て前より痩せてきちゃってるんだよ。」

外の病院?それはダメだ。
食べようとは思うけどなかなか食べれない。


ガラガラ


「西園寺。」

いや!また誰か来た!

今まで優木先生と皇様としか会ってなかったからそれ以外の人と会うと拒否反応を起こす。


「すまない、俺だ。九条だ。」

九条様....あの人は僕のこと知ってるし嫌なことしてくる人じゃない。そう分かってるのに近づくとブルブル震えて拒否してしまう。

「すまない。俺がちゃんと判断できてないせいでお前を傷つけた。優木先生にも知っててもらった方がいいと思って勝手にお前のこと話した。そして悠人にも。俺から言うことじゃないけど悠人ももう来なくていいって言われてからすごく落ち込んでてな。まあお前を傷つけてんだから自業自得なんだけど。あまりにも見てらんなくて...西園寺は悠人がここに来るのは嫌か...?」


皇様が、落ち込んでる?
なんで?

「別に嫌とかはないですけど.....お疲れのようなので来ない方がいいかと思って.....」

それだけ答えるので精一杯だ。

「そういう事か。それなら何も心配ない。図々しいお願いだが、西園寺さえ嫌じゃなければ悠人がここに来るのを許してやってほしい。」

「...はい。」

「それと、思い出したくない話だと思うが大事な話だから聞いて欲しい。お前を傷つけたのはこの5人で間違いないか?他にもいるか...?」


恐る恐る差し出された写真を受け取る。
中身を見た途端に吐き気が込み上げてくる。

「う゛っ.........」

「こんなもの見せて本当にすまない。」

九条様も苦しそうに眉をしかめながらこっちを見ている。

「....この人たちであってます.....」

「分かった。ありがとう。」

そう言って素早く僕から写真を受け取る。


「こいつらは全員処分された。悠人がすぐに動いたんだ。学園にはもう居ない。二度とお前の前には出てこられないようにしてる。写真や動画なども全部見つけて消去した。そう言われても不安かもしれないけど知っておいて欲しくて。」


もう居ない?消した?
皇様が...?


「長居してごめんな。お大事に。」

そう言って九条様は帰って行った。

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